7時間目 心の中で太陽に吠える男
加藤鈴はかつて、ドラマやアニメーションに登場する探偵に憧れていた。数少ない手がかりから物事の本質を解き明かす。そんな探偵たちの頭脳明晰さ、そして分析力に鈴は尊敬の念を抱いている。
『彼らのようになりたい』鈴がそう思うようになるのに時間はかからなかった。
小さい頃は本気で探偵を目指し、必要だと思うことは何でもした。そして、中学生になって、現実の探偵が事件などに関わることはほとんどなく、その仕事内容の実に八割が夫婦間の不倫調査であることを知り、探偵になるという鈴の夢は空気の抜けた風船のように急速にしぼんでいった。
しかし、探偵を目指していた時に片っ端から推理小説を読んでいた影響なのか、鈴は小さい手がかりから物事を分析し、理解することに非常に長けていた。
その鈴でさえ、今の状況は完全に理解不能だった。
何故最初に出てきた時、浅間はブーメランパンツ一丁だったのか?
何故浅間は先程玄関で全裸だったのか?
何故今、浅間はスーツを着ているのか?
しかし、一番の疑問は龍山に対してのものではなかった。
何故愛美は何一つ突っ込まずにいられるんだ?!
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「あなたが浅間龍山君?」
愛美はまず目の前の男が浅間龍山かどうかの確認をした。先程の鈴の態度を見てもしかしたら全然別の人なのかもしれないという不安があったのだ。
龍山はどこか遠くを見つめながら、
「あぁ」
と愛美の問いに短く答えた。
愛美は目の前の男が龍山だと確定するとホッと安堵の笑みを浮かべた。
「よかったぁ。さっきいきなり部屋に引っ込んじゃったからもしかして全然違う人の部屋に来たのかと思っちゃった。ねぇ鈴ちゃん?」
愛美に同意を求められた鈴は無言でこっくりと頷いた。そんな鈴の様子に愛美は首をかしげた。
「あれ?どうしたの鈴ちゃん?なんか急に元気なくなったけど。あ!浅間君、突然押し掛けたりしてごめんね。実は私達………浅間君さっきからどこ見てるの?」
愛美は先程から遠くを見つめ続ける龍山に疑問を投げかけた。龍山は少しの間、考えるようなそぶりを見せた後、おもむろに口を開いた。
「いや、夕日が綺麗だなぁと思ってな」
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龍山は玄関口で予想外の事態に見舞われていた。
か、かわい過ぎて目が合わせられねぇぇぇぇぇ!!!




