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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
57/81

文化祭 準備 ➀

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

平日の朝。

夜勤明けでフラフラと帰宅した圭介。

寝不足のゾンビのように玄関へたどり着くと、そこには登校準備を終えた高校生の愛生と中学生の明宏の姿が。


「おっ、お兄ちゃんおかえりなさ〜い!」

太陽みたいな笑顔で愛生が手を振る。


「おつかれ〜」

明宏は片手で制服のボタンを留めながら、完全にオッサンみたいなテンション。朝から重力に負けている。


「お前ら……朝から元気だな……」

圭介はあくび混じりに言いながら、ふと愛生のスカート丈に視線が止まった。


「ちょ、ちょっと待て愛生! スカート、短くないか?」


「え〜大丈夫だって。ちゃんと折ってるだけだし、見せパン履いてるもん!」

堂々と胸を張る愛生。


「いや……そういう問題じゃ……」

圭介は言葉を詰まらせる。

(妹が男子の視線を浴びるとか……兄として寿命が縮むんだが!?)


そこへ愛生が悪戯っぽく笑う。

「だってさ〜、里香だってスカート短いじゃん。お兄ちゃん、いつもデレッとして見てるし〜」


「ぐぬぬっ……!」

反論不能。痛恨の一撃。


(ち、違うんだ……! 里香ちゃんの生足は見たいけど、愛生の生足は見せたくないんだよ!)

心の中で叫びながらも、口からは出ない圭介。


「じゃ、いってきまーす!」

颯爽と走り出す高校生・愛生。

その後ろを、眠そうにカバンを肩にかけた中学生・明宏がノロノロと追う。


玄関先に立ち尽くす圭介。

ぼんやりした頭で、ぽつりとつぶやいた。


「……兄ってのは、心配しても報われねぇ生き物だな……」


朝のバス停。

柔らかい朝日を浴びながら、制服姿の里香が静かに立っていた。


「おはよ〜!」

愛生が元気に駆け寄る。


「おはよう、愛生」

里香は微笑んで返す。その笑顔は相変わらず天使レベル。

短めのスカートでも、どこか上品で清楚な雰囲気をまとっている。


(うわ、やっぱり里香も短いじゃん……!)

愛生、心の中で兄・圭介の「スカート警察」発言を思い出し、むむむっと唇をとがらせる。


そこへ、数歩遅れてダルそうに明宏が登場。

肩からぶら下がる通学バッグが重力に完全降参している。


「……眠っ」

一言で彼のテンションがわかる中学生男子。


そんな明宏をよそに、里香が愛生のスクールバッグを見て、首をかしげる。

「ねぇ、またマスコット増えてない? 前より賑やかになってる気がするんだけど」


愛生、得意げにピース。

「ブッブー、残念でした〜! 不正解っ! チャームも増やしたんだよ〜!」


キラキラ、ジャラジャラ、愛生のバッグはまるで動く雑貨店。

マスコットホルダーとチャームが共演し、歩くたびにカチャカチャ音を立てている。


「そんなにいっぱい付けたら、邪魔じゃない?」

呆れつつも笑う里香。


「だって〜、かわいい子が多すぎて選べないんだもん!

1つだけなんて無理だよ〜」


愛生、すかさず里香のバッグに目を向ける。

里香のスクールバッグには、シンプルにマスコットがひとつだけ。

「えっ……1人ぼっちじゃん、この子!」

しげしげと見つめて、若干ショックを受ける愛生。


「うちの子は、少数精鋭だから」

と、里香はクスッと笑う。


(……なんか負けた気がする)

愛生、心の中で敗北宣言。


バスが近づいてくると、2人の髪がふわりと風に揺れる。

その後ろで明宏はあくびを噛み殺しながらぼそり。

「……朝から女子って元気だな……」


残暑が残る明るい朝。

日差しはまだじりじりと強く、バスの窓から差し込む光に、愛生と里香は思わず目を細める。


バスの中では、愛生と里香が並んで座り、明宏はいつものように一人、後ろの席でダラッと座っている。


愛生がふくれっ面でぼやいた。

「今朝ね、お兄ちゃんに“スカート短い”って言われたの〜」


「また? 圭介、朝から元気だね、」

里香が苦笑しながら言う。


「しかも、“男の目があるぞ”とか言ってくるんだよ?

 お兄ちゃん、私のこと男目線で見たことなんてないくせにさ!」


愛生の憤慨に、里香は心の中で(いや……ある意味、あるのかも)と思う。

(だって圭介、私のスカートはチラッと見るくせに、愛生ちゃんにはやたら厳しいし)


「それでね〜、“男からいやらしい目で見られるのが心配なんだ”だって」

と愛生が呆れ顔で言う。

「自分が一番いやらしい目してるくせにね!」


「うん、それは……否定できない」

里香は思わず吹き出す。


愛生が首をかしげながら笑う。

「なんか、お兄ちゃんってさ、里香のこと見るときだけ、ちょっと顔がデレッとしてるよね」


「……あ、やっぱりそう思う?」

里香が小声で返す。

「私も思ってたの。あの顔……正直、ちょっとキモいよね」


2人、見つめ合って――


「「キモいよね〜!」」


バスの中に、ふたりの笑い声が響いた。


後ろの席の明宏が小声でつぶやく。

「兄ちゃん、たぶん今頃くしゃみしてるな……」


窓の外には夏の終わりの陽射し。

バスの中には、ちょっとキモいけど、なんだか憎めない兄の話で盛り上がる女子高生2人の笑い声が、のどかに響いていた。


バスが小さく揺れたそのとき、途中停車のバス停からふわりと一人の女子が乗り込んできた。


「あっ、みんなおはよっ」

ぽわぽわと柔らかい声が響く。


「おはよー穂乃花〜」

愛生と里香が手を振る。


その声を聞いた瞬間、明宏の表情がフッとやわらいだ。

――穂乃花の声には癒しの魔力がある。


彼女は規定通りのスカート丈、地味すぎず派手すぎず、まるで「真面目で優しい女の子」そのもの。

そんな穂乃花が隣に座ってくれたとき、明宏の心のBGMは完全にハッピーソング。


「日曜日にね、ぶどう狩り行ってきたんだ〜! と〜〜っても美味しかったよ!」

愛生が満面の笑みで話す。


「果物狩り、いいね〜」と頷く里香。


「甘くて美味しそう〜」と穂乃花。

その柔らかな言葉に、明宏は思わず「天使……?」と心の中でつぶやく。


「渓流ルアーのあとにぶどう農園に行ったんだ。俺、アマゴ釣ったぞ!」

ドヤ顔で話す明宏。


「……あっそう。」

と、冷風を吹かせる里香。


だが穂乃花は、目をキラッキラに輝かせて言った。

「わぁ〜! 明ちゃん、またお魚釣れたんだ〜! すごいね!」


「い、いや、まぁ……ちょっとな……」

耳まで真っ赤になる明宏。


そんな弟の様子を見て、愛生は肩をすくめる。

(明宏が照れるのは別にいいや。穂乃花ちゃん可愛いし……)


「ねぇねぇ、今度みんなで果物狩り行こうよ〜!」

愛生がテンション高めに提案。


「いいね〜! 文化祭終わったら、打ち上げで行こうか〜」

里香がノリよく返す。


「賛成〜!」

「おー!」

「わーい!」


バスの中は、果物の甘い香りが漂ってきそうなほどの盛り上がり。


後部座席のサラリーマンが、うらやましそうにため息をついたとか、つかないとか。


放課後の部室には、紙の音とハサミのリズム、そして女子高生たちの笑い声が響いていた。


10月初旬の文化祭に向けて――準備、開始!


展示担当の里香が、ホワイトボードの前でリーダーシップを発揮する。

「活動報告はこっちの壁。写真はここに並べて……ね、真面目にいこうね」


「ね〜ね〜、写真も可愛くデコっちゃお〜!」

愛生がスクールバッグからデコペンをずらりと取り出す。

キラキラ、ピンク、ハート、星――すでに真面目の気配ゼロ。


「ダメダメ! 真面目な展示なんだから、“かわいい”は禁止!」

即座に却下する里香。


「も〜〜!」

愛生はぷく〜っとほっぺを膨らませた。


その様子を見た穂乃花が、にこにこしながらフォローを入れる。

「じゃあ、愛生ちゃん、たい焼き屋さんを可愛くしようよ?」


「うんうんっ! やっぱり穂乃花ちゃんも“かわいい”がいいもんね〜!」

と嬉しそうに頷く愛生。


(え、別にそこまでこだわってないけどなぁ〜)

穂乃花は心の中で小さくつぶやいた。


その頃、里香と明宏は展示物を制作中。

「写真の配置、こっちが先学期、こっちが夏休み。説明文は下に貼るから」

「はい……」

完全に作業員と化す明宏。

JKの会話についていけるわけもなく、もはや“文化祭とは何か”を考える段階に突入していた。


一方、たい焼き屋班。

「チョキチョキ〜」

茶色の色画用紙を切ってたい焼きの形を作る愛生と穂乃花。


「目とウロコも描いて〜っと……」

それらしく見える。うん、見えるけど――


「なんか物足りないなぁ〜」


赤い画用紙を手に取り、チョキチョキ。

「リボンつけちゃえ!」


たい焼きの頭にリボンがついた。


「う〜ん……まだ足りない!」


愛生はたい焼きの目に、まつ毛をくるりんと描き足した。


「ほらっ! お目目ぱっちり♡」


出来上がったそれは、もはやたい焼きではなかった。


たい焼き“っぽい何か”が大量に机に並ぶ。


穂乃花はそっと呟いた。

「……このたい焼き、目が合うね……」


「うん、かわいいでしょっ♪」


愛生は満面の笑み。


(かわいい……? いや、もう“こっち見てる”んだよな……)

穂乃花の心に、静かなツッコミが響くのであった。

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