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2 ゴーレムと錬金術師

 パチパチと焚火から火の粉が弾ける。『マップコア』に内蔵された時刻によれば探索開始から二時間ほど経過していた。

 その辺の散歩とは違い、冒険は短時間でも予想以上に体力を消費する。だからこまめな小休止も立派な体調管理の一つだ。

 携帯食のマシュマロや缶詰を火で熱する間、俺は『メモリーコア』をチェックする。



 ラウラ・ヘルブスト

 はぐれ騎士

 状態;良好


 スキル

 ・ラーニング

 ・チャージ 

 ・エアライド

 ・ガンマ    

 ・アカンサスサイス

 ・パラライザー

 ・大斬

 ・グラヴルボディ

 ・麻痺耐性

 ・即死耐性

 ・毒耐性

 ・肥え太る遺骸



 得られたスキルはマミーの耐性系、そしてカースカッパーの防御系【グラヴルボディ】。


「おっと、この辺でいいか」


 木の棒に差したマシュマロを火から遠ざけ、熱せられた缶詰も退かす。


「トリシャ、できたぞー」


 俺が調理してる間、見張りを務めてくれたトリシャに声をかける。


「いい匂い」

「食事は奮発してるからな。『食事も冒険の内』って言葉もあるし」


 命を守る武器防具もそうだが、摂食も大切な要素だ。ケチって損をするのはまだいいが、死んでしまっては元の子もない。

 食欲だって人の持つ生来の欲求だし、何よりも息抜きになる。神経を尖らせる冒険には欠かせないお供だ。


「おまけに二層は実入りが少ない。モンスターを倒してそのまま調理するパーティもいるけど、その人たちが二階層だけは本当につまらないって言うくらいだ」


 だって棲息する魔物が腐乱死体とか、骨とか、コインとかそんなんばっかだしな。食える食えない以前の問題だ。唯一食用なのはあのヨルムンガンドくらいじゃないか? ゲデモノで有名だけど。


 俺は缶詰の蓋を開け、トリシャに渡す。それから火にかけていた鍋から拳大の木の実も取り出した。


「これと一緒に食べると美味いぞ」


 柔らかくなった皮をむくと、中から熱々の白い粒の塊が出てくる。


「これは?」

「一層で見つけた木の実だ。名前はまだないと思うよ。水に浸して炊き上げると、中の白い粒がふやけて食べやすくなる」


 トリシャは早速、切り取った牛肉と一緒にフォークで口に運んだ。途端に瞠目して驚きを露にする。


「う、美味!?」


 俺も缶詰の肉の上に盛り付け、一緒に食べた。この組み合わせだと本当に食欲が誘われるんだよな。食べ過ぎには注意しないと……。

 

 そうしてのんびりと飯を摘まんでいると、不意に地響きが起こった。断続的ではなく、規則的に。例えるなら丁度……誰かが歩いてくる感じだ。もちろん人間じゃない。相当デカい奴だ。


「近づいて……くるね」

「ああ」


 俺とトリシャは手早く武器を握り締める。ここは先駆者たちが築いた休憩所だが、魔物が全く来ないわけではない。

 暫くして油断なく待ち構える俺たちの前に、それは現れた。


「ゴーレム!?」


 石造りの巨人、魔法の泥人形、あるいは試験管の中の子供(ホムンクルス)と同じ疑似生命体。

 高さは一メートル後半くらいあるか? 二層にゴーレムなどいないはずだが……。


「やめろ……敵じゃない」


 どうやって攻撃すべきか、その算段をトリシャとアイコンタクトしたところで、ゴーレムの中から声が聞こえてきた。


「え?」


 呆気にとられる俺たちの目の前で、ゴーレムの胴体部分がパカッと開く。そしてそこから現れたのは、一人の女の子だった。


「……私は錬金術師だ」


 年齢は俺たちとそう変わりなく見える。緑髪のツーサイドアップに、空色とヒスイ色のオッドアイのジト目。錬金術師特有のサイズの合ってないローブには、至る所にアイテムや機材が仕込まれているのだろう。


「……錬金術師。なるほど、そのゴーレムは君の自作?」


 流石に魔導士なだけあってその手には詳しいようだ。トリシャは警戒心を解き、ゴーレムに近づく。


「肯定。洗礼を受けた粘土を基礎に、銀色山脈で採れる白岩で防御力などを向上させている」

「魔力回路は何を使ってるの? 九十八年パラケルス式? それとも直列ツイン魔導方式?」

「十四年ヘルメス式。少しピーキーだが、最大馬力とトルクの太さが良い」

「渋いチョイスだねー。でも分かるよ」

「????」


 何の話をしてるのかまったく理解できない……これだから魔法関連の職を持つ人たちは。

 蚊帳の外状態と化した俺は、一人寂しく食事を再開することにした。


「えっと……」

「マルタだ。マルタ・リーヴ」

「ボクはトリシャ・エアラッハで――」

「ラウラ・ヘルブスト。見てのとおり、盾役」


 簡単な自己紹介。リーヴってエルフかどこかの国で冬を意味したような気がする。まさかエルフ族……なワケないよな。森に引き籠ることで有名な種族が、外界に出てくるはずがないよな。


「それで、マルタは一人で迷宮に?」

「ゴーレムに乗ってればパーティは不要だ」


 そう断言するマルタ。余程、高性能なゴーレムなんだろう。二層をソロで攻略するのは相応の腕前が必須になる。


「だが、私はご飯を食べなければ生きていけない」


 マルタは腰を下ろし、ゴーレムの中から調理道具などを慣れた様子で取り出していく。


「そりゃそうだな。せっかくだ、一緒に食べるか?」


 俺は缶詰と木の実を差し出す。冒険者の仲は一期一会、袖振り合うのも多生の縁ってもんだ。

 まあ……相手の出方次第では血生臭いことになる場合も、無きにしも非ずだけれど。


「……これ、ルリの実か?」

「ルリ?」

「私はそう呼んでる。東の国にはこれと似たような食べ物がある」


 へぇー。世界は広いなぁ。


「この地方で食べるのは初めてだ。どこで見つけた?」

「迷宮の一層に群生してるぞ。殆どの冒険者や商人は何の役にも立たないって無視してる」


 木の実としては味がなく、腹の足しにもならないという理由で完全に雑草と同格に見られていた。

 その有用性を知ってるのは俺やギルくらいだと思う。


「いくらでなら売る?」


 俺の渡した牛肉とルリの実とやらを食べながら、マルタは商談を持ちかけてくる。


「適正価格は?」

「そうだな……ここら辺では見かけないし、銀貨十枚くらいは出すだろう」

「十枚!?」


 俺は手に持っていたルリの実を落としそうになる。一文の価値もない雑草扱いの木の実が……大出世だ。


「でも今は手持ちが足りない。その分は物々交換にしてくれると助かる」

「構わないぞ」


 手持ちにはまだ実は七個ほどある。ひとまず四つマルタに手渡すと、彼女は小箱をいくつか用意した。


「旅先で手に入れた各種の香辛料だ。色んな料理に合う」


 蓋を開けてみると、塩に黒や白と言った胡椒、砂糖、ガーリック、ハーブ、キャラウェイまである。まさに香辛料の見本市だ。この辺じゃ流通してないもんばかりだな。


「こんなに貰っていいのか?」

「気にするな。まだたくさんある」


 マルタはゴーレムの内部を顎で示す。雑多な荷物が詰め込まれていた。

 便利だな……俺もゴーレム欲しいわ。


「さて……最後に一つ聞きたいが、こんな魔物を見なかったか? または聞かなかったか?」


 マルタは一枚の羊皮紙を広げる。そこにはとある魔物のスケッチが描かれていた。


「あれ? これ、二層のスペクター?」


 トリシャの言う通り、二層の中盤辺りから姿を見せ始める霊体モンスターに似てる。

 しかし合致しない特徴も見受けられた。背中に生える鳥のような翼はスペクターにはない。


「これ、ここに棲息してるのか?」

「分からない。だが、手掛かりを頼りにここまで来た。恐らくいる」


 うーん、俺は二層に足を運ぶのは今日が初めてだし知らないな。

 経験のあるトリシャは、と顔を向けるが黙って首を横に振った。


「……そうか」


 少し落胆した様子でマルタは羊皮紙をしまう。


「探して、どうするんだ?」

「冒険者ならそれくらい聞くまでもなかろう……仕留めるだけだ」


 そりゃ尤もな答えだ。魔物を狩るのは冒険者の役割。

 だが、何故だろうか。そう答える彼女の表情は暗く、言いしれない何かを秘めていた。



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