芦ノ湖ブラウン編 第3話 愛生達と圭介達、それぞれの芦ノ湖
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
芦ノ湖、朝7時。
風は止み、さっきまでの戦いが嘘のように静まり返っていた。
水面に漂うミノー、そしてその横で膝をつく少年――明宏。
「……クソォ……」
魚影は消え、残されたのは悔しさだけ。
そんな明宏の肩を、ポン、と優しく叩く男。
圭介:「……まあまあ、ひと息入れようぜ」
岩の上に腰を下ろすと、背中のポットを取り出し、
湯気の立つお茶をコポコポと注ぐ。
(※釣り人らしからぬ、妙に落ち着いた手つき)
圭介:「ほら、飲め。芦ノ湖の朝は冷えるからな」
明宏:「……ありがとう」
紙コップを両手で包みながら、ちょっとだけ落ち着きを取り戻す。
しばしの沈黙。
圭介:「……なあ、明くん。
敗因はハッキリしてるんだよな」
明宏:「……うん」
圭介:「お前、フック細くしただろ?」
明宏:「えっ!? ど、どうして分かるの!?」
圭介:「(苦笑い)そりゃ伸びてたら一目瞭然だよ」
圭介、解説モード突入。
圭介:「いいか、フックってのはな――
細くすれば刺さりやすくなる。つまり“貫通力”は上がる。
けど、そのぶん“強度”は落ちる。」
明宏:「……うん……」
圭介:「普通ならドラグ(糸の引き出し抵抗)を少し緩めて、
魚の引きをいなしてやるんだが――」
圭介:「今の立ち位置、岩だらけだったろ?
あれで走られたら根ズレでラインが切れる。
だからお前は、ドラグを締めてパワー勝負に出た……」
明宏:「……うん」
圭介:「結果、フックが伸びた。
つまり“根性は満点、戦術は惜しい”ってやつだね」
明宏:「……そんな……オレ、まだまだだな……」
圭介:「まあ、釣りってのは“しくじり”の積み重ねだから、俺だって解らないことばかりだよ」
明宏:「(ちょっと笑う)……そうだね」
圭介:「だろ?」(ドヤ顔)
お茶を飲み干し、2人はゆっくりと立ち上がる。
太陽が少しずつ昇り、湖面がキラキラと輝き始めた。
圭介:「さあ、もう一回いくか?」
明宏:「もちろん!」
その目には、もう涙はなかった。
その頃、愛生達は海賊船にのり湖尻湾を目指していた。
ドドーン!と響く汽笛とともに、
黄金のマストを掲げた海賊船がゆっくりと芦ノ湖を進み出す。
朝の風が冷たくも心地よく、湖面はまるで鏡のよう。
最上階デッキに立つのは――
愛生、花音、里香、穂乃花の4人娘
風を受け、髪をなびかせ、まるで少女雑誌の表紙のような光景。
(※ただし、真ん中の花音だけ異世界テンション)
穂乃花:「わぁ〜、景色も綺麗だね〜!」
風に髪をなびかせながら、キラキラの笑顔。
里香:「……うん」
(何故か反応が薄い)
そして、その横で――
花音:「わ〜、気持ちいい〜にょん♡」
愛生:「……にょん?」(ピクッ)
穂乃花:「“にょん”……?」(困惑)
里香:「……にょん?」(眉をひそめる)
船上に“にょん”が3連発で反響する。
花音は胸を張って堂々宣言。
花音:「かにょん語はね、メルヘンランドの言葉にょん」
愛生:「(……メルヘンランドってどこだよ……)」と心の中で全力ツッコミ。
里香:「(やっぱこの子、普通じゃない)」と確信。
穂乃花:「(でも、かわいい……!)」と若干信じかける。
紅葉前の10月下旬、
湖面を渡る風は少し冷たいけれど、
4人のテンションはすでに初夏のテンション。
花音:「メルヘンランドにも、こんな綺麗な湖あるにょん♡」
愛生:「(いや、絶対ないと思う)」
芦ノ湖を渡った海賊船が静かに港へと着岸。
朝の霧が晴れ、太陽の光が湖尻湾を金色に照らす。
4人の少女が船を降りる。
──愛生、花音、里香、穂乃花。
空気はひんやり、テンションはホカホカ。
穂乃花:「見て見て!あれ、ケーブルカーがあるよっ!」
指差すその先には、山の斜面をのぼる可愛いケーブルカー。
花音:「わぁ〜!ケーブルカーで山の上に行きたいにょん♡」
両手を胸の前で合わせ、キラキラおめめの花音。
愛生:「わ、私も乗りたーい!」
(さっきまで釣りのこと考えてた圭介兄と明宏が見たら泣く勢いのテンション)
だがしかし――
里香:「ダメダメ、今日は水族館って決めてたでしょ?」
リーダーシップ全開の現実派・里香がズバッと一刀両断。
花音:「え〜〜!ケーブルカー乗りたかったにょ〜ん(泣)」
愛生:「(うん、私も……)」としょんぼりタヌキ顔。
ふたりして肩を落とす「姉妹(自称)」コンビ。
穂乃花:「(わぁ〜、2人とも落ち込み方までそっくり〜)」
と思いながら、
「ほらほら、あとで箱根園行ったら、ペンギンさん見られるよっ!」と優しくフォロー。
花音:「ペンギンさん……メルヘンランドにもいるにょん♡」
愛生:「(……絶対いない)」と心の中で冷静ツッコミ。
湖尻湾からゆるやかな坂道を抜け、4人が歩く。
目指すは──早川水門。
木漏れ日が差し込む小道、遠くで鳥の声。
愛生たちの笑い声が、湖畔に溶けていく。
花音:「ねぇねぇ、愛生たん、あの雲、ハートみたいにょん♡」
愛生:「え、あ、ほんとだ……(どこが?)」
穂乃花:「ハートに見える〜! 花音ちゃん、発見力すごいね!」
里香:「(ただのモクモクした雲じゃない……?)」
なんでもない会話が、なんだか楽しい。
まるでピクニックみたいな芦ノ湖ウォーキングだ。
やがて、早川水門に到着。
目の前には静かに波打つ湖面と、少し広がった砂浜。
花音:「わぁ〜っ、水がキラキラしてるにょんっ」
勢いそのままに靴と靴下を脱ぎ捨てて、ちゃぷん。
「つめたくて気持ちいにょ〜〜ん♡」
天使の笑顔で自撮りポーズ
穂乃花:「ほんとだ〜!気持ちよさそうっ!」
と、すぐに便乗。靴下を脱ぎ、波打ち際でぴちゃぴちゃ。
愛生:「え、ちょっ、2人とも風邪ひくよ……! でも……(楽しそう)」
結局、ズボンの裾をまくって、ちゃぷん。
「きゃっ、冷たっ!でも楽しいっ!」
3人でぴちゃぴちゃ、キャッキャキャッキャ。
芦ノ湖に響く天使たちの笑い声。
その様子をちょっと離れた場所で眺める里香。
里香:「(まったく、子どもみたいな……でも、楽しそうじゃない)」
腕を組んで言いながらも、口元にはかすかな笑み。
波打ち際で跳ねる3人と、冷静に見守る里香。
芦ノ湖の風が、4人の少女をそっと包み込む。
その後、4人は湖尻湾を出発し箱根園行きのバスに乗り込む。
花音:「バスって、なんか冒険の乗り物みたいにょん♡」
愛生:「冒険って……ただの路線バスだよ……」
穂乃花:「でも、車窓の景色、絵みたいに綺麗だね〜!」
里香:「うん、芦ノ湖って、光が柔らかくて好き。」
4人の声と笑いが車内をぽかぽか温める。
愛生の心の声:
(あ、そういえば兄ちゃんと明宏くん、釣りどうなったかな……)
──ほんの一瞬、頭に浮かんだ。
が。
花音:「見て見てっ!あの雲、イルカに見えるにょんっ!」
愛生:「え、また!?……(どこが!?)」
穂乃花:「ふふっ、確かに言われてみれば〜!」
里香:「……(イルカというより、タラコ……)」
──3秒で兄弟のことを忘れた。
車窓の景色と笑い声が心地よくて、愛生はすっかり“旅モード”。
バスは緩やかな坂を登りながら、4人を箱根園へと運んでいく。
一方その頃──
圭介と明宏、芦ノ湖の岩場ポイント。
明宏:「……」
圭介:「……」
(※会話ゼロ)
キャスト。
無反応。
回収。
キャスト。
無反応。
回収。
風だけが「ヒュウゥゥゥゥ……」と通り抜ける。
圭介:「……おい、朝のバイト以来、何もねぇな」
明宏:「……(虚無)」
沈黙と無風。
釣れない2人のまわりだけ、時間が止まっているかのようだった。




