芦ノ湖ブラウン編 第2話 かにょんの計画
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
リビング・午前の部
コーヒー片手に新聞を読む圭介。
明宏は隣でタックルの整備中。
そこへ、足取り軽く花音登場。
「お兄ちゃ〜んっ♡」
「ん、どうした花音ちゃん?」
花音は胸の前でノートを掲げる。
表紙には、キラキラペンでこう書かれていた。
『かにょんの芦ノ湖きらめき大作戦♡』
「……なんかタイトルが進化してるな」
と圭介がつぶやく間もなく、花音は勢いよくノートを開く!
《かにょんプレゼンツ 芦ノ湖おでかけ計画》
第1章:参加メンバー紹介
かにょん(プロデューサー)
愛生たん(妹担当・天然ヒロイン)
穂乃花ちゃん(癒し天使)
里香ちゃん(ツンデレ貴族)
明宏くん(釣り界の希望)
お兄ちゃん(運転兼お財布係)
第2章:お出かけスケジュール
7:30 出発(お兄ちゃん早起きがんばっ♡)
9:00 芦ノ湖到着 → 天使ピクニックゾーン設営
10:00 遊覧船で湖の風を浴びる
11:00 箱根園で“映え”撮影
12:30 湖畔カフェでランチ
14:00 鱒釣り大会(明宏くん本気モード)
15:30 天使記念撮影会
17:00 帰路へ
第3章:持ち物チェックリスト
お揃いのヘアリボン(花音準備済)
ピクニックランチ(愛生たんが作る)
カメラ(圭介お兄ちゃん担当)
魚釣りセット(明宏持参)
可愛い天使コーデ(強制)
第4章:友情イベント
・“芦ノ湖天使四姉妹”プリ撮影会
・穂乃花ちゃんとスイーツ交換
・里香ちゃんと湖畔お嬢様ごっこ
・愛生たんのナチュラル笑顔を激写
ノートを閉じて、キラキラした瞳の花音。
「どう? 完璧でしょ?♡」
「……いや、色々おかしいから」
圭介、即ツッコミ。
「てか、俺“お財布係”って書いてあるけど??」
「だって〜、お兄ちゃんが運転するし、お財布も管理するのが一番安全なの♡」
と、上目遣いで言う花音。
「安全って俺の財布の安全は誰が守るんだよ」
と圭介がぼやく横で、愛生はため息。
「もう……花音ちゃん、また勝手に里香ちゃんと穂乃花ちゃん巻き込んでるし……」
花音はピッと指を立てる。
「うんっ、さっきLINEしたら“面白そう〜”って返ってきたから決定だお♡」
その瞬間、愛生のスマホに通知がピコーン。
里香:「ちょっと、芦ノ湖の件本気なの?!」
穂乃花:「箱根楽しみ〜♡」
「……もう止められない」
と愛生は天井を仰いだ。
明宏は隣で小声で呟く。
「俺はブラウンが狙えれば何でもいい」
花音のキラキラ「芦ノ湖きらめき大作戦ノート」がテーブルに広がる中、
圭介が、コーヒーをひと口すすりながら口を開いた。
「花音ちゃんの計画なんだけど、ちょっと変更してもいいかな」
「えっ なに? お兄ちゃん、“お小遣い増やす”とかそういう神提案?」
(※花音の脳内は基本バラ色)
「いや……出発時間だよ」
「え〜〜 7時半出発って書いたのにぃ?」
圭介は真剣な表情で地図を広げる。
「7時半に出て渋滞していたら芦ノ湖に着くの昼前になるかもしれない。駐車場も満車で止められないかもな」
「……え?」
花音、笑顔がスッと凍る。
「出発は……午前6時はどうかな?」
と、渋い声で提案する圭介。
花音はパッと顔を上げ、天使の笑み
「うん、6時なら少し早起きすればいいね!」
空気が一瞬、ほわっと和む。
が――その直後。
「嫌だ。」
と、少年とは思えぬ冷静トーンで明宏が口を開いた。
「6時出発だと朝マズメ終わってからの釣りになっちゃうよ!」
「……あ、出た、“朝マズメ”」と愛生が苦笑。
花音、首を傾げながら天使ボイスで質問。
「ね〜、朝マズメって何?」
待ってましたとばかりに、明宏がどや顔で語り始める。
「朝マズメはね、夜明け前後の2時間くらいがトラウト達が1日でいちばん活性の高い時間なんだよ!」
「トラウトって、お魚さん?」
「そうだよ!」
明宏、完全に先生モード。
花音、キラキラした目で聞いている。
圭介(心の声):「うちの明くん、急にプレゼン力上がってるな……」
そんな2人を見ながら、花音は小声でつぶやく。
「う〜ん、チビっ子(明宏)が夜明けから釣りしたいって言ってるのに、深夜出発は嫌、なんてお姉ちゃんの私は言えないなぁ……」
その“姉ムーブ”にすかさず愛生がフォロー。
「明くんは、そんなに釣りしたいの?」
「うん、芦ノ湖は釣りだけでいいもん!」
(※トラウト脳100%)
そこで、愛生がぽんっと手を打つ
「ね〜、花音ちゃん。里香と穂乃花ちゃんに前日から泊まってもらおうよ。
2人が泊まってくれたら深夜に出発できるし、
私たち女の子4人は観光して、お兄ちゃんと明くんは釣りしてもいいと思うんだ」
花音はにっこり。
「うん、それでいい」
その後――愛生がスマホで連絡すると、
わずか3分で返信が届いた。
里香:「泊まっていいよ、むしろ楽しそう!」
穂乃花:「わーい、夜出発とかワクワクする〜!」
作戦、完・全・成・功。
こうして決まった最終プラン
前日:里香&穂乃花、圭介宅に宿泊。
深夜:眠気とテンションの混ざるハイテンション出発。
芦ノ湖到着後:圭介&明宏 → 釣り組。
愛生&花音&里香&穂乃花 → 観光ガールズ組。
圭介(心の声):
「……よし。これで早朝も釣りも、里香ちゃんも完璧。」
愛生(心の声):
「兄の“完璧”って釣りと里香ちゃんだけで構成されてる気がする。」
花音(心の声):
「明くんも釣りの妖精さんになるのかな〜?」
そして――
圭介家の芦ノ湖遠征計画は、
“家族・友達・恋心・魚”が渾然一体となった、
奇妙で愉快な旅へと進化したのであった。
圭介家のリビングが、まるで女子会会場のように変貌していた。
床には毛布とクッションが広がり、テーブルの上にはお菓子と飲み物の山。
完全に「女子だけの夜」のテンションである。
愛生:「はい、これで準備OK〜! 毛布4枚、枕4つ!」
花音:「わぁ〜、なんか修学旅行の夜みたいだねっ♪」
穂乃花:「うん、わくわくして眠れなさそう〜」
里香:「……ってか、ほんとにここで寝るの? 圭介起きてこない?」
愛生がクスッと笑って、
「大丈夫。お兄ちゃん、さっき明宏くんと“釣り道具最終チェック会議”してたけど、
10分後には寝落ちするパターンだから」
一同爆笑。
テーブルの中央では、花音がコンビニスイーツを並べ始めた。
「はい、これはチーズケーキ味で、これがティラミス味、こっちは限定のいちご味〜♡」
「ちょ、花音ちゃん!スイーツ屋さん開けるレベルじゃん!」と愛生。
「だってぇ、遠足の前日はテンション上がっちゃうんだもん!」と花音。
穂乃花もテンション上がって、
「ねぇねぇ、明日はまずどこ行くの? 遊覧船?ロープウェイ?」
花音が指をくるくる回して、
「まずね〜、“天使界隈観光ルート”をかにょんがプロデュースしてあげるのっ」
「でた、“かにょんプロデュース”!」と里香がツッコミ。
すると、愛生が少し考えてから言った。
「……でもさ、なんか不思議だよね。
花音ちゃん、学校だと“お嬢様”、休日だと“天使界隈女子”。
どっちが本当の花音ちゃんなの?」
花音は少しだけ間をおいて、にっこり微笑んだ。
「どっちも“かにょん”だよ♡」
「え〜、深いような、深くないような!」と里香が吹き出す。
「かにょん哲学〜!」と穂乃花も笑う。
そんな和やかな空気の中、
花音が突然まじめ顔になって言った。
「ねぇ、明日の朝3時起きなんだよね……?」
愛生:「そうだよ〜」
花音:「……無理かも」
穂乃花:「もう無理って言ってる〜!」
里香:「花音ちゃん、早起き修行必要だね」
最後には――
4人並んで毛布にくるまり、電気を消す。
「……ねぇ、なんか修学旅行みたいで楽しいね」
「うん、明日が楽しみ〜」
「……寝ないと起きられないよ」
最初に寝たのは、もちろん花音。
その隣で、愛生が小声でつぶやいた。
「……ほんと、かにょんは自由だなぁ」
微笑みながら、愛生もゆっくりと眠りに落ちた。
明け方3時――
「ピピピピピッ!」
鳴り響くアラームと共に、
“早朝地獄編”の幕が上がる……!?
午前3時ちょうど。
外はまだ真っ暗、虫の声すら眠そうな時間。
しかし――穂乃花のスマホのアラームだけは、元気いっぱいに鳴り響いた。
「ピピピピピッ! ピピピピピッ!!」
布団の山から、もぞもぞと顔を出す穂乃花。
「……うぅ……ねむい……でも、私が起きなきゃ誰も起きない……」
見渡せば――
花音:天使の寝顔で夢の国を満喫中。
愛生:布団に潜って「現実逃避モード」突入。
里香:毛布を頭からかぶって「もう少しだけの女」状態。
穂乃花、使命感に燃える
「みんな〜〜起きて〜〜っ!!」
愛生:「うぅん……あと5分……」
花音:「かにょん、今、夢でロープウェイ乗ってるのぉ……」
里香:「……圭介さん、あと1時間ズラしてくれないかな……」
「起きろぉぉぉぉ!!!」
穂乃花、ついに掛け布団を剥ぎ取る必殺技発動。
結果——3人同時に「キャー!寒っ!!」で無事復活。
圭介と明宏がすでに完全装備。
圭介は髪もきっちりセット、やる気満々の「早朝の好青年モード」。
明宏は眠そうにロッドケースを抱えながらも、目はキラキラ
そこへ――
ねぼけまなこの女子4人登場。
花音:「……おはよ〜ん……」
愛生:「……あくび止まんない……」
里香:「……あたし、今どこにいるの?」
穂乃花:「起きたけど……魂がまだ寝てる」
そして出発前の車内配置タイム。
圭介(心の声):「さぁ……運命の助手席ターイム♡」
こっそり振り返り、さりげなく声をかける。
「えっと、里香ちゃん、助手席どう?」
しかし、無情にも――
明宏:「俺、助手席ね!」
(サッ!)
誰よりも速い動きで座る明宏。
圭介:「……え?」
里香:「私は後ろでいいです」
花音:「かにょんも後ろ〜」
愛生と穂乃花:「もちろん後ろ〜」
圭介(心の声):「……くっ、助手席が中学生男子に奪われた……」
いざ出発!
外はようやく空が白み始め、眠気と戦いながら車は走り出す。
後部座席では、女子4人がふにゃふにゃモード。
愛生と花音は同じ毛布を分け合い、穂乃花はすでに二度寝中。
里香だけが前方を見て、無言で景色を眺めていた。
圭介はハンドルを握りながら、
(はぁ〜後ろから見ても里香ちゃんはキャワイイのう……)と心の中でため息。
途中、サービスエリアで休憩。
自販機コーナーへ向かう6人。
花音:「わぁ〜ホットココアある〜♡」
愛生:「眠気覚ましにコーヒーにしよ」
穂乃花:「ミルクティーがいいなぁ〜」
里香:「……朝から甘いの重いな」
そんな中、圭介は後ろから静かに観察モード。
(くぅ〜〜……里香ちゃんの後ろ姿、まぶしい……尊い……)
その時——ふと里香が振り返る。
バチッ
目が合った。
圭介、反射的に「にこっ」と微笑む。
が、里香の反応は——
「……はぁ〜、何だよその顔〜」
とでも言いたげな、呆れ8割・照れ2割の表情。
圭介(心の声):「……いい、それでいい。むしろそれがいい。」
花音:「お兄ちゃん、ニヤニヤしてる〜変だよ〜」
愛生:「また始まったよ……」
こうして早朝から既にドタバタムード満点の一行は、
芦ノ湖を目指して再び車を走らせるのであった——!
夜を駆け抜けた一行の車が、静寂に包まれた箱根湾の駐車場にすべり込む。
外はまだ夜と朝の境目――
湖面は銀色に輝き、空には淡い紫のグラデーション。
「わぁ〜〜!綺麗っ!!」
思わず声をそろえる 里香・穂乃花・花音トリオ。
まるで「キラキラ女子 in 芦ノ湖」ロケ中。
愛生:「ふふっ、夜明けの芦ノ湖って“朝活インスタ女子”って感じだね」
花音:「あぁ〜もう〜!映える〜っ!」
穂乃花:「空の色と湖の色、混ざってるみたい……」
里香:「静かで、でも生きてる感じ……うん、やっぱり好きだな、芦ノ湖」
その横で、圭介と明宏はすでに「釣り魂スイッチON」。
圭介:「よし、俺と明宏は釣りに行くから、みんなは観光楽しんで来るんだよ!」
(キリッ)
……が、内心ではこう
(いや、ほんとは俺だって……里香ちゃんと観光したい……
でも花音がいるし、愛生も見てるし、明宏はやる気満々だし……くぅ〜ッ!!)
そんな複雑な想いを胸に、今日も「理性というウェーダー」を履く圭介。
「じゃあ、16時に車で集合ね!」
こうして 釣り組(圭介&明宏) と 観光組(愛生・花音・里香・穂乃花) に分かれることに。
圭介&明宏は湖畔の森の小道を歩いてウェーディングポイントへ。
ウェーダーの擦れる音が朝靄の中にシュッシュッと響く。
圭介:「(あぁ……里香ちゃぁぁ〜〜ん……)」
明宏:「おじさん、集中して。朝マズメ逃すよ!」
圭介:「……はいっ」
一方その頃、観光組の4人はゆっくり湖畔をお散歩中。
冷たい空気が頬を撫で、湖面からはもやもやと白い朝靄が立ちのぼる。
波の音は小さく“ちゃぷ、ちゃぷ”とリズムを刻んでいた。
花音:「空気が冷たいけど気持ちいい〜」
穂乃花:「ほんと……空気が“美味しい”ってこういうことなんだね」
愛生:「まるでジブリの世界みたい」
里香:「芦ノ湖はね、朝がいちばん綺麗なんだよ」
流れ込む小川にかかる小さな橋に差しかかる4人。
ふと穂乃花が足を止めて、下を覗き込む。
穂乃花:「あっ!お魚いるよ!」
水の中には、朝日に照らされて赤みを帯びた魚影が一匹。
花音:「わぁ〜〜綺麗っ!金魚みたい!」
里香:「あれはね、姫鱒だよ」
穂乃花:「すごっ、よく分かるね!」
里香:「まぁね。姫鱒くらいは見れば分かるかな〜」
愛生:「……ちょっと待って、里香って管釣りだけじゃなくて、ネイティブもやるの?」
里香:「うん、まぁ少しだけね?」
花音:「キャ〜〜!里香ちゃんカッコいい〜!」
(両手を合わせて“お願いポーズ”)
「かにょんもお魚さん、詳しくなりたいぞ」
里香:「……花音にはまず、朝マズメに起きる修行からだね」
花音:「うぅ〜ん、それがいちばん難しいやつ〜」
そして、湖畔を見渡しながら里香が言った。
「まだ時間早いし、ちょっと車でゆっくりしてから“芦ノ湖探検”に行こっか!」
愛生:「賛成〜!」
花音:「かにょん、お菓子持ってきた〜!」
穂乃花:「わたし、温かい紅茶あるよ」
里香:「よし、それじゃ“女子の朝カフェ in 芦ノ湖”だね」
こうして、釣りに燃える男組と
のんびり満喫する女子組――
夜明けの芦ノ湖を舞台に、2つの物語がいま、静かに始まるのだった――。
一方、圭介と明宏は朝靄が湖面にたなびく芦ノ湖。
まるで空と水の境目が消えたような幻想的な景色の中、
2人のシルエットが静かに立っていた。
圭介:「夜明けからの2時間が勝負だ……。
ここで釣れなきゃ、夕方までは地獄タイムだぞ」
明宏:「うん……了解っす!」
(やる気MAX。背中から“釣り魂オーラ”が立ちのぼる)
カシュッ、シュルルルルル……ポチャン!
ミノーが湖面を切り裂き、朝の光にキラリと輝く。
だが――。
何も起きない。
何も起きない。
そして……また、何も起きない。
「帰ってくるだけのミノーさん。」
圭介:「……投げても、投げても、平和だな」
明宏:「静かすぎる……」
(風の音だけが耳に刺さる)
刻一刻と過ぎていく「朝マズメタイム」。
太陽は顔を出し、湖面が金色に染まる。
圭介(心の中で):
「頼む……俺はいい。だから、明宏のミノーに食ってくれ、ブラウン……!」
その瞬間――
「出たーーーーっっ!!!」
明宏の叫びが芦ノ湖に響き渡る!
ロッドが弓なりに曲がり、水面で大暴れする魚影!!
圭介:「きたかぁーッ!!」
明宏:「今度こそ、逃がさねぇ!!」
ドラグを締めてパワーファイトに持ち込む!
リールが悲鳴を上げるように「ギャーーー!」と鳴る。
水面では巨大な魚が首を振り、回転しながら暴れる。
まるで「お前には渡さん!」と叫んでいるようだった。
が、しかし――
「スポッ。」
「……あ。」
(沈黙)
ロッドのテンションが消え、湖はまた静かに戻る。
明宏:「……まただ……またバレたぁぁぁぁーーー!!!」
地面にしゃがみ込み、頭を抱える。
「くそー!くそーっ!!」
声を震わせながら、拳で地面を叩く。
圭介はそっと、外れたミノーを拾い上げた。
「……フック、伸びてるじゃないか」
見事に“のび〜〜ん”と変形したフック。
まるで「ごめん、耐えられなかった」って顔をしている。
圭介:「これじゃ抜けるわけだ……」
明宏:「(ガーン)……そんなぁ……」
そして――
「くそぉ……っ、クソーッ!!!」と叫びながら、ついに明宏の目から涙がこぼれ落ちる。
圭介:「……(よしよし)男泣きの芦ノ湖、か」
遠くでカモが「グエェェ〜」と鳴いた。
まるで慰めるように。




