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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
49/79

2学期が始まった

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

楽しかった夏休みもついに終わり、今日から2学期。

「いってきま〜す!」

元気いっぱいに家を出る愛生と明宏。

「いってらっしゃーい」母の声は相変わらず優しい。


二人がバス停に向かって歩いていると、向こうから夜勤帰りの圭介が歩いて来る。

目の下にうっすらクマを浮かべつつも、兄の顔はにっこり。


「2人とも今日から2学期か。学校、楽しんでおいでよ」

さわやか兄ムーブ。


愛生は満面の笑みで

「うん、2学期も楽しみだよ!」

明宏は……無言。目も合わせない。


その時、後ろから聞き慣れた足音。

「……あ、里香!」

愛生がぱっと笑顔で手を振る。

「里香〜おっはよ〜!」


明宏も負けじと。

「里香姉〜!」

両手ぶんぶん。


里香も爽やかに「おはよう」と返す。


──その瞬間。


圭介の声が裏返った。

「り、里香ちぃゃ〜ん! おはよ〜〜!」


……街に響くキモい挨拶。


里香は一瞬ピタリと足を止め、無言で圭介をジロリ。

圭介も負けじと真剣な眼差しで見つめ返す。


(数秒の沈黙……)


フッ……微笑んだ? いや、違う。

「フンッ」そっぽを向いたのだった。


その仕草に、なぜか胸を撃ち抜かれる圭介。

(くぅぅ……このツン! このデレる直前みたいな間合い! たまらん!)


そして


「いってらっしゃ~い!」

圭介が手を振ると、


「いってきま~す!」と愛生、

「いってきます」と無表情の明宏。


そして──

里香が一瞬だけ振り返り、ほんの小さな声で。


「……いってきます」


その瞬間。


圭介の心の中

(きたぁぁぁぁぁあああ!!!!!)

(今!今、俺にだけ微笑んだよな!? 小声で返してくれたよな!?)

(こ!小悪魔ちゃん!いやもう結婚してください!!!)


……だが、外見は冷静を装い。


「ふん……まぁ当然だよな。ご近所だからな……」

と、クールぶった表情。


しかし目尻はピクピク、口元はニヤけそうで危ない。

両手はバタバタ喜びたいのに必死でポケットに突っ込み、

靴のつま先で地面を小刻みにトントン。


(やべぇ、顔に出したらまた“キモい”って言われる……耐えろ俺……!)


愛生は呆れ顔で横目チラリ。

「……お兄ちゃん、なんかキモいよ」


──圭介、冷静装った大喜びモード全開。


バス停に並んだ3人。

朝の空気は少し涼しく、制服の袖を直す仕草も自然に揃う。


愛生:「あーあ、夏休み終わっちゃったねぇ」

のんびり空を見上げて大きな伸び。


里香:「でも文化祭あるし、2学期って意外と楽しいじゃん」

前髪を指で整えながら、少し楽しげに笑う。


明宏:「ふん、文化祭より芦ノ湖解禁まであと何日って数えてる方が大事だよ」

腕を組みながらドヤ顔。


愛生:「また釣りの話〜? 2学期始まったばっかりだよ」


里香:「ていうか明くん、芦ノ湖解禁まであと何日とか数えてるって……解禁って3月でしょ? 半年も先じゃん!」

軽く呆れ顔でツッコミ。


明宏:「ふっふっふ〜ん、知ってて当然さ! 芦ノ湖は毎年3月第1土曜日が解禁日なんだよ。しかも——」

得意げに人差し指を立てて語り出す。


愛生:「えっ……意外とちゃんと知ってるんだ」

目を丸くしてぽかん。


里香:「3月第1土曜日じゃなくて、3月1日なんだど……」

呆れつつも、ちょっと笑ってしまう。


明宏:「まぁね、ネイティブレインボーを狙う男だから少し位の間違いは大したことじゃないさ!」

胸を張る。


愛生&里香:「はいはい……」

同時に肩をすくめて笑う。


ブロロロロ……とエンジン音を響かせてやってきたバス。


「よし、乗ろっ!」

愛生が勢いよくステップを上がる。


里香も後に続き、二人は迷わず並んで席を確保。

「今日はここだね〜」

「うん」

仲良く腰を下ろす。


その横で明宏、キョロキョロ。

「え、ちょっ……あれ? え、俺の席は……?」

結局、ぽつんと一人席に座る羽目に。


少ししゅん……と肩を落とす明宏。

だが愛生と里香は、まるで気づかないかのようにガールズトークで盛り上がっている。


バスはゴトゴトと学校へ向かい走る。


途中のバス停で、

「おはよ〜」

元気よく乗り込んでくる穂乃花。


「おはよ〜!」

「おはよう〜」

バスの中で一斉に挨拶が返ってくる。


そして穂乃花は、自然な流れで明宏の隣へ腰を下ろした。


その瞬間――

ふわん、と揺れる“たわわ”なお胸。


もちろん穂乃花本人は全く気にも留めていない。

が、横にいた明宏は……


(ラッキー!)

内心で小さくガッツポーズ。

2学期初日から幸運のスタートダッシュに、心の中でにやけを必死に隠していた。


ガタゴトと揺れるバスの中。

穂乃花がぱっと顔を上げ、

「みんな〜、文化祭の出し物って、ちゃんと考えて来たの?」


「もちろん!」

即答の里香。軽い調子で返事をしながらも、目はキラリと真剣。


「ふんふ〜ん♪」

愛生は妙に得意げに鼻歌を歌って、胸を張る。

(何か変なこと考えてそうだな……)と里香が内心で警戒。


「私も考えてきたよ〜!」

穂乃花もにこにこ。


「じゃあ、放課後は部室集合ね。そこで披露会だ!」

里香がしっかり仕切る。


すると――

「あの〜、俺は……」

明宏がおずおずと挙手。目が泳ぎ気味。


「どうせ『リアル釣り堀』とか、そんなトンデモ案でしょ」

里香がすかさずバッサリ。


「…………」

図星過ぎて、完全に声を失う明宏。

視線は床に落ち、口は半開きのまま石化状態。


バスの空気に「シーン……」とした間が流れる。


その後ろで愛生は、

(あ、やっぱり考えてなかったんだ……)

と苦笑しながら、横目で弟の沈黙を眺めていた。




そして放課後!!


カタカタと扇風機の回る放課後の部室。

机を囲んで、いよいよ文化祭の出し物会議がスタート。


勢いよく手を上げたのは――やっぱり明宏。


「よし!俺の案はこれだ! リアル釣り堀!」

どや顔で身を乗り出し、手を広げる。


「俺が近所の川で鯉をガンガン釣ってくるからさ、それをプールに放流するんよ〜!」

キラキラした目で未来を語る明宏。


「いやいやいやいや!」

里香が即ツッコミ。机をバンッと叩く。


「そんなの絶対無理!てか近所の川の鯉、勝手に連れてきちゃダメだから!」


「プールに鯉って、掃除どうするのよ……」と愛生。


「文化祭で水しぶき飛ばされたら怒られるよ〜」と穂乃花。


三方向からの同時ダメ出しに、明宏のどや顔はあっという間にしょぼくれ顔に。


その横で――

穂乃花がこっそり里香に耳打ち。

「……でもさ、子供用のビニールプールで金魚釣りなら、ちょっと出来そうじゃない?」


しかし、里香はすかさず小声で返す。

「ダメダメ!明くんが本気になっちゃうでしょ!絶対言わないで!」

(既に本気顔100%だけど……)と心の中でツッコむ。


そして、きっぱりと声を張る里香。

「生き物を扱うなんて大変すぎ!はい、却下!」


バッサリ切られてガクッと肩を落とす明宏。

その姿はまるで釣り針から逃げ損ねた魚のようだった。


次は里香の番。

背筋をピンッと伸ばし、胸を張って発表する。


「私の提案は――活動記録を展示すること!」

ぱぁっと笑顔。

「写真をたくさん並べて、訪れた地域の情報もパネルにして、詳しく紹介するの!」

(どう?完璧でしょ!)と目がキラキラ。


しかし――


「う〜ん……普通かなぁ〜」

ぽつりと呟く穂乃花。


「なんか、どこにでもありそうな文化祭だね」

愛生もあっさり追加ダメージ。


バキッ。

里香の心の中でガラスの何かが砕ける音。


「……ふ、ふつう? ありきたり……?」

(嘘でしょ!? この私の完璧プランが!?)


机に両手をついて硬直。

優等生スマイルは引きつり、頭の中では「優秀里香プレゼン大成功」の妄想映像がスローモーションで崩壊していく。


「ガーーーーーン!!!」

(効果音が聞こえるくらいのショック顔)


…優等生、まさかの文化祭初戦でノックアウト寸前。


「里香姉の案に――俺は賛成だな!」

と、急に堂々と言い出す明宏。


その瞬間、里香・穂乃花・愛生の三人が同時に 「えっ?」 と注目。

スポットライトを浴びたかのように、明宏はニヤリと得意満面。


「だってさ、活動記録って最高じゃん!

俺が釣り上げた数々のトラウト写真とか、

それに、バシャーンって水しぶき上がった瞬間のヒットシーンとか!

ドーンと展示するべきだよ!」


両手を広げ、まるで自分の銅像でも建てるかのように熱弁。


……一瞬の静寂。


そして、里香がスッと立ち上がり、冷たい表情で一言。


「――はい、却下。」


パシッ、とハサミで紙を切るように冷酷に。


「えっ!? な、なんで!?」

ショックで机に突っ伏す明宏。


愛生と穂乃花は顔を見合わせ、クスクス笑いを必死にこらえている。


…結局、ヒーロー気取りの明宏、あっけなく撃沈。


愛生が胸を張って、突然アイドルっぽく手を広げる。


「私はね〜、みんなに愛と夢をお届けする女の子だから〜!

ぬいぐるみを使った……えっと……人形劇! じゃなくて、ぬいぐるみ劇がやりたいなぁ〜♡」


キラキラ〜っと効果音が飛びそうなポーズ。


その横で里香、こめかみに手を当てて小声でぼやく。

「(……忍野で披露した、あの下手っぴな腹話術をまたやる気なのかしら……)」

思わずツッコミたいのを必死に我慢。


穂乃花は両手を合わせて、にっこにこ。

「ぬいぐるみ劇かぁ〜! 愛生ちゃんらしくてかわいいねぇ〜!」

すっかり乗り気。


一方、明宏はガタッと椅子を鳴らして立ち上がりそうな勢い。

「そ、そんなのヤダ! 男の俺がぬいぐるみ劇とか……無理だって!!」

顔を真っ赤にして首をブンブン振る。


しかし愛生は涼しい顔で、

「明くんはクマのぬいぐるみで出演ね♪」

と、勝手に配役を決定。


「ぎゃー! そんなのぜっっったい無理!!」

机に突っ伏してジタバタする明宏。


里香は腕を組んで、ため息をひとつ。

「(……もうカオスになる未来しか見えない)」


穂乃花はちょこんと首をかしげ、指先を唇に当てて考え込む。


「う〜〜ん、私はね〜……」

少し間をおいて、にっこり笑顔。

「鯛焼き屋さんがいいっ!」


テヘッと舌を出して照れる穂乃花。


部室に一瞬「えっ?」とした空気が流れるが、彼女はマイペースに続ける。


「でね! 部室に活動記録も展示して、文化部っぽさもちゃんと残すの。

お魚さんと触れ合いたい明ちゃんは……鯛焼き係り♡」


「えっ、俺!? 魚を触るんじゃなくて、鯛焼き……!?」

ショックでガーンと固まる明宏。


「私は飲み物係りするから〜、愛生ちゃんと里香ちゃんは接客係りさん!

それにね、みんなでお魚さんの被り物とか着ぐるみ着れば……

かわいいしか勝たん! っていう、愛生ちゃんの好みも満たせると思うんだ〜♡」


「きゃ〜! ほのちゃん、神〜! めちゃかわプランじゃん!」

目をキラキラさせて両手を叩く愛生。


「なにそれ……かわいいしか勝たんて……」

里香は呆れながらも、口元がちょっと緩む。


「ちょ、ちょっと待て! 俺が焼き係って……しかも被り物まで!? そんなの地獄だぁぁ!」

机に突っ伏してジタバタ暴れる明宏。


穂乃花はそんな明宏の肩をぽんと叩き、満面の笑み。

「大丈夫だよ明ちゃん、鯛焼きは丸ごとお魚さんだから……きっと相性ばっちり!」


「うぅ……俺の“釣り人の未来”が、鯛焼き屋で終わる……」

魂が抜けかける明宏。


「うぅ……俺の“釣り人の未来”が、鯛焼き屋で終わる……」

魂が抜けかける明宏。


そこへ里香が冷静に告げる。

「明くんは中学生だから、初日の校内発表は中等部に専念してもらうわ。で、2日目の一般公開は掛け持ちしてちょうだい。」


「えぇぇ!? 俺、掛け持ち!? つまんない!」

大げさに両手を広げる明宏。


「まぁ、ただの人手不足要員ね」

里香がサクッと切り捨てる。


「ぐはっ……! 中等部の文化祭より、鱒釣り部の方が断然おもしろいのに……つまんない〜!」

机に突っ伏し、膨れる明宏だった。

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