13 和解
「――……」
目を開くと、光が目に染みる。
「トリシャ?」
どうやら俺はベッドに寝かされていたようだ。鎧は脱がされ、インナー姿。所々に包帯やガーゼが施され、右腕は添木で固定されていた。
そしてベッドに突っ伏すようにしてトリシャが寝息を立てている。
「起きたか」
部屋の入り口に寄りかかるハリー。
「どのくらい寝てた?」
「丸三日だ。酷い怪我だったぞ。【肥え太る遺骸】でも治しきれないほどの、な」
俺は窓の外を見る。教会の中庭でシスターが子供たちに文字を教えていた。
「トリシャはずっとお前を介抱してたんだ。目を覚ましたらお礼を言えよ」
「……ああ」
空返事を返しながら、三日前の死闘を思い返す。今生きてるのが嘘みたいだ。
「う……あ、ラウラ?」
俺たちの会話で目が覚めたのか、トリシャが顔を上げる。寝起きの半眼が俺の方に向けられると――。
「ラウラ!」
「むぎゅ!?」
抱き付かれた。押し倒され、ガコンガコンと揺さぶられる。
「コラコラ、トリシャ。彼女はまだ怪我人だよ。その辺にしておきなさい」
「あ、ご、ゴメンなさい」
ハリーの仲裁でトリシャは離れるが、俺の手は掴んだままだ。
「ずっと看ててくれたんだってな? ありがとう、トリシャ」
「ううん。ラウラに比べれば、大したことじゃないよ」
「でも迷宮から俺を運んできたのもトリシャなんだろ? あんなフル装備だったのに」
「あ……それはボクじゃなくて」
トリシャは首を振り、入り口に視線をやる。
するとハリーに促され、スキンヘッドの巨漢が入ってきた。
「元気になったようだな……」
咄嗟に身構えた俺に、スキンヘッドは穏やかな笑みを浮かべるだけだ。
「約束を、果たしに来た」
「え?」
そう言うと彼は迷うことなく膝を折り、額を床に押しつける。
「俺が、俺たちがバカだった。噂ばかりを信じて、お前たちのことは何も知らなかった。お前たちが居なければ、俺はあの蛇に殺されていただろう。どうか、許してくれ! 本当にすまなかった! 死んだポールの分も謝る! このとおりだ!」
俺は唖然と土下座するスキンヘッドを見つめた。
まさか本当に謝るなんて……。
「彼は本気だ」
ハリーが言うと、スキンヘッドは突然膝立ちになって腰のナイフを抜き、自らの右手の小指に刃を添える。
「……どうするつもりだ」
「落とし前をつける。俺も冒険者だ、あの非礼に土下座一つでは釣り合わない」
息を荒げ、鬼気迫る顔つきでナイフを握り締めていた。
「そ、そこまでしなくても、ボクはもう気にしてないから!」
「……トリシャがそう言うんだ。やめろ」
俺は男の手首を掴み、ナイフを奪い取る。
「……名前は?」
「ガラフだ……ガラフ・ヒューイット」
「分かった。ガラフ、顔を上げて」
今回の発端はトリシャへの迫害を止めさせるためだ。
彼女が許すというなら、それでいい。
「許すよ。ちゃんと約束を守ってくれたんだから」
俺がそう告げると、彼は目に涙を溜めながら「ありがとう」と何度も呟く。ガラフもそんなに悪い奴じゃなかったのかもしれない。真の悪党はやはり占い師たちなのだろう。
何であんな奴らが取り締まられることなく闊歩しているのか……これから帝国はどうなっていくのか。
迷宮探索を生業とする冒険者たちに本来なら政など無縁だが、それでも気にせずにはいられない。
「ラウラ? どうかした?」
「ん、何でもないよ」
まあ、今はトリシャを守れたことを喜ぼう。
そんで早く怪我を治してまた迷宮に潜らないとな。




