10時間目 価値観の相違 ごく普通の一般家庭とは?
「浅間君って鈴ちゃんが言ってた通り悪い人じゃなさそうだね」
愛美は龍山がいなくなったリビングで鈴に話しかけた。しかし、鈴は先程からむすっとした顔を崩さなかった。
「どうしたの?鈴ちゃん?」
愛美の問いに鈴はおもむろに口を開いた。
「悪い奴かどうかはともかく、浅間ってちょっと変じゃないか?」
「変って?」
鈴の言葉に愛美はきょとんとした顔になった。しかし、その後すぐに鈴の言わんとしていることに気づいたのか、『あぁ!』としたり顔で頷いた。
「確かにちょっと変だったよね」
「だろ?」
「うん。浅間君、何で停学中なのにあんなに元気なのかな?罰を受けたら普通落ち込むよね」
「いやそうじゃねぇよ!」
鈴はあまりの話の噛み合わなさに驚きをあらわにした。一方の愛美はわけが分からないという顔をしている。
「鈴ちゃんは停学になっても落ち込まないの?」
「それは落ち込むとは思うけど………いやそこじゃなくて!もっと気になる所が他にあるだろ?」
「えー?他におかしい所なんてあったかなぁ?」
考え込む愛美に鈴はイライラしながらローテーブルをたたいた。
「海パンだよか・い・パ・ン!浅間の奴一番最初に玄関から出てきた時何故か海パン一丁だったじゃん」
「それが?」
「いや『それが?』ってあんた、どう考えてもおかしいだろ?なんでいきなり海パン一丁で玄関から出てくるんだよ」
「一般家庭じゃよくある光景だと思うけど」
「どこの一般家庭の玄関から海パン一丁の男が飛び出してくるんだよ………」
鈴は呆れたような口調でそう言うと、一息ついて言葉を繋げた。
「それにな、アンタは見てないだろうけどあの後だって……」
そこまで言った所で鈴は全裸で自分に向かって走ってくる龍山の姿を思い出し顔を赤らめた。
「………」
「鈴ちゃん顔真っ赤だよ?」
「う、うるせぇ」
鈴は頭を振って今しがた思い出した記憶を追い払った。
「とにかく、時間も時間だしちょっと休んだらすぐ帰るからね」
「鈴ちゃんいつもはこれぐらいの時間じゃ全然帰ろうとしないのに今日はどうしたの?」
「き、今日は早く帰りたい気分なんだよ」
「ふーん………変な鈴ちゃん」
「おい。玄関から海パン一丁で飛び出してくる奴はスル―するのにあたしを変な奴扱いってどゆこと?」