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(エリアフィッシング)管理釣り場へ行く②

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

愛生はベールを戻してリールを巻くが、ロッドが小刻みに揺れてしまい、まだどこかぎこちない。

それでも、投げては巻きを繰り返すうちに徐々にフォームが安定し、表情も楽しげになっていく。


巻くたびに、金魚ルアーが水中でプクプクと泳ぎ、まるで小さなペットのように可愛らしい。


(可愛いけど、こんなんで本当に釣れるのか…?)と圭介は半信半疑。


そんな時だった。

愛生がいつものようにルアーを巻いていると――突然、水面がバシャッと割れ、虹鱒が金魚ルアーに

食いついた!


 「うわっ!うわわわわ!」と慌てる愛生。


 「慌てないで!ロッドをあまり立てすぎない!」と圭介が必死に指示を飛ばす。


愛生は興奮と緊張で手元がおぼつかないまま、必死にリールを巻く。

魚との攻防は数分にも感じられた。


そして――ようやくランディングネットに収まった虹鱒は、堂々の30cmオーバー。

初めてにしては見事なサイズに、圭介はただ目を丸くするしかなかった。


愛生は得意げに大きく手を振り、 「見て見て!」 と言わんばかりに釣れた虹鱒を明宏へ

アピールする。


 「ふーん、少し小さいけど最初にしてはまあまあのサイズだな。ビギナーズラックってやつだ

  よ」と、なぜか上から目線で語る明宏。


 (お前の釣ったやつは、その半分のサイズだったろ…)と、圭介は心の中でぼやく。


 「金魚の可愛いルアーで釣れたんだよ!」と、愛生は満面の笑みで誇らしげに胸を張る。


 「それ、俺もいいルアーだなって思ってたんだよなー」と、明宏はちゃっかり便乗。


 「お気に入りのルアーで釣れて良かったね。記念すべき1匹目だからキープして、明日の

 おかずにしよう」 と圭介が言うと、


 「うん!明日の夕食が楽しみだよ〜!」 と愛生は嬉しそうに声を弾ませた。


(やべ…俺、まだお持ち帰りサイズ釣ってないじゃん…) 内心で焦り始める明宏だった。


愛生も1匹目を釣り上げ、場がひと段落したところで、


 「さて、そろそろ俺も始めるか」 と圭介が竿を手に取ったその時――


スピーカーからアナウンスが流れる。


 「本日は国際鱒釣り場にご来場いただき、誠にありがとうございます。只今より放流車が

 各区画を周りますので、お客様のご協力をお願い致します。」


 「きたぁぁーーー!爆釣タイムだぜ!」


明宏の瞳はメラメラと燃え盛り、今にもファイヤーエフェクトが出そうな勢いだ。


 「放流って何?」と、愛生が小首をかしげる。


圭介は少し得意げに説明する。


 「放流はね、区画に新しい魚を追加で放してくれるんだ。前からいる魚は釣り人に追われて

 警戒心が強いけど、放流された魚はストレスがなくて活性も高い。だからルアーに食い付き

 やすいんだよ」


 「へぇ〜、なるほど!」 と感心した愛生は、ルアーボックスを開けてピンクのラメ入り

  スプーンを取り出す。


 「これ、可愛いから釣れそうだよね!」


(さっきの金魚もピンクだったし…結局ピンクばっか選ぶなぁ)と圭介は内心ツッコミを入れる。


一方、明宏は真剣な顔で赤金スプーンをスナップに取り付ける、


 「放流タイムは赤金が定番なんだよ!ここから俺のターンだ!」と鼻息荒く宣言。


小さな虹鱒しか釣れていない明宏、いよいよ名誉挽回に燃えていた。


さあ、3人の目の前にゴトゴトと放流車がやってきた。


従業員のおじさんが生簀から網を突っ込み、元気な虹鱒をすくい上げてはザバァッと

区画の中へ放す。

ピチピチと水しぶきをあげる魚たちに、釣り場全体が一気にざわめいた。


その様子をジーッと食い入るように見つめる愛生。

ふと目が合ったおじさんは、にやりと笑って――

 「お嬢ちゃん、サービスだよ」


そう言うと、もう一度網を入れてドサッと追加で数匹を放流してくれた。


(……恐るべしJKパワー)

圭介はなぜかしみじみと感心してしまう。


その横で、明宏の竿がギュンとしなっていた。


 「圭ちゃん!ネット!早く!早く!」


必死に叫ぶ明宏に急かされ、圭介は慌ててランディングネットを構える。


 「わぁー!私も釣れたー!」


愛生までもが竿を大きく曲げ、慌てて声をあげる。


 「お兄ちゃん、早く!すくってよ!」


次々と魚がかかり、てんやわんやの大騒ぎ。

爆釣タイムの幕開けに、3人は大盛り上がりだった。


――あれ? 俺、まだ釣り始めてないんだけど。

圭介は心の中でぼやきながら、今日も面倒見役に徹していた。


圭介もようやく竿を振り始めたが――時すでに遅し。

放流直後の爆釣タイムはすっかり終わり、魚の反応はピタリと止まっていた。


スプーン、クランク、ミノーと試してみるが、どれも空振り。

(やばい、俺だけボウズの可能性が…) 焦りの汗がじわりと滲み始める。


そんな時だった。


 「わっ! また釣れた〜!」


愛生の竿が大きく曲がる。


 「え、マジかよ…」 と内心ガックリしながらも駆け寄る圭介。


水面から現れた魚は、さっきの虹鱒とは違う姿をしていた。


 「あれ? なんか変な魚釣れたよ」

 

 「どれどれ、見せてごらん」


ネットに収まったその魚は、美しいパーマーク模様をまとっていた。


 「これはね、ヤマメっていう魚なんだ」


 「ヤマメ?」 と首をかしげる愛生。


圭介は少し誇らしげに解説する。


 「ヤマメは渓流の女王とも呼ばれる高級魚なんだ。流れるような体の形と、このパーマーク 

  っていう模様が特徴なんだよ」


 「ふ〜ん。それで、美味しいの?」


 「もちろん。基本的には虹鱒より美味しい魚って言われてるんだ」


愛生の目がキラリと輝く。


 「じゃあさ、お昼はそのヤマメを塩焼きにしよ! 釣り場で焼いてくれるサービスがあるんで

  しょ?」


 「そうそう。お昼が楽しみになったな」


圭介と愛生が話していると、離れた区画で釣っていた明宏が駆け寄ってきた。


 「おっ、愛生ヤマメ釣ったんだ! すげーじゃん!」


意外にも素直に褒める明宏を見て、

(負けず嫌いなのに、こういう時は素直なんだな)と圭介はちょっと驚く。


だが次の瞬間――


 「でもさ、俺はアマゴ釣ったことあるけどね」 と、なぜかマウントを取り始める。


 「アマゴって何?」 と愛生が聞くと、待ってましたとばかりに胸を張る明宏。


 「アマゴはね、ヤマメの亜種でパーマークの中に朱点があるんだ。いわば上級者が狙う

  魚ってやつ!」


 「ふ〜ん」――愛生の反応はあっさり。


 「いやいや、ヤマメもアマゴも、どっちが上級者とかは無いからね」


と慌ててフォローする圭介。

(まったく、仲がいいんだか悪いんだか…) 圭介は苦笑しながら2人を眺めていた。


釣り開始からおよそ3時間半。

集中して竿を振っていたせいか、そろそろ喉も渇く頃だった。


圭介は一度車へ戻り、水筒を持ってくると、愛生と明宏に順番に渡した。


 「ほら、ひと口飲んで休憩しな」


 「ありがとう、お兄ちゃん!」


 「サンキュー、圭ちゃん」


2人が喉を潤している間、圭介はふと考える。

――そろそろ魚を焼き場に持っていかないと、昼飯が間に合わない。


しかし、自分はいまだに一匹も釣れていない。

(いや、ほんとに俺、まだボウズなんだよな…2人の世話で釣りどころじゃなかったし)


仕方なく、明宏に声をかけた。


 「明くんの魚を2匹、塩焼きにしてもいいかい?」


 「俺の魚ならいいよ。圭ちゃん、まだボウズだもんね」


ぐさりと胸に刺さる言葉。

(…それ、こっちが一番分かってるんだよ)と心の中でツッコミながらも、にやりと笑って返す。


 「じゃあ、チビ虹2匹を塩焼きにするね」


(ちょっと明宏をいじってやろう)と思ったが、明宏は真剣に釣りに集中していて全く聞いちゃ

いない。


その横で、愛生は大事そうにヤマメを抱え、にこにこ顔で圭介に渡してきた。


 「この子は絶対美味しいはずだからね。美味しくな〜れ!」


ヤマメ1匹とチビ虹2匹を持って、圭介は焼き場へ向かった。

従業員は慣れた手つきで魚をさばき、エラと内臓を取り除くと、串を打ち、たっぷりの塩を振って炭火の上に並べる。

魚がじゅうっと音を立て、香ばしい匂いが立ち上る。


圭介は煙を目にしみらせながら、ふと振り返った。

視線の先では、愛生と明宏が並んで竿を振っている。

楽しそうに笑い合いながら、時に真剣な顔で水面を見つめる2人。


――妹と弟が、仲良く並んで釣りをしている姿ってのは、いいもんだな。


胸の奥がじんわり温かくなり、圭介は静かに微笑んだ。


 「魚は遠火の強火でじっくり焼くのが基本なんですよ」 と従業員。


 「えっ、そうなんですか」 圭介は思わず聞き返す。


 「時間をかけて炭火で焼くと、遠赤外線で中までふっくら美味しく焼けます。

  だから串刺しで少し離して焼いてるんです」


 「なるほど……」 と圭介は感心する。


 「焼き上がったら場内アナウンスでお呼びしますから、どうぞ釣りを楽しんでください」


圭介は従業員から79番の番号札を受け取った。


(79番、泣く番ってことなのか、不吉だ) 何やら不吉な予感はしたが、まさか現実になるとは思いも

 しない圭介であった。


釣り場へ戻ると、愛生が投げているのは――なんとアザラシ型ルアー。

(いくらなんでも、それは釣れないだろ…)圭介は苦笑いする。


一方、明宏はミノープラグを投げていた。

どうやら狙いを虹鱒から他の魚に変えたらしい。


 「狙いをドナルドソンからヤマメに変えたのか?」 と圭介。


 「違うよ。俺はイワナを狙ってるんだ。愛生と同じ魚じゃ、先輩の面子が立たないからね」


(なるほど……チビ虹ばかりじゃ、機嫌を損ねかねない。ここで納得できる魚を釣ってくれると良いのだ

 が) と圭介は願う。


 「明くんならきっと釣れるよ。がんばって」


圭介は少しアドバイスを添える。


 「虹鱒は流れの中を泳いでいるけど、イワナは岩につくことが多いんだ。だから――」


 「そんなの分かってるって!ちょっと黙ってて」 明宏が遮った。


圭介は肩をすくめ、 (ほんと、可愛げがないんだから) と苦笑した。


明宏は流れ込みの白泡や沈み岩を狙って、丹念にルアーを投げ込んでいる。足場を変えながら、真剣にポイントを巡っていた。


一方の愛生は、ヤマメを釣って余裕ができたのか、アザラシ型ルアーを川に投げ入れて遊んでいた。


川の流れに巻かれてクルクル回ったり、プカプカ泳いだり。なんとも間の抜けた動きが可笑しい。


 「カワイイしか勝たん!」 と愛生が声を上げる。


 「そうだな……カワイイしか勝たん、だな」 圭介はよく分からないまま相づちを打つ。


(カワイイしか勝たんって……何の勝負だよ) と内心で首をかしげつつも、妹に合わせる圭介。


そんな圭介も地味な色のスプーンを投げ続ける。反応は渋いが、ようやく本日の1匹目がヒットした。しかもなかなかの良型。


竿が大きくしなり、力強い魚の引きが手元に伝わってくる。圭介の胸に高揚感が広がる。


(よし、ようやく来た!)


慎重に魚を寄せ、ネットで掬おうとしたその時――。


……無い。


ランディングネットが、どこにも見当たらない。


(あっ……そうか。明宏が持って行っちゃったんだ)


釣り歩きに夢中な明宏が、ネットをそのまま持って行ってしまったのだ。


(なんてことだ……。明宏は末っ子で甘えん坊。ネットが一つしか無いなら、せめてレンタルでも借りて 

 くるかと思った俺が甘かった)


後悔の念がよぎるその刹那、魚が水面で暴れ、フッと軽くなる手応え。


 「……外れた」


圭介の初ヒットは、泡の中に消えていった。


79番、泣く番とはこういう事だったのかとガックリと肩を落とす圭介であった。

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