御殿場管釣りキャンプ編 第2話 釣り開始
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
◆ 午後の《東山古トラウトパーク》
標高700mの高原にある東山古トラウトパーク。
午後はゴウッと風が強まり、水面がザバァ……と荒れはじめている。
釣り部一行は受付で「午後券ください」と購入し、釣り場へ向かった。
武士、誇り高き“中古聖具”を召喚する
武士は風が吹く桟橋エリアの端に立つと、
アイテムボックスという名のリュックを胸の前でゆっくり掲げた。
「……来たな。勇者の覚醒の時が。」
パカッ。
中から取り出されたのは――
◆ 聖剣グランロッド(中古1000円)
◆ 勇者の盾リールシールド(中古1500円)
武士の脳内では光が降り注ぎ、風がざわめき、
壮大なBGMが鳴り響く。
「神々に導かれし我が聖剣よ……いま、我が手に降臨せよ……!」
♪ チャララ〜ン ♪(自作脳内オーケストラ)
「そして……風の祝福を受けし勇者の盾よ……
我が身を守りたまえ……!」
武士は中古のリールシールドを
中古1000円のルアーロッド にカチッと装着した。
完璧な儀式を終え、ドヤ顔で周囲を見る。
「……ふふ。どうだ?」
しかし、
・愛生 → スプーンを色順に並べてニコニコ
・花音 → ズボンのポケットにルアーケースを収納中
・圭介 → クーラーボックスを片手で軽々運び中
・里香 → 風速を寺ノ沢先生に報告中
・穂乃花 → リーダーを結ぶのに全集中中
・明宏 → スナップの確認で眉間にシワ
誰も見ていない。まったく気付いていない。
脳内だけ、武士の背後にスポットライトと羽根が舞う。
穂乃花、ライン巻き直し中
(武士:中二病×暴走妄想MAX)
「武士くん、このライン……すっごく糸よれしてるよ?」
穂乃花が眉を下げて、中古リールのスプールを見つめる。
糸はビヨンビヨン。
古さが一周して“芸術作品”みたいになっていた。
「わ、我が聖剣の呪いの帯……!」
武士は震えた声で言う。
「いや、古くて使えないだけだよ。
私新しいライン持ってるから取り替えのえね、武士くんは古いライン引っ張ってね」
と穂乃花。
「お、おう……!」
武士は緊張しすぎて、若干震えている。
古いラインを引っ張ると……
シュルルルルルルルッッ!!
スプールから糸がどんどん抜けていく。
その瞬間――武士の脳内で前世が蘇る。
武士の妄想メモリー①
(前世:穂乃花姫 VS 悪代官)
(あれ〜〜御代官様〜〜お止め下さいませ〜〜クルクル〜)
穂乃花姫の帯が悪代官に巻き取られていく。
(嫌よ嫌よも好きのうちじゃ〜観念せぃ、ゲヘヘヘ!)
悪代官の下卑た笑い。
そこへ――
(姫、今助けに参りましたぞ!!)
勇者武士、颯爽と登場。剣キラーン。
悪代官「バ、バカな!? く、来るなぁぁ!」
(姫、ご無事でございますか……!)
勇者武士は穂乃花姫を抱き寄せる。
(武士様……帯、巻いて、ポッ……)
(お任せあれ、姫……デヘヘ!)
――と、なぜか穂乃花姫の帯を巻き戻す勇者武士。
完全に武士の願望である。
武士、現実へ帰還
シュルルルッと音を立てて糸が抜けきる。
(あぁ……これは……前世で穂乃花姫の帯を巻いた
“あの儀式”……!
まさか、令和の釣り場で……再現されるなんて……ッ!)
完全に興奮状態。
そして新しいライン巻きへ
穂乃花は自然体で、新しいラインをスプールに結び始める。
「はい、武士くん、ここ押さえて〜」
(ふおおおお……姫からの直接命令……!
これは結婚前の共同作業……!!)
武士は震えながらラインを押さえる。
ただ押さえてるだけなのに、魂が抜けそう。
二人でくるくるくると糸を巻いていく。
(穂乃花姫……あの日と同じ……
寄り添うような距離感……
かすかに触れる指先……
共同作業……これはもう婚約……!)
現実ではただの釣り具メンテである。
スプール完成
穂乃花「はい、巻き直し終わったよ。
じゃあスプール外して、グリス塗るね」
武士は手が震えながらスプールを外し、
スピニングリール用グリスを塗る。
(あぁ……これは……
前世で穂乃花姫の指に婚約指輪をはめた儀式……!
ついに再来したのだ……!)
穂乃花「はい、じゃあスプールはめるね?」
穂乃花が武士に近づく。
ふわり、と穂乃花の自然な香りが武士に届く。
胸元もふわりと揺れる。
武士は――
(ち、ちか……っ……!
姫の香り……っ……!
あ、あのふくよかな胸の揺れ……っ……!
ちょ、ちょっとまって……オレ……
う、うごけ……)
ガクッ
武士、失神寸前。
「……っひゃ、姫の、共同作業……共同作業……///
あっ、手が、姫の白い手が、俺のリールに触れて……
リールになりたい……リールになりたい……」
横で武士がデレ顔でブツブツ言っている。
断片的な妄想ではあったが、穂乃花にはじゅうぶん伝わる。
(……うわ、武士くん……気持ち悪すぎるよ……)
と穂乃花は内心ドン引き。
いや、表情にも出ていたかもしれない。
ライン交換が終わると、武士は急にキリッとした顔になって穂乃花に向き直った。
「――姫、準備も整った。
俺と二人で釣り、しようか……?」
ニヤリ。
完全にどこかの悪役みたいな笑み。
穂乃花は一歩引いた。
「う、う〜ん……私ね、里香と釣りする約束あるから、また今度ね!」
なんとか逃げようとする穂乃花。
まさに脱兎のごとく。
そのとき――
ちょうど明宏が通りかかる。
「あ、明ちゃん! 武士くんに釣り教えてあげてね!」
「えっ、俺が……?」
大好きな穂乃花先輩の頼みだ。断れるはずがない。
明宏は小さくため息をつきつつ頷いた。
「……わかったよ、穂乃花先輩」
一方武士は――
「チェッ……よりによってゴブリンに教わるのかよ……」
「……誰がゴブリンだよ」
明宏が振り返ってツッコむ。
「っ!? い、今の……聞こえてたのか!?
俺の心の声、だぞ!? 何で!?」
「いや、それ全部口に出てるから。普通に聞こえてるから」
「俺……声に……出てた……?」
「全部な」
武士は自分の口元に手を当てて震えた。
「じゃあ……さっきの“姫と共同作業……リールになりたい……”も……?」
「ばっちり聞こえてたよ」
穂乃花は笑顔(目が笑ってない)。
武士はその場でくずおれた。
こうして――
武士の心の声ダダ漏れ事件は、部活中で密かに語り継がれることになるのだった。
◆花音と愛生、釣りデビューの儀(混乱付き)
「圭兄ちゃ〜ん! 教えても〜らおっと!」
花音はルアーロッドを片手に、猫みたいにキョロキョロ周囲を探した。
だが、圭介の姿はどこにもない。
その頃――
圭介は少し離れた場所で寺ノ沢先生と一緒に、部員たちの様子をそっと見守っていた。
「お兄さん、あまり助けすぎては学びになりません。見守りましょう」
「……了解です、寺ノ沢先生」
どうやら“甘やかし禁止ルール”が発動しているようだ。
花音はぷくっと頬を膨らませた。
「ちぇ〜……圭兄ちゃんいないにょん。
しょうがないな〜、妹ちゃんに教えてもらおうっと」
花音はニコニコしながら愛生のもとへ駆け寄る。
「愛生ちゃん〜、釣り教えてにょん♡」
「うん、いいよ。最初から“花音ちゃん”には教えなくちゃって思ってたから」
「え〜、かにょんのこと心配してくれてたんだ〜?
妹ちゃんはえらいにょん♡」
花音はそのまま愛生の頭を“撫で撫で”する。
愛生は眉をひくっと動かし、諦めたようにため息をついた。
「……もう面倒くさいから、私、妹でいいや」
愛生は気を取り直し、真剣な表情でロッドのガイドにラインを通していく。
「よいしょ……よいしょ……ここ通して……あ、絡まった……よいしょ……」
自然と声に出る愛生の“作業ボイス”。
その横で花音は目をキラキラさせた。
「妹ちゃん、かわいい〜〜い♡」
ぎゅうう、と愛生に抱きつきながら――
スマホをスッと出して“自撮りモード”に切り替える花音。
無駄のない流れるような動きだった。
カシャッ――☆
「……ん? なに今の音」
「フフフフ……妹ちゃんとの自撮り、SNSにアップするにょん♡
今日もイイネをいただくにょん……!」
満足げに画面を見つめる花音。
一方の愛生は、まだガイドにラインを通しながら
(……釣りってこういう感じだったっけ?)
と、よくわからない混乱の渦に巻き込まれていた。
今日も“自称姉”に振り回される妹なのであった。
◆花音と愛生、タックルセッティングで大奮闘!
「え〜っとね、花音ちゃん……釣り竿にリールを取り付けたらぁ……
この釣り糸をガイドに通すの。で、その先をスナップに結ぶんだけど……
あれ? 結び方って……こうだっけ?」
愛生は眉をハの字にしながら、真剣に花音へ説明を試みる。
しかし本人が一番“あれ?”となっていた。
いつも圭介に結んでもらっているため、記憶が完全にフワフワだ。
「よいしょ……よいしょ……えいっ……」
ガイドに糸を通すたびに小声が漏れる。
作業ボイスがいちいち可愛い。
その横で花音は――
「ふふふ……今日の妹ちゃんとの釣りデビュー♡」
と、完璧な角度で自撮りを撮りつつ、SNSへアップロード中。
#釣り女子 #妹ちゃん可愛い #初心者フィッシング
ハッシュタグだけはプロレベルである。
一方の愛生はスナップと格闘していた。
「よいしょ……よいしょ……あれ? 抜けちゃった……
え〜ん……また失敗したぁ……」
何度も結んではほどけ、ほどけては泣きそうになる。
花音は気づいているが、
“妹ちゃん頑張る姿を見守る姉”ムーブを決めたいので黙って見守る。
「……よいしょ……よいしょ…………や、やったーっ!!
結べたよ花音ちゃーん!!」
両手を広げて大喜びする愛生。
その瞬間――
花音は反射的にスマホを背中に隠す。
(証拠隠滅、素早い)
「すごいにょん、妹ちゃんえらーい♡」
花音は満面の笑みで頭をなでなでする。
愛生は誇らしげに胸を張った。
こうして今日も、
“姉”と“妹”を巡る攻防(?)をしつつ、仲良し従姉妹の釣りは始まるのであった。
その頃、何故か元気のない虚ろな様子の里香が1人佇んでいた。




