犬
ペットと言えば、犬。
私は犬を思い浮かべますねぇ。
犬と人間との関わりは
実に縄文時代以前からという説もあります。
現在も昔も変わらない存在
それが…犬。
⊆犬⊇
「犬が欲しい!」
翔太の入学祝いに何か買ってやる、と私が言ったのに対し、彼はそう答えた。
犬か…。
昔飼っていたが、やはり生き物である。そして人間より寿命は短い。死んだ時は悲しかったなぁ…。
しかし…だ。入学して1ヶ月経たないうちに、家内と翔太は交通事故で死んだ。
つらかった。翔太の笑顔が頭に焼き付いて離れなかった。
どんな姿で死んだんだろう。痛いって叫んだのか。叫ぶひまも無かったのか。
翔太と家内の葬式やらが済んで、辺りは静寂を取り戻した。
そんな静かな晩だった。
一匹の犬が現れたのだ。クロと茶色と白が混ざった耳の長い犬…。
「クロ……?」
思わず目を疑った。そんなはずはない。クロは私が小学生の時に死んだはずだ。
しかしクロは私に近寄ってくると、湿った花を押しつけてしっぽを振った。
……クロだ!
クロは、私が仕事から帰ると、小屋から出て来て「ハッハッハ」と息を履きながらしっぽを振る。
正直言うと、私はクロに癒されていたのかも知れない。
私の悲しみを、クロは受け止めてくれた。嫌な顔一つせず、受け止めてくれた。しっぽを振ってなぐさめてくれた。
そのお陰か、私の悲しみは幾分か癒えたかに思える。手つかずだった仕事もできるようになり、メシも食えるようになったきがする。
心が軽くなった俺は、久しぶりに散歩に出かけた。クロと一緒に。
梅雨から抜けて、空は晴れていた。雨の滴が輝いている。
「なぁクロ」
俺はどすりと腰を下ろした。クロもちょんと座った。
心地よい風邪が吹いている。草がさわさわと音を立てて笑う。
「なぁクロ…」
もう一度言ってみた。クロは俺の方を向いた。かすかに笑ったようにも思える。
クロは走り出した。
ほんの近くへだが、私はクロが遠くへ行ってしまうように感じた。
クロは止まった。
「クロ……」
私はもう一度言った。クロは振り返った。
ふと、空を見上げた。太陽が燦々と輝いている。
目を戻した。クロはいなかった。
そうだよな……クロがいる筈がない。
クロは一昔前に死んだんだ。
「クロ……」
呟いてみた。クロはもういなかった。
すうっと涼しい風が、私の横を吹き抜けた。