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合コンでであった男

:::


 何日経ってもこないメールの返事に、私は不信感を募らせていた。


 携帯電話の液晶画面を睨み付けながら、大仰にため息などついてみる。

 fromの欄に表示されている差出人の名前を選択すると

「発信」

 とメニュー表示され、登録済みの電話番号が画面に現れる。

 私は一度腕時計を確認し、緑色の、古風な電話のシルエットが表示されたキーを押した。

 呼び出し音が続く。


――出ない……


 留守電にも、伝言メモにもつながらない。

 空しく、ただ機会音だけが聞こえる。


――なんか、変な事言ったっけ……


 3日ほど前に送ったメールの内容を思い出してみる。

 何か不興をかうような事を送ってしまったのだろうか。

 そんな覚えは無かったが……。

 プッ。

 何十回か目のコールで、ようやく電話がつながる。

「あ、ごめん今大丈……」


「只今、電話に出る事ができません。しばらくたってからお掛け直しください」


――なんだ、びっくりさせないで

 電話の先で、癖の無い女性の声が無機質に応じた。

 私は一度電話を切って、再びかけなおす。

 留守電機能をONにしていない。だとしたら、着信音が聞こえない場所にいる事が考えられた。

 

 しかし、結局この日の内に相手がつかまる事はなかった。



「これって、どう言う事だと思う?」

 翌日、私は大学の大教室の後部座席で一緒になった友人のアイコに耳打ちした。

「避けられておりますね?お嬢さん」

 アイコは、教授が板書する文字をルーズリーフに書き取りながら、面白そうに返した。

「そんな他人の悩みを面白がらないでよ」

「それって、例の彼氏?」

「うん、この前合コンで知り合った人」

「まっとうな恋に生きるんだね、私みたいに」

「あんただってストーカー紛いのことしてたじゃない!どこがまっとうなんだっつの」

 真面目に取り合う気を見せないアイコに、私は半ば飽きれ、残りは完全にあきらめた。

 テーブルにひじをつき、手のひらで顎を支える。

 そして、何度目かのため息をついた。

「振られるなら振られるで良いんだけどさ」

「良いの?」

「……良いんだけど、ほら、ハッキリして欲しいじゃん?いきなり音信不通って、歯切れが悪い」

「それはそうですな。また電話してみれば?」


 それがつながれば、こんなに悩みはしません。



 期間にして一週間程度だっただろうか。

 ゼミの仲間に誘われて行った合コンで、一人の男と息投合し、勢いのまま夜を共にしたのをきっかけに、私達は交際をスタート。そして毎日のように取り交わしていたメールと電話が通じなくなるまでの時間は。

 こんなことも有るだろうが、音信不通になった理由がハッキリしていないのが気に障る。

――一体、私が何したって言うのよ?

 イライラが増す。

 私はそっと手帳に挟んだ白い羽根をつまんだ。


――嘘吐き……


 また、ため息がでた。



:::

「ちょっと、また薄くなった?」

「俺は薄毛に悩む年頃じゃないよ」

 風通しのよさそうな、高台に建つ一軒家のテラスで眼下の景色を堪能していた少年が、苦笑交じりに切り返した。

「いやね、ちっとも緊迫感がないんだから」

 部屋の中から困ったような声音が届く。

 室内からテラスへと出てきた女性は、10歳前後に見える少年の頭をなでた。

「なに?」

 少年が、無表情に女性を見上げる。

 そんな少年の奥底に閉じ込められている激情を感じ取って、女性――奏響子の筆名を持つ作家は少年の華奢な体を抱きしめた。

「いつになったら、あなたは“大人”になるのかしらね」

 いいながら、なおも少年の髪をなでた。

「あなたの生気が、また薄くなってる……。誰かに、羽根を与えたのね」

 母が子を慈しむというより、ペットを愛玩しているように錯覚する。

 少年が、くくと喉で笑った。

「いつだったか、同じこと言われた。成長しないって」

「あの馬鹿天使……また地上に降りてきたの?」

「あぁ、まだあんな小娘と関係しているのかって……小言を言われた」

「ふん、誰が小娘よ。見かけはすでに私の方が大人だわ」

 響子はむっとしてほほを膨らませた。

 そんな子供じみた行為に、少年は盛大に笑い出す。

「何よ」

「いや、お前、そりゃ年もとったよ、最初に会った時からもう何年だ?」

 響子は、真剣な眼差しを取り戻し、少年の目を直視した。

「10年。かしらね。教会でお願いごとしてからはまだ5年よ」

「そりゃ若かったさ、お前も。そして、俺も……な」

「……あなたは、変わらない」

 響子は再び少年を腕に抱き、きつく瞼を閉じる。

「あなたを“大人”にするためには、あとどれだけの愛が必要なのかしら?あなたの羽根がなくなってしまうまで、もう時間がない……」

 風が二人を包み込む。

 少年の背中から大きな純白の羽根が現れた。

 音もなく広げられた両翼は、そのまま響子ごと二人の姿を隠した……。



:::

 私は完成したレポートを片手に教授の研究室の前に立っていた。

 在室を示すプレートが出ているが、明らかに室内は暗い。

 控えめにノックし、ノブに手をかけるが、やはり鍵がかかっていた。

――今日中に提出するのは諦めるか……

 普通は教務を通して回収される期末試験代わりのレポートだが、私が手にしているレポートを要求した教授は、そういった手間を嫌う人間で、期日までに研究室にもってこいと指示した。

「いつもいるとは限らないけどね」

 そんなことを付け加えて。

「不在なら不在ってプレート変更しろっての」

 私は小声でドアに向かって文句を言うと、踵をかえした。

「それは失礼しました」

 と、背後にぼんやりと立つ教授が謝った。

「……いたんですか……」

「はい、いらっしゃいました」

 暗に私の言葉遣いを訂正し、40そこそこと言った風貌の男性教授はプレートの表示を直した。

「かえってきたんですから、もう直す必要なくないですか?」

「あ、そうだね。まいいや。また高梨先生のとこ行く用事あったし」

 そう言って、教授は歩き出した。

「あ、先生、これ」

 私はこのチャンスを逃すまいと後を追い、レポートを差し出した。

「お、早いねぇ」

 教授は私のレポートをぱらぱらとめくり、軽く内容を確認しているようだ。

 目の前で吟味されると、恥ずかしい。

「仁清かぁ。ちょうどいいや。一緒に高梨先生のとこ行かない?」

 私がレポートのテーマに選んだのは、仁清という焼き物だった。

 文化財の講義の一環で、文化財級の焼き物について調べるのが課題だった。

 高梨教授といえば、文化財の世界では有名な人物だ。

「え?何でですか」

「別にこれから暇でしょう?」

 学生に対してフレンドリーなこの教授、その性格のせいか年の割には女学生に人気だった。

 私としても、気さくに話のできる教授に好感を抱いていたし、他の学生からうらやましそうな目で見られることに一種の高揚感を持っていた。

――こんな人が彼氏だったらなぁ

 ぼんやりそんなことを思っていると、同じ階にある高梨教授の研究室まであっという間だった。

 軽くドアをノックしてノブに手をかける教授の後ろで、私はどきどきしながら控えていた。

「おお、渕上くん!いらっしゃい」

「どうも、先生」

 高梨教授は今年70を超えた、老紳士といったイメージの男性教授だ。

 二人は、教授……渕上教授が学生だったころ、高梨教授は某国立大学の教授を務めていて、生徒と生という間柄だったらしい。

「そちらの学生さんは?」

「あ、こんにちは。私渕上先生の講義を受けている渡部佳織と言います」

 緊張気味にお辞儀をする私の名を聞いて、高梨教授は「あぁ」とうなづいた。

「渕上くんが話していた、肩付の子?」

「え?何ですか?」

 高梨教授の納得の仕方を不思議に思った私が渕上教授に問うと、教授はあははと申し訳なさそうに笑った。

「いや、ほら、1回生の時、ゼミで肩付茶入れの発表したでしょう?あれ、すごく印象的だったから高梨先生にもお話してね。今ちょうど仁清のレポート持ってきてくれたから、紹介しようと思って」

 そういえば、そんなこともあった。

 母親が茶道をやっているせいか、私も若干茶道に興味があったのでゼミで発表する焼き物を茶入れにしたのだ。

――って、なにか印象に残るような事、いったかな

「最後に、夢は裏千家宗主にお茶を立ててもらうことですって言ったらしいじゃないですか」

 にこやかに高梨教授から指摘され、「あ!」と思い出した瞬間には顔に血が昇っていた。

「やだ、やめてください、恥ずかしい」

「恥ずかしくはないでしょう?いいんじゃない?あの方も殊、茶道具に関してはお詳しいし話は合うんじゃないかな?」

 教授二人に囲まれ、これではまるでいじめられているようである。

「なんだったら紹介するよ?」

 高梨教授がさらりと言った言葉を、私は危うく聞き逃しそうになる。

「だ、誰をですか?」

「ん、宗家。僕つてがありますから」

「あ、いいですねぇ。せっかくだからご紹介してもらったら?というか、俺も会いたいなぁ」

「えぇ?」

「よし、そうと決まれば宗家の予定を聞かないとね」

「あ、俺はいつでも空けられますよ。会議とか病欠しちゃいますから」

「はっはっは、いいねぇ、その気構え」

――おい。


 いい大人二人の思いつきで、私は渕上教授とともに茶道の家元、裏千家宗主に面会する機会を得てしまった。



「宗主は昨日から体調を崩され、面会できる状況やおまへんのや」

 高梨教授が約束を取り付けた日。

 宗主の自宅だという古風な造りの邸宅(そう、まさに邸宅というにふさわしい豪邸だった)の土間先で、私たちは思わぬ肩透かしにあった。

「はぁ、それはどうもお大事に……」

「へぇ、えらいすんませんなぁ。宗主も大層楽しみにしてましたんえ」

 宗家の一切を取り仕切っているという初老の婦人は、落ち着いた色味の着物の懐から、一枚の懐紙を取り出した。

 よく見ると、懐紙だと思ったそれは和紙の便箋だった。

 達筆な書体で墨書きされた文面が、淡く透けて見える。

「お詫びと申しましては何ですけど、宗主の長男がお抹茶たててくださるそうです」

「え?そうなんですか?」

 教授は打ち沈んでいた表情を明るく取り戻した。

 差し出された文を、軽く額に頂き開いている。

 私は経典じゃないんだから、と内心思いつつ手紙の内容を尋ねた。

「何て書いてあるんです?」

「庵でお待ちしてますって」

「庵?」

「この屋敷の離れに、宗久さん用に建てられましたんや」

 話の筋から言って、宗久とは千家の長男の名前だろう。

 どうぞ、と案内してくれる婦人に先導され、私たちは庭の一角にひっそりと構える渋い建物に通された。

 あの、独特の小さな入り口から中へ入り、待つこと数分。

「失礼します」

 関西のイントネーションが、ふすまの向こうから聞こえた。

 私も、教授も緊張していた。

 ふすまが横にすべり、まだ若い男性の頭部が見えた。

 正座した足元の前に置かれた扇子を右手に取り、いずれ裏千家の家を継ぐ青年が顔を上げた。

――あ!!!

 私は思わず声をあげそうになる。

 だが、隣で深々と頭を下げる教授につられて頭を下げてしまい、すんでのところで思いとどまる。

――なんで?なんであいつな訳?

 私は混乱していた。

 侘び寂の空間にいる緊張感と、ぱりっとした姿勢で入室してくる青年に対して、ただならぬ緊張感を味わっていた。

「今日はほんまに宗主がえらい失礼申し上げました」

 宗久氏が挨拶をする。

 その淡々とした声にも、一瞬確認した顔にも、私は覚えがある。

 いつまでたっても顔を伏せたままの私を、教授がさすがに不信がった。

「……佳織さん?どうぞ遠慮せんと、おもてあげたってください」

 やさしい言葉だった。

 でも、私の脳裏に結ばれた彼の表情の裏には、嘲る雰囲気が見え隠れしていた。

 それは単に私の勝手なイメージで、実際どうかってことまでは分からない。

 でも。

「あれ?お知りあい?」

 教授の声が、遠く聞こえる。

 自分の心臓の音が、うるさい。

 私が答えられないでいると、宗久氏の方が答えた。

「少し前でしたか、友人を介してちょっと面識を持ちまして……」

――そうだよ、合コンだよ。

「今日、O大の学生さんと先生が来はるとは聞いとりましたけど、まさか佳織さんでしたとは……ねぇ?」

――ねぇ?って誰に聞いてるの?私か?私しかいないけど!!

「そうだったんですか。じゃぁ立派に裏千家の方と接触していたんですね?いずれはあなたが宗家を継がれるのでしょう?夢がかなうね」

――こっちの気も知らないでのんきなこと言わないで!!お願い先生!!

 泣きたい気持ちでうなだれる私を無視し、男たちの会話は進む。

「夢?」

「えぇ、この子、ゼミの発表で宗主にお茶をたててもらいたいって、言ったんです。だからこうしてうちの教授のつてを借り、訪問した次第でしてね」

「あぁ、なるほど。高梨先生はO大でしたね。僕も幼いころからよう遊んでもらいました」

――そんな話はいいから!早くお茶飲んで帰りたい!

 しっかりお茶は頂いて帰るつもりなのか、私は。

 などと自分に突込みを入れながら、ちらりと宗久氏の顔を覗う。

 メールに返事も返さない。

 電話にも出ない。

 すっかり嫌われたと思っていた「1週間だけの彼氏」と、目が合う。

――とくん……

 毎日のメールや電話を、面倒だと思われたに違いない。

 こんな古式ゆかしい家柄のお坊ちゃんだったなんて、あの時は気づきもしなかった。

 話してもくれなかった。

 自分も半分、軽い気持ちだったから、最初はいいかなんて思ってた。

 彼氏という存在に、浮かれていたことが、急に申し訳なくなる。


 宗久氏は、少し困ったように微笑んでいた。


 大体、あの合コンの時、彼は千という苗字を名乗らなかった。

 名前も宗久ではなく、宗一字でタカシと言っていた。


――なんで?……自分の家柄を隠していた?そんな、悲しそうな顔、しないでよ……!


 私は、湯の入った釜に向かう宗久の横顔を見つめたまま、動けなくなった。

 軸にも、花にも目が行かず、私はただただ凍りついたように正座していた。

「お菓子をどうぞ……。作法はお気になさらず……」

 私の耳は、言葉すら通り抜けた。

 言われるままに、干菓子を頂く。味なんて、よくわからない。

 茶杓に乗った抹茶が茶碗に入り、湯が注がれる。

 白竹の茶筅が奏でる音が、静かに伝わってくる。

 古帛紗こぶくさにのって出されてくる茶碗。

 釉薬の照りが高級感をにおわせた。

「お点前ちょうだいします」

 教授が言って、最後に茶碗を返すまで、私は伏せ目がちな宗久を凝視してしまっていた。


――まるで別人……


 今度は私のためにお茶をたててくれた。

 私は無意識のまま茶碗を回し、最後に飲み口を拭いた。

 口紅が、指に残った。

 用意してきていた帛紗ふくさセットの懐紙で指を清めた。

 畳の縁の外へ茶碗を差し戻し、私の体から緊張感も抜けた。

「佳織さんは、茶道の心得が?」

 返された茶碗を手元に戻しながら、宗久が質問した。

「いえ、少し勉強はしましたが、こういう席でお茶を頂くのは初めてです」

「お時間がおありでしたら、どうです?お庭を歩きませんか?」

 まるでお見合いの手順のようだと思ったが、教授も若いもの同士、行っておいでなどというので、断りきれずに庭へ出ることととなった。


 緑の苔むす庭園は、マイナスイオンでも発せられているのか、ひんやり心地いい。

 私の心臓も、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

 彼も、私も、無言で歩く。

「……知られたくはなかったんだけど」

「え?」

 唐突に切り出された会話。

――何を……?

 私の質問は声にならない。

「俺の周りに集まる女ってさ、いや、女だけじゃなくて大人もそうなんだけど、俺の”肩書き”が好きなわけよ」

 お茶席の時よりは幾分若者らしい話し方で、宗久は語った。

「俺が千家の長男で、ゆくゆくは宗家を継ぐって思ってるから、俺にやさしくしてくれるし、金目当てに近づいてくるやつもいる」

「……」

「合コンに誘われた時はさ、ちょっとうれしかったんだよね。いつもはどうせ茶道のお坊ちゃんは合コンなんて……って言われてたから」

 絶妙の間隔で植えられた庭園の木々の間を、流れる小川のように歩きながら、彼の話は続いた。

 私が相槌を入れないのも気にしない。

 ただ、誰かに聞いて欲しい。

 そんな雰囲気だった。

「だから名前も伏せてたし。君と出会えたのはなかなか刺激的でよかったな。合コン行ったのがバレて、父さんには怒られたけど」

「なんで、メールに返事してくれなかったの?」

 私はやっと、当初の問題を解決しようと意を決した。

「携帯、取り上げられてしまってね」

「誰に」

「妹」

「はぁ?」

 話の流れから父親に奪われたのかと思って、格式高い家柄にありがちな父子の激闘を思い浮かべていただけに、妹、という単語には少々拍子抜けした。

「電話も出ないし……!私、嫌われちゃったのかって……」

 連絡がつかなくなって、いろいろ考えた。

 言葉にしたら、胸のあたりがじんと切なくなる。

「多分、俺のメモリ削除されてるだろうし……、知らない番号だから出なかったんだろうね……。メールも多分迷惑メールって思われたのかも」

「悪かったわね、ふざけた内容のメールで!」

 自分でも、声が震えているのがわかる。

「そんなこと言ってないってば」

 宗久は苦笑して、清潔そうなハンカチを差し出してくれた。

「遊び人だと思ってた」

「俺もだよ?遊びで付き合ってくれてるのかと思ってた」

 私の足が止まった。

 それに気づいて、彼も止まった。

「でも、泣いてくれるくらいには、想われていたって、うぬぼれても良いのかな?」

 木立の落とす影で、表情に陰影ができる。

 それでも清清しさを失わない、宗久の雰囲気が――好きだ。

――本気で、好きになってた。

「信じられない、こんな人、本気で好きになってたなんて!」

 自身満々な顔で、飄々としてて。

 お茶をたてている時なんか、てんで別人なのに。


 メールの返事が気になってしょうがないくらい、好きになってた。


「言っとくけど、私、裏千家の宗主にお茶たててもらうのが目的で好きなんじゃないからね!?」

 そんな事、発表したときの社交辞令に決まってる。

 でも、この発言がなかったら、渕上教授が高梨教授に私を紹介してくれることもなかったし、ここでお茶をいただけることなんて、一生ありえなかっただろう。

 今となっては、少し、ほんの少しだが感謝してる。

「うん」

「私、浮気性なんだから、ちゃんと捕まえておいてくれないと知らないからね!?」

「うん」

 と、私はいつのまにか宗久の腕の中にしまわれていた。

 真っ赤になったのを悟られたくなくて、私は彼の胸に顔をうずめた。

 

 ひらひらと、白い羽根が緑の大地に舞い落ちた。

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