オトコとオンナその2
目の前には、キスをする女の子が見える。
私は、百合なんかじゃない。それなのにキスされている。
少し不快感を感じながら、目の前で繰り広げられている映像を眺めている。本当ならこんな映像を見たくないのに。
でも、高校の体育館で倒れてから記憶がないの。
「あぁ。私、死んだのかな?呆気ない人生だったよ。付き合ったことは無かったし。」
『もしもし。いきなり出てきてごっメーン。突然ですが、貴方の名前を教えて下さい!』
「あら、随分、突然だね。まぁ、私の名前は月野光莉だよ。」
彼女は驚くこともなく普通に答えた。
『性別は、何ですか?』
「決まってるでしょ。女よ。ところでアナタは誰なんですか?」
『知りたいの?ボクの正体。』
「知りたいよ。見ず知らずの人だと対応するのが難しいからさ。ねぇ、教えてよ。」彼女は尋ねる。
『ボクの正体はね。…教えるかバーカ。』
その瞬間に、沢山の画像が目の前を通り過ぎていた。
色々な風景が彼女の目を疲れさせ、混乱させていった。
ぼんやりと明るくなってきた。
「ここは?私は生きているのか?」ふと声を出してみるが、声がとても低かった。きっと倒れてから本調子で無いのだろう。
「おう。目が覚めたか。ヒカル。」白衣を着た女性が話しかけてきた。
「私は一体何をしていたの?それで何故男の身体に。」光莉はそう言った。
「お前か、チート級の不良と闘って倒れたんだ。何、特に体に異常は認められなかったわ。」
「ところであなたは誰ですか?見た感じ、医者ですけど。」
「私は、有ケ﨑 流理。医者でありエンジニアよ。」
医学と工学を進む者は滅多にいないが、この女…なかなかやると思った。ただならぬ気を感じてしまった。
「まさか、あの高校生で三大科学誌に論文が掲載されたあの教授?」多少なりとも知識はあるので聞いてみた。
「そんな訳ないじゃない。あの人の研究は生物学だから。まぁ、参考程度に読んだりはしたけどさ。高校生で論文なんてなかなかやるんじゃないの。」
何とまぁ、舐め腐っていることだ。
高校生で三大科学誌に論文が乗った教授だぞ!
それをなかなかやるって。
「あの、高校生で論文掲載なんて凄いと思うんですけど?」
「私はね。もう、小学三年生の時に世間を驚かしたの。脳科学で、夢や記憶を作り込む装置を作って。」
「でも、性別まで変えたのはお前じゃないよな?」
「そんなこと出来るはずないじゃない。出来るならとっくにしてるわよ。」
どうやらこの女…只者じゃないな。
有ヶ﨑(ありがさき)流理
脳科学者の女性で女医。記憶のコントロールや夢を作り出すことで小学三年生の時に、論文掲載されたエリート。
小学三年生の驚異とも小学三年生の脅威とも言われて一世を風靡した。
蒲原綾人先生の『ー研究青春グラフィティー 流ヶ崎有理の研究日誌』の主人公の名前のアナグラムで、本名かどうかは分からない。




