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21 共闘


 落ち着きを取り戻したのか、ガラフの寝息は穏やかなものになっていた。

 俺はふう、と息を吐いてようやく張り詰めていた緊張感が解けた。


「ありがとう、助かったよマルタ」


 こうして命を繋ぐことが出来たのは、彼女が貴重な素材をストックしていたからだ。


「人助けは当然。それが里の習わし」


 それよりも、とマルタは俺をじっと見る。


「貴方が錬金術師とは思わなかった。それも――超一流の」


 その目つきは驚きではなく、懐疑と警戒の念が籠っていた。当然だろう、錬金術師は貴重な存在故に管理されている。詳しくは知らないが、優秀な人材は常に所在を把握され、情報は他の錬金術師と共有されているらしい。

 つまりノラの錬金術師は普遍的な能力か、あるいは何らかの手段でそれを掻い潜っているクセ者だ。そして俺はそのどちらでもない。


「【グローウォーター】を作れるのは、国家試験にパスできた錬金術師だけ。貴方は、何者? 少なくともアカデミーや帝国の学院にはいなかった。名簿にも存在しない」


 ……言い逃れは出来そうにないな。一刻を争う事態だったから俺もマルタを手伝う形で薬を作ったのだ。

 まあ、こっちも聞きたいことがある。隠していてもしょうがないだろう。


「俺は、魔物のスキルを覚えるスキルが使えるんだ」

「魔物の……スキルを覚える? まさか、【ラーニング】?」

「ご明察」


 俺はその手に【白鍵】を生み出す。途端に彼女のオッドアイが限界まで見開かれた。口には出さないが、驚愕しているのは一目瞭然だ。

 

「知ってるはずだよな? このスキルは、マルタが探してたやつからラーニングしたんだ」

「倒したの……? デュナミスを」


 声に力が籠り、震えている。初めてマルタが感情的になっていた。

 デュナミス? それがあの特殊個体の名前か?


「いや、倒せてはいない。ただあいつの持っていたスキルを覚えたんだ。錬金術のスキルも、それで」

「……なるほど、そう」


 露になっていた感情が引っ込んでいく。浮いていた腰を下ろし、マルタは一つ息を吐き出した。


「……不死のヨルムンガンド、デュナミス、そして貴方たちが先ほど倒したボゥボゥ・アルアインは……私の兄が作り出した魔物」

「魔物を、作った? そんなこと出来る訳……魔物の使役や召喚は行えても、生み出すのは魔導士たちの悲願のはず」


 そういえばトリシャにはまだ、ミラリやボゥボゥ・アルアインのステータスで見た情報は全て伝えてなかったな。


「それを叶えたのが私の兄。生まれながらにして持っていた類まれな才能と、賢者の石ラピス・フィロソフォルムの力で」


 マルタは緑髪をかき上げる。人の耳にしては鋭さを感じさせる耳朶があった。しかしエルフにしては人間特有の丸みも残っている。

 つまり彼女は。


「ハーフ、エルフ……」


 人とエルフの混血。半人半妖。森を抜け出し、俗世に下った自由人。

 あるいは――人間にもエルフにも嫌悪される忌み子。


 盾役の俺や三白眼のトリシャと同じく、世界から拒絶されてきた一人だった。


「兄は人から見てもエルフから見ても優秀だった。優秀過ぎた。でも、それは私たちを忌み嫌った周囲への反逆でもあった」


 マルタは手を下ろす。髪の毛が再び彼女の耳を覆い隠した。


「今の兄の心を支配するのは、憎悪と怨念。帝国、いやアシュタリル大陸から人間とエルフを滅ぼすまで止まらない。魔物の創造もその一環。私は兄の暴走を阻止するために、ここまでやって来た」


 俺もトリシャも口を開けなかった。

 特殊個体がマルタの兄貴の産物で、しかも人間とエルフの滅亡を目論んでいる? 話のスケールが一気に飛躍しすぎて何が何だか……。


「でも何で、タルタロスに?」

「『未踏破で』『広大で』『雑多な魔物が住み着いていて』『安全に研究できるスペース』が確保できるのはタルタロスしかない。同じ条件でも銀色山脈はドワーフ族が守る国。王国の巨大迷宮では前に失敗し、撤退している。残ったのはここだけ」


 ……事情は分かった。にわかには信じられないが、不死のヨルムンガンドやミラリ、ボゥボゥ・アルアインとの戦いがそれを裏付けている。


「よし、なら俺たちもマルタの戦いに協力しよう。良いだろ? トリシャ」


 深く関わりすぎてるしな。ここまで知っておいて、はいサヨウナラは流石にないだろう。

 

「もちろん。ヨルムンガンドを倒してみんなの悔いを晴らしたと思ったけど、思いっきりぶん殴って良い相手がまだいるみたいだしね?」


 ペチペチと掌を拳で叩くトリシャ。侮るなかれ、強化を上乗せしてぶん殴れば人間の頬くらい軽く歪む。


「……仕方ない。ここまで話したんだから。こうなる事は予測していた」


 マルタも特に反対する様子は見せなかった。

 ただし、と付け加えるが。


「今後は兄が作った改造種が相手になる可能性が高い。正しい対処は必須。ボゥボゥ・アルアインへの目潰しは偶然の勝利に過ぎない」

「え? じゃあ正しい対処法って?」

「呪いの視線は不浄を嫌う」

「……不浄?」


 トリシャは首をかしげる。汚いものってことか?


「主にペ××やおっ××みたいな局部を指す」

「……!? ――!? ―――!? !?!?!?」

「………」


 おいおい、真顔でそれを言うか?

 トリシャ、顔真っ赤で蹲っちゃったぞおい。



注釈

【アシュタリル大陸】

帝国、王国、東の連合国家等、この話の舞台となる大陸の名前。

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