悪魔の足音
世の中は足音で溢れています。
ハイヒールの音…革靴の音…運動靴の音…。
いろいろあります。
昼間に聞いても怖くはありませんが
夜の暗闇に聞くとどうでしょう?
こつーん…こつーん、と響いて…。
⊆悪魔の足音⊇
足音がした。
二つ聞こえる。双方は徐々に近づき、静かに止まった。虫も眠りに就いた、丑三つ時である。
「誰だ?こんな遅くに……」
一方から、男の声がした。が、それに答える声は無い。
「泥棒か、強盗か?それとも、殺し屋か?」
しかし、また返事は無かった。
男は痺れを切らし、灯りを手に足音のした方向へ歩き出した。
すると、もう一つの足音も、合わせるように遠ざかってゆく。これではきりがない。
男は走り出した。と同時に、足音も走り出した。「まてっ」と叫びながら、必死に追いかけた。灯りが揺れる。
二つの足音が、廊下に響き渡った。男の心の中では、犯人をかっこよく捕まえた時の自分の姿が浮かぶ。
いよいよ、期待は膨らむ。後少しで追いつく。
階段に差し掛かった時、一瞬犯人の姿が見えた。しめた!
わっと高く、階段から飛びかかった。犯人を押さえつける、勇敢な自分の姿を想像しながら……。
ドンッという、鈍い音。男が飛びかかったのは、一体のマネキンであった。
「マ……マネキンが……動いた!」
なんと哀れな男なのだろう。自分の足音が、静かな夜に響いているとも知らずに……。
この作品は
2006年7月14日に
[悪魔の足音]として
掲載されました。