4時間目 修行の成果
「まさかいきなりこんなことになるとはな。こんなことなら四人目の奴も気絶させとくんだったぜ」
龍山は夕日の差し込むリビングで一人悔いるようにつぶやいた。
職員室で交番員に人相確認をされた後、龍山は一週間の春休み延長を告げられた。一週間の連休、つまり停学である。
最初は、いきなり始まった一週間のお預けに龍山は絶望した。しかし、次第に龍山はこう思うようになった。
「これは神が俺に与えた準備期間なんじゃないか?」
もしあのまま学校が始まっていたらどうなっていたか?
もしかしたら俺は同じクラスになれた喜びですぐさまあの子に告白していたかもしれない。
だが冷静に考えろ。
俺は向こうのことを知っているが向こうは俺のことを知らない。
そんな状態で告白したとしてOKがもらえるか?
可能性はゼロではない。が、恐らく無理だろう。
つまり。
この停学という名の一週間は。
俺に一旦冷静になれと神が与えてくれた時間!
神が俺に『この一週間でさらに己を磨きあげ、万全の状態で学校にのりこめ』とそう言っている!!
と、自分なりにこの一週間の意味を見出した龍山は、限界まで己を鍛え上げ、そして現在に至る。
「フフッ。俺の益荒男ゲージはすでに満タンだぜ。」
龍山は自信に満ち溢れた様子でひとりごちた。
その時。
ピーンポーン。
リビングに来訪者を告げるインターホンが鳴り響いた。
「ちっ、また新聞か?ここ最近毎日じゃねぇか」
龍山は一転、不機嫌そうにつぶやいた。最近、龍山のマンションには新聞の勧誘が度々訪れていた。いつもは居留守を使ってごまかすようにしているのだが、そろそろ龍山の我慢も限界に近付いていた。
「待ってやがれ。生まれ変わった俺の力を見せてやる」
龍山は全裸の状態から下半身に、水泳で使う黒色のブーメランパンツを身につけると、他には何も身につけず、海にいるライフセーバーのようないでたちで玄関に向かった。この状態の自分を見たらどんなに屈強な勧誘でも逃げ出して二度と来なくなるだろうという算段だった。
龍山は玄関までくると、来訪者がもう一度インターホンを鳴らすその瞬間を息を殺して待った。
ピーンポーン。
そして来訪者がもう一度インターホンを鳴らしたのを合図に勢いよく扉を開き、全身の筋肉に力を込めて大声でほえた。
「新聞はいらねぇって言ってんだろうがぁぁぁ!!」
扉の向こうにはいきなりの出来事に体をこわばらせている井上愛美と加藤鈴の姿があった。