等々力双磨
俺は龍剛高校の等々力だ。時代遅れの不良だって馬鹿にされてな。あの頃は、屋上でバレないように煙草を吸っていた。
勿論、俺は未成年に煙草を勧めているわけじゃねぇ。そのせいでだいぶ身体もイカレた。
そういう生き方しか出来なかった。ドブネズミや野良犬、野良猫そいつらしか友達じゃなかった。まるで俺は、どんなに叫んでも声を聞いてくれさえされない、虎となった李徴のようだ。
いくら反抗したって皆、俺の存在を忘れている。
暴力が俺を生かしてくれる唯一の道だと思ったけどそれさえも適わない。俺の存在はしまいに皆の頭から消えてゆく。例え抗い続けても、日に日に無視され、傍若無人となる。
孤独の中で生きてきた。中学時代、学校に行っていたが、そこには人情は無かった。給食はあっても、よく逃げ出して近くのラーメン屋でひたすら麺を啜っていたよ。
舞台は変わり、ここは職員室。等々力の中学最後の判定会議が行われようとしていた。
「3年2組の等々力について成績の判定をしたいと思います。」校長が言った。
「ホント、悪い奴ですよ。彼の周りはいつも煙草臭い。どっから手に入れてるんだか分からん。それに、畢竟時代遅れと言うのに未だに荒れている。」
「森下先生。ヒッキョウってどういう意味ですか?何かの宗教ですか?」
「あぁ。校長は数学科の先生でしたね。ろくに難しい熟語も知らないで教師をやっていることが恥です。」
「森下!余り変な事言ってるとボーナス減るぜ。」体育教師の高峰が森下先生を叱りつける。
「これは失礼致しました。しかし、ボーナスも米茄子も俺には必要ありませんよ。校長。裏取引でなんとでもなりますから。少し口が滑りました。えぇ。畢竟とは最早という意味ですよ。夏目漱石の『こころ』でも読んでください。」
「あんな難しい小説読んでられるか。数学の理論書でも頭が混乱するのに。」
「折角、読書案内をしたのにその態度ですか。校長は。少し生徒達の様子を見てきます。」森下はすぐ様立って、職員室を後にした。
「等々力双磨…良い男だ。いずれ我が手中において使いたいものだ。計画を実行する為にな。」
彼こそ、海桜女子高校で電話を掛けていた男…森下悠政であった。
口では批判をしつつも先生を説得し、高校進学できる内申点まで引き上げてもらった。全てはいつか来たるその日のために。
そして、森下が、等々力に毒牙を刺して化物にさせる時が遂に来たのだ。




