1話
「あれは、憑いてるわね。」
1メートル先のコンビニの前で立っている男性に目を向けながらコーヒーを啜り、呟いたのは向坂怜奈。
長い髪をまとめてアップにし、赤いリップにキリっと描かれたアイラインが引かれたこの女は警察関係のある部署の班長だ。
顔はかなりの美人なのだが口調がキツく可愛げがないため独身である。
「女の人かなぁ…?私にはまだぼんやりで見えません。」
困った顔で返事をするのは桜井芽衣。ボブカットの髪から覗く顔はテレビで見かけるようなアイドル顔だ。怜奈の部下の一人である。
そんな可愛く言っても別に何もでてこないんだから。
なんて怜奈が思っているのを知っていてなのか、
「ごめんなさい。」
と芽衣が誤った。
「怜奈さん、可愛い部下を苛めると評判悪くなりますよ。」
好青年代表と言えるくらいの爽やかな笑顔で芽衣の隣に座った男は怜奈の部下で芽衣の想い人の吉沢徹。怜奈に心底惚れている。
「あら、私の評判なんて良かった事なんてないわ。」
無表情でそう答える怜奈に徹はまた爽やかな笑顔で
「僕の中では怜奈さんはすごい美人で頭良くて魅力的な人なんだけどなあ。」
と口説き文句を一つ。
そんな彼の言葉を向けられた怜奈にさりげなく芽衣は(いや実はバレているのだが)チラっと視線を送る。
やっぱり徹先輩は怜奈さんが好きなのかな。
芽衣の心配をよそに怜奈は話を戻した。
「あの男の人に憑いているのは女じゃなくて男。ちなみに15才くらいの少年で黒いオーラただ寄らせてるから自殺した子だと思う。」
「そんな事まで視えるんですか?」
芽衣が驚くと徹は首を立てに振った。
「そうだね。怜奈さんなら見えるね。でも怜奈さん人が悪いなあ。ほかにも見えてるのにまだ話してない事あるでしょ。」
徹の発言にあきれたのか怜奈はため息をついた。
「私はあんた達の上司なの。部下に全部情報渡すわけないでしょ?あんた達も自分で少しは考えてみなさい。」
徹はごもっともですと返事をして男性に目を戻す。
2人が真剣に男性を見ているので芽衣も目を戻そうとしたその瞬間に携帯が鳴り響いた。
「もしもし?え?あ、やっぱり?ご苦労様。戻ってきていいわ。」
怜奈が電話を切ると同時に徹が嫌な顔をした。
「またあいつに秘密の任務ですか。ずるいですよ。僕にもくださいよ。」
「嫌よ。あんた顔にでちゃうんだから。あの子は優秀よ。口堅いし、無表情だし、頭も良いし、器量も良いんだから文句無し。」
怜奈がにっこり微笑みながら言う台詞に芽衣は少し安心する。
怜奈さんは徹先輩よりあの人のが好みなんだ。
「僕も頭良いし、器量も悪くないですよ。」
「そうね、器量で言ったらあんたのが好み。」
「お!それは嬉しい褒め言葉だなあ。」
「そして嘘がつけなくて顔にでちゃうところも嫌いじゃないわよ。ただ刑事としては向かないわね。」
「それは褒めてないですよね。」
どうしたら二人の会話に入れるか芽衣がタイミングを計っているところを先ほどの電話の相手、榊新一郎に邪魔された。
「何をしているんだ。」
「榊。おかえりー。コーヒーでも飲む?おごるわよ?」
榊が怜奈達の席に向かって歩いてきた。榊も怜奈の部下である。
「結構だ。」
「そう?さっきのお礼よ?」
「怜奈さん、榊先輩はコーヒー飲めませんよ?」
芽衣が恐る恐る突っ込むと案の定分かってるわよとかえされた。
「コーヒーとか榊には苦すぎるのよね?」
意地悪く笑う怜奈の顔を前に榊はポーカーフェイスを装った。器量は悪くないのに、無口で無表情なのが
女性には怖い印象を持たれるらしいが、怜奈には榊のような出来る男は仕事上気に入っている。
「あ、そんな事よりどうなったんだよ。」
徹の発言に榊は表情を暗くしながら分かったことを話し出した。
「じゃー説得しに行きますか。」
話を聞き終えた怜奈はそう言い歩き出す。ほかの3人はいつもの事かと顔を合わせ、あと追った。
怜奈達は警察では限られた人しか知らない本部、G.Iという特殊捜査班である。
G.Iとはゴースト・アイデンティファイアーという意味であり、幽霊が事件に関与しているか否かを証明する、いわば幽霊証明人の事である――-
はじめまして。千鶴と申します(^ω^)
ブログにて数年前に少し小説を投稿していたのですがそのまま放置してしまい…昔書いたものを読み返してみて、再開しようと思いここに投稿をはじめました。海外住みが長く日本語の拙い部分もあると思いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。