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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
67/79

ネイティブブラウン編・第五話「明宏・戦国武将と愛生のゆるキャラ」

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

朝霧がゆっくりと晴れていくと、

白いもやの隙間から、一筋の朝日が湖面に降り注いだ。


金色の光が水面を照らし、まるで天から降るカーテンのよう。


「……うわ、綺麗だ……」

圭介、釣り竿を持ったまま完全にフリーズ。


(ちょ、これ……尊い……!)


次の瞬間、はっと我に返る。

「あっ! 愛生に見せなきゃ!」


「愛生、あっち見て!」

圭介が指差した先に、光の筋がまるで天界の扉のように輝く。


「うわぁ〜……キレ〜〜!」

愛生の目がキラキラ。


2人、並んで湖面を見つめる。

「なんか心が洗われるね〜」

「うん……神様が釣れる気がしてきた」

(※ブラウンじゃない)


そんな神秘ムード全開の二人の後ろで──


「うりゃああっ! とりゃああっ!」


ズバッ、バシャンッ!!


空気を切る音と共に、ルアーが次々と湖に突き刺さる。

殺気が立ちのぼり、周囲の小魚が泡を立てて逃げるレベル。


「うおおおおっ、出ろブラウン! 逃げるなッ!」

明宏、完全に戦闘モード。


「……明くん、すごい殺気。ギラギラしてる……なんか怖いね」

愛生が小声でつぶやく。


「うん、あんなに真剣な明くん、なかなか見ないな……」

圭介も引き気味。


朝日が降り注ぐ湖畔で、

兄姉は癒やし系スローライフ、

明宏だけ戦国バサラ・釣り侍モード。


静寂と殺気が同居する、なんともカオスな芦ノ湖の朝であった。


数羽の鴨がスイスイと泳いでくる。

朝の芦ノ湖を優雅に漂うその姿──まるで絵画のよう。


……だったのだが。


明宏のルアーが「ブシュッ!」と水面を切った瞬間、

鴨たちの動きがピタッ。


(ピタリと静止)


次の瞬間、まるで「危険、あそこやべぇ」とでも言いたげに、

全員で方向転換!

バシャバシャッと羽音を立てて、明宏ゾーンから即・退避。


そして、愛生の近くでプカプカ……。

安全地帯をよくわかっている。


「かっわいい〜〜♡」

愛生、目をキラッキラにして大はしゃぎ。


一方で圭介はため息。

「……殺気立ち過ぎて、鴨も逃げてる。魚も逃げそう。こりゃダメだ。」


そして判断。

「明くん、愛生ちゃん。一息入れようか。」


「は〜いっ♪」

愛生は即答、笑顔満点。


「チェッ、仕方ないなぁ〜……」

明宏、やや不満顔ながらもしぶしぶ竿を置く。


圭介の背中のリュックには、

救急セット、水筒、そして昨日愛生が買ってきたお菓子がぎっしり。

まるで遠足。


3人は早川水門横の砂浜に座る。

圭介が水筒から紅茶を注ぎ、コップを手渡す。


「湖畔で食べるお菓子って、なんか格別に美味しいねぇ〜♪」

おばちゃんみたいなテンションの愛生。


「うん、時間がゆったり流れてく感じ、またいいよねぇ〜」

圭介もほっこりモード。


「……もう、なんなんだよこの二人。のんびりしすぎだって!」

明宏、呆れ半分あきらめ顔。


「明くん、せっかくの芦ノ湖なんだから、もっとのんびりしよ〜」

愛生がニコニコ。


「せっかくの芦ノ湖なんだから、1回でも多くキャストしたいんだよ!」

明宏、即反論。


圭介は紅茶をすすりながら苦笑。

「明くん、俺釣り下手だけどさぁ……

“釣りたい釣りたい”って気持ちが強すぎると、

殺気で魚逃げちゃうんじゃないかな〜。」


「うんうん、鴨さんだって明くん避けてたもん!」

愛生もすかさず追撃。


「……鴨は水面で俺が見えるけど、

魚は水中だから、関係ないと思うよ。」

明宏、理屈で反撃(やや苦しい)。


3人の笑い声が、静かな湖面に響く。


こうして“殺気のミノー侍”も、

束の間のティータイムで人間らしさを取り戻したのだった──。


釣り休憩を終え、3人は早川水門からハイキングコースを歩き、

次のステージ・**深良水門ふからすいもん**へ突入!


明宏、再び闘志がメラメラと燃え上がる

(目の奥がギラリ。完全に戦闘モード)


一方その頃──


愛生もロッドを構え、

「え〜いっ♪」と可愛らしくミノーをキャスト。

チャポンと着水。


そして……


「シュッ、んしょ、巻き巻き、んしょ、巻き巻き〜♪」


身体を右へクルリ、左へクルリ、

まるで湖畔のピンク・ダンサー。


ピノノちゃん帽子とピンクのジャケットが太陽にきらめき、

まるでファッション誌の「湖畔アクティブ特集」状態。


圭介はその様子を見て、思わず口元が緩む。

(このド天然さ……癒されるわぁ〜)


兄、釣りを忘れてほっこり。

妹、釣りを忘れてダンス中。

そして明宏だけが真剣そのもの。


圭介も気を取り直してミノーをキャスト。

「トゥイッチ、トゥイッチ……」

(だが内心“どうせ釣れんだろ”と思っている)


──その時!


「うわぁ〜!なんかかかったぁ〜!」

愛生の叫びが芦ノ湖にこだまする。


バッと駆け寄る圭介と明宏!

竿がぐんにゃり曲がってる!


「すごいぞ愛生!」

「お、落ち着け!巻け巻け巻け!」


ドキドキのファイトの末……

水面に現れたのは、30センチほどのブラックバス!


「うわ〜!可愛い〜!つぶらな目ぇ〜!」

と、釣り上げた本人より喜ぶ愛生。


「愛生すげぇ!初バスだ!」

圭介、すぐさま兄バカモード全開で拍手パチパチパチ


その横で明宏、心の中で小声。

(……な、なんだ。バスか。ブラウンじゃなくてよかった……)

だが口元は引きつっている。


「よし、バスもちで記念撮影だ!」

テンションMAXの圭介。


芦ノ湖バックにパシャリ

深良水門バックにパシャリ

森バックにパシャリ


まるで“釣りじゃなく観光”状態。

愛生も嬉しそうにピース


「なんだよ……バス程度で、あのはしゃぎっぷり……」

明宏、眉間にシワを寄せながら後ろでモヤモヤ。


心の奥底から込み上げるのは


「羨ましさ」か「悔しさ」か、それとも「釣り神への嫉妬」か。


湖風が優しく吹く中、

彼の背中からだけ異様な殺気が再び立ち上るのだった。


「愛生、初バスおめでとう!」

と、口では笑顔で言ってみせた明宏。

だが、その笑顔の裏では──


心の奥に、黒いモヤモヤがグツグツ煮え立っていた。


(なんでだ……なんで俺じゃなくて愛生なんだ……)


明宏の脳内では、釣り人の理性と感情が真っ向からぶつかり合っている。


(よ、よし……ルアーマンとして、後輩の釣果を称えなきゃ……)

「すごいな愛生、ちゃんとアクション効いてたんだな!」

と言いながらも、声がワントーン高く裏返っている。


(くそっ……なんでこんなに羨ましいんだ……!)


愛生はピースサインで「イエ〜イ」

圭介はニコニコ笑顔で「よかったな〜」


その姿を見ていると、心臓の奥をギュッと握られるような苦しさが込み上げてくる。


(観光気分で釣ってる奴が釣れて、

俺みたいに真剣にロッド振ってる人間が釣れない……?

なんだそれ、釣りの神様、理不尽すぎるだろ……!)


頭ではわかっている。

焦りは釣りの敵。

メンタルを乱せば魚も逃げる。


それでも……


(認めたくねぇ……俺、羨ましいなんて、絶対言いたくねぇ……!)


プライドが邪魔をする。

釣りバカとしての意地が、素直さを封じ込める。


「……ま、まぁ、次は俺の番だな」

と、明宏は強がって笑う。


だがその目には、微妙に涙のような光が浮かんでいた。


そして内心で小さく呟く。


(ブラウン……頼む、俺のロッドにも来てくれ……!

このままじゃ、俺の心がリリースされちまう……!)


次の瞬間、明宏の手は無意識にルアーケースを開けていた。

「よし、スプーンに変えるか……いや、ミノーで通すべきか……!」


焦りと意地と嫉妬が入り混じった、

明宏の“闇のタックル選び”が、静かに始まるのであった──。


圭介が腕時計をチラリ。

「おっ、11時半か。そろそろ車戻ってお昼ご飯にするぞ〜」


その一言に、愛生の反応は秒速。

「わ〜い! お昼ごはんだ〜!」

ピタッと兄・圭介の腕にくっついて、まるで遠足中の小学生。


一方その頃──湖畔の明宏は、

ひとりロッドを握りしめ、魂が抜けかけていた。


午前ボウズ。

それは釣り人にとって最大級の屈辱。


(ありえねぇ……あの愛生が1匹釣るなんて……!)

(いや、落ち着け明宏。ターゲットはブラウンだ。バスなんかじゃない……ブラウンじゃない……それだけが……救い……)


そう、明宏は「心の中で言い訳」という名の戦いを繰り広げていた。


「まぁ、しょうがないよ」

圭介が慰めるように肩をポン。

「狙ってない魚が釣れるなんて、よくあることだからさ」


「そうなの?」と、ちょっと救われた顔の明宏。


「あるある。バス狙って鱒が釣れたり、鱒狙って鮎が釣れたり。

自然界は自由なんだよ。なっ、愛生?」


「うん、愛生ちゃんはね〜お魚が釣れたらなんでもいいと思ってたよ〜♪」


まるでピクニック感覚の返答。


(なっ……なんだその適当な発言はぁぁぁぁ!)


パキッ。

明宏の中で何かが折れた音がした。


「クソッ……午後は……午後こそは絶対に……!」

ロッドをギュッと握りしめ、燃え上がる闘志。


背中からはまるで赤いオーラ、

頭の中では「燃えてヒーロー」が流れている。


一方、圭介と愛生はお菓子を頬張りながらのんびりモード。


「明くん、早くおいで〜、」

「……うるさいっ! 午後は勝負なんだっ!!」


そう叫ぶ明宏の声が、静かな芦ノ湖の風にこだました──。

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