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車内

暖房の効いた良い電車である。こんなに荷物があるとはと大変な思いをして運び込んだ。

幸いにも、車内は人が少なく余裕を持って荷物を置くことが出来た。しかし外は寒いな。

「うぅ。寒かったな。」ペットボトルのココアを飲む。やっぱり冷えた身体にはココアがぴったりだ。

いつの日か、美少女にココアを飲ませたいと思っていたが、まさか自分がそうなるとは思わなかった。


ふと、高校生くらいの女子に話し掛けられる。

「あの、もしかして、八箕山に行くんですか?」いかにも可愛らしい服を着ている。しかし、どこか知性を感じる。

「あぁ。そうだよ。ところで君は誰?」その少女に対してそう言った。

「えっ?海櫻高校生徒会長の鳳凰院(ほうおういん)香澄(かすみ)よ。知らないの?」

「知らないなぁ。一度意識を失ったからね。」

普通の対応をした。一般人だと思って。しかし、次の応答で覆される。

「やっぱり、お前だな。洸。」

「…っつ。何で知ってるわけ?もしかして、ストーカー?」

「んなわけないだろ。俺だ。日野蓮司だ。」

「何だ、お前だったのか。こんなに可愛い顔だったから分からなかったぜ…えっ?」

「だから、俺も同じように入れ替わっちまったんだよ。」

日野、お前もだったのか。分からなかったぜ。

同じような思いをしている人を見つけて、俺は少し安堵した。


ところで日野は、俺の小中高と同じ学校で親友の男だ。

別に精神的に問題があるような人ではなかったはずだが、どうしたんだろうか。俺は武道に優れているという程でもないが、敵無しと呼ばれるから月島さんの所に戻れと言われる道理が有るのだが。日野は別段、そんなことも無いはずだが。


友人もまた入れ替わりにあっていたとは。何だろうか。周りが暗い中で一人うごめいていた自分が、如来の光に照らされて周りを見ると同じような人が沢山いた。と言う説話を何処かで聴いた覚えがあるが、正しくその心境だ。

別に如来でも、自由の女神でも、電力会社でも、喩えは何でもいいがとにかく我々を守る者だ。


「ねぇ、香澄ちゃん。調子はどう?」

思いっきって尋ねてみる。日野のリアクションが気になった。

「調子?別に悪くはないけど。どうしたの?」普通に返すが、その顔は恥ずかしそうに照れていた。随分と可愛い顔をしていた。

白い肌がピンク色に染まっていた。


きっと、男の俺だったら興奮して、見ていられなくなるだろう。

相変わらず精神は男らしいが、いつの日か『益荒男(ますらお)ぶり』の『手弱女(たおやめ)ぶり』気質が身に付くんだろうな。


「ところで、その身体には慣れたのか?お前は。」俺は訊いてみる。

「いやぁ、全然だ。何というか体が重い。頭も痛いし。」

すぐに察した。今は月一回のあの日に突入しているということを。重い人は大変らしいからな。子宮を取り除きたいとか言い出す人も見かける。


「いやぁ、大変だね。こんな時に入れ替わりに合うなんて。」

「えっ?それどういう事なの?分からない。」


「まさか、この歳になって頭痛とか体が重い原因を知らないなんて。」きっと男女の性差は中高の保健体育で学ぶはずだ。知らないはずはない。

「いや、本当に知らない。今、俺の身体はどうなってるんだ?」

「実はね…」

「何と!どうりで身体が重かったわけだな。」


俺は蓮司が鈍感だと初めて思った。


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