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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
85/119

異世界勇者転生編 第4話 中古釣具店は冒険者ギルド

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

――その夜、勇者武士は机に両肘をつき、

ロウソクの炎を見つめながら深く考えていた。


週末の鱒釣り部による御殿場管釣りキャンプ――

それは新たな戦場。

トラウトという未知の魔獣が潜む神秘の湖。

そこへ赴くには、ロッドリール

そして夜営の寝具スリーピングバッグが必要不可欠であった。


「ふむ……装備なくして戦はできぬ……。

 ゆえに我、母上殿より資金援助を受けねばならぬのだ……」


決意を胸に、勇者は立ち上がった。

カーペットをマントのように翻し、台所へと歩み出る。


「母上殿……!」


洗い物をしていた母ちゃんが振り返る。

「な、なに? 急にどうしたのよ、その喋り方……」


「我が使命、御殿場の地にて“管釣りキャンプ”なる試練が待ち受けております。

 ゆえに、戦に必要な装備――釣り具と寝袋を、授けてはもらえぬか!」


母ちゃん、ぽかーん。

一瞬沈黙。

そして、次の瞬間――


「……えっ、部活、行くの? あんたが!?」


「うむ。もはや逃げぬ。仲間が、我を待っておるゆえ。」


母ちゃん、目を見開き、口元に手を当て――

「う、う、嬉しいわああああっ!!!」


蛇口の水も止め忘れ、涙がポタポタと落ちる。

「うちの子が……! あの引きこもり気味だった子が……! 仲間だってぇ……!」


武士は照れ隠しのようにマント(カーペット)を翻し、

「泣くでない、母上殿。これは勇者として当然の使命なのだ。」


「もうっ……うれしすぎる……! ほら、これで釣り具でも何でも買ってきなさい!」

と財布を取り出し、金貨(現金)を授ける母上。


武士、深く頭を下げる。

「恩に着る、母上殿。汝の慈愛、必ずやこのロッドに刻もう。」


翌日。

朝の光がカーテンの隙間から差し込む中、

武士は装備調達の旅へと出発した。


「向かうは――“タッコロベリー”!」


異世界の冒険者ギルドのような名を持つ中古釣具店。

そこに、彼の新たなる聖剣タックルが眠っているという。


地図アプリを見ながら、武士は呟く。

「運命は風が導くままに……いざ、出陣!」


母ちゃんお手製のおにぎり(“冒険者の携帯糧食”)を腰袋に忍ばせ、

背中にリュック、心に決意、そして頭には少しの中二魂を宿して――


勇者武士、

いま、“タッコロベリーの試練”へと旅立つ。


「……いよいよ、この時が来たか。」


背中には決意、手には震える覚悟。

武士はゆっくりと構えをとる。


まず――両手を正拳突きのようにビシッ! ビシィィッ!

空気を切り裂くように突き出す!

「ハッ! セイヤッ! フンッ!」

そのたびにシャツの裾がひらめき、

落ち葉が「ひらひら」と舞い上がる。


そして――

右手をぐっと広げ、天へと高く突き上げる!


「我が魂よ、天空に轟けぇぇぇッ!!」


……からの、なぜかしゃがみ込み。

「沈め……ハーディオンの力よ、今こそ顕現の時!」


静止。

張りつめる空気。


そして、勇者は勢いよく立ち上がり、くるりと一回転!

(謎のエフェクト音が脳内で鳴る!)


叫ぶ――

「ハーディオォォォォン!!!」


その瞬間――風が吹き抜け、

駐輪場の隅に停めてあった一台のチャリのボディカバーが、

バサァァッとめくれ上がった。


きらり、と夕陽に反射する銀色のハンドル。

少しサビたペダル。

カゴには釣り具パンフレット。


「……ふっ。今日も見事な降臨だな、我が召喚獣――ハーディオン。」


武士はママチャリに手を添え、まるで伝説の竜に触れるように頷いた。

通りすがりの小学生たちが、「なんか変な人いる」と小声で言い合う中、

勇者は堂々とサドルにまたがる。


「行くぞ、ハーディオン。タッコロベリーの地へ――出陣だ!!!」


――夕陽にきらめくママチャリ。

その姿は、まるで異世界の英雄と鉄の駿馬のように(本人比)。


♪タララララン♪

♪タラッタッタタララン♪


武士はハーディオンにまたがり、胸を張って走り出した。

その鼻歌は、まるで異世界勇者専用BGM。

自分で作曲し、自分で演奏し、自分で酔いしれるという完全自給式。


「フッ……風が俺を抱いている……」

と呟くが、実際には時速12km。

微風が前髪をほんの少し揺らす程度である。


すれ違うご婦人方が「あら……?」「あれ何してんの?」とひそひそ言い合う。

中学生たちが「何あのポーズのままチャリ乗ってんの」と笑いをこらえる。


しかし勇者には届かぬ!

いや、届いているが意地でも気づかぬフリをしているだけだ!


「見よ、この疾走……! この風を切り裂く軌跡……!」

と心の中で叫ぶ武士。


(実際)

風を切る → 微風を浴びてるだけ

疾走 → 普通のママチャリの平常運転

軌跡 → 特にない


だが、その額にはきらりと汗が光る。

息を切らしながら、しかし気高く背筋を伸ばし続ける。


その姿は、

――まるで己の妄想世界に生きる勇者(現実:自転車で移動中)。


向かう先は伝説の武器屋……

ではなく、

中古釣り具店「タッコロベリー」。


武士の胸は高鳴り、テーマソングはさらに加速する。


♪タラララランッ!

 タッコロベリー、いざ見参!!♪


武器屋――いや、中古釣り具店タッコロベリーに

ついに降臨した勇者・武士。


自動ドアがウィーンと開き、

そこへ颯爽と……ではなく、ややビビり気味に入店する。


店内にはごく普通の釣り客たち。

ルアーを眺め、「これ良くね?」「去年これで爆釣したんだよ」など

穏やかに語り合うだけの平和な光景。


だが、勇者の耳には違うように聞こえる。


「ククク……見ろよ、お子ちゃまが来たぜ……」

「坊やはママのミルクでも飲んでな……」


もちろん、誰もそんなこと言っていない。

ただ釣り具を見てるだけ。

しかし武士の妄想は本日も絶好調である。


レジ前の“試練”


レジには若い女性店員が立っていた。

清潔感ある営業スマイルが眩しい。


武士(心の声)

武器屋の受付は本来、髭もじゃの屈強な店主が腕組みをして仁王立ち……

なのに……なぜだ……なぜ若い女子が俺を見て微笑んでいる……!?


警戒と興奮が混ざった複雑な表情で、

吸い寄せられるように、香りに釣られるように、

ふらふらとレジへ近づく。


女性店員「いらっしゃいませ〜」

(ただの営業スマイル)


武士、たまらず声を絞り出す。

「……あの〜、初めてなんですが〜」


女性店員「初めてのお客様ですね!

では、会員登録はいかがですか?」


武士(脳内変換)

――なに? 会員……登録……?

なるほど、ここは武器屋と冒険者ギルドを兼任しているのか……

どうりで周囲の客が屈強な冒険者(※ただの釣り人)に見えるわけだ……!


女性店員

「入会費は500円で、入会特典として1000ポイントがつきます。

お友達紹介キャンペーンもありまして……」


武士(脳内変換)

――友だち紹介……

これはつまり、冒険者パーティーを組めということか……!!


女性店員(現実)

「……え?」

(なぜ“パーティー”という単語が出てきたのか困惑)


武士は誇らしげに胸を張る。


「俺の腕前はSランクだ。

だが、このギルドでは初心者……すなわちFランクから始まるのだな……!」


女性店員

(……ゲームの話してる? え?)


面倒くさそうに目をそらす店員の視線さえ、

武士には「ギルド受付嬢の試すような眼差し」として受け取られている。



だが彼の冒険はまだ終わらない。

むしろ始まったばかりである!!


戦え、武士!

負けるな、武士!

勇者武士、ここにあり!!



そして週末、鱒釣り部による御殿場管釣りキャンプの朝を迎えた玄関――


いままさに“勇者武士”、伝説の戦い(部活動)へ旅立とうとしていた。


アイテムボックス(ただのリュック)には、

聖剣グランロッド(1000円の竿)

聖なる盾リールシールド(1500円のリール)

光の羽衣(寝袋)

……がギュウギュウに押し込まれている。


武士、靴を履く。その瞬間――


父、突然の主題歌全開


「男なんだろ、グズグズするなよッ!!」

玄関に響く父の魂のシャウト。


武士びくっ


父は腕組みし、天を見上げ、串田アキラの魂を降臨させていた。

母は小さく拍手。完全にライブ会場。


「胸のエンジンに〜火をつけろッ!!」

「俺はここだぜ一足お先ッ!!」


止まらぬ父のテンション。

ついに武士も巻き込まれ――


父と息子のメタルヒーロー合唱が始まる


「若さ若さってなんだ!!」


「振り向かないことさーー!!」


「愛ってなんだ!!」


「躊躇わないことさーー!!」


ふたりのハモリが朝の住宅街にこだまする。

通りがかった柴犬散歩のおじさんが若干ふり返るほどの熱唱。


そして、二人の拳がカチンとぶつかる。


「武士、あばよ涙ッ!!」

「武士、よろしく勇気ッ!!」


最後は満を持して――


「宇宙刑事、タケシ〜!!」


(※彼は宇宙刑事ではありません)


旅立ちの言葉


息を切らしながら武士は言う。


「じゃあ行って来るぜ。

 俺は宇宙刑事じゃなく、勇者だけどな……!」


父は真剣な顔で頷く。


「くれぐれも魔空空間には引きずり込まれるなよ……!」


武士も真剣に返す。


「もし引きずり込まれたら……

 俺のレーザーブレードで、タケシダイナミックだ……!」


母(心の声)

会話がどんどん宇宙刑事寄りになってない?


召喚獣、呼び出し


武士は空へ片手を掲げ、正拳突き連打しながら叫ぶ。


「来いッ!!

 我が召喚獣――ハーディオォォォン!!」


(実際)

玄関先のママチャリのカバーを外しただけ。


しかし武士の目には、

青白いオーラをまとった召喚獣が現れたように見えている。


出陣


武士、玄関先で呪文を唱える。


「筋力増強!敏捷+5!防御+3!

 ウィンウィンウィン……!」


(本人イメージ:身体が光に包まれる)

(現実:ただストレッチしてるだけ)


すべての儀式を終え、

ついに勇者武士はハーディオンにまたがる。


「では父上、母上……

 勇者武士、いざ参る!!」


キコ…キコ…キコ…


普通にママチャリをこぐ音。

しかし武士の耳には「ギュイィィン!!」と巨大メカ音が響いている。


見送る両親


母は両手を胸に当て、涙をこぼす。


「ぼっちだったのに……仲間とキャンプだなんて……お母さん……う、うれしい……!」


父はそっと母の肩を抱く。


「……メタルヒーローに、また一歩近づいたな……あいつ……!」


ハーディオン(ママチャリ)は朝の風を切り、

勇者武士は小さくなっていく――。


その背中、妙に丸いけど、確かに輝いていた。

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