恋とか愛とかどうでもいい
振り向いて欲しいなんて
思ったこともない。
今を変えたいとも思わない。
*
新卒から同期でずっと一緒に働いてきた彼。
この会社では2人一組で数字を追う。
私と彼は2人で一つの数字を追う。
入社して3年目の頃には、
社内でもトップ営業と言われるほどのペアになっていた。
「ねぇ」と私が言えば
「ん?」と寝起きのような油断した声で返事をする。
そんな2人の間だけでの会話の空気が心地よかった。
全てを話さなくても分かり合えているような。
入社して5年目の頃には、
お互い、お互いの相手と結婚した。
それなりの幸せに浸っていた。
そんな私には分からないことが『ひとつ』ある。
飲み会でいつも私の隣に座る彼。
彼は左利きの私に気遣って、私の右に。
そして、私と何か話すでもなく、
顔どころか、目も合わせず、
別の誰かと楽しげで話す。
一方で、テーブルの下でこっそりと私の右手を握る。
私は彼の左手を握り返す。
顔色ひとつ変えず。
入社から15年たった今も変わらず。
そして今日も私は彼の手を握り返す時に
彼の左手の薬指の引っ掛かりを指でなぞる。
この意味は誰も分からなくていい。
それ以上でも以下でもない、
この先も後もない、
この時間だけが尊いと感じるうちは。
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