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家族の温もり

いつぶりだろうか。こんなに大勢の家族と食卓を囲むのは。

「光莉、良かったなぁ。父ちゃん心配したよ。本当に済まないな。いつもいつも、迷惑かけて。すぐに出張だとか。転勤だとか。俺は、遊牧民じゃないんだから…」父、敏吾は溜め息をついた。

多くの大人はトップを目指し、周りも蹴落とさんとする心を持って、日々、上司のきずを探し、退任させようとする中で彼は真面目な人だった。

本当は出世なんかいいから、家族の元で安住したい。

家族を大切にする父親だと思った。


「貴方、気を落とさないで下さい。これも貴方が天に恵まれた証拠ですから。」

「そうなのかなぁ。でも、ずば抜けた才覚より、平凡な日常が欲しかったよ。」ご存知の通り、上に行けば上に行くほど、上官としての使命がやってくる。取締役が名誉職になっているところばかりではないのだ。殿様は左団扇で云々…そういう時代は古いのである。


今は社長も一所懸命に地盤を固め、株式を安定させより多くの社員が喜ぶような企業を作る。

彼は自衛官なので、給与は決まっているが、いざと言う時に動ける組織を作るために奔走していた。

そのやり方に反発する人も居たが、ここまで何とかやり遂げてきた。


「なぁ、それより折角、光莉が目覚めたんだ。今日は思いっきり食べようぜ。すき焼きなんて久し振りだな。」兄…裕樹ひろきは言った。

「お兄ちゃん。いい事言うね。」俺は裕樹に話しかける。

「光莉、目覚めたら随分、人が変わったようだな。あんなに嫌がってたのに。」

「まぁ、色々あったんだもの。生きてることに感謝しなきゃ。」

「流石は我が妹だな。」

今までは気づく事は無かったが、視線に敏感になっている。

エロい目で見つめてくる。


「お兄ちゃん。やめてよ。私、お兄ちゃんの妹だよ。」

こんな兄を相手にしてるんはさぞかし大変だろうな。

「まぁ、何でもねぇ。さて食べるとするか。」

何事もなく、裕樹は食べ始める。

少し寒気を感じたが、収まったようだ。


油をひいて肉を焼く、関西風のすき焼きである。

すき焼きなんて久し振りに食べるな。

どうしても、一人か仲間内で食べると同じ鍋をつついたり、焼肉をしたりすることはあまりなかった。

「お兄ちゃん。肉ばっかり取っちゃダメ。野菜も食べないと体に悪いよ。」まぁ、差し障りのないことを言う。光莉の事は未だにわからない。何せ9年までは行かないまでも、そのくらい交流が断絶しているからな。


本当にこの月野家にバレないように生きていけるんだろうか。






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