御殿場管釣りキャンプ編 第1話 ゆるキャンスタート
〜早朝の学校、旅立ちの刻〜
まだ空が薄桃色に染まりはじめたばかりの早朝。
校庭には、部活とは思えぬほどガチなテントやクーラーボックスが山積みされていた。
そこへ、白いワンボックスカーから颯爽と降り立つ男──
兄・圭介。
妹の愛生、弟の明宏、いとこの花音から絶大な信頼を寄せられる“みんなのお兄ちゃん”である。
「よし、テントは俺が積むから、みんなは軽めの荷物頼むね」
優しく声をかける圭介に、女子達は思わずほわっとする。
……が、圭介の内心はこうだ。
(里香ちゃんと一泊二日……尊い……)
決して表には出さないが、心はほんのり祭り状態である。
✦ 寺ノ沢先生、俳句とともに現る ✦
「やあ、みんな早いな。では荷物、こちらにまとめよう」
顧問の**寺ノ沢先生(男)**は、落ち着いた声で指示を出しながら、
隙あらば俳句帳を開き、なぜか荷物運びの合間に一句。
「朝靄に 鱒の影ゆれ 旅はじむ」
上級者アングラー+俳句好きという渋すぎる組み合わせだが、
生徒たちからは妙に人気がある。
✦ 愛生、かわいいワールド全開 ✦
「ふふ〜ん♪ 今日のキャンプぜったいかわいいしか勝たん♡」
サンリオ女子・**愛生**は、
早朝にもかかわらず満面の笑み。
ちょっぴりふっくら、ちょっぴりアホで、とっても愛されキャラ。
「てか……お腹ペコリーヌなんだけど〜」
まだ7時前である。
✦ 明宏、釣りに想いを馳せる ✦
「芦ノ湖のデカマス……いつかぜったい釣る……!」
釣り吉少年・**明宏**は、
積み込み作業中もずっと妄想でロッドを振っている。
その真剣さは、まるで今日も戦いに赴く戦士のようだ。
(ちなみに彼は釣具はネットでは買わない。ロッドとリールは必ず現地調達主義である)
✦ 花音、天使系釣りガール準備完了 ✦
「んふふ♡ 今日から釣りガールJKかにょんの伝説が始まっちゃうにょん♡」
アイドル級美少女の**花音**は、
すでに自撮り棒を伸ばし、天使ポーズを10パターン撮影済み。
学校では姫キャラだが、
部活動ではぶりっ子全開の“天使モード”になる不思議な美少女である。
「圭兄ちゃん、これ重いから持って〜♡」
花音からの甘え、圭介はもちろん断れない。
✦ 里香、しっかり者の頼れる美女 ✦
「花音、その荷物はこっちに置いて。効率悪いでしょ」
強気美少女の**里香**が、
テキパキと積み込みの指揮をとる。
管釣り上級者の目は鋭く、
男子からは“強すぎてちょっと怖い”と言われがちだが、
女子からの信頼は絶大。
圭介はそんな彼女に密かにときめいているが、誰にも言えない。
✦ 穂乃花、みんなのお姉さん ✦
「愛生ちゃん、荷物重くない? 明宏くんも無理しないでね」
四人兄弟の長女・**穂乃花**は、
今日も完璧なお世話焼き天使。
里香のクールさとも、花音の姫感とも違う、自然体の優しさに満ちている。
部員たちの癒し枠である。
✦ 武士、今日も異世界に生きる ✦
「ふっ……この旅は、勇者である俺と、穂乃花姫との宿命……
前世から続く絆、今日こそ覚醒の時……!」
**武士**は、今日も中二病フィールド全開。
異世界転生ものを愛しすぎて、
自分自身が転生者だと思い込んでいる少年だ。
ただし、前世の恋人設定にされている穂乃花は、
「いや……ほんと無理……」と内心距離を置いている。
武士が気づくのは、もう少し先の話である。
✦ いざ、御殿場へ! ✦
寺ノ沢先生、愛生、里香、穂乃花、明宏、花音、武士は
荷物を背負いながら駅に向かう。
「電車楽しみ〜! かわいい駅弁とかあるかな〜♡」(愛生)
「まずはポイントの地形チェックだな……」(明宏)
「ねえねえ、インカメの方が光盛れるんだけど〜♡」(花音)
「とりあえず静かに歩いてください」(里香)
「今日の旅は 春風まとい 鱒を追う」(寺ノ沢先生)
その後ろ姿を見送りながら、
圭介は爽やかに微笑み、自動車へ戻ろうとした——その瞬間。
「お兄ちゃぁ〜んっ!」
パタパタパタッと、小動物みたいな足音が近づき、
いとこの花音が全力疾走で圭介に飛びついてきた。
「御殿場までお兄ちゃん、ひとりぼっち旅なんて……」
花音は潤んだ瞳で圭介の手をぎゅむっと握る。
「かにょんが一緒にいてあげられないなんて……
お兄ちゃんに寂しい思いをさせちゃうにょん……!」
……花音、完全に“姫モード”である。
圭介はちょっとたじろぎながらも、苦笑いで頭をかく。
すると、その様子を遠くから見ていた里香と目が合った。
スッ……
里香、無言で視線をそらす。
しかもわざとらしいレベルで “フンッ!” とプイッ。
※鼻で笑ったわけではないが、完全にそう見える威力。
圭介(……なんだ今の、かわいい。)
空気がちょっと甘酸っぱくなる中、圭介は花音の手をそっと離し、
「俺は先に行ってるからさ。
みんなで仲よく電車で来るんだよ。ちゃんと良い子にしてな?」
と、ソフトな保護者スマイルで告げる。
花音はこくん、と子猫みたいに頷く。
「うんっ。かにょん、いい子にして待ってるにょん……!」
こうして、
・姫キャラ全開の花音からの全力の“見送り攻撃”
・ツンすぎるのに少し顔が赤い里香の横目プイッ
を背中で受けながら——
圭介はワンボックスカーへ静かに乗り込んだ。
花音が圭介に甘え倒しているのを横目に、
愛生はぷくーっと頬をふくらませていた。
(……お兄ちゃん枠、完全に花音に奪われてるんだけど?
かわいいしか勝たん私の立場、どこいったの??)
だが今日はキャンプ。
愛生は“お腹ペコリーヌ”にならないために、あえて大人の我慢を選ぶ。
「じゃ、行くわよ!」
里香が部長らしく腕時計をとんっと叩いて、駅へ向けて歩き出す。 寺ノ沢先生、穂乃花、花音、明宏、愛生がその後ろにずらりと続いた。
駅に着くと、里香が点呼を始める。
「先生、穂乃花、花音、明宏……はい、全員いるわね」
「はい、全員いますー」 と、ドヤ顔で寺ノ沢先生に報告する里香。
――その瞬間。
どこかのトイレの個室で、中二病の呪文が唱えられていた。
「……封印解除(用は済んだ)……
勇者武士、ここに降臨す——」
当然、誰も聞いていない。
電車がホームに滑り込み、
みんなは普通に乗車する。
ガタン、シューッ。
そのときだった。
「まっ……待たれよーーー!!」
階段の上から、勇者(自称)が全力で駆け下りてきた。
シャツをひらめかせ、謎のポーズを取りながら。
しかしドアは無情に閉まる。
ガシャン。
電車は動き出す。
車内で、寺ノ沢先生がポツリ。 「……あれ、武士くんは?」
里香も腕組みしながら眉をひそめる。 「……忘れてた。」
穂乃花「あっ……武士くん……かわいそう……!」 愛生「また空気化してる……」 明宏「モブの宿命……」
花音は肩をすくめて、 「かにょん、最初から居なかった気がしてたにょん」
というわけで、
“忘れられし勇者武士”を回収するため、
一行は乗り換え駅で待機することになった。
「勇者なのに……扱いがモブ……」
と、小さく震える武士を思い浮かべる一同。
――やはり、モブキャラは忘れられる運命なのだった。
色々あった――いや、武士が忘れられたり、また忘れられたりしただけだが――
そんな紆余曲折の末、一行はついに目的の駅へ到着した。
バスへ揺られてキャンプ場に着くと、
すでに圭介がワンボックスカーの前で爽やかに手を振っていた。
「おーい、みんな!」
「お兄ちゃん〜〜♡」
花音が走り、
その後ろで愛生がじと目で見ている。
(また……妹ムーブしてる……)
◆◇◆
チェックインを済ませ、荷物を運んだら、いよいよテント設営タイムだ。
しかし。
テント前で両手を掲げ、
ひとりブツブツ唱え始める男がいた。
――武士。
「……降臨せよ、聖なる結界……
野営陣、展開ッ……!!」
テントは沈黙している。
そりゃそうだ。
「おい武士、ブツブツ言ってないで手ぇ動かせよ!
釣りの時間なくなるだろ!」
年下の明宏が腰に手を当てて叱る。
武士はくわっと明宏をにらみ、
「くっ……ゴブリン風情が生意気な……!」
と、勇者らしきセリフを吐いた。
明宏の顔がほんの一瞬、
まじでゴブリンの緑色に見えたのは――武士の脳内だけだ。
「ゴブリンじゃねぇよ!」
「ギャアアア(※想像)」
「だから鳴き声つけんな!」
すでにカオスだ。
◆◇◆
なんやかんやで全員で協力し、テントはきっちり設営完了。
「よし、じゃあ行きましょうか」
と寺ノ沢先生。
一行はは管理釣り場へと向かっていく。
武士は前を歩く明宏を見て、小声でつぶやいた。
「……ゴブリンめ……魚くらいは譲らんぞ……」
「聞こえてるぞ!!」
今日も平和である。




