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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
58/81

文化祭 準備 ②

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

放課後の部室、文化祭の展示物も飾り付けパーツも、ほぼ完成!

はさみの音も消え、ようやく作業の山を越えたその時――


「ねぇ、愛生ちゃんが好きそうな、かわいい冷凍たい焼き売ってるお店、知ってるんだ……」

穂乃花が控えめに、少し頬を赤くしながら言った。


「え~~!? なにそれっ!!」

愛生は椅子をガタッと鳴らしてピョンと跳ね上がる。

もう、テンションは釣り上がりアマゴ級。


「これこれ……」

穂乃花がスマホを差し出す。

画面には、ピンク、黄色、緑――まるでスイーツみたいなカラフルたい焼きがずらり。


「キャーー!! かわいい〜っ♡」

愛生はもう、喜びの小鹿のようにピョンピョン。


「……あぁ〜、また始まった」

呆れ顔でつぶやく里香。

このテンション、週3で見てる。


「愛生ちゃん、かわいいの大好きだもんね。喜んでくれて嬉しい〜」

穂乃花の顔には、ほんわか笑顔。


「次のお休みはこのたい焼き屋さん行こっ! 決定っ!」

と宣言する愛生。


「えぇ〜、わざわざ行くの? 通販でいいじゃん……」

とため息まじりの里香。


しかしその瞬間、愛生と穂乃花の“かわいい同盟”が成立する。


2人同時に、顔を見合わせて言った。

「かわいいしか勝たん♡」


「いや、勝負してないから……」

と、またしても冷静な里香のツッコミが飛ぶ。


それでも愛生は、キラキラした目で言葉を重ねる。

「かわいいしか〜〜勝たんっ♡♡」


両手でハートを作り、ぶりっ子全開ポーズ。

部室の空気は、甘いたい焼きの香りよりも甘ったるく満ちていった。


「えへへ……実はね、愛生ちゃんの影響で、かわいい物が好きになってきちゃったんだ」


「えっ、えっ!? えええっ!?」

愛生は一瞬フリーズ。

次の瞬間――ぱぁぁぁっと満面の笑顔に。

「うそっ! 穂乃花ちゃん、ようこそ“かわいいの世界”へ〜っ♡」


スクールバックをガサゴソ……

ぬいぐるみ、チャーム、リボン、そして謎のピノノちゃん2号(?)まで、

愛生の“夢のデコバック”がテーブルにドーン。


「見て見て〜! このカバン、全部かわいいでしょ〜?

穂乃花ちゃんも、こういうのにしよ!」


……やや目がチカチカする穂乃花。

「う、うん……すごいねぇ……」

(※“すごい”は“かわいい”ではない)


「私、そこまでメルヘンはいいかな〜」

と、にこやかに笑ってやんわり回避。


「えぇ〜〜〜!? メルヘンは正義だよ!?

バッグに魂を宿すのっ!」

と、熱弁をふるう愛生。


「魂は……ノートに宿しておくね」

と、そっと笑う穂乃花。


その温度差、約10℃。

部室には、かわいいの暴風と、穂乃花の静かな避難所が共存していた。


部室のホワイトボードには、大きく「文化祭準備:進行度95%!」の文字。

冷凍たい焼きの手配と、コスプレ衣装を決めてしまえば、もう下準備は完了だ。


「よしっ、じゃあさ! 次のお休みに冷凍たい焼きとコスプレ衣装、見に行こうよっ♪」

と、キラキラ笑顔の愛生。


「うんうん、楽しみだね〜〜!」

と、ほんわか頷く穂乃花。


一方、机に突っ伏している里香はというと——

「……わざわざ行くの面倒くさ……通販でよくない……?」

と、魂の抜けた声。


「え〜、ダメだよっ! 実物見ないと“かわいい指数”が計れないんだからっ!」

と、愛生は“かわいいセンサー”を作動させるポーズ。


そんな中、唯一テンションが低い男子・明宏は、

スマホをいじりながらぼそっと一言。

「俺、中等部の準備あるからたい焼き屋はパスね」


「なにそれ、ノリ悪っ!」

「え、でも……じゃあ3人で行こうねっ♪」

と、即切り替えの愛生。


「電車で行くんでしょ? もしたい焼き買ったら持って帰れないよ〜?」

と心配する穂乃花。


「大丈夫大丈夫っ。お兄ちゃんパシリに使うから!」

と、悪気ゼロ、笑顔100%。


「……今、何かとんでもないこと言わなかった?」

と呆れる里香。


「圭ちゃん、今回もご苦労さまです」

と明宏。


“次のお休み=兄の運命の日”が、静かに決定した瞬間であった。


日曜日の朝。

まだトーストも焼けていない食卓で、愛生は牛乳片手にサラッと爆弾を投下した。


「お兄ちゃ〜ん、文化祭用の冷凍たい焼き、今日に買いに行くから車出してね〜♪」


「……は?」

トーストをくわえかけていた圭介の手が止まる。


「ちょ、ちょっと待て、いきなり過ぎるだろ。てか、いつもいきなりだけど!」


愛生は聞く耳ゼロ。

「だって〜、お兄ちゃん彼女いないし、友達も少ないじゃん? だから私たちのお買い物に付き合っても平気でしょ♪」


「うぐっ……っ!」

(心の急所にクリティカルヒット!)


「お、おまえらって……“私たち”って誰だよ?」

と、慎重に聞き返す圭介。


「ん〜? 里香ちゃんと穂乃花ちゃんだよ。部活の買い出しだから、3人で行くのっ!」


その瞬間、圭介の脳内で天使のファンファーレが鳴り響いた。


(り……里香ちゃんが来るだと!?)

頭の中では、里香がたい焼きを手に微笑む幻がスローモーションで流れ、そして妄想が爆走する。


「仕方ないわね、圭介あ~んして」

里香が圭介の口元にたい焼きを優しく差し出す。


「いただきましゅ〜、モグモグ」

デレデレ、幸せいっぱいの圭介


「ねぇ~圭介、私のたい焼き、どお?」

甘えたら声でイチャつく里香


「うん、たい焼きも美味しいけど、俺、やっぱ里香ちゃんが、食べた〜い」


次の瞬間、「ビシッ」愛生が圭介の頭を叩く


「どうせまたしょうもないこと、考えていたんでしょ」


呆れた様子の愛生を誤魔化すように、

「おっけー! 可愛い妹の頼みを断るなんて兄失格だよなっ! よし、手伝うこととしよう!」

胸を張りながら宣言する圭介。


「やった〜! さすが私のお兄ちゃんっ♡」

と、愛生はしてやったりの笑顔。


——こうして。

「妹のため」と言いつつ、「里香のため」に、

圭介は喜んで冷凍たい焼き屋への“パシリ運転手”を務めることになったのであった。

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