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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
80/119

芦ノ湖ブラウン編 第5話 デートなうに使っていいよ

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

芦ノ湖から少し移動して、今度は箱根園の小動物ふれあい広場へやってきた4人。


うさぎ、モルモット、ハムスター、ヤギ。

ふわふわ、もふもふ、ふれあい天国。


愛生:「わ〜〜〜!かわいい〜〜〜っ!!」

穂乃花:「きゃっ、こっち見た〜!ちっちゃい〜!かわいい〜〜!」


2人ともテンションが爆上がり。

もはや声のトーンが小動物に近い。


一方で、クールな里香は餌販売コーナーの値札をじっと見つめていた。


「……この餌200円、原価いくらなんだろ」

モルモットよりシビアな計算をしている。


花音は花音で、何やら真剣な顔で考え込んでいる。


里香:「どうしたの、花音ちゃん?」


花音はスマホを握りしめ、ゆっくりと顔を上げた。


花音:「SNSでね、“デートなうに使っていいよ”ってやつ投稿したいんだけど〜

どの動物抱っこしたら、いちばん『映え』ると思うにょん?」


里香(心の声):「……面倒くさいのキタ。」


逃げろ。

本能が告げる。

撮ってって言われる前に離脱しろ。

今なら間に合う。


里香は一瞬、影のように気配を消し、花音の視界からフェードアウトを試みる——


が。


もう遅かった。

運命は会話の瞬間に確定していた。


花音:「ねぇ〜〜里香ちゃんっ 一緒に撮るにょん」


カシャッ


里香:「……え、私が撮るんじゃなくて、撮られる側!?」


穂乃花と愛生は遠くからその様子を見ながら、


愛生:「……あ、撮られてる」


穂乃花:「……うん、逃げ遅れたね」


小動物ふれあいコーナーの隅っこ、うさぎを膝に乗せて満面の笑顔を浮かべる花音。

「ねぇねぇ〜、里香ちゃん綺麗で可愛いから、かにょんと一緒に“デートなう”って投稿したらウケると思うにょん♡」

スマホを構えながら、すでにタグまで考えている天使姫モード。


「……確かに私は美少女だけど、SNSに興味ないし。」

うさぎを撫でながら、そっけなく答える里香。


「大丈夫、里香ちゃんの名前は伏せるから!」

悪気ゼロ、でも抜け目なしの花音。


「え〜、すっげー嫌なんだけど……どうしようかなぁ〜」

と口では言いながら、結局流されそうな自分に気づき、ため息の里香。


(ふふっ、やっぱり引き立て役は里香ちゃんがベストだにょん♡)

と、花音は心の中でニヤリ。


(だって〜、愛生ちゃんは可愛いけどちょっとふっくら気味だし〜、穂乃花ちゃんは“性格がいい”タイプで映えないにょん)

と、ちゃっかり比較まで済ませていた。


「……はい、じゃあ撮るにょん!」

花音がうさぎを抱き、天使スマイル全開。

横で完全に“巻き込まれ事故”の里香は、やや引きつった笑顔でフレームイン。


「撮れた〜♡ かにょんと理想のお姉様のツーショだにょん!」

「……その“理想のお姉様”って私のこと?」

「もちのろん!」

「その返しがもうウザい。」


——こうして、花音のSNSには“#天使姫と理想のお姉様デートなう”という謎の投稿が誕生したのであった。


ふれあいコーナーの片隅で、スマホを握りしめた花音は、

画面に映る「#天使姫と理想のお姉様デートなう」の写真を見つめながら――


「よしよし、これでフォロワー達のイイネが爆増するにょん……えへへへ……♡」

と、口角を上げながら完全に悪い顔。


しかし次の瞬間――

「はっ!」

自分の顔が“天使”ではなく“企みの悪魔”になっていたことに気づき、慌てて両手を頭の上に。

「里香ちゃんありがとぴょ〜ん♡」

と、ウサギポーズで取り繕う花音。


「……いや、切り替え早すぎるでしょ」

里香は半歩どころか三歩くらい後ずさり、完全にドン引き。

(今の、どう見ても天使じゃなくて悪魔だったけど……)と内心ツッコミ。


そんな2人のやり取りを見て、穂乃花は

「ふふっ、里香ちゃんと花音ちゃん、すっごく仲良しだね〜」

と、相変わらずほわほわ笑顔で癒しの空気。


一方その頃、少し離れた場所でモルモットを抱っこしていた愛生は、

「よしよし、かわいいね〜」と頭をなでながら、ふと遠くを見つめる。

(……明くんも、ブラウントラウト抱っこできたかなぁ)

と、釣果を心配していた。


——天使姫と理論派美少女の温度差、ほわほわ天然少女と心配性な妹系。

動物たちよりも人間模様が一番賑やかな、芦ノ湖ふれあいタイムであった。


その頃、芦ノ湖のほとり――

明宏は真剣な顔でロッドを握りしめていた。


湖底に沈むのは、ただのルアーではない。

2度のブラウンバラシを経験した、彼の“聖剣エクスカリバー”ことミノープラグ。


「待ってろよ……! 俺のエクスカリバー、必ず助け出してやる……!」

と、なぜかRPGの勇者のようなテンションで、じりじりと深場へ踏み出していく明宏。


「おい明宏、危ないって! 溺れるぞ!」

圭介の声が飛ぶ。


だが、明宏は止まらない。

「ブラウンに2度挑んだ俺の聖剣を、芦ノ湖の神に奉納なんてできるかよ!」

目が完全に“本気モード”に入っている。


「マジで溺れるって! 戻れぇぇ!」

圭介が慌てて駆け寄ろうとした、その瞬間――


――「ひゃっ……つめてえぇぇっ!!!」


腰までのウェイダーに、水がバシャァァッと流れ込んだ。

明宏、完全に戦意喪失。

「うわぁぁっ、冷てえっ! 撤退ーっ!!」

と、スプラッシュを上げながら一目散に岸へ猛ダッシュ。


岸に戻った圭介が、呆れ顔で肩をすくめる。

「……もういいって。俺が同じミノー買ってやるから、諦めろ」


その言葉に、明宏は一瞬で復活。

「えっ、マジで!? 買ってくれるの!?」


「ちょ、おま……まだ根掛かり取ってな――」

プツンッ。

無情にもラインが切れた。


「よし! 買ってくれるんでしょ? 約束ね♪」

と、ずぶ濡れのまま満面の笑みで言う明宏。


圭介は、ため息をつきながらも心の中で苦笑する。

(まあ……ミノーひとつで無茶しないなら、安いもんだ)


快晴の芦ノ湖に、兄弟の温度差が絶妙に噛み合わない笑い声が響いていた。


「……しかし、成長したなぁ〜」と圭介は心の中で呟く。


少し前までは、手軽に釣れる管理釣り場(管釣り)で、

ニコニコと1匹釣って満足していた弟だった。

あの頃は「芦ノ湖なんて難しすぎるよ」なんて言っていたのに、

今ではボウズ(釣果ゼロ)が当たり前のこの湖で、

何時間もキャストを続け、試行錯誤を重ねている。


釣れなくても、文句を言わない。

風が強くても、寒くても、

「もう芦ノ湖は嫌だ」なんて一言も言わない。


むしろ、次はこうしてみよう、あのポイントも攻めてみようと、

少しずつ、確実に“釣り人の顔”になっている。


「楽な釣り場に逃げず、

難しい湖で、自分の目標に向かって進むか……。偉いじゃねぇか」


圭介は、微笑みながら湖を見つめる。

陽光が水面に反射して、キラキラと揺れていた。

その光が、まるで明宏の未来を照らしているように見えて――

胸の奥が、じんわりと温かくなった。


(芦ノ湖の神様、ありがとう。)

圭介は心から感謝の気持ちでいっぱいになった。


その頃女の子達


芦ノ湖のほとり、湖面に赤く映える「平和の鳥居」。

観光客が絶えず写真を撮る中、花音と里香も並んで立つ。


「はい、里香ちゃん、もうちょいこっち寄って〜」

とスマホを構える花音。


「え、これ、私も一緒に撮るんだっけ……?」

戸惑う里香に、花音は髪をふわっと揺らしながら、

「そうだにょん♡ “天使とクール美少女の神社デートなう”ってキャプションにするの〜」


「……その二択、なんか引っかかるけど。」

と小声でつぶやく里香。


しかし、花音はまるで聞こえていないかのようにポーズ全開。

胸の前で指をハートにして、

「せーのっ にょんスマイル〜!」


パシャッ


「よしっ、これはフォロワーさん達も“尊い”って言うやつにょん」とご満悦。


一方その頃――

「うわぁ……すごい木……」「ほんと神聖……」

愛生と穂乃花、そして里香は神社の荘厳な空気に自然と背筋が伸びていた。


しかし、ひとりだけ別次元に生きている花音は、

(イイネ、今いくつ付いたかにょん……? バズってる?)

と心の中でスマホ通知が鳴り響いている。


4人はお賽銭箱の前に立ち、順番に手を合わせる。


愛生:「明くん、ブラウン釣れますように……!」

(真剣な表情で願う姿がちょっと尊い)


里香:「学業、うまくいきますように」

(現実的で地味に努力家)


穂乃花:「神様、いつもありがとうございます。感謝です」

(もはや清らかさの化身)


花音:「今度巫女コスプレするから、バズらせてにょん♡」

(神様も若干の苦笑い)


お祈りを終えると、4人は鳥居の方へ戻っていく。

「やっぱりここ、映えるよね〜!」と花音がスマホを構えれば、

「食べ歩きしよっか?」と穂乃花。

「まずお昼のカロリー消費しなきゃ」と里香。

「アザラシパン分もね!」と愛生。


神聖さとマイペースが絶妙に混ざり合った4人は、

笑いながら元箱根の街をゆっくりと散策していくのであった――。


圭介と明宏は夕まづめ前の休憩を取っていた。


夕方、太陽が傾きはじめ、湖面が金色に染まり出すころ。

圭介と明宏は湖畔の岩に腰を下ろし、ポットからコーヒーを注いでいた。


「ほら、明宏、熱いから気をつけろよ」

と、紙コップを渡す圭介。


「ありがと」

ふぅ、と湯気を吹きながら、明宏はコーヒーをひと口。

冷えた体に、じんわりと温かさが沁みていく。


圭介が腕時計を見ながらぽつり。

「もう4時か……。女の子たちとの待ち合わせまで、あと1時間だな」


「あと1時間あれば……1バイト、来るかもしれねぇ」

明宏の目がギラリと光る。


(いや、ほんと根性あるな……)

と圭介は苦笑する。


朝から白浜を中心に、ランガン、ランガン、またランガン。

結果は明宏の朝の1バラしだけ。

それでも諦める様子は一切ない。


「芦ノ湖、3回目だけどさ……まだ鱒の顔見てねぇんだよなぁ」

と圭介がつぶやく。

「難しいなぁ、ほんとに」


明宏はコーヒーを飲み干し、立ち上がる。

「でも、難しいから面白ぇんだよ」


「……おお、カッコいいこと言うじゃねぇか」

圭介も立ち上がり、笑みを浮かべてロッドを握る。


作戦なんてない。

ひたすら歩いて、投げて、巻いて、また歩く。

ただそれだけ――それでも、2人の心は不思議と軽かった。


夕まづめ、静まり返る湖面に、ミノーの着水音がぽちゃんと響く。

黄金色の光が波に揺れて、今日のラストスパートが始まった。


圭介はミノープラグをキャストしながら、遠くへ飛んでいくルアーの軌跡を目で追っていた。

着水、「チャポン」という音が静かな湖面に吸い込まれる。


腰まで水に浸かり、竿先を下げながらリトリーブを繰り返す。

何度も、何度も――。

だが、その度に帰ってくるのは無言のミノーだけ。


(今、ルアーが通ってるあたり……水深、どのくらいあるんだろ)

(湖底って、フラットなのか? それとも駆け上がりがあるのか?)

(ていうか……そもそも魚、いるのか?)


巻きながら、そんな疑問が次々と浮かんでは消える。

風は穏やかで、夕日が湖面を橙に染めている。

美しいはずの光景なのに、圭介の頭の中はすっかり理屈っぽくなっていた。


(やっぱり魚探がないとダメだよな……)

(地形も水深もわかんねぇんじゃ、闇雲に投げてるのと変わらん)


ルアーを回収しながら、圭介はふっと息を吐いた。

「こりゃ、船舶免許取るしかねぇな……魚探も買ってさ」


口に出した瞬間、自分でも驚くほど本気の声だった。


(よし……今度こそ、やるか)


ミノーをもう一度キャストする。

その一投が、圭介の「次のステージ」への第一歩のように思えた。

湖面に落ちたルアーが夕陽を反射し、小さな光の粒を跳ね返す。


圭介はキャストを終え、ミノーを一定のリズムで引いていた。

夕陽に照らされた湖面は金色に揺れ、静かな波が足元に寄せては返す。


――その時だった。


ミノーの斜め後方から、スーッと「V字型の波紋」が走った。

(……来たっ!!)


圭介の心臓が跳ねる。

目を凝らすまでもなく、あれは魚だ――間違いない。

その波紋は一直線に、ミノーへと迫ってくる。


(チェイス! 初チェイスだっ!)


指先が震える。

本来なら、ここで一瞬の“間”を入れて食わせるタイミングを作るべき。

しかし、頭ではわかっていても、体が言うことを聞かない。


“興奮”が、“理性”をあっという間に飲み込んでいく。


(うわ、ヤバい、来る、来る……!)

そう思った瞬間――

魚影は、すうっと方向を変えた。


ミノーのすぐ後ろで、V字の波紋がふっと消える。


「……見切られたか」


圭介は呟き、リールを止めた。

しばしの沈黙。

足元の水面に映る自分の顔が、ちょっと情けなく見えた。


それでも、胸の奥には確かな高揚感が残っている。

「……いたんだな、魚」

たった一度のチェイスが、彼には大きな収穫だった。


一方その頃、少し離れた明宏も、夕まづめのラストスパートに挑んでいた。

しかし、結局何事も起こらず――

今日という一日は、朝のあの“痛恨の一バラし”で幕を閉じた。


釣果としては惨敗。

だが、2人の心は妙に静かだった。


「……なぁ、明宏」

「うん?」

「今日、釣れなかったけど……ちょっとだけ、近づいた気がしないか?」

「うん、俺もそう思う」


沈む夕陽の中、2人は笑い合った。

冷たい風が吹く芦ノ湖で、確かに得た“何か”がそこにあった。

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