芦ノ湖ブラウン編 第4話 箱根園でアザラシパンだにょん
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
箱根園バス停、静かに停車。
バスのドアが「プシューッ」と開くと──
愛生:「わぁーっ、着いた〜っ!」
まるで修学旅行初日の小学生のように、
勢いそのままにダッシュでバスを飛び出す。
里香:「……(そんな慌てなくても)」
冷静沈着、姿勢正しく、まるで女教師のように
“普通に”降車。
穂乃花:「ん〜、あ、降りなきゃ〜……」
ふわり、ふわりとマイペースで階段を降りる。
(※誰よりもスローペース)
そして──
花音、最後尾。
ステップの前に立つと、
小さな姫のようにスカートの裾を持ち上げ、
「んしょ、んしょ……」
(※なぜか一段ごとに実況)
最後の一段で──
「えいっ!」
ふわりっ
両足を揃えて着地。
まるで舞台照明が差したかのように可愛くポーズ。
愛生(心の声):(ああ……また始まった……)
里香:(……イラッ)
穂乃花:(アホらしいけど……かわいいな、もう)
そして沈黙。
箱根園の爽やかな風が、4人の温度差をなだめるように吹き抜けた。
「水族館行こっ! アザラシさんにペンギンちゃん、早く見たいよ〜っ!」
テンション高めでスキップする愛生。
すると——
「も〜う、愛生たんったら〜」
前に立ちはだかる花音。
くるりっと1回転。スカートがふわりと広がり、光を反射してキラッ。
「チビっ子みたいにはしゃいじゃって、めっ、ですにょん」
にこっ、ぷんっ、のコンボ。
完全に“叱る”というより、演出。
愛生(心の声):
「……はぁ!? “ですにょん”て何語?
叱るなら普通に叱れーッ!」
(※サンリオ女子、心の中でツッコミ炸裂)
顔には出さないけど、眉の端がピクピクしている。
里香:「……出たよ、かにょん語。ウザ可愛いを通り越して、ただのウザい。」
冷静に毒舌。
穂乃花:(ふふっ、今日も元気だね花音ちゃん……)
全てを受け入れる天使モード。
花音:「もう、みんなそんな顔しちゃって〜!
怒ってるの? ふぇぇ、メルヘンランドでは笑顔がルールですにょんっ」
愛生・里香(心の声、完全ハモリ):「メルヘンランド帰れ。」
花音(突然):「次は〜〜お昼ご飯だにょんっ」
里香:「……普通に考えて、お昼ご飯の時間でしょ。」
(ツッコミがもはや義務)
穂乃花:「箱根園ランチ、ちょっと楽しみだったんだ〜」
ふんわり笑顔。……その笑顔がやたらと眩しい。
愛生:「わ〜いっ! フードコート!」
(食べ物の話題=即テンションMAX。)
4人はフードコートへ。
人の波、香ばしい匂い、鳴り響く「いらっしゃいませ〜」。
里香:「さて、何食べよっか?」
穂乃花:「うん、どうしよっか?」
2人が真面目に相談を始めたその瞬間——
ドドドドドドッ
愛生&花音:パン屋へ全速ダッシュ!
愛生:「アザラシパンとかお魚パンがあるよ〜っ!
キャーかわいい!かわいい!かわいいっ!」
「かわいいしか勝たん病」、本日も発症。
穂乃花:「ほんとだ〜、かわいいパンがいっぱい〜」
優しい微笑み、聖母のよう。
花音:「かにょんは〜、これと〜これと〜……あ、これもにょん」
(誰も聞いてないのに、可愛い指差し連打。しかも声のトーンがBGMより高い)
パン屋の店員(心の声):「天使が爆買いに来た……」
里香(腕組みしながら):「はぁ……私はパン食べたいわけじゃないけど、付き合ってやるか。」
愛生:「このアザラシの顔、見て! 見て! ほら、つぶらな瞳っ!」
花音:「それ、かにょんに似てるにょん」
里香:「いや、似てない。」
穂乃花:「ふふっ、みんな仲良しだね〜」
「こうして、箱根園フードコートでは“昼食”という名のメルヘンパン戦争が幕を開けたのであった。
4人そろってテーブルにトレーを並べ、手を合わせる。
「「「いただきまーす!」」」
その声はどこか明るく、しかしこのあと起こる小さな戦いを誰も知らない——。
花音(満面の笑顔):「ねぇ〜ねぇ〜、みんなでアザラシパン食べにょん」
(※なぜか“アザラシパン”を指定)
穂乃花:「うん、いいよ〜」
(天使のような素直さ)
愛生(疑惑の目):「……何を企んでるの、花音ちゃん?」
里香:「どんなアホっぷりを見せてくれるのか楽しみだわ」
4人、アザラシパンを手に持つ。
その可愛さが一瞬、食べる罪悪感を呼び起こす——が、食欲が勝った。
花音:「せーのっ、パクリにょん」
花音 → 尾っぽからモグモグ。
愛生 → 頭からガブッ。
穂乃花 → お腹からパクリ。
里香 → 背中からザクッ。
花音(即ツッコミ):「あ〜っ! 愛生ちゃん、アザラシちゃん、首チョンパだぉ〜」
愛生:「……うるさい」
(ウザさMAX、眉ピクピク)
花音(構わず続行):「あ〜、穂乃花ちゃんのアザラシちゃん、お腹が取れちゃったにょん」
穂乃花:「ふふっ(にこっ)」
(仏のような微笑み)
花音:「そして〜、里香ちゃんは背中から食べるにょんね〜。
背中から食べる人は〜、神経質で寂しがり屋で感受性が豊かなんだにょん」
里香:「……勝手に診断しないで。」
花音:「穂乃花ちゃんはお腹から食べたから、
好奇心旺盛で行動的、積極的で人気者になるタイプにょん」
穂乃花:「わぁ……なんか当たってるかも〜」
(素直に受け止める聖女)
花音(自慢げ):「そしてかにょんは尾から食べたから〜、礼儀正しく真面目タイプにょん」
愛生:「で、私は?」
花音:「愛生ちゃんは頭から食べたから〜……天然キャラ」
愛生:「説明、雑っ!?」
(ついにツッコミ炸裂)
花音:「だって〜、愛生ちゃんは“天然愛され妹ちゃんキャラ”だから〜
ひと言で表現できちゃったのにょん」
愛生:「花音ちゃんよりも愛生ちゃんのほうがお姉ちゃんだもん!」
花音:「かにょんのほうがお姉ちゃんだにょん!」
ぷく〜っと膨れる2人。
メルヘンの空気が一瞬、火花を散らす。
里香(冷静):「……どっちがお姉ちゃんキャラかでケンカしてる時点で、
2人とも子供っぽくて、妹キャラにしか見えません。」
(ズバッ)
愛生&花音:「ぐっ……」
穂乃花:「あわわ……ふ、ふたりとも落ち着いて〜」
(タジタジの平和主義者)
「こうしてアザラシパンは、乙女たちの性格診断と小競り合いの道具と化した。
だが、誰一人“焼き立てパンが冷めてる”ことには気づいていなかった——」
その頃——。
フードコートで「にょん語」が飛び交うのと同時刻、
芦ノ湖の駐車場の片隅では、男2人の世界が展開していた。
クーラーボックスに腰をかける圭介と明宏。
湖畔の風は爽やかだが、ランチは……そうでもない。
圭介:「よし、お湯沸いたぞ〜。ほら、注ぐぞ」
(どこからどう見てもカッポヌードル……に“似た”何かにお湯を注ぐ)
明宏:「……また“イーヨンのバリューヌードル”じゃないか」
圭介:「しょうがないだろ? カッポヌードルにそっくりで、
値段は半分以下なんだから。節約は男の美徳だぞ」
明宏:「……それ、美徳っていうより“哀愁”だろ」
(3分経過)
圭介:「さぁ〜3分経ったぞ! トマト味とトムヤムクン味、どっちにする?」
明宏:「なぁ……なんで普通の醤油とかシーフード味じゃないんだ?」
圭介:「特売品だったんだよ。買い物上手でしょ?」
明宏:「……そうなんだ(棒)」
(心の声:次回は絶対、自分で買いに行こう……)
二人、同時にフタをめくる。
もわっと上がる異国の香り。
そして——
風に乗って漂う、トムヤムの謎スパイス。
圭介:「芦ノ湖のほとりで食べるカップ麺、最高だな〜」
(やたら満足げ)
明宏:「バラしたブラウンが釣れてたら、もっと美味いけどね」
(まだ根に持っている)
風:「スゥ〜……」
湖面:「チャプン……」
2人:「ズズズ……」
対照的に——
その頃、箱根園フードコートでは女子4人が
「かわいい〜」とアザラシパンを撮りまくっていた。
一方こちらは、
カップの底に沈む“謎肉もどき”を見つめて無言になる男たち。
「箱根園でキャピキャピの女子たち。
対する男たちは、特売バリューヌードルでしみじみ。
湖畔に響くのは——すすり音と、わずかな後悔のため息であった。」
場面:箱根園水族館
愛生・花音・里香・穂乃花の4人が、
キャッキャと笑いながら入場。
入口のガラス越しに魚たちが泳ぐたび、
愛生のテンションがじわじわ上昇中。
穂乃花:「わぁ〜、お魚さん、いっぱいだね〜」
花音:「かにょんのお城にも似た感じがあるにょん」
里香:「……メルヘンランドに水族館あるの?」
花音:「あるにょん。イルカもしゃべるにょん」
里香:「(設定盛るなぁ……)」
愛生:「あっ! ペンギンちゃんコーナー!!!」
(※声のトーン3段階アップ↑↑↑)
ダッダッダッ
小走りで駆け出す愛生。
すでに視界はペンギンしか入っていない。
愛生:「かわいい〜〜い!!!」
ペンギンが羽をパタパタするたびに、
愛生も無意識で両手をパタパタ。
その姿を見た里香、ひとこと。
里香:「……同族かな?」
穂乃花:「うん、もう一羽増えてるみたい〜」
そんな中、アザラシコーナーに気付いた花音が
くるりとスキップして、ふわりとスカートを翻す。
花音:「みんな〜! こっちにょ〜ん」
(※何故か語尾が2音伸びている)
愛生・里香・穂乃花が合流すると、
花音は両手を後ろに組み、軽くスキップしながら振り返る。
ふわっ
髪が揺れ、笑顔がキラリ。
花音:「にょふっ」
(※首を傾げながら“計算済みスマイル”)
愛生(内心):「……また出た、かにょんの“あざとスキップスマイル”」
里香(冷静):「あれ、角度もタイミングも完全に狙ってる」
穂乃花:「うん……でも、可愛いから許す〜」
こうして、
ペンギンを真似る天然・愛生と、
カメラを意識したお姫様スマイル・花音、
それを冷静に観察する里香、
そしてマイペースに癒やされる穂乃花という
絶妙なバランスで、水族館タイムは続いていくのであった——。
一方で圭介達は
キャスト。巻く。
キャスト。巻く。
……無。
何事もなく、毎回ミノーが無事帰還する。
魚信ゼロ。
平和すぎて、もはや悟りの境地。
明宏:「(……なんで来ないんだよ、魚……)」
圭介:「(……頼む、俺じゃなくていい、明宏に食ってくれ……)」
圭介は弟の背中を見ながら、まるで神に祈るような気持ちで後ろを追う。
2人の間に流れるのは、風の音とリールの巻き音だけ。
ジ〜〜〜……カチッ。
ジ〜〜〜……カチッ。
(※繰り返しすぎてBGMになってきた)
見上げれば、快晴の青空。
風はやさしく頰をなで、湖面は鏡のようにキラキラ。
観光には100点満点。
圭介:「はぁ〜……愛生たち、今ごろキャピキャピしてるんだろうなぁ……」
明宏:「……」
圭介:「……釣りには最悪だけどな」
ため息、2段階深め。
芦ノ湖の透明な水が、今日は仇。
太陽光で水中は明るく照らされ、魚たちはルアーをじっくり観察。
“見切り職人ブラウン”たちは今日も平和にスルー。
しかも風はほぼ無風。
ラインの影はバッチリ見える。
まるで魚に「はい今、バレてますよ〜」と言われている気分。
圭介:「こりゃ……今日は厳しい釣りになるな……」
風の代わりにため息が湖面を揺らす。
空は笑っている。
湖はきらめいている。
そして2人は——ただ、無言で投げ続けていた。
まるで悟りを開きかけた僧侶のように。




