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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
88/119

御殿場管釣りキャンプ編 第3話 里香の過去

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

◆里香の異変!沈黙する理論派美少女


その頃――。


東山古の桟橋の端で、里香はポツンと立ち尽くしていた。

いつもの“シャキーン☆理論派美少女”ではなく、

まるで電池が抜けたロボットのように、俯いてピクリとも動かない。


穂乃花と愛生は、すぐに異変に気づいた。


「里香、どうしたの? 元気ないよ?」

愛生は心配そうに覗き込む。


「体調悪いの?」

穂乃花がそっと肩に手を置く。


その横では――花音がスマホを握りしめながら、

なぜかしゅんとした声でこう言っていた。


「りかちゃん……写メにょん……(元気じゃないとSNS映えがしないにょん……)」


※心配の方向が若干違う。


普段の里香は、

“常に前向き・常に冷静・常にテキパキ美少女”として

部内でひそかに崇められている存在だ。


なのに今日は――

俯きがちで、目の焦点もふわふわ漂っている。


「……里香ちゃん?」

穂乃花が優しく声をかけると、


里香はゆっくり顔を上げ、

何か言おうとして、また俯いた。


その仕草はまるで、

“文明を失ったエリート女子”みたいな儚さすらある。


愛生と穂乃花はますます心配し、

花音は「この沈黙系美少女の絵、逆に映えそう?」と悩んでいる。


いったい里香の身に、何があったのか――?


◆里香の元気がない理由──そして回想へ


愛生と穂乃花、そして花音(※スマホ準備済)が囲む中、

ぽつりと里香が口を開いた。


「……あのね。実は私、ここ、小学生のときにパパとよく来てたエリアなんだ」


「えっ、そうなんだ〜! お父さんと釣りなんて楽しそう!」

穂乃花が明るく笑う。


「うんうん、なんか親子のキラキラ休日って感じ〜」

愛生もにこにこ。


花音は

「なるほど……“父娘ほのぼの釣りショット”……映えるにょん」

とよく分からない方向に頷いている。


しかし、里香は小さく首を振った。


「……ううん。楽しくなんか、なかったよ。

だってパパは……」


そして里香の目が少し遠くを見た。


――回想が始まる。


◆回想:小学生の里香、地獄のメトロノーム訓練


東山古の湖畔。

小学生の里香は、小さな手でロッドを握っていた。


「いいか里香、一定のスピードでリールを巻くんだ」

父親の声はやたらと低くて厳しい。


「う、うん」

小学生里香、健気に頷く。


父親は突然、バッグからゴトッと黒い物体を取り出した。


カチ……カチ……カチ……

メトロノームだ。


「メ、メトロノーム!?」

(※小学生里香の脳内で驚きテロップが出る)


「お前の前に置く。

この刻むリズムを身体で覚えなさい」


「う、うん……」


カチ、カチ、カチ――

小学生里香は必死にリールを巻く。

カチ、カチ、カチ――

父親が鬼の形相でリズムを凝視している。


「い、今アタリがあったぞ!!」

父の声が雷鳴のように飛ぶ。


「ひゃっ!?」


「ショートバイトだ! 逃すな!

心で感じろ! 無心で感じるんだ!」


(※小学生里香の心の声:無心ってどうやるの!?)


震える手でリールを巻き続ける里香。

メトロノームは容赦なく刻む。

父親の指導はさらに加速する。


「泣いてる暇があったらリールを巻け!!」


「うぇ……ひっく……」

小学生里香、とうとう涙がポロポロ。


だが父のレッスンは止まらない。

むしろ涙を見てスイッチが入ったかのように燃えている。


カチ、カチ、カチ、カチカチカチ!!!

(※メトロノームは普段通り)


――こうして、里香の“エリアトラウトトラウマ”は形成された。


回想、終了。


◆現在:過去を語る里香


里香は俯きながら語り終えた。


「……小学生の頃、こんな感じで。

厳しくて、泣いてても止めてくれなくて……

だから、ここにはあまり良い思い出がないの」


穂乃花の表情が一瞬で曇る。


「里香ちゃん……」


愛生もそっと手を握る。


花音は

「りかちゃん……過去つよい……(SNSにあげにくいにょん)」

と微妙に違う角度で涙ぐむ。


里香は続ける。


「でも……部活動なら、きっと楽しくできると思ったんだけど……

やっぱり、辛い昔のこと思い出しちゃって」


風が吹く。

桟橋の端で、三人はそっと里香を囲んだ。


重い過去だけど、今ここには

支えてくれる仲間がいるのだった――。


◆里香、まさかの衝撃告白


「でもさ、どうして里香パパはそんなに厳しく釣りを教えたにょん?」

花音がスマホを横向きに構えながら聞く。


里香は、ふぅ……と長い息を吐いた。


「……私ね。小学生の頃、

トラウトプレジデント選手権に出場させられてたから」


「……と、トラウト……プレ……? はああ!?」

愛生の頭の中は美味しいプリンを食べた時と同じ位の衝撃が走っていた。


「や、やっぱり……里香姉は元トーナメンターだったんだ!!」

いつの間にか背後にいた明宏がガタッと立ち上がる。


(武士は遠くで“ゴブリンレッスンその①”を明宏に言われたのを根に持ち、

風に向かって一人で呪文を唱えている)


◆説明を求める初心者組


「トーナメンターって何? 食べられる?」

愛生が素直に聞く。


明宏は胸を張り、超かっこつけた声で言った。


「トーナメンター……

それはトラウト界のメジャーリーガー!

選ばれし者のみが挑める、伝説級の競技者達だよ!!」


「いやいやいやいや!!」

里香が高速ツッコミを入れた。


「誰でも参加できる一般大会だから!!

応募したら普通に出られるやつだから!!」


「えぇ……」

明宏、ショック。


「でも、でも! 里香ちゃんって競技者だったんだよね!?

ある意味アスリートだよね!?」

穂乃花が感動気味に手を握る。


「そ、そんな大袈裟な……本当に普通のエントリーで……」

里香は照れながら困ったように笑う。


◆花音、完全に話についていけない


「えーっと……

プレジデントってアメリカのエラい人の大会?」

花音、完全迷子。


「違うに決まってるだろ!!」

明宏が高速でツッコむ。


◆明宏、スマホで検索する


明宏は「トラウトプレジデント選手権 過去大会」とスマホで検索。


すると——


「………………え?」


固まった。


「どしたの明くん?」

愛生が覗き込む。


明宏の手が震えた。


「こ……これ……見て……」

スマホを差し出す。


画面には、

“第5回トラウトプレジデント選手権 優勝 宝塚 里香(小学生の部)”

の文字。


「「「「す、すごおおおおおおおおおお!!!」」」」

愛生・穂乃花・花音・明宏の叫びが東山古に響く。


里香は顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「だから!! それはパパが勝手に登録して勝手に特訓して、

勝手に優勝しただけなの!! 私が望んだわけじゃないってば!!」


花音は目をキラキラさせながら言った。


「つまり……里香ちんは“元・伝説の美少女釣り王者”ってことにょんね?」


「だから違うってばぁぁぁぁ!!!」

里香の声が湖に木霊した。


「私が参加したのはね、小学生部門なの」


里香がぽつりと打ち明けると、全員の視線が集中した。


「私が優勝した大会は数回あるけど、小学生の参加者は数人。…3人だけの大会もあったから。初戦が決勝戦とか普通だったんだよ」


「へ〜〜、なるほど〜」

愛生も穂乃花も花音も明宏も、同じように頷く。まるで synchronized nodding だ。


「優勝賞品だって、ジュースとお菓子とかだし」

と里香。


「でもでも、競技人口が少なくても優勝したのはすごいことだよ!」

と素直に尊敬がにじむ穂乃花。


「うんうん!」

愛生と明宏がハムスターみたいに頷く。


その一方で、花音はきらりと目を光らせていた。


(元優勝者の里香ちん…釣りデートでしょ…?

これSNSに使えるやつでは…?

“伝説のチャンプと午後券デート♡” とか…バズる…!)


と、胸ポケットからスマホをそっと取り出してニヤリ。


「……花音、今なんかよからぬこと考えてるでしょ」

と里香がすかさずツッコミ。


「えっ!? な、なにも〜〜〜? SNSに載せるとは言ってな……いよ?」

言いかけて噛む花音。完全に怪しい。


「いや載せる気満々じゃん」

と明宏。


「にょっ!? そ、そんなことないのだ〜!」

と花音は全力で誤魔化すが頬がピンク。


「でも、もう昔の出来事なんだよね〜」

と愛生がぽそり。


「そうだよ。今はゆっくり、みんなで楽しく釣りしなくちゃ」

穂乃花の優しい声に、


「うん、ありがと。みんなで楽しもうね」

と里香が柔らかく微笑んだ──その瞬間。


……背後に、“気配” が立つ。


「このおっちゃん、誰だにょん?」

花音がぱちぱちと瞬きする。

見るからに怪しい影が、じり…じり…と里香の背中に近づいてくる。


そして。


「りーかぁ〜……り〜かぁ〜……」


ねっとりした声。


「えっ、パパ!? なんでここにいるの!?」


振り向いた里香が、心底びっくりした顔で叫ぶ。

周囲は全員ポカーン。


里香の父、宝塚パパは両手を胸に当て、震えていた。


「り、り香ぁ……お父さんは嬉しい……

もう一度エリアトラウトに挑戦してくれるんだね……っ! シクシク」


「いや挑戦しないから!」

里香が即座に否定。


しかし父は、勝手に回想モードに突入していた。


「お父さんは……昔……釣りプロになりたかった……!

だがなれなかった……! だからり香……お父さんの夢を……おまえに……!」


「嫌だって言ってるでしょ! 私、釣りプロになんかなりたくないの!!」

と全力拒否。


娘の拒絶に、父の眉間がギュルルッと寄る。


「里香の言う通り暴力的に……なる……? どうしよう……」

愛生がごくり。


「だ……大丈夫かな……?」

穂乃花も緊張で肩が固まる。


ところが次の瞬間、父は指をビシッと突きつけ叫んだ。


「お父さんの言うこと聞けない悪い子は……

お尻ペンペン! 激怒プンプン丸なんだからね!!」


「なによそれ!? 古っ!!」

里香が全力で反論。


愛生は心の中で思わずつぶやく。


(こ、恐いお父さんって聞いてたけど……

“激怒プンプン丸”って……

ちょっと……いや、だいぶ時代を感じるんだけど……)


父は本気で迫ってくるが、説得材料の古さがあまりに致命的。

場の空気はシリアス半分、ツッコミ半分のカオス状態だった。


「おーい、みんな元気にやってるかー?」


その場の空気を読まず、寺ノ沢先生と圭介がのほほんと到着した。


「先生〜〜! 圭介〜〜!!」

愛生と穂乃花が少しホッとしたように手を振る。


だが、その背後では──


「何故だ〜! 何故だ〜里香ぁぁ!!」

里香パパが地面に崩れ落ちんばかりに嘆いている。


めちゃくちゃ深刻そうに見えるが……?


しかし寺ノ沢先生と圭介の視点では、違って見えていた。


なぜなら──

先生と里香パパは、すでに挨拶を済ませていた。


その際、パパは普通に元気で、

寺ノ沢先生(人の空気を誤認しがち)はこう思っていたのである。


(ああ、あの人は“激怒プンプン丸”くらいが標準テンションなのだな)


つまり今も、ただ仲の良い親子げんかに見えている。


「お父さんもみんなも、楽しそうですねぇ〜」

と笑顔で言い放つ寺ノ沢先生。


「どこがぁぁぁ!!」

里香の心が叫んだ。


「まあまあ、お父さん落ち着いて」

圭介が心配して二人の間にスッと入る。


だが──その瞬間。


里香父の目がギラリッ!


「圭介くん……! どういうつもりだ!!

私と里香の間に割って入るとは……もしや……

うちの娘と 出来ている なッ!?」


「は!?」

里香が全力で反応。


ここでナレーションが入る。


説明しよう。

里香は愛生の幼馴染み。

当然、愛生の兄である圭介もよく知っている。

湯ノ湖へ里香と圭介・愛生・明宏が釣りに行ったとき、

里香パパは「本当は俺が娘と釣りしたいのに……」と拗ねていたのである。


つまりパパの中で圭介は

“娘を奪った男ランキング暫定1位”

なのであった。


「パパ! 別に私と圭介はそんな関係じゃないから!!」


だが父は首を横にぶんぶん。


「いや!!

圭介“くん”を呼び捨てにするとは……

あきらかに付き合っているッ!!」


「いや呼び捨ては……

ただ普段から下僕扱いしてるだけで……あッ」

里香の言葉が途中で止まる。


全員の視線が、一斉に里香へ向く。


「……………言わなきゃ良かったやつだ」

と小声でつぶやく里香。


一方の圭介はショックでフリーズ中。


(……俺、下僕だったんだ……!?)

という顔で、遠い目をしていた。


場はまたしてもカオスの渦に包まれる。

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