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31 天を衝く怒り


 俺はその惨状を目の当たりにする。


「マルタ、カイル、アリア、ユリウス、シィナ、ガラフ……ザシャまで……」


 誰がやったのかは、考えるまでもない。

 胸の中に、凄絶なまでの怒りが灯る。かつてトリシャが笑いものにされた時よりも、激しく、強く、凄まじく燃え盛る。

 

 硬く握った拳がミシミシと音を立てた。

 ああ、もうだめだ。俺はこいつらを許さない。許せない。

 ――皆殺しだ。


 俺は『劜縮地』で爆走した。最初の狙いはマルタを担ぐコイツだ。


「いつまでマルタに触ってんだ、この変態野郎」

「うっ!? おで、見えない! 速すぎ――」


 俺は本気で殺すつもりで蹴り抜く。まるで泥を蹴ったような感触が返ってくるが、奴は面白いほど吹き飛んだ。


「大丈夫か?」


 投げ出されたマルタを受け止める。妙な泥みてぇな物に拘束されているな。

 ……毒とかそういう類ではなさそうだ。


 俺はマルタを包む泥を強引に引き千切る。少々、硬かったがちょっと力を籠めれば簡単に剥がせる。


「おいおいおい、嘘だろ。あのガキ、素手でカルカアの拘束破りやがったぞ……」

「何というパワー……人外ですね!」


 実に心外だ。人間でもない奴らに化け物扱いされるとは。まあ、あんなのにどう思われようが知ったことじゃないか。

 俺は咳き込むマルタにポーションを渡す。この前作った『マトックポーション』の余りだ。

 しかしマルタはそれを一口、飲むといきなりポロポロと泣き始めた。

 

「え!? 何で! もしかして不味かった!? 泣く程に!? 味が劣化していたのかな……だとしたらゴメン!」

「……否定。なんか、分からないけど、すごく安心して、涙が止まらない」


 俺の腕の中で泣きじゃくるマルタ。

 そうだよな。そりゃ、まだこんなに小さいもんな。ハーフエルフの年齢の人間換算は知らないけど、人の血が混じっているのならエルフほど見た目と実年齢のギャップは無いだろう。

 それなのに、こんな目に――……ッッ!!


「そうだ、安心しとけ。俺たちが滅ぼしてやる。二度とマルタには手を出させやしない」

「だけど、あれは兄の最高傑作。完成形、ボゥボゥ・アルアインやヨルムンガンドの比じゃないから……」


 俺はそう告げるマルタの頭を軽くポンポンと撫でる。


「任せな。俺たちは、あいつらより強い」

「ラウラ……」


 担いだままマルタをトリシャの下へ、連れていく。既に彼女の回復魔法によってカイル、アリア、ガラフやザシャ、ユリウスの蘇生まで始まっていた。


「備えあれば憂いなしだね、回復魔法を学んでいたから何とかなったよ。ユリウスは少し危なかったけど、間に合った。すぐ良くなるよ。……あと、そこのオバサンもね」

「良かった……本当に良かった……ううぅ」


 ふぅ、と息を吐くトリシャ。彼女が言うなら何の心配もないな。シィナとカイルは顔色の血色を取り戻したユリウスに泣きついて離れず、俺はアリアの拘束も引き千切っておいた。


「回復魔法は自動で継続するようにしたから、ボクも戦えるよ。今回ばかりはね、許せないしね」


 錯覚ではなく、見紛う事無く、トリシャの周囲の空気が揺らいだ。立ち上る濃密な魔力が気流となって彼女の体の周りを廻っている。

 なんて、物凄い魔力なんだ……魔法に縁のない俺が、ここまではっきり視認できるなんて。


「そうだな。ブチのめしてやろうぜ――よぉ、律儀に待ってんだな」

「……手を出せるわけないでしょう。あなた方、何なんですか? 明らかに今までの雑魚とは格が違います」

「雑魚ねぇ……人の事を悪く言う前に、自分らこそが雑魚だって思わねーの?」

「――ッこンの! 言わせておけば!!」


 青い肌の怪人が顔だけは真っ赤にして飛び掛かってくる。その直線的な攻撃を軽くいなし、カウンターで顔面に裏拳を叩き込んだ。


「ぐ、あ!?」

「トリシャ、どうぞ!」

「うん! 【大気よ、我が命に従い鉄拳と化せ! 暴風打ルフトハンマー】!!」 


 丁度、狙いやすい位置に飛ばしてやると、トリシャの魔法が炸裂する。突き出した拳から空気の塊が発射され、青い怪人はまたしても鼻っ柱を強烈に打ち据えられていた。


「オ、ゴバァ!?」

「ナーイス!」

「ないすー!」


 俺はトリシャとハイタッチ。その煽りは覿面で、怪人は皺くちゃになるくらいに青筋を走らせている。百面相かよ。


「カハルゥウウウ!! 早く、アレをやりなさい!!」

「わーってるよ。俺もムカつくぜ、このクソガキ共!」


 なんだ? 何をする気だ?


「ラウラさん!! あの攻撃を受けたらダメだ! スキルが奪われて――!」


 カイルが叫ぶと同時に赤い野郎が眩く発光する。目くらましか? こんなんで俺が目を瞑るとでも……ん?

 耐性スキルの【封印耐性】と【吸収耐性】、【ラーニング】が発動したな。【ステータス鑑定】のボードも出てくる。……ははぁ、なるほど。めんどくさいスキルだ。カイルたちもこいつにやられたんだな。


「……あのぉ、スキルが奪えてないんですけどォ。カハル、しくじったの?」


 緑の女型の怪人がぼやいている。ま、奪えるわけないよな!


「カハル、何をしているんです! 失敗したんですか!?」

「ンなわけあるか!! 奪えねぇんだよ! こいつら、何か耐性系のスキルを持っていやがる!」

「当たり~、【封印耐性】と【吸収耐性】です。残念、奪えません!」


 なんせ魔物の耐性系は確定で予防だからな。所持している=生涯に亘ってその状態異常にはならないってことだ。


「人間が何で魔物のスキルを!? あり得ないワ!」

「……あり得るんだよなぁ。それが」

「じゃあ、まさかそっちの魔導士のガキも」

「いや? トリシャはスキルじゃないよ」


 俺の声にトリシャは首肯し、ローブの袖を捲り上げた。その細い腕には似つかわしくない、宗教めいた紋様が複雑に刻まれている。


「『魔刻紋スティグマ』。一度刻んだら二度と消せない代償があるけど、その効果は絶大。ボクは肉体の異常耐性、変化耐性、厄除けの紋を刻んだんだよ。全ては、ラウラと一緒に戦うために」


 ヨルムンガンドやボゥボゥ・アルアインとの戦いをずっと気にしていたトリシャは、俺の盾が完成するまでの間、自分で刻むことを告げたのだ。

 皮膚に彫り付けるこの行為は耐え難いな痛みを生む。形が複雑になれば、苦痛を味わう時間も増えていく。反対は……したかったけど、あんな覚悟決まった目を見ちまったら何も言えやしない。

 いや、否定こそが彼女の想いを無碍にすることになるだろう。


「ボクは守られてばかりじゃない。ラウラの背中を守るために強くなる。お前たちのような存在を滅ぼすために、強くなれる」

「ま、そういうこった」


 俺は怪人共を睨みつける。


「俺たちがムカつくだって? それはこっちのセリフだ。大事な仲間を、こんなに傷つけてくれた礼はこんなんで済むと思うなよ」




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