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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
83/119

異世界転生勇者武士 第2話 勇者逃走

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

放課後。

鱒釣り部の部室には、今日もゆるい空気が流れていた。


ロッドが壁に立てかけられ、机の上には釣り雑誌と、愛生の可愛いマイスィートピノノちゃんポーチ。

明宏は「このスプーン、やっぱりトラウトに効くんだよな〜」とマイタックルを磨いている。


──そして。

そこにいるはずの一人の男の姿は、なかった。


勇者・田中武士(現世Ver)。


昼休みの“隠密スキル双眼鏡事件”により、彼は今、羞恥心ダメージ9999を受けている。


結果:部活動不参加。


「……来なかったね」

と、穂乃花が心配そうに呟く。


優しい。

それが彼女の罪であり、美徳でもある。


「まあ、あれだけのことしたら、来にくいでしょうね」

冷静に分析するのは里香。


「てか、何でのぞいてたの? 意味わかんない」

と肩を落としながらも、心のどこかで直接問い詰めたい気持ちがあった。


しかし、問い詰める相手がいない。


「……はぁ」

溜息ひとつ。

その様子を見て、愛生がのほほんと笑う。


「まぁまぁ、放っておけばそのうち来るよ〜。きっと今ごろ、自室で“勇者の修行”とか言って呪文唱えてるんじゃない?」


「うわ、ありそう」

と明宏が即同意。


「エクスプロージョン」

とか叫んでそう、と里香も同意


結論:

武士不在でも、鱒釣り部には何の支障もない。


いや、むしろ静かで平和だった。


「なんか今日、部室の空気がスッキリしてるね〜」

と愛生。


「……本当に、静か」

と里香が同意する。


「……」

(※唯一、ほんの少しだけ寂しそうな穂乃花を除いて。)


まさに**“平和”**という言葉が似合う部室。


そんなとき──


ガラガラッ


ドアが開いた。


「全員集合していますね」


入ってきたのは、寺ノ沢先生。

(※何故か“全員”と言い切っているが、部員の一人・武士の存在は記憶の彼方である)


「本日から新しく入部する生徒さんを紹介しますね。

 既に皆さんとは仲良しと本人から聞いていますよ」


一同、顔を見合わせる。


「わぁ、誰だろ?」と穂乃花。

「まさか……」と里香。

「やっぱり来た〜」と愛生。


ガラガラッ(2回目)


ドアの向こうから現れたのは──

赤く大きなリボンをなびかせ、

スカートをふわりと翻し、

まるで舞台に上がるプリンセスのように登場する少女。


「先生、この度は快く入部を受理して下さり、心より感謝致しますわ」


深々とお辞儀するその姿──花音、堂々の入部である。


「わぁ〜! 花音ちゃん!」

穂乃花がぱぁっと笑顔を咲かせる。


「……ちょっと面倒くさそうなの来た」

と、冷静な里香。


「やっぱり来た〜。はいはい、想定内〜」

と、悟り顔の愛生。


花音はそんな三者三様の反応をものともせず、

赤いリボンを軽やかに揺らしながらスカートをなびかせ、

優雅に里香の隣へ座る。


「んしょ」

(※要らぬひと声つき)


そして、上目遣いで微笑みながら──


「わぁ〜、放課後も里香ちゃんと穂乃花ちゃんと一緒、嬉しいにょん」


瞬時に切り替わる。

“淑女モード”から“天使なかにょんモード”へ。


にこっ、きゅるるん。

効果音まで聞こえそうな破壊力である。


しかし、さすがは寺ノ沢先生。

長年の教員経験から、動じない。


(……こういう生徒、若干珍しいけど何人も見てきたな)

と思いながら、淡々と部活動の書類を取り出す。


「では、花音さん。鱒釣り部への入部、正式に認めますね」


「ありがとうございますわ」


こうして──


新たなる波乱の種、もとい新入部員・花音が鱒釣り部に加わった。


平和だった部室に、再びカオスの風が吹き始めるのであった──。



そして、数日後の夕暮れ。

自室にこもる男・田中武士。


机の上には、鎧姿の美少女フィギュアたちが整列。

テレビでは、異世界転生アニメが熱く展開中。


「フッ……やはり異世界こそ我が魂の帰る場所……!」

と、真顔でつぶやく武士。


──あの昼休みの“双眼鏡(隠密スキル)事件”から数日。

彼は教室で穂乃花とは一切話していない。

そして、部活にも姿を見せていない。


だが、本人の脳内では──


「きっと穂乃花姫は、俺を気にかけて仕方がない頃……」


そう、確信していた。


【妄想モード ON】


──花びら舞う王城の庭園。


ドレス姿の穂乃花姫が、星空の下で涙をこぼしていた。


「あぁ……勇者武士様。何故、貴方様は私にお声がけなさらないのですか……」

(※声のトーンは完全に少女アニメ)


「穂乃花は……海よりも深い愛で、貴方様をお慕い申しているというのに……オロオロ、シクシク……」


その姿を見た勇者・武士。

マントを翻し、夜空を見上げながら語る。


「愛しの姫よ……。

 私は勇者。民を守る者ゆえに、軽々しく愛を語ることはできぬのだ……。

 なぜなら──明日、尽きるやもしれぬ命だから!」


(※背景には無駄に流星群)


「貴方様の民を想うお心は夜空に輝く星々のように広く深く尊い……

 そんな勇者様の愛を……ほんの少しだけ穂乃花にください……」


「愛しています、武士様……!」


「穂乃花姫……それ程までに俺を……!?

 ならば今ここで誓おう!」


天を仰ぎ、剣を掲げる武士。


「幾千光年もの銀河を駆け巡る程の広大な愛を、君に──!!

 穂乃花! 愛しているのはお前だけだッ!!!」


(※爆発的エフェクト・星屑シャワー)


【妄想モード OFF】


現実:六畳一間の自室。


テレビの中では、異世界アニメのエンディングテーマ。

BGMがやたら感動的に流れている。


「……よし!」


武士は勢いよく立ち上がった。


「明日からは部活に参加して、穂乃花姫と愛し合おう!!」


拳を握る武士の瞳に、妙な決意が宿る。


だがその瞬間──

机の上のフィギュアがコトンと倒れた。


「……おぉ、すまぬ勇者仲間よ。嫉妬か……?」


と、真顔で謝る武士。


──こうして、現実と妄想の狭間で生きる少年・田中武士。

彼の勇者伝説は、まだ始まったばかりである。



翌日の教室。


──静寂。


田中武士、黙して語らず。

ノートを開いても、ペンを持っても、何ひとつ書かない。


いや、正確に言えば――


前の席の穂乃花のシャンプーの香りを全力で堪能していた。


「ふっ……今日も尊い。穂乃花姫の香り……まさしく森林の清流……」

(※実際は普通のシャンプーの香り)


その香りを吸い込みながら、武士は心の中で呟く。


「放課後の部活……カッコよく決めるぜ、勇者モード全開でな……!」


そして放課後。


ついにその時が来た。


「よし、時はきた……」

机を拳でドンッと叩き立ち上がる武士。


(隣の席の男子が小さくビクッとなった)


「この数日間、俺が部活を休んでいたことで穂乃花姫の心は、

 不安と恋慕に満ちている……。

 愛の炎がいま──最高潮に燃え上がっている頃合いッ!」


ふふふ……と、笑いをこらえきれずにニヤつく武士。

(その顔を見た女子たちは距離をとった)


【妄想モード ON】


──部室のドアを開ける武士。


ガラガラ……


「武士くんっ!」

穂乃花が涙目で駆け寄る。


「ここ数日、全然お話しできなかったし……部活もお休みだったし……

 穂乃花、心配してたんだよぉ……!」


「済まない、穂乃花……だが俺は勇者。

 闇の王と戦う運命を背負っているんだ。察してくれ……」


「うん……わかってるよ……でも穂乃花、寂しくて……」


──そして、穂乃花は武士の胸に飛び込む。


「穂乃花……!」

「武士様……!」


強く抱き合う武士と穂乃花


(背景:光の粒子と花びらが舞う。BGM:「恋する勇者」)


【妄想モード OFF】


――放課後。

夕陽がオレンジに染める廊下の奥、ガラガラッと勢いよくドアが開く。


「勇者、参上ッ!!」

胸を張って、光り輝く(※本人比)笑顔で入室する武士。


中にはすでに5人――里香、穂乃花、愛生、明宏、花音。

全員の視線が一瞬、ピタリと武士に集まる。


……が。


次の瞬間、5人のうち5人とも、完璧に目を逸らす。

空気の温度、3℃低下。


(ふっ……俺の勇者力に、言葉を失っているな)

と、確信する武士。


「……はぁ〜〜〜……」

部屋の隅からため息。

部長・里香の肩が、あきらかに“面倒くさい”の形で落ちる。


「武士くん。穂乃花を覗き見して、数日も無断欠席して……今さら何しに来たの?」

「えっ、いや、僕は……」


武士、ちらりと穂乃花を見る。

穂乃花、そっぽを向く。


(あっ……あれ? 護衛対象が目を合わせてくれない……?)


明宏は鼻をほじりながら、心の底からどうでもよさそう。

愛生は腕を組んで、ぷくっと怒り顔。

花音は「誰この人?」と真顔で首をかしげている。


空気の重みが、武士の勇者マント(※脳内設定)を押し潰す。


しばしの沈黙の後


「おい、何か言えよ」

里香の声、低い。冷たい。怖い。


「ぼ、僕は……勇者なんだ……!」


「はぁ~、みんなに迷惑かけて勇者なの?」


「そ、そうだ!僕は勇者なんだ!だから覗き見なんかじゃない!穂乃花姫を護衛してたんだ!」


穂乃花、眉を下げて。

「私、武士くんに護衛なんてしてほしくないよ。普通にお話すればいいのに……」


「えっ!? 俺に話しかけられたいの!?」

「……話しかけられたくはない、かなぁ〜」


(!?!?!?!?!?)

勇者、瀕死。


「おい、話それてるぞ」

里香、眉間のシワ深度MAX。


「ヒィィィッ!」

武士、完全防御モード。


「お前、勇者なんだろ?だったらコソコソすんなよ。

 マジでウゼーし、キモいし、キショいんだよ。」


\クリティカルヒット!/


――勇者、致命傷を負う。


その横で、愛生がひそっと尋ねる。

「花音ちゃん、何してるの?」


「面白いから、武士の発言メモするにょん♡」

花音、満面の笑みでカリカリとペンを走らせている。


「『勇者なんだ!』ってところ3回も言ったにょん。名言コレクション入り決定にょん♪」


――完全にネタ化。


部室の空気:静寂+微妙な笑い。

武士の心:粉砕+号泣。


「うわぁぁぁぁぁん!!」

大粒の涙をポロポロこぼしながら、

勇者武士、ドアを開けて――


退 散 で あ る !!!


――勇者、涙の撤退から数分後。

静まり返った部室には、微妙な後味と、わずかな笑いの余韻が残っていた。


「……泣いて出てっちゃよ」

愛生、ぽつりと呟く。


「面白かったのに残念だにょん」

花音、口を尖らせながらメモ帳をパタンと閉じる。

(※本日の見どころ「勇者、泣いて逃走」)


明宏、机に頬杖をついて、

「……どうでもよくね?」


里香は腕を組み、どこかスッキリとした顔。

「言いたいこと、大体言えたし。」


部室の空気、意外にもサッパリ。


――しかし、その中でひとり、穂乃花が俯いたままぽそり。


「……せっかく入部して、みんなの仲間になったのに、

このままだと武士くん、部活やめちゃうかもしれないよ……」


里香、即答。

「別に良いんじゃない?」


花音、ニコニコしながらすかさず参戦。

「ネタにしたいにょん♪」


穂乃花「(ネタ!?)」


そんな二人を見ながら、愛生が真剣な眼差しで口を開く。


「武士くんが退部することになっても、彼が悪いのは仕方ないと思う。

でも、入部した以上は“仲間”なんだから、

武士くんと仲良くできるように、みんなで頑張ってもいいと思うの。」


その真っ直ぐな声に、穂乃花もうなずく。

「うん、私も同じ気持ちだよ。」


愛生、続けて。

「だから、仲間として悪いことしたら叱るのも大切だし、

良いことしたら、みんなで褒めてあげるのも大事だと思うの。」


「……あいつ、良いことしたことないぞ。」

明宏、的確すぎるツッコミ。


「中二病は見てて面白いから賛成だにょん♪」

花音、満面の笑みでまたメモ帳を取り出す。

(※次の章タイトル:『勇者リターンズ~涙の復活劇~』)


里香は肩をすくめながら苦笑い。

「わかった、仕方ない。暖かく、長い目で武士を見てやるか。」


――その瞬間、

部室の空気がふっと柔らかくなる。


みんな笑って、窓の外から吹き込む夕風がカーテンを揺らす。


笑い声と夕陽のオレンジが混ざって、

まるで青春ドラマのワンシーンのように。


(ただし、勇者本人はこの爽やかムードに不在であった。)

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