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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
65/79

ネイティブブラウン編・第三話「明宏、ついに自立を宣言!? ~財布は痛むが心は熱く~」

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

翌朝――。

通学バスの一番後ろの席で、明宏はスマホ画面と真剣勝負をしていた。


「安いロッドでも1万円…リールも1万円……。

お年玉貯金を使うのは……いやだな〜。

圭ちゃんがロッドとリールとライン買ってくれて、

愛生がルアーを買ってくれたら最高なんだけどな〜。」


と、もはや呪文のような独り言をブツブツ唱える明宏。

近くの席の生徒が一瞬振り向いたが、

明宏の「釣具予算算出会議」は止まらない。


いつもなら姉・愛生と一緒に登校するのだが、

今日はなぜか早起きして先に出発。


(どうせ今ごろ、愛生が“明くん1人で行っちゃった〜!”って慌ててるだろうな…ふっふっふ…)

と得意げにニヤける明宏。


しかしその頃――


愛生は1人、のびのびとした朝を満喫していた。

「ふふっ、たまには静かな登校も悪くないね〜♪」


バス停で里香と遭遇。


愛生:「おはよー」

里香:「おはよう」


すると里香が小首をかしげて言う。

「あれ? 今日は弟くんいないのね?」


愛生は苦笑しながら答える。

「うん、昨日ね、明くんが“芦ノ湖でブラウン釣りたいからタックル買ってくれ〜”って駄々こねてさ。

でもお兄ちゃん、船舶免許取るし魚探買うしで“お金ない”って言ったら、怒っちゃって。」


里香:「あ〜、明くんは末っ子の甘えん坊だからね〜。

愛生も大変だねぇ〜。」


愛生:「ほんとそれ……。」


その頃――

ひと足早く学校に着いた明宏は、教室の席で腕を組み、

深刻な表情で「家庭内資金調達計画」を練っていた。


(うーん……どうにかして圭ちゃんか愛生から引き出す方法は……?

いや、お母さんでもいい……!

とにかく、タックルさえ手に入れば勝ちだ!)


その目はもはや、テスト前の勉強よりも真剣であった――。


野球部の小谷が朝練を終え、汗をぬぐいながら入ってきた。


そのとき――

ブツブツと独り言を呟きながら、眉間にシワを寄せてスマホを見つめる少年がひとり。


そう、**市川明宏(中2)**である。


小谷(うわ、朝から考えごとしてる顔……めんどくさそうだな)


そっと視線を逸らし、気配を消して通り抜けようとする小谷。


しかし――


明宏:「ねぇ〜ねぇ〜小谷くん!ちょっと聞いてよっ!」


つかまった。


明宏:「兄と姉がね、釣り竿もリールも買ってくれないんだよ!

去年は1セットずつ買ってくれて、今年も1セット買ってくれたらのに、もう1セット買ってくれないんだ。

ひどくない!? 冷たくない!? なんて情のない兄姉なんだぁ!」


(※朝から全力の被害者アピール)


小谷(……やっぱり捕まった)


仕方なく、鞄を机に置いて話を聞く小谷。


明宏:「ねぇ小谷くん、野球道具って親とか兄弟が買ってくれるでしょ?

スパイクとか、グローブとか、バットとか!」


同情を誘うように、キラキラした目で詰め寄る明宏。


小谷:「うーん……グローブとスパイクは1年の時に親に買ってもらったけど、

金属バットと木製バットは、お年玉で買ったよ。」


「ガーーーン!!!」


教室に響く心の効果音。

明宏、頭の中で雷鳴が鳴り響く。


明宏:「えっ!? スパイクって走る用と守る用で2つあるんじゃないの!?」


小谷:「ないよ!? スパイクは1つだよ!?」


明宏:「でもグローブは、守備位置で違うんでしょ!?

外野用とか内野用とか、ピッチャー用とか!

(トラウトもエリア・渓流・本流・湖・海で異なるロッドを使うし、理屈は同じだと思うんだけど!)」


小谷:「いや……僕、守備位置固定だからグローブも1つ……」


苦笑いの小谷。

(なんで朝から釣り理論でマウント取られてるんだ俺……)


明宏:「バット2本!? しかもお年玉で!?」


崩れ落ちる明宏。

彼の“おねだり戦略”に走る亀裂。


小谷:「市川くんもさ、自分のお年玉で釣り竿買ったら?

自分のお金で買うと、道具をもっと大事にできるよ。」


正論。

眩しいほどの正論。


明宏:「う……」

何も言い返せない。


朝の教室に流れる静寂。


そして小谷は鞄から教科書を取り出しながら、心の中で呟いた。


(うん、今日も平和な朝練帰り……ではなかったな)


明宏がくり…

「なんてことだ……これじゃまるで僕が“わがまま末っ子ボンボン”じゃないか……!

僕はそんなんじゃないのに!」


(※わがまま末っ子です)


「でも……これからは兄と姉に色々買ってもらってるなんて、同級生には言うのやめよう。

甘えん坊みたいでカッコ悪いし……!」


(※甘えん坊です)


ぐぬぬと拳を握りしめ、ひとり決意のポーズを取る明宏。

そして――


「仕方ない……お昼休みに、寺ノ沢先生に相談だ!」



昼休み


中等部の廊下を駆け抜ける小さな足音。

「すみませーんっ!」

階段を駆け上がり、高等部職員室へ。


ドアを開けると、そこにいたのは――

釣りと古典文学をこよなく愛する寺ノ沢先生。


明宏:「寺ノ沢先生、相談があります!」

寺ノ沢先生:「おや、市川くん。どうしました?」


明宏:「芦ノ湖ブラウンを釣るためのロッドとリール……どんなのにしたらいいのか、

それに、自分で買った方がいいのかなぁ〜って悩んでて。」


寺ノ沢先生:「うんうん、なるほど……明宏くんの気持ち、先生はよ〜〜〜〜っくわかりますよ!」


(きた、長くなるやつだ)と思う明宏。


寺ノ沢先生:「先生もね、最初にカルシアのルアーロッドとアンハサダーリールを

自分のお金で買ったときは……それはもう、一大決心でしたよ。」


明宏:「(アンハサダー? アンハサウェイじゃないよね?)」


寺ノ沢先生の目が遠くを見つめ始める――


「カルシアの無骨なまでの光沢感……そしてメカニカルに輝くアンハサダーの赤。

そのコントラストが……! あぁ〜、あの胸の高鳴りと、ときめきが今、蘇るのです!

はぁ〜、たまりません!」


完全にスイッチON。

机の上のペン立ても一緒に震える熱弁。


アメリカのカルシアというメーカーのアンハサダーは1954年に、なんたらかんたらとウンチクが止まらない寺ノ沢先生


明宏:「(あっ、また話が脱線してる……!)」


寺ノ沢先生:「あれはね、まるで……妻と最初に出会った時に匹敵するくらいの感動でした!」


明宏:「えっ!? 奥さんアンハサダーと一緒なの!?」


(思わず心の中で全力ツッコミ)


それでも、どこか胸が熱くなった明宏。


「わかりました! 僕、自分のお金で――先生みたいに感動するロッドとリール、買います!」


寺ノ沢先生、満面の笑みで力強くうなずく。


「うんうん、それが“真のアングラー”への第一歩ですよ!」


その帰り道――

明宏の頭の中では、金色に輝くロッドとリールがBGM付きでクルクル回っていた。


(しかし現実では財布の中がスカスカである)


あの日――寺ノ沢先生の熱弁で心に火が灯った少年、明宏。

(※燃料は釣り魂と物欲です)


その夜、彼はついに決意を固めていた。


明宏(真剣な表情でスマホ片手に)

「ロッドとリールと……PEライン……この3点で2万円以内に収めよう。」


指先でネットショップをスクロールしながら眉間にシワ。


「渓流タックルはロッドだけで3万円だったなぁ……。

兄と姉に買ってもらう時は、値段なんて全く気にしなかったけど……」


(※実際、全く気にしていませんでした)


「でも……自分で買うとなると、なんか……重い……!」


財布を見つめて震える手。

まるで最終決戦を前にした勇者のような表情で――


「よしっ! 僕のお金で芦ノ湖用タックル一式を買うんだ!」


と拳を突き上げる。


そしてその夜――。


家族がくつろぐリビング。

テレビには釣り番組。

(偶然にもブラウントラウト特集)


ガバッと立ち上がる明宏。

「圭ちゃん、愛生!!!」


ビクッと振り向く圭介と愛生。

(過去の駄々っ子トラウマが一瞬よぎる)


明宏(胸を張って)

「僕……自分のお金で、芦ノ湖用タックル一式を買うからねッ!!!」


\バァァァーン!/(効果音:ドヤ顔)


“どうだ!すごいだろ!”とでも言いたげな表情。

誇らしげに仁王立ち。


しかし。


圭介と愛生、見事なハモリで――


「……あっ、そう。良かったねぇ〜(ホッ)」


ふたり同時に胸を撫でおろす。


圭介(心の声):「やっと出費が減る……!」

愛生(心の声):「鱒釣り部の活動費もかかるし……助かったぁ〜!」


ニッコリと笑う兄姉。

完全に“安堵モード”である。


一方、明宏。


「……あれ? もっと驚いたり、『明宏が!? すごい成長だね!』とか感動されると思ったのに……?」


ポカンと立ち尽くす。


圭介、テレビに視線を戻しながらぼそっと。

「よし、じゃあ自分で買うなら、ちゃんと予算内で選べよ。」


愛生は紅茶をすすりながら。

「うんうん、えらいえらい。頑張ってね、明くん。」


……なんだこの空気。

まるで**“親離れした幼鳥を見守る飼い主”**みたいじゃないか。


明宏、心の中で叫ぶ。

「くぅぅ〜! 僕の決心、そんな軽く流さないでよ〜!!!」


それでも――

「……いいさ。僕はもう、駄々っ子アングラーじゃない。

自分の力で、ブラウンを釣る男になるんだ……!」


圭介、愛生、明宏の3人は、ついに芦ノ湖釣行の日程を決定!

家族会議のような真剣さでカレンダーを囲み、

「ここだ!」と決まった瞬間、明宏の目がギラリと光る。


その日から――


明宏の“出勤先”は学校と釣具屋の2か所になった。

愛車・自称BMW(※実際はただのママチャリ)にまたがり、

朝も夕方も「芦ノ湖ブラウン攻略会議」と称して

地元の釣具屋をハシゴする日々。


店員さんの間ではすでに噂になっていた。

「あの毎日来る少年、またロッド触ってるよ……」

「買わないのに、めっちゃ語ってくるんだよね……」


明宏は今日もBMWをキコキコ漕ぎながら、

胸の中で高らかに叫ぶ。


「さあ、芦ノ湖ブラウンへの挑戦が――今、始まったんだっ!!」


(※ただし、まだタックルは吟味中である。)

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