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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
73/79

巻き起こる花音旋風

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

朝の通学路──

いつもなら、眠そうな顔で並んで立つ愛生と里香。

でも今日は違う。

愛生の隣に“かにょん”がいる。

それだけで、朝の風景がキラキラとピンク色に染まった気がする。


バス停の前。

愛生は無言、花音はリボンが風に揺れてピコピコ。


そこへ、トコトコと里香が登場。


「おはよー!」

いつものように元気な挨拶。


──しかし次の瞬間。


「里香さん、御機嫌よう」


……ぴたりと止まる里香。

(え、今、御機嫌ようって言った?)

(しかも“さん”付け!?)


一瞬で処理が追いつかず、

とりあえず条件反射で返す。


「ご、御機嫌よう……?」


横で見ていた愛生は、

(うわぁ、バス停に“上流階級の朝”が生まれてる……)

と心の中でツッコんでいた。


そして──

里香の視線は、花音の真っ赤な大リボンへと吸い寄せられる。

しかもヒラヒラ付き。

しかもハーフアップ。

しかも完璧に似合っている。


(いや、いやいや……普通こんなの浮くでしょ!?)

(でも、なんか似合ってるのが……腹立つくらい不思議……!)


バスが停まり、プシューという音と共に穂乃花が乗ってきた。


「おはよ〜……」といつもの調子で挨拶しかけた瞬間――


「穂乃花さん、御機嫌よう。」

花音が丁寧にお辞儀。


車内の空気がピタリと止まる。

愛生と里香は無言で穂乃花のリアクションを見守る。

(さあ、穂乃花ちゃん、どう出る……!?)


穂乃花はほんの一瞬考え――

「花音ちゃん、御機嫌よう♪」

まさかのノリ完璧返し。


――この子、順応力高すぎでは!?

と、同時に驚く愛生と里香。


その直後、穂乃花の目が花音の髪へ。

「わあ〜! 花音ちゃんのリボン可愛い〜っ!」


花音は微笑みながら、

「穂乃花さんもおリボンされてみては? きっとお綺麗ですわ。」


「え〜、いいの〜!?」

テンション高めの穂乃花、すでにノリノリモード突入。


花音の隣に座ると、花音が器用に穂乃花の髪を後ろでまとめ、

予備の大きなリボンをすっと取り出して――ぱちん。


「上品な穂乃花さんに、大変お似合いですわ。」

にっこり花音スマイル。


鏡代わりの窓に映る自分を見て、穂乃花は目を輝かせた。

「わ〜! 大きなおリボン女子高生、完成〜っ♪」


バスの中、静かな通勤客たちの中で、

上品すぎる「おリボンデビュー儀式」が粛々と執り行われていた。


朝の登校路。

いつもの通学風景――の、はずだった。


……が、今日は違う。


前を歩くのは、巨大リボンが朝日に反射してキラキラ輝く二人組。

花音と穂乃花。

その後ろを、なぜか見て見ぬふりで歩く愛生。


「うわぁ……リボンの存在感が校章より主張してる……」

愛生、心の声。


花音のリボンは普通のサイズの約3倍。

まるで“おリボン界のフラッグシップモデル”である。

しかも穂乃花の頭にも、同型のサテライトリボンが装備されていた。


通り過ぎる生徒たちは、みな足を止める。

「なにあれ……でっか……」

「いや、でっかいけど似合ってる……」

「風、受けてる……!」


穂乃花は赤面しつつ、

「ねぇ花音ちゃん……ちょっと注目されすぎじゃない?」

と小声で訴えるが、


花音はにっこりと微笑み、

「まぁ……皆さん、朝から目が冴えますわね。」

と余裕のプリンセス対応。


むしろ軽く手を振る始末。


愛生はというと、視線を逸らしながら心の中で叫んでいた。

(お願い……今だけ透明になりたい……!)


その一方、男子生徒たちの間では早くも噂が爆発中。


「なぁ、あの黒髪ハーフアップの子、誰?」

「知らねー、でもマジ可愛い。」

「もう一人の子もリボンで視界ジャックしてるぞ。」


――こうして、登校初週にして花咲花音の知名度は、

校内SNSを通じて一気に広まっていった。


巨大リボン、恐るべし。


巨大リボン姉妹を引き連れ、通学路を歩く四人。


愛生は――完全に空気化していた。

(お願い……誰も私を見ないで……。私はただの通学路の石ころ……)


一方で、隣の里香は背筋をピンと伸ばし、胸を張る。

「何も悪いことしてないんだから、堂々と歩くのよ!」

まるで“自分が校門の守護者”かのような堂々っぷりだ。


――そう、里香は正々堂々の精神を持つ女。

(でも、圭介だけにはツンデレ)


愛生と里香はそのまま同じクラスへ。

花音と穂乃花は別クラスへと分かれていった。


そして、花音と穂乃花の教室。


並んだ2人の席――

花音は真っ赤な巨大リボン、

穂乃花は黄色の巨大リボン。


ぱっと見、まるでアイドルユニット「ツインリボンズ」である。


穂乃花は顔を真っ赤にしながら小声でつぶやく。

「は、恥ずかしいよぉ……こんなに目立つの……」


しかし、花音は堂々と微笑む。

「まぁ、皆さま朝から目の保養ができて幸せそうですわね」


穂乃花の後ろ――そこには既に“リボン信者”が誕生していた。


武士である。


(ぐはっ……! この並び、神……! 桜井さんと花咲さんが並ぶ奇跡の構図……!)

武士、テンション限界突破。


そして男子たちのざわめきが広がる。


「なぁ、花音ちゃんってマジでアイドルみたいじゃね?」

「穂乃花ちゃんもさ、地下アイドル感あるよな?」


“地下アイドル”というワードにピクッと反応する穂乃花。


「ち、地下……⁉ 私そんなつもりじゃ……!」

と動揺しながら、教科書で顔を隠す。


一方で、花音は堂々と腕を組み、どや顔。

「まぁ、アイドルと言われても否定はできませんわね」


穂乃花(※赤面中):

(気付いてない……“地下”ってついてるの、気付いてない……!)


こうして、

花音と穂乃花――“リボン姉妹”の伝説は、

この日から静かに、しかし確実に校内に広まり始めたのだった。


放課後、鱒釣り部の部室。

窓の外は夕焼け、部室の中にはどこか疲れた空気が流れていた。


「それからね、女の子たちの視線がキツくて……結局リボン外しちゃったよ〜」

と、机に肘をついてため息をつく穂乃花。


「お昼にはもう外してたわよね。ちょっとガッカリしたわ」

と、なぜかリボン愛好家のような口調で言う里香。


(お願い、リボンの話題はもうやめて……)

愛生は“空気”モードで机の木目をひたすら数えていた。


「……あれ? 愛生ちゃん、なんか元気ないね〜?」

と、穂乃花が覗き込む。


「えっ、あっ……あのねっ、御殿場キャンプの準備しなくちゃ!」

慌てて話題を変える愛生。

(うまく話を逸らせた……!)


──ピコピコ♪

その瞬間、愛生のスマホが無慈悲に鳴り響く。


画面には、見慣れた名前。

花音。


『愛生たん、お家帰ったら、近くのショッピングモールのファッションしもむら行こ』


……嫌な予感しかしない。


でも、断れない。

(絶対に“お姉さんムーブ”の延長だ……!)


愛生「い、いいよ〜」


すぐに返信が届く。


『わ〜い、かにょん、いいお姉ちゃんしながら待ってるね』


(あああ……このテンション……絶対ヤバい方向のやつだ……)


「どうしたの?」

と、興味津々の里香。


「花音ちゃんと……ファッションしもむらに行くことになっちゃって……」

と、しぶしぶ白状する愛生。


「えっ! 本当!? 面白そうじゃない!」

瞳を輝かせる里香。


「ねぇ穂乃花ちゃん、私たちも行こうよ!」


「え〜っ、私たち誘われてないからやめようよ〜!」

と抵抗する穂乃花。


「行く行く〜♪」

すでに決意を固める里香。


「いやいやいや、里香も穂乃花ちゃんも忙しいでしょ? だから見に来なくても大丈夫、無理しないで!」

必死で止めようとする愛生。


「全然大丈夫! 無理する価値あるから!」

と、里香のキラキラ笑顔。


穂乃花「(……誰も止められない……)」


そして愛生は悟った。


――もう、どうにも止まらない。

“しもむら突撃隊”の行軍は、もはや運命。


(あぁ……私の平穏な放課後が……しもむらの試着室で終わる……)


夕焼けの部室に、愛生の小さなため息が響いた。


夕方。

学校から帰宅した愛生が玄関を開けると、そこには──


ふわっ、と白と淡い水色の光が差したような光景。


「愛生たん、おかえり〜」


そこに立っていたのは、

白と水色のジャージ素材のパーカーに、ふわっと透け感のあるスカート、

そして淡い羽のピアスが揺れる天使界隈コーデの花音だった。


まるで“地上に降臨したトラックジャケット天使”。


愛生は思わず立ち止まる。

「えっ……花音ちゃん、地雷系じゃなかったの……?」


「うん、かにょんは地雷系も量産型も好きだけど〜、

今日は天然な愛生たんに合わせて天使界隈なの〜」


「……ちょっ、私って天然キャラ扱いなの!?」

と、じわじわ不満が顔に出る愛生。


花音は両手を合わせて、にこり。

「だって、愛生たん、ふわふわしてて癒し系だもん」


(癒し系……いや、それ“ぼんやりしてる”って言いたいだけじゃない!?)

心の中で全力ツッコミを入れる愛生。


「それでねっ」

と、花音が愛生の手をぎゅっと握る。


「しもむらで双子コーデ買おうねっ」


にっこりと天使の笑顔。

愛生はその眩しさに一瞬言葉を失う。


(多分……花音ちゃん、私のことを可愛がってくれてるんだよね……)


そう、花音は心の中でこう考えていた。

「私がお姉ちゃん的存在だから、愛生ちゃんを可愛がってあげなくちゃ」


──しかしその“可愛がり”は、

愛生にとっては優しさ100%、お節介120%。


(優しいのはわかるけど……その優しさ、ちょっと重いんだよね……)


結局、愛生は微妙な笑顔を浮かべながらつぶやいた。


「……うん、じゃあ、行こっか……しもむら……」


花音「やったぁ〜、かにょん、天使パーカーでもう準備万端〜」


そして、

“天然(仮)愛生”と“天使界隈お姉ちゃん”のしもむら出撃が、

静かに始まったのだった。


その頃──

愛生と花音の出撃から少し遅れて、

里香と穂乃花の2人もファッションしもむらへと向かっていた。


歩きながら、里香は腕を組んで難しい顔をしていた。


「ねぇ、穂乃花ちゃん……ちょっと変だと思わない?」


「えっ、何が?」


「だってよ? お嬢様の花音ちゃんが、量販店のしもむらでお買い物なのよ?」

「ありえなくない? それってもう、偽お嬢様なんじゃないの?」


穂乃花は慌ててフォローを入れる。

「そ、そんなことないよ! 上流家庭の子でも、量販店でお買い物する子はいると思うよ!」


しかし、里香の妄想スイッチはもう入ってしまっていた。


「ふふ……もし、私が花音お嬢様の専属メイドだったら……」

と、いきなり“メイドモード”に突入。


里香は片手でスカートの裾をつまみ、

上品なメイドの所作で言った。


「花音お嬢様、本日は男爵様主催の舞踏会にございます。

お召し物はいかがなさいますか?」


そして自分で自分に答える。


「男爵様は赤を好まれますわ。

それでは、真っ赤なドレスに真っ赤なリボンをご用意なさいませ〜」


「……な〜んて事になると思うのよっ!」

と、ドヤ顔で一人二役を完遂する里香。


横で見ていた穂乃花は、深いため息をつく。

「も〜、里香ったら……また妄想劇場始まっちゃったよ〜」


「だってぇ〜!」

と、里香はまだ止まらない。


「量販店でお買い物なんて、本当は庶民派なんじゃないの?

つまり……普通の女の子ってこと!」


「……え、つまり花音ちゃん、普通……?」

と穂乃花。


「そう! **しもむらじょう**なのよ!」

と、意味不明な造語を生み出す里香。


穂乃花は苦笑しながらつぶやく。

「ついてきちゃったけど……これ、ほんとに大丈夫かなぁ……」


そして2人は、

“疑惑のしもむらお嬢様”を追って店の自動ドアへと消えていった──。


一方で、愛生と花音はファッションしもむら・レディースコーナーにて。


花音はハンガーを手に、キラキラの笑顔で動き回る。

「愛生たん、これ着てみて! ぜ〜ったい似合う!」


そして愛生は、試着室を出たり入ったりの無限往復状態に。


まずは第一ラウンド:シック系コーデ。


「う〜ん、ちょっと大人しいかなぁ〜」

花音は顎に指を当てて真剣な表情。


「やっぱり愛生たんはアホ……じゃなかった! 天真爛漫だから〜!」


「今、アホって言いかけたよね!?」

ムッとする愛生。


第二ラウンド:地雷系コーデ。


花音は黒×ピンクのスカートを手に取り、ニヤリ。

「さぁ、病みかわデビューだお♡」


試着室から出てきた愛生。

鏡の中には、目の下のチーク強め、地雷風の愛生が。


「キャー愛生たん! そのダークで病んでる感じがかわいい〜い♡」


「どこが!?」

愛生は半目でツッコミを入れる。


第三ラウンド:量産型コーデ。


ふりふりスカートに黒いリボン。

「キャー愛生たん、ドルヲタみたいでかわいい〜い!」


「は? 私、アイドルとか興味ないし」

と冷ややかな返し。


愛生の顔がどんどん曇っていくのを見て、

花音は(あっ、これ地雷じゃなくてリアル怒りの方だ)と察知。


花音は即座に笑顔でフォロー。

「愛生たんはね、天使みたいにかわいいから〜!

かにょんとお揃いで天使界隈コーデにしよっ」


結局──

2人は色違いの天使界隈コーデを購入。もちろん花音の奢りである。


ところが、レジ後に花音が店員さんと何やら話していた。

戻ってきた花音がキラッと笑う。


「愛生たん、買った服ね、試着室で着て帰っていいって〜」


「……は? 今ここで双子コーデするの?」

愛生の目が点になる。


「今日は妹ちゃんと双子コーデするんですっ!」

と店員さんに説明する花音。


「まぁ〜、仲の良いご姉妹で、お姉さんお優しいですねぇ」

営業スマイル炸裂。


「え〜ん、もう拒否できないよ〜」

愛生は心の中で泣いた。


「さあ、愛生たん……今こそ、かにょんと一緒に天使になるの」

花音は目をキラキラさせながら手を差し出す。


「(……まぁ、里香ちゃんと穂乃花ちゃん来ないみたいだし、

知り合いに見られなければいっか……)」


覚悟を決めた愛生は頷いた。


そして2人は試着室へ──

カーテンの向こうで、パタパタと布の音。


カーテンが開くと、そこには――

しもむら発・双子天使界隈シスターズが誕生していたのだった。


その時──


試着室から出てきた愛生と花音。

2人はしもむら発・双子天使界隈コーデを身にまとっていた。


ふわふわの白×水色。

袖口には小さな羽根の刺繍。

おそろいのリボン、そして……なぜか手を繋いでいる。


「えっ、花音ちゃん、なんで手繋いでるの!?」

「えっ? 姉妹は手を繋ぐものでしょ?」

「いつ姉妹になったの!?」

(心の中で全力ツッコミの愛生)


そんな2人、にこやかに出口へ向かう。

あと少しで退店……というその時。


愛生の視界に──

赤いスカートと見慣れたポニーテール。

そして、隣には黒髪ショートの天然天使。


里香と穂乃花。


愛生、即座に反応。

「あっ……まずい、見つかったら終わる」


とっさにうつむき、

「(見ないで、見ないで、空気になれ私……)」

と忍者のように小さくなる愛生。


しかし、運命は無情だった。


花音がにこにこしながら顔を上げ──

「愛生たん、あれ、里香ちゃんと穂乃花ちゃんだおっ!」


「ちょっ、ちょっと待って今はやり過ごそ!?」

愛生は小声で制止。


「なんで? はてな?」

花音、素で疑問顔。


「いや、今はほら……その……」

説明の途中で──


「里香ちゃ〜んっ! 穂乃花ちゃ〜んっ!」


満面の笑顔で両手をブンブン振る花音。

手を繋いでるせいで、愛生の手も一緒にブンブン。


「うわぁぁぁぁっ、やっちゃったぁぁぁぁ……!!」

愛生の心の中で、スローモーションの絶望音が鳴り響いた。


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