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9 闇夜の戦い

  二層に入るとすぐに剣戟と騒乱の音が聞こえてくる。暗闇の中でランタンやたいまつなどの明かりが激しく揺らめき、発動した魔法の光が一瞬周りを眩く染め上げた。


「チッ、既に乱戦になってやがるっ」


 敵味方が入り乱れ、どこに誰がいるのかも分からない。オマケにこの暗さだ、魔物のスキルを使っても見られることは無いだろうが……大規模な攻撃は使えないな。

 特殊個体もどこにいるのか、これでは判別がつかない。新月の闇夜に加え、多数の人間の存在に刺激された魔物どもが無数に集まっていやがるんだ。


「でも拙いな、このままだと同士打ちになる……」


 一刻も早く加勢したいところだが、迂闊に飛び込んで味方に斬りつけられたら堪ったもんじゃない。

 何か都合のいいスキルは……【パラライザー】と、後は【大賢錬成(アルス・マグナ)】も活用しよう。


 俺は左手に【パラライザー】のスキルを発動させつつ、持ってきたランタンと火打石を組み合わせる。


「何をするつもりだ?」

「まあ、見てなって」


 右手で錬成を開始、瞬時に二つのアイテムが混ざり合い、新たな道具を作り出す。




 【魔光燐】

 魔物の身体に付着すると、淡く発光しその居場所を指し示す。魔除けの一種。




 筒状に変わったそれを俺は戦場の真上に向かって、投げつけた。

 パン、と爆竹のような音を発して夜光虫を思わせる光の粉が辺りに散っていく。


「む、これは【魔光燐】か!? 錬金術師の援軍だ、みんな淡い明かりを狙え!」


 選りすぐりの冒険者たちだけあって、すぐにこちらの意図を察し的確な指示が飛んで行く。


「これで同士打ちは無くなった、ガラフ行くぞ!」

「へっ、相変わらず大した奴だ!」


 【パラライザー】の発動と共に俺たちは突撃する。手近のマミーを大上段からの振り下ろしで真っ二つに斬り捨てた。


「だぁああああらっしゃあああああ!」


 遅れてガラフが突っ込む。巨大な両刃の戦斧を回転させ、次々と蹴散らしていった。あの真正面からの制圧力、本当に凄いな。お蔭でこっちは守勢に専念できる。


「怪我人は俺の後ろへ! 攻撃は全て引き受けるから、構わずに後退しろ!」


 マミーやカースカッパー、下層を根城にする白骨化した剣士スケルトンに、干からびたミイラが豪奢な外套を帯びたような魔物、ワイトメイジまで出てきている。

 全く、わざわざ下の方からご苦労なことで!


「気をつけろ! スケルトンとワイトメイジは共生関係だ、互いに強烈な相乗スキルを使うぞ!」


 撤退する冒険者の一人が去り際、助言を残す。それを裏付けるかのようにワイトメイジが魔法系スキルを発動、同時にスケルトンはその手に持つ錆だらけの長剣にスキルの光を這わせた。


 ミイラの魔物の干からびた指先から無数の漆黒の羽が渦を巻いて放たれる。ルーンアーマーの魔法防御が威力を削ぐが、間髪入れずにスケルトンが襲い掛かってきた。

 これは……魔法に合わせて追撃する魔法剣か! 漆黒のオーラを帯びる剣を盾で受け止め、素早く手前に引いて衝撃を逃がす。


「お返しだ!」


 カウンター気味に俺は大剣をスケルトンへ突き出した。魔物のスキルに頼らずとも、肉体の鍛錬だけはずっと怠っていない。この身体になってもパワーだけなら自信がある。


「せぇやぁああ!!」


 勢い付けて叩き込んだ一撃は斬撃と言うよりも打撃に近い。剣も盾も諸共打ち砕き、骸骨の剣士は粉砕された。

 残されたワイトメイジは慌てて魔法を使おうとするが、


「俺様を忘れるなよ!!」


 俺の後ろから飛び出したガラフがその首を跳ね飛ばした。


「一丁あがりぃ!」

「ナイスサポート、一気に押し切るぞ!」


 次はマミーの群れ。ここは纏めて薙ぎ払ってやる。


「唸れ! ヴェルトヴァイパー!!」


 ギルがヨルムンガンドの素材から作り上げた俺の新しい剣。それは単純な威力だけでなく、刀身はワイヤーで結合され、鞭のようにしなる。

 ブオン! と大剣の刃が伸長し、まさに蛇の如く大地を這いながらマミーの群れを強烈に撫でていく。


 縦横無尽の斬撃の隙間を縫うようにガラフも動く。致命傷を逃れ、討ち漏らしたマミーを斧や自慢の握り拳で破砕していった。


「―――!!」


 その時、残存したマミー共が声にならない悲鳴を発する。生き残った個体たちが一か所に固まり始め、腐り崩れた腐乱の肉体を互いに繋いでいくのだ。


「こいつら、まさか合体してるのか……?」


 俺の知る限りでは、マミーにそんな習性は無い。二層の普遍的モンスターだ、未発見の行動だとか新しく編み出した類もゼロとは言い難いが……今の状況ならあの説が一番現実的だろう。


 つまり――特殊個体。しかも群体の。


「ガラフ!!」

「分かってらあ! 合体なんざさせっかよぉ!!」


 俺が動くと同時、ガラフは既に攻撃態勢に移行していた。

 振り上げた戦斧にスキルの光が漲る。


「【ビフォルクート・ハーケン】!!」


 敵の肉体の強さを無視し直接、命の根幹へと打撃を与える魔法に近い技。戦士でも熟練にならなければ覚えられず、死者や無機物と言った疑似生命体が多く住み着く二層の魔物の天敵のスキルとも言える。

 ああいう存在は頑丈な入れ物の中に、自分の命を収納しているようなものだ。【ビフォルクート・ハーケン】はその容器を貫通し、中身を破壊する。


 だから、特殊個体だろうとマミーという亡者の種に分類される以上、耐えられるはずがなかった。

 だが――。


「な、に?」


 ガラフの一撃は、マミーの腕に阻まれる。身じろぎするだけでも自壊し、緩慢な動きしか出来ない腐敗した死体が、斧の斬撃よりも早くその刃をがっしりと受け止めた。


「マミーが刃を……」

「ガラフ、離れろ!!」


 俺が言うよりも早く、マミーはガラフの巨体を軽々と持ち上げ、勢いをつけて投げ飛ばしてきた。


「チッ!」


 砲弾のように飛ばされたガラフを受け止め、その衝撃は両足の靴底を地面で削りながら殺す。


「くそ、すまねえ……俺の攻撃が通じねぇなんて……」


 幸い怪我はないようだが、相手は厄介極まりない。

 俺は大剣を握り直し、ちらりと背後を窺う。他の冒険者たちはまだ残党の魔物たちと交戦し、こちらに注意を払っている余裕はなさそうだ。


 なら――試すチャンスはあるだろう。


「ぐぅあああああああ!」


 マミーが吼える。通常の何倍にも肥大化した豪腕が、すかさず振り翳した盾とぶつかり合い、鈍い衝撃と共に俺の身体に新たな力を齎す。


「ぅおおおおおおお!!」


 巨大化しただけあって、並の人間では防具もろとも潰されかねないパワーだ……!

 だが、この程度なら負けねぇ!


 【チャージ】でパワーを爆発させ、真っ向から強引に力で対抗する。盾の上に圧し掛かった奴の右腕を力任せに弾き返した。巨体が大きく後ろによろめき、その隙だらけの胴体へ――、


「【白鍵】ッ!!」


 白色の魔力弾を叩き込む。腐り切り、脆くなったマミーの肉体に大穴が穿たれるが、瞬時にその傷は塞がり始めてしまった。

 その再生力は俺がスカベンジャーから奪った【肥え太る遺骸】よりも遥かに高く、強力だった。


 どうやら新しいスキルも使えるようになったらしいな? 道理で今のやり取りでスキル獲得の手ごたえがあった訳だ。

 面倒だから【ガンマ】で焼き尽くしたいところだが、こんな狭い場所で大技は使えないし、流石に気づかれるだろう。ヨルムンガンドの十八番スキルだし。


「くそ、何だあの再生は!? めんどくせぇ野郎だ!」


 ガラフが隣で悪態をつく。だが倒せない相手ではない。長期戦でやればいずれ倒せるだろうが……他にも遭難者がいるかも知れない以上、モタモタ戦ってる暇はないな。

 一気に吹き飛ばすしかない。俺の今の手札でそれを実現できるだけの火力を持ち、かつ人目を気にせずに撃てるのは【白鍵】しかない。しかし奴の再生力の前ではいくら撃っても修復速度を上回ることが出来ないだろう。


 多少威力が落ちても範囲や撃てる弾の数が増やせれば良いんだがな。魔法使いたちが使う【ファイアボール】などの魔法弾系の魔法にもそう言ったテクニックがある。

 スキルではなく、個人の技量なので誰にでも使える可能性を秘めている。


「やるしかねーよな」


 出来る、出来ないじゃねぇんだ。そんな甘ったれた考えで生きていける世界じゃない。


「ガラフ、三十秒――いや、十秒で良い。時間をくれ」

「なんかやるつもりか? へっ、ヨルムンガンドの時みたいに魅せてくれんなら、一向に構わねぇぜ――頼むぞ、相棒」


 疑いも迷いもなく、彼はマミーへと突撃していく。振り下ろされる両腕を掻い潜り、胴体に戦斧を叩きつける。

 俺はその信頼に応えなければならない。右手を突き出し、集中する。いつものようにスキルを発動させるが、まだ発射しない。そのまま待機状態を維持させ、”もう一度〟【白鍵】を使用する。


 人差し指に灯った魔力の光が、中指にも現れる。どうやら上手くいったようだ。同種、あるいは異なる魔法を一度に行使する応用技術【多重魔法(マルチ・プレックス)】。

 スキルに乏しかったある魔法使いが、己の非力さを補うために編み出した戦術だ。


 俺は更に続けて【白鍵】を二回重ねて使用し、十分と判断する。本来は一発で放つものを強引に押し止める荒業なのだ、過剰にため込むと暴発し……最悪、魔法の逆流が起こって自分が吹き飛ぶハメになる。

 今や薬指と小指にも白い光が宿り、眩い輝きを放っていた。


「ガラフ、良いぞ下がれ!!」


 限界まで蓄えたスキルの影響か、右腕が軋みを上げる。集中してないと本当に暴走しそうだ……。


「おうよ――ラウラ、あぶねぇ!!」

「ッ!?」


 ガラフが下がると同時にマミーは俺に狙いを定めてくる。異常に高まった魔力に反応したのか、本能的に俺を危険と察したのか、ただ単に棒立ちの俺を絶好の獲物と判断したのか。


「くっそ!」


 今ヘタに動いたら、スキルの維持が出来なくなるってのに!

 どうすれば……!?


「――【泥土刺突】」


 突然ドン! と俺に向かって伸ばされていたマミーの腕が、爆発するように吹き飛ばされる。

 今の声は……いや、それは後回しだ!


「存分に喰らいやがれ! 【白鍵・肆連】ッ!!」


 俺は片腕を失ったマミーへ、四つに分散した【白鍵】を叩き込んだ。四本の指先から白光が迸り、閃光となって死者の巨人を射抜く。


「す、スゲェなおい! やっぱお前は最高だ、ラウラ!!」


 快哉を叫ぶガラフ、いや――まだ勝利に浸るには早い。これでもなお、奴は再生しようと足掻いている。


「だったら! ダメ押しだ!!」


 俺は地面を蹴り上げ、加速。翳した剣にスキルが灯る。


「【万象追連】!!」


 スケルトンから奪った技。味方のあらゆる攻撃に自動で追従し、追撃する剣技。人間の熟達した剣士でも魔法攻撃への追撃技を覚えるが、あちらは属性ごとに技が分けられ、あくまでも魔法への連撃しか出来ない。


 俺の場合は、全ての味方の攻撃に続けるのだ。たとえそれが、自分の出した技であっても。


「これで、終わりだ!!」


 再生しかけの奴の躯体へ、渾身の一撃が突き刺さった。





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