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ガチコイ!  作者: 昼行燈
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序章

その夜、男はバイクを走らせていた。

 道は切られたトカゲのしっぽのようにのたくっており、辺りは閉じた瞼の裏よりさらに暗い。しかし、男はその道をバイクのライトの明かりを頼りに悠々と進む。明らかに制限速度は超過(ちょうか)していたが、それを(とが)める者も周りにはおらず、ましてやそのようなものを気にする細やかな神経を男は持ち合わせていなかった。

 やがて男は目的地に到着した。そして、バイクを適当な所に駐車すると、目的地を見据えた。

そこは古い採石場(さいせきじょう)跡地(あとち)だった。

かつて名のある企業が未曽(みぞ)()の経営不振に(おちい)った。そして、その立て直しに必要な経費(けいひ)捻出(ねんしゅつ)のため、企業に不必要と断じられた工場などが次々に閉鎖された。この採石場もその一つだ。以来、ここは敷地内にある施設が取り壊されることもなく、かと言って作業再開の見通しもないまま放置されている。

普段ならこんな時間にここに来た所で特に何かあるわけではない。人などいるわけがないし、周りを岩壁(がんぺき)に囲まれているので、風の吹く音さえ聞こえない。ここを訪れた者は、水に潜った時のような現実感のない静けさに迎えられるだけだ。

しかし、今日はいつもと違った。

採石場の入口から見て右手側にある倉庫から明かりがもれだしているのだ。しかもそこからは、ここ何年もの間この場所で感じることのなかった活気が(かも)し出されている。男の目的はその倉庫の中にあった。

男は倉庫に向けてゆっくりと歩を進める。途中、倉庫へ続く道の脇にバイクが何台も固まって駐車してあるのが見つけた。男はそれを目視すると、

「十人ちょいってところか」

と、駐車してあるバイクの台数で倉庫の中にいる人の数にアタリをつけた。

倉庫が目前に迫ってきた。近づいていくと倉庫のいたる所にある隙間(すきま)から倉庫内の様々な雑音(ざつおん)がもれだしてきているのが聴き取れた。

男は倉庫の入り口まで来るといったん立ち止まり、倉庫から漏れ出してくる明かりを頼りに入り口を塞ぐ扉の造りを確認した。そして、扉に鍵がかかっていないことと、両開きの押し扉であることを確認すると、量の手を扉にあてがい一息のもと一気に押し開いた。

男が扉を開くと同時に倉庫内の雑音は一瞬で消え、静寂(せいじゃく)がその場を支配した。男は開いた扉から溢れてくる光に目を細めながら倉庫内の様子をうかがった。

倉庫の中には何もなかった。地面はむき出しになっており、何もないだだっ広い空間が広がる。まだ電気は通っているらしく、倉庫の天井に備え付けられた照明が倉庫内を明るく照らしていた。そして、そんな何もない空間の中心には先程男が予想した通り、十人の男たちがたむろしていた。

倉庫の中にいた男たちは、扉が開くまでは思い思いに談笑していたが、今は自分達の方に向かってゆっくりと歩を進める一人の男を全員が凝視している。突然の来訪者は、男たちから瞬間的に言語能力を奪っていた。

しかし、男が集団の三メートル程手前まで来て歩みを止めたことをきっかけに、集団の中の一人が言語能力を取り戻し、男に語りかけた。

「よぉ。ずいぶん遅かったじゃねぇか。ケツまくって逃げたのかと思ったぜ」

その言葉に集団からあざけるような笑い声が上がった。しかし、男は嘲笑を浴びせられても特に気にした様子もなく淡々と言葉を返した。

「テメェらみてぇなクズの呼び出しに応じてやってるだけありがたいと思いな」

とたんに嘲笑は怒号に変わり集団の内何人かが男に飛びかかろうとした。しかし、最初に声を発した男がそれを片手で制した。

「クズ、ねぇ。ま、否定はしねぇよ。俺たちみたいな連中は世間から見りゃ不必要な、それこそクズみてぇなもんだろうからな」

そこまで言ってその男は小さく笑った。

「フフッ、それにしてもこの人数相手にそれだけの口が叩けるとは、さすが噂に名高い浅間(あさま)龍山(りゅうざん)だな………いや、ここは『ドラゴン』って言った方がいいかな」

「テメェら俺とフリートークするためにこんな所に呼び出したのか?違ぇだろ。ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと要件を言えよコノヤロー。ニヒルに大物ぶってんじゃねぇぞ」

『ドラゴン』と言われた男、浅間龍山はしゃべっている男をギロリと睨みつけた。睨みつけられた男は少し顔をひきつらせたが気を取り直すように咳払いをすると、おもむろに用件を切り出した。

「お前は俺達『レッドデーモン』のシマを荒らし過ぎた」

「だから?」

「今から俺達『レッドデーモン』の幹部が制裁を加える」

男が発した言葉を合図に、集団は一斉に臨戦態勢に入った。ある者は拳を構え、またある者は手に持った木刀を構える。

そうやって思い思いの戦いの構えを取りながら少しずつ左右に広がっていく集団を見回しながら龍山はため息をついた。

「つまり、だ。テメェらは」

しかし、そう言いながらも龍山は自分の口元が緩んでいくのを感じた。いきなりにやけだした龍山に集団の中心にいた男は不穏なものを感じ取った。

「何がおかしい?ドラゴン」

その問いかけに龍山は首を横に振って応えた。

「いや、別に何でもねーよ。つーか俺もうお前としゃべりたくねぇからよ」

そう言うと龍山は左手の人差し指を立てて自分の方に二回引いた。

「黙らしてやるからかかってきな」


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