勝負パンツ(前編)
『失敗は成功のもと』…。
努力なしで成功はない…という意味です。
しかし、現実はどうでしょうか?
いくら努力しても、成功しない時は成功しない。
そう思いませんか…?
⊆勝負パンツ(前編)⊇
私は東京都在住のOL。
会社の中では、どうも成績優秀らしく、仲間からは憎まれ口を叩かれながらも、一目置かれている存在なのだ。
でも、一つ気がかりなのが……気が弱いこと。
何をやるにしても自身がないから、これといった特徴がない。というか、成功しなければならない時に、失敗してチャンスを逃すことが多いのだ。
そんな私に、わざわざチャンスを持ってきてくれたのは部長だった。
「お〜お〜、桐野くん!ちょっと…」
そう部長に呼び出され、私は会社の会議室へ行った。
「おっ、桐野君。実は…お願いがあるんだけどねぇ…」
「……なんでしょう……」
「えっとねぇ……来週、伊藤建設の社長さんが来るのは知ってるよねぇ…」
「はい…。それが、何か?」
部長は気色ばんで、私の方に向き直した。
「桐野く〜ん……わたしと一緒に…接待やってくれんかねぇ……」
接待!?冗談じゃない!成功しない私に、そんな事が……。
「ねぇ、桐野くん……やって…くれるよねぇ…」
私は断ろうとした。でも、部長の一言で……。
「だいじょ〜ぶだよぉ……お礼はしっかりするから…」
部長は手で(2)の数字を作り、ゆっくりと横に振った。
「グフフ……よんじゅうまん……ボーナス出すからさ…」
「……分かりました」
つい言ってしまった!
「さっすが桐野くーん!よろしくねぇ!…ただしぃ…」
えっ!?ただし?
「ただしぃ…もし失敗したら……」
もし、失敗したらぁ…?
「……クビだからねぇ……」
と言うわけで、重大な仕事を引き受けてしまった私。
むろん、失敗は許される訳が無く、かと言って、成功する自信がある訳では無く、とにかく私は、失敗しないための対策を考えていた。
そんな時、目に飛び込んできたのだ。
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……勝負パンツ!?
まさか……お店のギャグだよね……。
でも……。
そう思いつつも、私はお店の中へと入っていった。
自動ドアが開くと、何人かの店員がいた。若い男の人が事務が一人、女性店員が数人、そして、店長らしき年配の男の人が一人いた。
店長らしき男が、「いらっしゃいませ」と言いながら私のところへ寄ってきた。
「どういった下着をお探しでしょうか?」
「あのぅ……勝負パンツって……」
さすがに恥ずかしかった。しかし、店長は表情を変えることなく、にこやかに
「はい。勝負パンツでございますね。ありますよ」
そう言って奥へ入っていった。
しばらくして、店長は奥から出て来た。綺麗な箱に包まれたパンツを3着持っていた。
「こちらが『勝負パンツ』になります」
パンツは3種類。左から順に、赤、白、黒だった。
「まず初めに…この赤い勝負パンツから」
店長は赤いパンツを手で差しながら説明を始めた。
「この赤いパンツは、ここぞ!という勝負の時、その成功を請け負う役を果たします。ただし、効果があるのは一回きりです」
へぇ……勝負パンツって……そーゆー意味のパンツなんだぁ…。
「そしてこちらの白いパンツ…」
白いパンツは、赤い方より高級そうに見えた。
「こちらの商品は、赤いパンツよりも一回多く、要するに2回まで効果があります。黒いパンツは3回まで効果を出すことができます」
なるほど。確かに、白は赤より、黒は白より高級そうに見える。それだけ、効果も多いのか…。
「この……このパンツ……いくらでしょうか?」
店長の目がキラリと光った。
「赤いパンツは、10万円になります」
「じゅ……10万円!?」
高い!いや、それ相応の効果があるというのかしら!?
「白い方は15万円、黒い方は20万円に相なります」
やはり白と黒は高い。でも、赤ならなんとか変えるかも……。
「この勝負パンツ……10年に一度入荷するかどうかの品なので…」
悩んでいる私に対して、促すように店長は言った。
(もし、本当に効果があるなら……)
脳裡を過ぎるのは、20万円のボーナス、そしてクビになった自分の姿。もし今度の接待で失敗すれば、後者になる事は確か。しかし今の取捨選択で、どちらかになる事は確実だ。
(……よし……)
「買います!この赤いの……買います」
店長は微笑を浮かべ「ありがとうございます」と呟いた。
ついに私は、その『勝負パンツ』とやらを買ってしまった。