2
エリナとの話をしようと思う。
勿論、こちらも男だ。ルックスに釣られた部分があるのも否定はしない。
所詮、初対面の異性が二人居れば、ルックスが好みの方に気持ちが傾くのは、仕方が無い事だ。
交流を重ね、内面を知る事で認識は正され、幻滅したり、惚れ直したりする。
エリナはどうだったかと言うと……内面を知るたび、自分に無いものを沢山持っている事がわかった。
ますます、眩しく感じられた。
と、いうより、自分とは何もかもが正反対のように思えた。
幼い頃からピアノを弾いていたらしく、どんな曲でもすぐに弾いて見せた。
その涼やかで、流れるような演奏にもまた、心を慰められたものだ。
料理も得意だ。
そうした家庭的な側面は、見る物を安堵させる、あの独特なオーラの一部を担っているのだろう。
絵を描く事しか能が無い――というより〝人間を写実的に模造する〟という事しか出来ないどこかの男とは、大違いだ。
そのくせ、高嶺の花じみた嫌みっぽさは微塵も無い。
ああした、上品な美人が多かれ少なかれ持っている取っつきにくさが、彼女には一切無いのだ。
まあ、これに関しては、こちらが勝手なイメージを抱いているだけなのかもしれないが。
彼女の笑み、仕草、ピアノに向かう姿。
全てが、心の琴線を狂おしくかき鳴らしてやまない。
休日の朝、いつまでも起き上がらず、延々と布団をかぶっている時の、あの幸福感。安心感。充足感。
エリナからは、常にそれを感じていた。
あまり臭い事は言いたくない主義だったが、運命の相手というのは、そういうものなのだろうか。
彼女がこちらを運命の相手と見なしてくれている可能性は……それほど高いとは思えないが。
彼女の為に何とかしないと、というこの気持ちに、嘘偽りは無い。
そういえば、うろ覚えだけど、映画の趣味だ。
エリナはホラーが苦手で、スプラッタが平気だったか。
霊的なものを恐がり、血が噴き出す残虐描写は、割と平気だとか。
こんな部分でも、自分とは正反対だと痛感させられるが……果たして、このホテルは彼女にとって、ホラーなのだろうか。スプラッタなのだろうか。
現状が現状だからか、悪趣味で、卑屈な事を考えてしまった。
心がすさんできているのだろうか。
早く、エリナに会いたい。
会って、沢山話をしたい。
何とか、しないと。




