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11 更なる力



 数日の休息を経て、俺たちはグルメ山へ出発した。タルタロス封鎖による混乱は日毎に深まり、ギルドの前は連日不満タラタラの冒険者たちが詰めかけている。

 ガラフは治安維持のため、早朝から出かけていた。ハリーも収容された生存者たちの治療に追われ、俺とトリシャは挨拶も適当に、ヴェルダニ荒地の近くのキャンプサイトへ向かう馬車に揺られていた。


 深部まで攻略された迷宮だが、豊富な素材に恵まれている故、同乗者は他に数名見受けられる。俺は馬車の端に座り込んでトリシャとの会話を楽しんでいた。だがやがて話題も尽き今は手持ち無沙汰に鑑定スキルを使い、自身のステータスを眺めていた。




 氏名:ラウラ・ヘルブスト


 職業:はぐれ騎士


 状態:良好



≪装備≫

 

 右手:蛇剣ヴェルトヴァイパー

 

 左手:使い古した盾


 頭:促進のリボン


 体:ルーンアーマー改


 篭手:ルーンガントレット改


 両足:ルーンブーツ改


 その他:風と水のマント


 隠し武器:なし



≪スキル≫



【打撃】

 

 ・エアライド



【斬撃】


 ・万象追連


 ・死力剣

 

 

【魔法】


 ・ガンマ    


 ・アカンサスサイス


 ・濡れ羽天翔



【促進】


 ・大斬

 

 ・チャージ 


 ・凝縮

 

 ・グラヴルボディ



【抑制】


 ・コロシッブ・ミィル


 ・ダークビトーブ



【抗原】


 ・パラライザー



【抗体】


 ・麻痺耐性


 ・即死耐性


 ・毒耐性



【回復】


 ・肥え太る遺骸


 ・黄泉戸喫



【特異】


 ・ラーニング


 ・(アイテムボックス)


 ・白鍵


 ・ステータス鑑定:LvSSS


 ・大賢錬成(アルス・マグナ) 


 ・レベルドレイン


 ・吸収耐性


 ・―――


 ・―――




 メモリーコアで確認するよりも、遥かに詳細な情報が出てくる。これが鑑定スキルの力らしい。そりゃ占い師が重用されるわけだ。

 適当にボードを叩いていると更に細かく出せるが、正直よく分からない(お陰で初期の状態に戻すのにも苦労した)。


 とりあえずメモリーコアよりも少し便利な程度、いった具合で落ち着かせることにする。俺としては獲得したスキルの詳細や効果が分かるだけで十分だし。

 前回の戦いの戦果は上々だろう。何よりもあの巨大マミーから得たスキルは、案の定破格の効果を持っていたんだから……。


 まあ、追々試していこう。対人専用のエゲツないのは出番は無さそうだが。


「わあ!?」


 その時、馬車が急に止まり弾みでトリシャが俺の方に倒れ掛かってきた。


「大丈夫か?」

「ごめん、私は平気。でも何事?」

 

 到着するにはまだ早いしなぁ、なんてボンヤリ考えていると。


「全員降りてこい! 抵抗しなければ、命までは奪わんぞ!」


 酒焼けしたような濁声が外から聞こえてくる。

 ああ……山賊さんのお出ましですか。こんな人通りの多い街道に出没するなんて、珍しいな。珍獣に出会った気分だ。


「ど、どうしよう……」


 幌の隙間から覗いていた若い冒険者の四人組が顔を見合わす。駆け出しだろうか? 妙に小奇麗な装備と場慣れしてない感じが初々しい。俺にもあんなピュアな時代があったんだよなー、と感傷に浸っていると。


「おら、降りてこい! 出てこなければ射掛けるぞ!」


 ……しょうがない。出番は無さそうだといった矢先に、使いどころが来るとはね。


「俺一人でいい」

「……気を付けてね。一応、援護態勢は作っておくから」

「さんきゅ」


 俺は重いケツを上げ、外に降り立つ。停車した馬車を包囲するように、予想通りの小汚い装いの野郎どもが十人ほどいた。

 御者は既に引きずりおろされ、情けない顔で跪いている。


「はっ、なんだこんなチビスケしかいないのかよ」


 長剣を腰に佩いたリーダー格と思しき男が口を開く。先ほどから叫んでいるのもこいつだろう。あとは弓矢を構えているのが四名。あとは剣だの槍だの斧だの言った連中ばかり。


「チビスケとは失礼だなぁ。これでもノイスガルドの冒険者やってんだぜ」

「お前が? ノイスガルドの冒険者だぁ?」


 リーダーの男が大声で噴き出す。つられて取り巻き共も粗野な笑い声を響かせた。ひとしきり笑った後、男はドスを効かせて睨みつけてくる。


「おい、ガキ。あまり大人をからかうなよ? お前みたいなチンチクリンが冒険者になれるなら、俺様は三層到達者よ!」

「なら試すか?」


 男共から笑みが消える。


「ガァキィ。おじさんたちはテメェの親父さんより優しくはねぇぞ? 泣いても叫んでも許さねぇからなぁ?」


 俺はその挑発に答えることはせず、ただ手招きしてやった。


「潰せ」


 矢をつがえた一人に男は目配せする。引き絞られた弦が指先から離され、その勢いとともに鋭い矢が放たれる。一直線に俺の顔面目掛けて突っ込んでくるが――。


「【グラヴル――】いや、スキルを使うまでもないか」


 飛んできた矢は俺の顔――丁度、片目に当たると、鏃もろとも拉げてしまい、そのまま足元に落下した。

 もちろん痛みも傷もつかない。


「へ?」


 男の間の抜けた声と面。まあ、この反応は分かるけどさ、こちとらこの矢の数百倍のパワーのあるヨルムンガンドの突進や巨大マミーの剛腕、それ以前からもずっと魔物どもの打撃にスキル、挙句には仲間のパーティに裏切られて攻撃されてきたんだよ。 

 今更、こんなヘナチョコの矢一本でどうにかなるっての。鍛錬だってずっと続けてるしさ。


「う、撃て!! もっと撃て!!」


 男の合図に残った弓の山賊どもが射掛けてくるが、当然ダメージは入らないし、狙い自体が甘すぎて当たらないことも多々ある。

 所詮、烏合の衆だな。


「ほら、全然当たらないぞ。もういっぺんやり直してみろ」


 見当違いな方向へ飛び去る矢を俺はつかみ取り、撃った奴に投げ返してやる。


「ヒッ!?」


 矢はその男の薄汚れた外套を貫き、後ろに生えていた木の樹皮に刺さって縫い付けてしまった。


「バ、化け物だ……!」

「兄貴ぃ! まずいですよ、こいつ本当にノイスガルドの冒険者なんじゃ……三層到達者だったら勝ち目ないっすよ!!」

「黙れ! シノギの人間がカタギのガキにビビッてどうする!? ナメられたらこの仕事はおしまいなんだよ!」


 人間以上の奴らとずっと最前線で戦い続け、ついにそいつらの力を得る方法を覚え……俺がこの街に来た数年間は決して無駄ではなかったらしい。

 ――いつの間にか、その辺の人よりも強くなってしまったようだ。ノイスガルドにいると娑婆の感覚が狂うな。


「ガキが! 大人をナメるなよ!」


 俺は思わず苦笑していた。その笑みを何か勘違いしたのか、兄貴のリーダー格がいきり立って攻め込んでくる。


「もう止めておけ。どうなってもしらねぇぞ」

「やかましい!!」


 男の長剣が日の光に反射してギラリと光る。

 しょうがないな、お前が実験第一号だ。


「警告は、したぞ」


 大地を蹴り、加速。すれ違いざまに俺は男の耳元でそう告げ、片手で奴の額を鷲掴みにする。


「何を――!?」

「【レベルドレイン】」


 腕を通し、伝い、流れてくる。この男の努力の結晶、たとえ山賊でもそこに落ちるまでに流してきた血と汗と涙の経験。それらが奪われ、俺の血肉へと還元されていく。

 あの巨大マミー……随分、エゲツないスキルを持っているぜ。俺とガラフで対処出来てよかったよ。もしこれがあの場にいた冒険者全員に使われたと思うと……ゾッとする。


「お前……何をして……」


 先ほどよりも明らかに鈍くなった動きで男は俺に剣を振るう。しかしもはや払い除けるまでもなく、俺の体に跳ね返された衝撃で剣は男の手元から弾かれた。


「これからはまともに働いて飯を食うんだな。その程度の力は残してある」


 ……だから、人相手には使いたくなかったんだ。悪党でも躊躇いたくなるが、向こうが聞き入れないなら仕方ないよな。




 【レベルドレイン】

 触れた対象から、経験してきた全ての知識、技量、能力を奪い取る。

 対人専用のスキル。




 本当にとんでもねぇスキルを寄越しやがって。




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