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9 効率的な作戦


 夜明けと共に目が覚めた。街全体を薄らと霧が包んでいたが、その内晴れるだろう。今日もいい天気になりそうだ。


「早いな、ラウラ」


 中庭で軽く朝の運動をしているとハリーに声をかけられる。


「負けられないからな」


 トリシャのためにも、俺自身のためにも。


「……ラウラー、ハリー、おはよう」


 寝ぼけ眼をこすりながら、トリシャも姿を見せる。俺やハリーといる間だけはお面を外すようにしてくれたのだ。


「おはよう。洗面所は向こうだよ」

「んー……」


 ふらふらと歩いていくトリシャの背中を見て、改めて決意する。

 絶対に守るってさ。




 朝食も教会で済まし、俺たちは迷宮の入り口に向かう。

 すると既に例の三人組は来ていたようだ。


「お早いことで」

「お前たちみたいに逃げる必要もないからな。約束通り来たことは褒めてやる」


 金髪が口角を歪め、嘲笑する。


「ルールを説明しておこう。狩場は迷宮の一層限定だ。太陽が最も高い位置に来るまでが勝負時間とする。勝敗はどっちが敵を倒し、素材と金を稼げるかだ」


 スキンヘッドの説明に俺は頷く。


「いいよ。じゃあさっさと始めようか」

「……可愛げのねぇガキだ」


 お前らに見せる愛想なんてあるかよ。歩き去っていく三人を見送り、俺たちは彼らとは違う道から迷宮に踏み込む。


「ラウラ、本当に勝てるの?」

「ああ。ここの接触禁止種を狙うつもりだ」


 一層に於いて一番強いとされる魔物。俺の死因となったあいつを。


「禁止種……スカヴェンジャーを?」

「うん。少し危険だけど、俺とトリシャならできるよ」


 あのアホトリオは暴れカマキリ相手に逃げるくらいだからな。せいぜい狩る相手は群れを組むゴブリンやスキルを持たない犬の魔物、ストレイ・ハウンドくらいだろう。


「分かった。頑張る」


 やる気満々と言った様子で拳を握るトリシャ。……そんな健気な姿も愛らしく見えてしまう。

 俺は改めて気合を入れ、奥地へと足を進めていった。




 スカヴェンジャー。通称、死体漁り。人間の死体が腐敗したような醜悪な外見を持ち、初級冒険者にとって最初の山場となる相手。


 個々の強さはさほどでもないが、何よりも恐るべきはその物量にある。こいつらは生来の能力として分裂することができるのだ。一匹を倒す間に二匹、四匹と増え続け、気づけば逃げる機会さえなくなるほどに囲まれる。


 更に永続的な回復を施す【肥え太る遺骸】により、見た目以上にタフでしぶとい。対処法は圧倒的な大火力で短期決戦に持ち込むか、長期戦覚悟で戦うかだ。


「俺があいつらの分裂を誘う。合図を出したらトリシャは魔法を叩き込んでくれ」

「……気を付けてね」


 茂みから木立の合間を蠢くスカヴェンジャーを窺う。その数は五匹。だが、間もなく周囲を埋め尽くすほどに増殖するだろう。


「――行くぞ!」


 俺は立てと剣を構え、飛び出す。手近な一体に狙いを定めて強襲した。

 スカヴェンジャーは間の抜けた呻き声を発し、それが今際のセリフになる。どさり、と腐乱死体が草地に転がった。


「【アカンサスサイス】!」


 離れたところにいる四匹にも木の葉の斬撃を浴びせかけ、注意を引く。狙い通り釣られ、緩慢な動きで奴らが向かってきた。同時にその身体が歪み、汚物の塊を地面に脱落させる。ぐずぐずに崩れた腐肉はやにわに蠢き出し、新たな躯体を構築しながら起き上がる。

 増殖が始まったのだ。


「そうだ、もっと増えろ」


 俺は後ずさり、適度な距離を保ちながら奴らを誘導する。トリシャの狙いやすい位置へ、少しずつ。


 逃げるだけの俺に業を煮やしたのか、一匹が肉薄してくる。鈍いので簡単に切り伏せられるが、切り裂かれた躯体がまた別のスカヴェンジャーとなって立ち上がった。

 確実に息の根を止めない限り、こいつらの増加に歯止めはかけられない。気づけば辺りはスカヴェンジャーで溢れ返っていた。


 ……嫌な光景だ。死んだ時を思い出す。さっさと倒してしまおう。


「……もう少し」


 あと五歩……三歩……二歩――今だっ!!


「トリシャ、爆発させろ!」


 合図を送り、俺は横っ飛びでその場から離れる。


「【熱く滾って燃え尽きよ! 血炎(エシュダム)】!!」


 スカヴェンジャーたちの足元に紅い魔法陣が描かれる。高度な魔力によって制御された爆炎が生み出され、激しく逆巻きながら死体の群れを焼却していく。

 悲鳴を上げる声帯すら瞬時に燃焼し、あっという間に灰燼となって崩れ落ちた。


 炎属性の第九等位魔法【血炎(エシュダム)】。

 魔法の強さは第十三等位から始まり、第一等位が一番強力な分類になる。スカヴェンジャーは確かに手強いが、所詮は一層に追い出された程度の魔物だ。第九等位の魔法を喰らえばひとたまりもない。


 しかし魔法の行使には集中と詠唱が不可欠になり、位が上がれば更に長引く。俺とトリシャ、どちらかが欠けていてもこの作戦は成功しなかっただろうな。

 ちなみに『アカンサスサイス』は第十二等位に相当する魔法スキルらしい。今まで魔法とは無縁だった俺にしてみれば十分すぎるスキルだ。


「ラウラ、大丈夫!?」


 トリシャが隠れていた大木の裏から出てくる。


「うん。平気だ」


 俺は燃え残ったスカヴェンジャーの素材、『執念の魂』を回収した。魔法的な効果を持った宝玉だから一緒に燃えてしまう恐れはない。

 よし、この調子でどんどん狩っていこう!


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