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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
95/97

山中湖ワカサギドーム編 第3話 ワカサギ釣りなのにお菓子爆買い

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

平日の夜。

山中湖ワカサギ用の買い出しをするため、圭介は愛生と花音を連れて近所のスーパーへ向かっていた。


先頭をスタスタ歩くのは愛生。

その後ろで、花音が当然のように圭介の手をつなぐ。


「花音ちゃん、ちっちゃい頃よくこうやって手を繋いだなぁ……」

圭介は懐かしさで少しほほえむ。花音は圭介のいとこで、一人っ子の彼女にとって圭介は兄のような存在だ。


すると、愛生が振り返り、無言のまま圭介の反対の手をつかんだ。


——結果。

右にいとこの花音。

左に実の妹の愛生。

三人仲良く手をつないで夜道を歩くという、とんでもなく目立つ光景が完成した。


「いや、これ普通に恥ずかしいな……」

と思いながらも、可愛い妹といとこに挟まれて悪い気はしない圭介。


だが、頭の片隅では別の悩みがうずく。


(里香ちゃんと手をつないでデート……まだ実現してないんだよな)

(今度会ったら聞いてみようかな……いやでも怖いな……)

(“釣り勝負のとき握ってあげたでしょ?” とか言われそうだし)

(てか俺25歳で里香ちゃん16歳だぞ!? 離れすぎだろ……未成年だぞ……)


夜道でぶつぶつ独り言。

横では花音が「圭介、なにひとりで自滅してるにょん」と呆れていた。


そんな圭介の知らぬところで、里香は

“圭介のボーナス待ちショッピングデート”

というしたたかな計画をしっかり進行中だった。

もちろん、お人好しの圭介が知るはずもない。


スーパーマーケットに到着。


スーパーマーケット内は11月下旬という事もありクリスマス1色、しかし、愛生、花音は無関心


愛生と花音は、当然のようにお菓子の爆買いを開始した。


今日の愛生は、ピンクの羊さんパーカーに羊耳フード。

背中には機能性ゼロの羊さんぬいぐるみリュック。

“荷物? 入らないよ?”という潔さ。


花音は水色×白のゆったりジャージに、頭にはネコ耳ヘッドホン。

もちろんヘッドホンは飾りで、音楽なんて一切流れていない。


圭介は思う。

(ああ、やっぱりこの二人、従姉妹だわ……DNAの主張が強い……)


目立つ格好だと思ったが、よく見れば似たような格好の子が普通に歩いていて、

「この街、強いな……」と妙に感心する圭介。


ほどなくして――


「きのこの山がいいにょん!」

「たけのこの里の方が正義だよ!」


愛生と花音が口論を開始。


(どっちでも良くないか……?)と圭介は疲れた目。


結局、両方カゴへ。


続いてキットカットの味でケンカ。

(どうでもいい……)と圭介は無言。


さらにポッキーの味でケンカ。

(永遠に終わらん……)


そこで愛生が突然振り向く。


「お兄ちゃんは何味がいいと思う?」


思考が停止した圭介の口から、条件反射のように出た言葉。


「ヤンヤンつけボー……」


「ヤンヤンはないにょん」

と花音。


「センスないよ」

と愛生。


圭介はちょっとだけムッとし、

そのままヤンヤンつけボーをカゴに投入。


(ていうか……ワカサギ釣りに行くのに、なんでこんなにお菓子……?)


疑問は深まるばかりだった。


そして帰り道。

両手いっぱいにパンパンのお菓子袋を抱える圭介は、ふとため息をついた。


――行きは両手に妹たち、帰りは両手に荷物ってか。

と、ちょっと切ないような、でも悪くないような気分。


前を歩く愛生と花音は、相変わらず自由奔放。

2人で何か話しながら、どんどん先へ進んでいく。


その頭上には、黄色に染まった銀杏の木。

風が吹くたびにふわりと葉が舞い落ち、

まるで2人を祝福するみたいに金色の花吹雪が降りかかる。


幻想的な光景に、圭介は思わず見惚れた。


……が、その優雅な舞は一瞬でカオスへ変わる。


「わっ、髪ぐちゃぐちゃになるぅ!!」

愛生の羊耳フードが風に煽られ、髪は即座に大惨事。


「ちょ…待って…苦しい…!!」

花音のゆるサイズ天使ジャージは風を受けすぎて膨らみ、

ついにはネコ耳ヘッドホンが地面にポトリと落ちる。


可愛いしか勝たん、の舞台裏はわりとハードモードだった。


そして圭介も負けていない。

両手の買い物袋が風に煽られ、バサバサ暴れまくり、

銀杏の花吹雪どころじゃないレベルで戦っていた。


「……銀杏の木よ、君のせいじゃないよ」


なぜか木を慰めるように呟く圭介。


すると――気のせいかもしれないが、

銀杏の木が揺れて、こう言った気がした。


「いいよ、気にしてないから」


その答えが妙に優しく聞こえて、

圭介はふっと笑った。


玄関で靴を脱ぐなり、愛生と花音は買い物袋を奪い取り、勢いそのままにリビングへ突入した。


まず飛び出したのは、きのこの山。

次に、たけのこの里。

そして、どちらも勝ち取った誇らしげな顔のふたり。


「ヤンヤンつけボーだにょん。圭介、やっぱり買ったんだ。」

花音が袋を覗いた瞬間、肩を落とす。


「はぁ~お兄ちゃん、センスないよ。」

愛生は完全に呆れ顔。


「な、なんでだよ…。こんなに美味しいのに……。」

圭介は手にしたヤンヤンつけボーを見つめ、理不尽さに震える。


しかし即座に愛生が追撃。

「山中湖めっちゃ寒いんだよ? チョコ固まってたらどうするの?」


「……あっ。」

圭介、即撃沈。


慌てて言い訳を探し、

「で、電子レンジあるみたいだし……。」

と苦し紛れに反論すると、


「レンジで容器溶けちゃうかもしれないにょん。」

花音はとどめの一撃を淡々と放った。


完全敗北である。


「まったく圭介は〜。」

花音が盛大にため息をつく。


そこで圭介はふと気づく。

――ん? 今、花音“圭介”って呼んだ?

以前は“圭兄ちゃん”“お兄ちゃん”だったはずなのに。


(まさか……花音ちゃん、不良に……?)


顔面蒼白になる圭介。


だが花音は特に気にする様子もなく、ポテチの袋を開けていた。

理由はただひとつ――

単に図々しくなってきただけである。


「あぁ~、花音ちゃんが不良になってしまった……!」


圭介は膝から崩れ落ちる。

呼び捨てにされた程度で、命を半分持っていかれたような衝撃を受けたらしい。


その目の前で、天使界隈代表の花音ちゃんは――

口元を、ほんの一瞬だけ、くいっと上げた。


(……笑った?)


まさかの“堕天フラグ”に圭介は震える。


「癒しの花音ちゃんに何が起きたんだ……」

ソファによろめきながら嘆き悲しむ圭介。


隣で愛生は、兄がなぜこんなに取り乱しているのか本気で理解できず、首をかしげる。


ただの“図々しくなっただけの花音”。

ただの“呼び捨て”。

だが、圭介のシスコンセンサーはそれを重大事件として感知してしまった。


――症状は、想像以上に重たい。

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