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その五


「承諾した」


 そう言った春星チュンシン桜夜さくやにあまり見せたことのない、仕事に全力で打ち込む〝男〟の顔だった。

こうなったら茶会は中止だと諦め、三人の後ろをついて行った。しかし黙ってはいるものの、そこはかとなく感情を削ぎ落としたような顔になっている。


 しゅんは背中に感じた薄ら寒さに背後を窺うと、あまりの恐ろしさに涙も引っ込んだ。同じく桜夜の様子を目の当たりにした連れの幼馴染みも小声で「こえーっ‼おまけに背後に何か見えてるし‼これが無双状態か⁉」と呟いて慄然としている。「おい、下手に刺激すんな黙れ」と心を必死に押さえつけて小声で叱責するが、叫び出したくなるのは同感だ。

 

 街中で偶然出会った春星に思わず助けを求めてしまったものの、よくよく考えると春星と桜夜は出かけていた最中ではないだろうか。自分はもしかしてとんでもないことをしたのではと、危機感を抱いた舜はそっと前を歩く春星に小声で訴える。


「…あの、桜夜さん機嫌悪くないですか?」

「いや。これがあいつの通常運転」


 「いや、明らかにがっかりしているからでしょう‼」と思ったが、イイ笑顔でサムズアップまでされては何も言えない。おまけにウインクのつもりか片目までつぶっている。


 カッコつけたがりの男子高校生辺りがすると目も当てられない痛々しさがあるが、どうしてか春星がすると茶目っ気がある。今だって通りすがった女子高校生がキャーキャー言っている。

 その様子を見て「これだからイケメンは…」と幼馴染みはブツブツ呟いている。


 呆れた舜には前を向いた春星がポツリと呟いたのが聞こえなかった。


「…まぁ、昔はそうじゃなかったけど…」


「?どうかしました?」

「いいや。ふと、出てくる時鍵をかけたか不安になってな」

「ああ~ありますよねそういうこと。習慣になっているからどうも…」

「そうそう。そんで思わず戻って確かめて『かけてんじゃねぇか‼』ってことが」

 

 いきなりこうして身近あるあるを話されても桜夜には理解できない。


 なにしろ身の回りのことは使用人がやっているし、そもそも一般的な家ではない。


 一方、富幻の高官であり夢界の中でも上位の高所得者でありながらも春星は庶民的だった。

 幼い時は養父と霊山で暮らしていたために常識も普通の生活も知らなかったが、春星の適応能力は高かった。老僕の代わりに市場で食材の買い出しをし、下級官吏に混ざって大衆食堂や居酒屋にいることもある。その時は皇帝も同伴していると富幻では誠しやかに囁かれている。


 しばらくしてとある喫茶店の前で足を止めた。

 

 見た目は一昔前のモダン喫茶で、何となく学生が一人で入るには敷居が高い。その辺りの心情を慮ってか春星は前置きする。

「悪いな。学生の懐にはキツイが、お前等に合わせたらオレと桜夜が浮く」

「いや、ここじゃ学生も浮きますよ」

「大丈夫。心配なら〝兄さん〟・〝姉さん〟とでも呼びな」

「…じゃあ、〝兄さん〟と〝桜夜さん〟で…」

 幼馴染みはノリノリで「よろしくお願いします‼兄貴、(ねえ)さん‼」と言うも、舜には桜夜を姉さんとは呼びにくかった。春星はキョトンとしてから笑う。

「それじゃ、兄貴とその恋人みたいだな」

「え?違うんですか?」


 年頃な男女なのもあって単純に恋人同士かと思っていただけに驚く。


「い~や。幼馴染み」

 

「そう思っているのはあなただけです」と春星の周囲の人間ならば即座に突っ込んだだろうが、その辺りの事情を知らない舜はそういうものかと納得した。その後ろでは桜夜が髪を摘んで「切ろうかしら」と思案している。

 

 髪には邪気が溜まりやすいから時々切ったほうがいいという。幼い時から伸ばし続けているが、思い切って切ってしまおうかと思った。


 だが耳ざとく聞きつけた春星が振り返る。

「今自分が停滞している、何か変えたいと思ったらばっさり切るのもありだが……何かあるのか?」

「……何でもないわよ」

 その様子を見て思うことはあったものの、舜は黙っておくことにした。

 

 飴色の重厚な木製のドアを開けるとチリンチリンと軽やかなドアベルの音色に迎え入れられた。

 入口の奥まったところの席に春星と桜夜が並んで座り、舜は春星と向かい合って腰掛ける。


 好きな物を頼んでいいとのことで二人は遠慮なくサンドイッチとナポリタンを頼んだ。「食い盛りだなぁ」と苦笑した春星もミートスパゲティとクラブサンドを注文する。桜夜はケーキセットにした。


 注文を終えてマスターが厨房に消えたのを見計らって春星はずっと気になっていたことを切り出した。

 

 すっかり馴染んでいるが舜の隣に陣取っているのは見知らぬ少年だ。


「え~っと。少年A。この少年Bは?」

「犯罪者みたいですね⁉」

「オレは舜の幼馴染みのどうぞのりょう()っス‼リョータって呼んでくれっス‼」

「オレは(ファン)(チュン)(シン)だ。日本語読みの(こう)(しゅん)(せい)でいい」

「先日はこいつが世話になりました‼…ところでオレの名前、龍に大きいって書くんスけど中国語読みだと何になるんスか?」

「後半の質問の方が比重が大きい気がするのはオレの気のせいか?そしてお前は初対面の相手に何聞いてんだ」

 だが春星は懐から紙と矢立を取り出す。

「スゲェ‼持ち歩くのが万年筆じゃなくて筆っスか‼」

「普段から使ってるからこっちの方がしっくりきてな」

 そう答えながら達筆で『龍大』と書く。

「こうか?」

「いっス‼」

「これなら(ロン)(ダー)だな」

 フリガナも振って紙を二人の前にやる。

「うわ~。何か感動する」

「……お前な……その場の自己紹介が終わってないのに……。こっちはひのみや桜夜さんだ」

「ちなみに中国語読みだと(フェイ)(ゴン)(イン)(イェ)な」

「いや、煌さん。このバカに付き合わなくていいですから」

「あ~いいいい。どうせ中国人は日本人の名前も中国語読みしてっから」

「そうなんですか?」


 だが日本人も中国人の名前を日本語読みしているからお互い様だろう。そうでもないとなまじ同じ漢字圏だから混乱する。


「そ。けど、中国語読みが難しいのは日本語読みで呼ぶから一概には言えないけどな」

「じゃ、じゃあ堂園は‼」

堂園(タンユェン)だ。少年のフルネームだと堂園(タンユェン)(ロン)(ダー)な」

「じゃあウチの弟妹も‼」

「ここぞとばかりに食らいつくな‼全部で何人いんだよ‼」


 舜は男ばかり四人でつるんでいる。舜と一人は一人っ子でもう一人は年の離れた妹がいる。だが、龍大には下に弟妹が四人もいる。


「別にいいぞ。少年もついでに書き加えちまえ」

 ならばと二人は筆箱からボールペンを取り出す。するとそれまで鷹揚に笑っていた春星が少し困った顔をする。

「え~っと、それシャーペンか?」

「いえ。ボールペンです。筆だと書けないので」

 普段の生活で筆を握ることはあまりない。やってもせいぜい中学校の習字で終わっている。高校の美術で書道を選択していたら別だろうが、二人共選択していない。

「……参ったな……オレ、筆文字しか読めないんだけど」

「何で⁉」

「職業病かな。文字ばっか追ってるから、仕事に使う筆文字しか目に入らない」


 ごまかしているものの、本当の理由を知る桜夜は胸が傷んだ。それ以上詭弁を弄する春星を見たくなくて、さりげなく手を貸すことにした。


「書いてあげるから教えて」

「「はい‼お手数お掛けします‼」」

 二人に頭を下げられながらも恭しく紙と筆を差し出される。

「鏑木…シュンはどの字?」

「一瞬の瞬から目を取った奴です」

「そりゃ中国の古代の偉大な王と同じ名だな。あくまで伝説上の、だが」


 それから遣り取りを経て書きあがった紙を手で翳すようにして読む。

「……何してんスか?」

「ん~。知ってっか?墨ってのは菜種油やゴマ油の油煙(ゆえん)や、(しょう)(えん)から採取した煤を香料と(にかわ)で練り固めたもんだ」

「へ~」

「…で、膠ってのは動物の骨や皮、腱なんかからできたもんでな、生命エネルギーを放ってんだ」

「マジで⁉」

「どんな効能が⁉」

「手で翳して読み取ると字の形が浮かび上がる」

 ニヤリと笑って言った春星に二人はがっかりする。

「ついでに、これは仙人直伝の術でな。普通の奴はいくら手を翳そうとエネルギーも感知できねぇよ」

 仙人、と聞いて冗談かと二人は落胆したが、桜夜は納得した。

「……まぁ、それは置いといて。少年の弟妹の名前が読めん。そして信心って女か?男の名前っぽいけど一人だけ傾向が違うし」

 龍大の兄弟は男の子の名前には〝大〟が付いていた。

「それシンジっス」

「あ~そうきたか。さぞ苦労したろうな。お前の親父さんか?」

「いや、オレ等の育て親っス」

「へぇ~。ついでに一通り読み方教えてくれ」

 普段ならこう言うと何とも言えない顔をされたり妙な気を回されたりするのであっさりした対応が新鮮だった。龍大は更に春星を気に入った。

「上から()()(しょう)()()()(きょう)()っス」

「順番に(バー)(シァ)(チン)(ダー)(ヨウ)(イー)(ジン)(ダー)信心(シンジ)信心(シンシン)な」

「シンシンってパンダみたいっスね」

「本人には言ってやるなよ」

 春星は念を押すと、それぞれの名前の横にフリガナを振ってやる。

「少年のフルネームは(ディ)(ムー)(シュン)だ」

「変わんねー」

 二人に紙を返すと、二人は眺めて口々に何かを語り合う。

「……とまぁ、茶番はここまでにして」

 

 春星は仕切り直す。


 龍大にペースを乱されて和気藹々としていたが、そもそもの始まりは舜が助けを求めてきたことだ。舜の様子を見ていたが、落ち着いたようだしいい頃合だろうと判断した。


 それにそろそろ桜夜の堪忍袋の緒が切れる。

 

 昔から大人びた顔立ちや振る舞いのせいで誤解されがちだが、桜は何事も達観し、醒めたように見えて実はよく拗ねるし手のつけようのないヤキモチ焼きだ。一度拗ねたら機嫌を治すまで骨だし、何をやらかすか予想もつかない。


「さて。一体何があった、少年」

「…実は…」


 春星の元から帰ったその日の夜。

言われた通りにもらったお守りを枕元に置いて横になると、すぐさま眠気が襲ってきた。そのまま舜は温もりに柔らかく包まれ、夢を見ることもない深い眠りについた。

 

 目覚めは爽快で、久々に熟睡したようだ。

時計に目をやるともう夕方近かった。どうせ眠れないから目覚まし時計をかけていなかったし、不眠続きだと知っていた母親が寝たままにさせてくれていたそうだ。

 

 それからは夜になってもしっかりと眠れるようになった。三日もするとお守り無しでも学校で授業中に居眠りができるようにまでなった。


「…でも、また悪夢を見るようになったんです…」


 四日後に舜は悪夢に苛まれた。この数日悪夢から解放された安堵に包まれていたために恐怖への耐性が無くなり、己の絶叫で目が覚めた。脂汗でぐっしょりで、倦怠感を抱えたまま登校した。


 その晩から再びお守りを握りしめて寝るようになったが、それからも以前のように悪夢に苛まれる日々が続いた。


 心配した龍大にわけを話すと春星は悪徳業者だなどと憤慨したが、舜は春星を信じ、約束の一週間を指折り数えていた。


「………そうか。期待に応えてやれなくてすまなかった」

「いえ。本当に一度でも悪夢を見ないようになってないと耐えられませんでした」

「少年。渡したお守りは今手元にあるか?」

「はい」

 舜が上着のポケットから取り出した香包を受け取ると検分する。そして眉を寄せると、舜に飴の入った瓶を渡す。カラフルで見るからに外国製のお菓子だとわかる。

舜個人としては外国製のお菓子の毒々しいまでの原色の色使いは目を楽しませるものの、味がくどく、後味も悪いから嫌いだ。

「これは?」

「〝どんな悪人も安らかな臨終を〟良夢(イイユメ)ドロップ~」

 商品名を言う時だけ某青い猫型ロボットの口調だったのが癪に触ったものの、もっと聞き捨てならないことがあった。

「まだ死にたくありませんよ⁉」

「そしてアメリカナイズな菓子なのに思い切り日本名⁉」

 舜が内心思っていたことを龍大が突っ込む。

「違うって。安楽死じゃなくて安楽(しん)な。あと赤のはクッソマズイ」

「食べたことあるんですか…」

 人に渡す前に自分で試すとは律儀なものだと思いながら受け取る。

「おすすめはラベンダーとローズマリー。水色に紫の線が入ったのがラベンダーでピンクに緑の線が入ったのがローズマリーな。まぁ、結局水飴の味なんだが」

「元も子もねぇ‼」

 急に真面目な顔になった春星に舜も姿勢を正す。

「しかし、だ。それはあくまで夢を見せるためのもの。…少年には囮になってもらう」

「囮、ですか」

「三日だ。あと三日耐えてくれ。それまでに相手を突き止める」

「…三日…ですか…」

 はっきり言うと今度こそ今すぐにでもどうにかしてほしい。だが、この三日という期間が相当に無茶だと何となく窺え、何も言えなかった。

「調べてく中で疑問があったり、確かめたいことがある時のために連絡先を交換してくれ」

 そう言って春星は携帯電話を出した。黒のシンプルなデザインでストラップも何も付けていないので武骨で素っ気ない印象を受ける。

「ついでにオレとも交換してくれっス」

 舜と、便乗した龍大も出したのはスマートフォンだった。それらを見て春星は固まる。

「…………それは赤外線で送れるのか?」

「………これは赤外線通信機能が付いていません」

「右に同じ」

「「「………………」」」


 三人が沈黙しているとそれまで無言だった桜夜が口を開く。

「専用のアプリがあるでしょう」

 揃って顔を向けた三人にため息をつくと舜に手を伸ばしてスマートフォンを受け取る。手早くアプリを見つけ出すとさっさと春星の携帯とアドレス交換してしまった。

「はい」

 桜夜は和服で何となく電子機器に疎そうに見えていただけに意外性に驚いた。

 

 会計は春星が持ち、店を出ると二人で舜と龍大を見送った。


「…あなたの香がたった三日で効果を失くすなんて、普通では考えられないわね」

 春星は養父から仙術の手解きを受けており、その術に太刀打ちできる者はそうそういない。

「ああ。それに、あの香には〝安楽の帳〟も組み込んであったんだがな」

「安楽の帳?」

 聞き慣れない言葉を復唱すると、春星が説明する。

「使用者が眠りにつくと現れる目には見えない天蓋だ。その中を外界と分離して獏を招きやすくしたんだ。ついでに招かざる敵も弾くはずだったんだがな」

「…あら。それならもっと強力な結界呪法を施しそうなのに」


 春星はムキになりやすく、おまけにそれで採る方法が大人気ないという評判だ。


「いや。いっそのことオレの全身全霊の守護を施そうかとも思ったが、元を断たんと何の解決にもならん」

「…………あの子の〝贄の証〟には誰がいつ獲ったのか識別できないようにされていたわよ?」

「……ってことは、点数稼ぎの下っ端の仕事じゃないな」

「でも、これ程高度な術を使える者が人の夢に手をかけるとは思えない」

「……こりゃ、ケチな商売している奴がいるな」


 たった一人の事例で商売と言ったのにはいくつか理由がある。


 一つ目は春星自ら施したユメクイ避けを破るような実力の持ち主がユメクイの中にいるはずがないからだ。


 ユメクイはあくまで眠っている無力な人間からこっそり夢を収集するだけの存在だ。もしも強力な能力の持ち主ならば家柄に関係なく各国の中枢に登用されるから出世の足がかりのつもりでもユメクイに属しているはずがない。


 二つ目はそれ程の能力を使ってまですることが人の夢の収集だということだ。大それた事をなすだけの力がありながら求めるものが小さすぎる。


 となると配下のユメクイに夢の収集の妨害を打破する呪文なり道具なりを支給している組織の存在があると予測できる。


「………存外面倒な事になりそうだ」

 春星は調査の先が思いやられて頭を掻く。

「………春星。何か協力できることはある?」

「…………ん~………」

 「特に無いかな」と続けようとしたが、そう言うと人知れず傷つくとわかっているので言葉を選ぶ。

「悪いけど、これからしばらくお前が茶会の場所を選んでくれ」


 〝夢見屋本舗〟の仕事はあくまで副業だ。ただでさえ多忙な春星が舜と約束し、自らに課した期日までに解決するには余計なことをしている暇が無い。だからしばらく茶会を止めようと提案するつもりだった。


「…そんな余裕があるの?」

「どうせオレは手下に命じて情報を集める事しかできないんだ。午後の一服の時間くらいはあるさ」


 皇帝に請われて宰相となった時にまず行ったのが、国内外の諜報網構築と己の腹心の密偵を各国の機関に送り込むことだった。送り込んだ機関にはもちろんユメクイもある。


 ニヤリと笑った春星を桜夜は物言いたげにじっと見つめる。暗に責められているようで春星はたじろぐ。桜夜に見下げられることもましてや愛想を尽かれることも避けたい。

「……いや、別に安楽椅子探偵を気取る気も、部下に奔走させて自分は高みの見物を決め込む気もないぞ?」

「あなたがそんな人だったらもう少し安心していられるのだけど」

「……アハハハ……」

 『前科』があるだけに迂闊に反論も出来ない。

「………そろそろ時間ね。戻りましょう」

「おう」

 桜夜はくるりと背を向けると言う。その声音の冷たさに春星は背筋がゾッとした。


「ところで、随分と楽しそうだったわね」


 春星は知り合ったばかりの相手とも意気投合し、共同戦線を張ることもままある。だが、それを後で知ったり目の前にしたりすると、桜夜は猛烈に拗ねる。


 〝夢見屋本舗〟の依頼の原因との交渉に出向く時も、桜夜には後方支援を任せている。しかし一応任せてはいるものの、春星は修羅場に己一人で飛び込んでもどうにかしてしまう実力の持ち主なので、実際は桜夜に助けを求めることはない。


「………いや……だって………」

「だって?」

 聞き返した声音は幼子を相手にするように優しげだというのに冷や汗が吹き出してくる。

「…む、昔から知ってる奴の方がしがらみがあったり、後々に引き摺らないか気になったり………」

「……………そう」

 納得したわけではないだろうが、桜夜は矛を収めた。春星は深々と息を吐く。

「じゃ、帰るか。風上はそっちだ」

 煙管を取り出した春星に指さされた場所に移動する。


 今日のように桜夜の迎えがない時は夢界への通路は春星が作り出す。その時に桜夜に香や煙草の匂いが付かないように風上に移動させる。

 桜夜は春星のものならば移り香も別に厭わないが、春星が気にするので従っていた。


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