みんな天使
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
「ん……?」
里香が足を止める。
前方に、ふわふわ天使みたいな2人組。
白と水色がまぶしい。
「……あれ誰?」
里香の脳内では、“知り合い検索ルーレット”が高速回転。
カチカチカチカチ……ピタッ。
(うーん、該当者なし!)
「私の知り合いにあんな天界オーラ放ってる人、いないんだけど……」
「えっ、あれ、愛生ちゃんだよ?」
穂乃花の天然観察眼が炸裂。
「えっ!? あれが!? 愛生!?」
里香、目を凝らす。
確かにあの髪型、あの背丈……でも、服が……!
ふわふわ天使界隈!?
(私の知る愛生は、もっと……こう、地に足ついた感じだったはず……)
「ということは……」
「うん、愛生ちゃんの隣は、花音ちゃんだと思うよ」
穂乃花がにこやかに断言。
「……えっ、えぇぇぇっ!?」
里香、現実を理解するまでフリーズ。
脳内で“状況処理中”の砂時計がぐるぐる回っている。
そんな間にも──
花音が愛生の手を引き、笑顔でダッシュ。
「愛生たん、行くよっ♪」
「ちょっ、まっ……!手、強いっ」
(肩が抜ける〜〜〜〜っ!!)と引きずられる愛生。
バタバタと駆け寄る2人。
「も、もしかして……花音嬢なの!?」
と驚く里香。
「うんっ、かにょんだお♡」
その瞬間──
「だお♡」の“お”のタイミングで、
花音は首をちょこんと斜め45度にかしげ、
キラキラ効果音が鳴り響く
ピコンッ(※脳内演出)
「か、かにょんって……本当に存在したんだ……!?」
「都市伝説じゃなかったんだ……!」
と衝撃を受ける里香と穂乃花。
その場には、
天使2人+庶民2人の、奇妙で愛しいしもむら対面劇が繰り広げられていた。
「……状況把握中……」
里香の脳内で、またもや“処理中アイコン”がぐるぐる。
(理解不能。天使が増殖している。誰か説明して……)
しかし──穂乃花は違った!
「花音ちゃん、かっわいい〜っ」
「愛生ちゃんも、かっっっわいい〜〜っ」
テンション爆上がりの穂乃花。
すっかり“天使界隈”に順応している。
「わぁ〜っ、穂乃花ちゃん、好き好き〜〜」
花音が抱きつく。
ぎゅうぅぅ〜っ。
「ひゃっ⁉ か、花音ちゃん……っ」
突然のハグに、顔を真っ赤にする穂乃花。
(え、えっと、これ、どこ見ればいいの!?)
その横で──
里香は、完全に置き去り。
(……誰か日本語に翻訳して。
この現象、どこの次元の文化なの?)
「そうだっ!」と花音がパッとひらめく
「4人みんなで、四つ子コーデしよっ」
「えっ、よ、四つ子……!?」
「え〜、嬉しいけど……今日そんなにお金ないよぉ〜」と穂乃花。
「ううん、大丈夫っ」
「穂乃花ちゃんとはお友達の印として、かにょんが買ってあげるから♡」
(また出た、かにょん経済圏……!)
愛生の背筋がゾワッとする。
里香はまだ、
“現実復帰プログラム”を読み込み中。
(……え、なに、今のハグ?そして次は何コーデ?)
そんな混乱もお構いなしに──
花音は両手を合わせて、
「お・ね・が・いっ」
その可愛い圧力に、
穂乃花も、里香も……抵抗不能。
「ちょ、ちょっとだけよ……?」(里香)
「わぁ〜っ、楽しみ〜!」(穂乃花)
花音、すぐさま行動開始。
2人の手を取り、ラックから次々と服を抜き出す。
「これとこれ〜!
はいっ、りかたんはこっち!
ほのかたんはこっち〜っ」
(※りかたん・ほのかたん:即席命名)
結果。
しもむらの試着室前には、
ふわふわ天使 ×4 の新種生命体が爆誕。
愛生 →(完全に流れに巻き込まれている)
里香 →(まだ現実にログインできない)
穂乃花 →(普通に喜んでる)
花音 →(全員をかにょん空間に拉致完了)
──こうして、
**“天使界隈しもむら支部”**が結成されたのであった。
─その日、ショッピングモールの通路を歩く4人の姿は、
どこからどう見ても異世界から迷い込んだ天使軍団だった。
ふわふわ、キラキラ、ひらひら。
天使界隈×4が一列で歩けば、通行人はつい二度見三度見。
幼児「ママ〜、あれプリンセス?」
母親「しっ、見ちゃダメ」
ピノノショップに立ち寄れば──
花音、キラキラ小物を両手に抱えながら大はしゃぎ。
「見て見て、ピノノちゃんの新作、羽根付きヘアピンなの〜っ」
愛生(もう羽根ついてるのに……)
里香(天使が羽根を“追加購入”してる……)
穂乃花(かわいい〜〜〜)
そして次の目的地、シストランスのカフェエリア。
天使×4が並んでボックス席に座るその光景は──
店員の心に「今日一番の混乱」をもたらした。
(なんだこの光の集団……!?)
(撮影か?インフルエンサーか?)
(いや、ただの高校生……!?)
里香、そっと花音に尋ねる。
「ねぇ、花音ちゃん……学校の時と今、全然違うけど、どういうこと?」
花音、にこっと微笑んで即答。
「学校のかにょんは“お嬢様”、学校外のかにょんは“天使”なの」
(※脳内に“説明されたのに理解度0%”の表示が点灯)
里香「……そ、そうなの……」
(今、情報量が多すぎて脳が再起動した……)
穂乃花「私は、どっちの花音ちゃんも素敵だと思うよ〜」
花音「わぁ〜っ、ほのたん、すきぃ〜〜」
愛生(……この人たち、体力どうなってるの?)
花音「お嬢様も天使も、み〜んな“かにょん”なんだよっ」
「って、ママが言ってたの」
愛生(……うん、ママもきっと大変なんだね……)
そこへ、花音のオムライスが到着
「わぁ〜っ、ふわふわ卵ちゃんっ」
「いただきまぁ〜す、あ〜ん、もぐもぐ、もぐもぐっ」
食べるたびに、BGMが幻聴でキラキラ鳴る(チリンチリン)
もはや“人間”ではなく“天界の食レポーター”。
店員(何この破壊力……)
隣の席のカップル(目が離せない……)
一方で、他3名は普通に食べている。
愛生「うん、普通においしいね」
里香「卵の火加減いいわ」
穂乃花「ふわふわだね〜」
──が、同じ“もぐもぐ”でも、花音だけ異様に尊い。
(同じ咀嚼動作のはずなのに、なぜこうも違うのか)
そして、食後の“花音劇場”第2幕。
「かにょんはメルヘンランドのお姫様
みんなにも“お姫様の印”をあげるねっ」
そう言って、ピノノショップで買ったキラキラ小物を、
1人ずつにプレゼント
穂乃花「わ〜っ、かわいい〜っ」
愛生「(受け取らないと帰れない……)」
里香「……(いや、これ本物の金額感なの?)」
花音の圧倒的“経済力と行動力”に、
里香、ようやく一言。
「……なるほど、やっぱり本物のお嬢様だわ」
愛生(ようやく納得したか……)
──こうして、天使界隈4人組による
「異空間ディナータイム」は、
周囲をざわめかせながら静かに幕を閉じたのであった。
食後のデザートも平らげ、
「かにょん劇場 in シストランス」は一旦幕を閉じた──
……はずだった。
だが、花音は立ち上がる。
「ねぇねぇ、愛生たんっ」
「せっかくだから、記念に“天使プリ”撮ろっ」
愛生「……プリ? あぁ、プリクラのこと?」
花音「そ!ピノノプリンセスルームにあるんだよ〜っ」
嫌な予感しかしない愛生。
(さっきから“かにょん”が提案すること、全部フラグ立ってる……)
ピノノプリンセスルーム前。
きらきらハートに羽根モチーフの壁。
「天使ちゃん専用」と書かれた看板。
まるで“かにょんのために作られた空間”のようだ。
店員「ようこそ〜天使プリへ〜」
花音「かにょんたち、天使4人で撮るのっ」
店員「(4人……天使……?)あ、はい!」
愛生(“天使”ってセルフジャンル登録できるんだ……)
撮影準備中。
花音、手際よく配置を決める。
「かにょんはセンターで、右に愛生たん、左に穂乃花ちゃん。
里香ちゃんはクール系天使だから、少し後ろで見守る感じっ」
里香「な、何そのポジショニング……!」
花音「ビジュアルバランスっ」
(里香、反論しようとするも“ビジュアルバランス”の圧に完敗)
穂乃花「わぁ〜、なんかアイドルみたいだねっ」
花音「そう、“天使ユニット”だよ! ユニット名はね……」
(ドラムロール)
「“Angelic☆Mates”っ」
愛生(なにその、明日にもデビューしそうなネーミング……)
撮影開始!
1枚目:「天使のポーズでハート〜」
→ 花音のハートポーズだけやたら完璧。
→ 愛生、タイミングずれて半目。
→ 穂乃花、にこにこ。
→ 里香、凛々しく仁王立ち。
花音「もう一枚いこっ! 次は“空飛ぶポーズ”っ」
→ 全員両手を広げる。
→ 背景の羽根エフェクトと完全一致。
→ 周囲から「本当に飛びそう……」の声。
3枚目は“天使のウィンク大会”。
結果:
花音 → 完璧アイドルウィンク
穂乃花 → ふにゃっとした笑顔
愛生 → 瞬きの途中で半目
里香 → 両目ぱっちり、魂の抜けた表情
プリ機から出力される写真。
「天界集合写真」「地上降臨4人組」「キラ天使たち」など、
自動タイトルが妙に合っている。
花音「かわい〜〜っ、これは家宝レベルだよ〜っ」
穂乃花「ほんとに天使みたい〜」
愛生「(……地上に戻りたい)」
里香「……これ、学校で見られたらどうしよう」
最後に花音がスマホを掲げ、満面の笑みで言う。
「じゃあ次は、このプリを背景に“記念自撮り〜っ」
愛生「えっ!? また撮るの!?」
花音「うんっ、今日の“天界進出記念日”だからっ」
──その日、モール中のインスタ映えゾーンに
“天使界隈4人組”の笑い声が響いたという……。




