極貧
2263年の頃の話です。
与作の替え歌を口ずさむ。『俺たちゃ鉄を打つ…』そうでも言わなきゃやっていけない。そこまで追い詰められていた。
これはある日の事です。同一賃金法が成立して、正社員はこれくらい、アルバイターはこのくらい、部長ポストはこのくらい、課長ポストはこのくらい。いくら働いてもこのくらい!このくらい!上がることはありません。
俺達は、与作やヨイトマケを心の支えとして日々働いていました。古い歌だが見にしみる。
怠けたくとも怠ければ、首をはねられる。そんな恐ろしい国に住んでいました。
この時、私は中学までしか出ておらず(とはいえ、大半の一般人もそうだが。)、私の場合は鉄を打ち、生計を立てていました。
電車代も苦労する。食べ物もままならない。人権侵害だと思ったことも何度かありました。
しかし、財力が無ければ、この国を変えることも出来ませんでした。
なんと言っても上司はロボットですから。それもサイボーグと呼ばれる高度な動きを実現した恐ろしい機械です。
職工、職工と馬鹿にされ、汗にまみれた下劣な存在。
ロボットを持つものと持たざるもので格差は酷い。
俺達はまるで働きアリなんじゃないかと思ったことがありました。
ワーカーは子孫を残すことなく、死にゆく宿命。
それと同じで俺達、職工も到底、子を養えるほどの財力もない。
女王アリの上層部だけが性の楽しみを知る。
かたや、我々には暇がない。あったとしてもそれは身を休めるためであり、精神が休まる休みなど存在しませんでした。
何度も何度もこの地区から逃げ出そうとしました。
しかしながら、至るところにある防犯カメラから逃れることは出来ませんでした。
『アナタ、ニンゲン、ニゲダス、ヒキョウモノ…ツギヤッタラ、コロス』
「済みません。もうしません。お許しを頼む!頼む!」私はそう平謝りするばかりでした。ロボットごときに跪く、なんと気分が悪いことか。本当なら、壊してやりたいのに。アイツは強い。
出来れば、俺もロボットを買って上層部のアンドロイド、いやサイボーグを壊してやりたい。組織に反逆をもたらしたい、そう思っていました。
しかし、現実は職工、職工と馬鹿にされるか弱い肉体労働者です。
そう、あの時が来るまでは…