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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
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山中湖ワカサギドーム編 第5話 釣り開始

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

◆ワカサギ釣り開始、混沌の幕開け


ドーム船は静かにアンカーを下ろし、湖上に固定された。

その頃、船内ではまるで遠足前の小学生のように、仕掛けの準備に大騒ぎの一行がいた。


◆穂乃花の電動リール事件


「電動リールの使い方、解らないよ〜……」

穂乃花は手のひらサイズの“パソコンのマウスみたいな謎の物体”をじーっと見つめて首を傾げている。


「解った。じゃあ穂乃花の隣に座るね」

と、圭介の隣にいた里香がスッと移動する。


圭介(……え、俺のご褒美席が!?)


実は気遣い満点の里香、往復運転手である圭介への“隣ボーナス”は終了し、

穂乃花のために、ふわっと場所を譲っただけなのだが――

圭介には全くその意図が読めない。


「愛生は圭介の隣ね」

と里香。


「え〜……お兄ちゃんの隣なの〜……」

と愛生。


「えっ、俺の隣は嫌なのか!?

愛生まで不良に……?」

と圭介は頭を抱える。


(ただの座席配分でそこまで落ち込む?)

という視線が花音から刺さる。


結局、席順は“普段どおり”

圭介 → 愛生 → 花音

の元サヤ配置に収まった。


「ブー、ブー……」

と愛生は不満げに頬をふくらませる。


「ねぇお兄ちゃん、仕掛け作り方教えてにょん」

と花音。


あれ?

家では「圭介」呼び捨てだったはずなのに、今は“天使声”で「お兄ちゃん」。


圭介(むむむ……花音ちゃん、家ではややダーク、今は天使……二重人格なの……?)


◆圭介、仕掛け職人と化す


「いいかい、まずワカサギサビキを袋から出して……

まだほぐさないよ、そのまま釣り糸を結んで、頭上のフックに掛けて……

オモリ付けて、それからサビキをほぐします。針ちっちゃいから気を付けてね」


圭介の説明は妙に慣れている。

愛生も花音も頷きながら、器用にフックへ仕掛けを掛けていく。


「紅サシを針に付けていきます」

と圭介。


「できた〜!」

「できたにょん!」


愛生と花音、作業完了。


「じゃ、一緒に落とそうか」

「うん!」

「うん!」


3人そろって仕掛けを投入した。


その横で穂乃花と里香も投入。


◆里香、初手からプロすぎる


――ウィーン。


電動リールの小さなモーター音が鳴り、

里香がさっそく1匹目を釣り上げた。


「はっ……はやっ!」

圭介は思わず声を漏らす。



◆明宏 vs 武士、安定の小競り合い


一方そのころ、明宏の横では――


「うわあぁぁぁぁサビキぐちゃぐちゃになっちゃったぁぁぁ」

と半泣きの武士。


見て見ぬふりを決め込む明宏。


「明宏、サビキの使い方教えてくれよ……」

「え〜!?自分で何とかしろよ、俺は釣りしたいんだよ!」

「少しくらい教えてくれたっていいじゃん……」

(うるうる)


「……ったく!しょうがねえな!朝マズメ終わるだろが!」

と言いながら結局面倒を見る明宏。


実は前日から、

“武士を穂乃花に近づけない防波堤任務”を圭介から依頼されており、

報酬は「Bコンタクトミノー」。

そりゃ真剣になる。



◆天使界隈、連続ヒット!


そして――


「竿がプルプルしてるにょん!!お兄ちゃん隣に来て」

花音がパニック発生。


席替えが発生し、

圭介は愛生と花音に両側を囲まれる。


「花音ちゃん、リール巻いて!」

「わ、わわわ〜〜!」


続いて愛生にもヒット。


「わぁ〜!メダカみたいなの釣れたにょん!」

「メダカじゃなくてワカサギだよ!」

と愛生のツッコミ。


「釣り上げたらフックに掛けて魚外すんだよ」

と圭介。


「かんにょん出来ない。お兄ちゃん取って」

「愛生ちゃんも出来ない。お兄ちゃん取って」


(えぇ……)


圭介は2人のワカサギ外し係と化し、

せっせ、せっせと作業する。


ようやく自分の仕掛けを投入しようとした瞬間――


釣る。


釣る。


また釣る。


2人が次々にワカサギを釣り上げるため、

圭介の仕掛け投入チャンスは永久に訪れない。


圭介(……俺、今日釣りに来たんだよね?)


ドーム船上で、

“兄と従兄の育児釣り体験”が静かに幕を開けたのだった。


ピンクの紅サシを前に、花音がぷるぷる震えだした。


「ピンクの虫、気持ち悪いにょん……お兄ちゃん餌付けて〜!」


「はいはい、わかった、わかった……」

圭介はもはや諦観の境地。

花音の仕掛けを手に取り、ちまちまと紅サシを付ける作業に入る。


すると横から、


「愛生ちゃんも餌気持ち悪い〜。お兄ちゃん付けて〜」


「……いや愛生、さっき普通に自分で付けてたよね?」


心の中でツッコむ圭介。

だが、花音に構っている兄への“焼きもちモード”に入った愛生は、

きらりと上目遣いで兄の袖をちょんちょん引いてくる。


(あぁもう……可愛いけど、めんどくさい……!)


結局、花音の餌を付け、魚を外し、

次は愛生の餌を付け、魚を外し──

兄圭介は完全に“ワカサギ介護士”と化す。


釣り座には、

花音の「にょんにょん」パニックボイス、

愛生の「あっ釣れた〜♪お兄ちゃ〜ん!」という甘え声がこだまする。


それに応じて立ち上がったり座ったり、

糸を直したり餌を付けたりと、

圭介だけ常にカロリーを消費し続けていた。


(まったく……いつまでも子供で仕方ないなぁ……)


そうぼやきながらも、

どこか嬉しそうに2人の面倒を見続ける圭介であった。


武士の座る席の周囲だけ、何故か空気がピンク色に震えていた。

原因はもちろん──紅サシ。


「うわっ、ピンクのウジ虫! 気持ち悪すぎ!」

船内に響き渡る武士の叫び。ドーム船の暖房すら震えた。


「勇者なんだろ。紅サシくらいでビビるなよ」

と、明宏は完全に呆れ声。

武士のキャラ設定など、もはや誰も気にしていない。


震える指で紅サシをつまみ、針先に近づける武士。

「い、いくぞ……勇者の……一撃っ……!」

プチッ。

体液が弾けた。


「プギャーーーーッ!! 気持ち悪いぃぃぃ!!!」

まるで魔王に焼かれた村人Aのような断末魔で船内が揺れる。


「うるせーなぁ……黙って釣りしろよ」

明宏が低音でボソッと呟く。

その声が逆に怖い。


武士は涙目になりながら紅サシをぶら下げ、

「今日の敵、強すぎる……」

と小声で震えていた。


しかし、そんな2人を横目に見る圭介はどこか安心していた。

「なんだかんだ言いながら、コイツら楽しんでるじゃん……」


ワカサギより騒がしい“泣き虫勇者”と“ゴブリン明”。


穂乃花はというと――

初対面の電動リールをものの数分で攻略し、

「あ、また釣れた……また……あ、また……」

と、まるでワカサギ界の女神のような連続ヒット。


電動リールが小気味よく

ウィィィン……ピタッ……ウィィィン……ピタッ

と鳴るたび、魚が増えていく恐ろしい才能であった。


さらに里香の電動リールはカウンター付き・メモリー付きという高級仕様。

水深もタナも一目瞭然、まさしくワカサギ戦闘兵器。


里香はというと――

オモリを変えてフォールスピードを調整し、

トントントントン……

と電動リールの底を軽く叩いて誘いを入れ、

止めて食わせの「間」を入れるという職人テクを披露。


まるで「ワカサギ調教師」の称号が似合うほどの上級者ムーブで、

次々と魚を量産していく。


対する圭介――。


……うん。


全く釣れていない。


いや、正確に言えば、

「釣りをする暇が1ミリもない」。


右からは

「お兄ちゃん、花音の針、取って〜」

左からは

「お兄ちゃん、愛生の餌つけて〜」


あっちで魚が暴れれば

「お兄ちゃんが取るにょん!」

と呼ばれ、


こっちで絡まれば

「お兄ちゃん〜糸ぐちゃぐちゃ〜」

と呼ばれ、


圭介の仕事は、

“ワカサギを釣る”ことではなく――


“子猫(2名)の世話を延々と続ける保護者”

であった。


その横で里香と穂乃花は経験者の風を吹かせてワカサギ無双。


そして圭介は思う。


――俺も釣りに来たはずなんだけどなぁ?


だが、可愛い妹といとこのためなら仕方なし。

圭介のワカサギ釣りは、今日も安定の“育児モード”全開なのであった。

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