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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年1学期
42/80

忍野、桂川に行きたい。

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

8月中旬、平日の午後。

本栖湖キャンプから帰宅して数日――圭介は密かにある作戦を実行していた。


**「明宏回避作戦」**である。


なぜなら、明宏の口から出るであろう言葉が想像できるからだ。


「エリアなら余裕で釣れるし、楽勝さ、だからつれてって!」


脳内明宏、ドヤ顔で腕を組み、なぜかサングラスまでかけている。

(うわぁ……生意気……!お財布にダメージ……!!)

圭介、思わず額を押さえる。


そーっと自室のドアを開けて様子をうかがうと、明宏はパソコンの前で釣り動画に夢中。

キャストのフォームをエアで練習しながら、さらに自信満々な表情。

(やっぱり釣り脳じゃんコイツ……!絶対また言うじゃん!!)


圭介は何も言わず、足音を忍ばせてリビングへ避難。


リビングでは、愛生がソファに座り、真剣な表情でアニメ『ピノノちゃんといっしょ』を視聴中。

横には特売シュークリームの袋。


以前はジャンボシュークリームを要求していた愛生だが、最近は一言も文句を言わず、安いシュークリームをモグモグ食べている。


(ああ……かわいい妹よ……!)

(特売で我慢してくれるなんて、なんて意地らしいんだ……!)

(もう、世界一かわいい……!!)


圭介、思わず愛生の頭をなでなでしたくなるが、今はアニメに全集中しているのでそっと見守る。

まるで高貴な猫を邪魔しない執事のように。


こうして、圭介の財布は相変わらずペラペラだが、愛生の存在だけは心を満たしていた。


アニメ『ピノノちゃんといっしょ』が終わるやいなや、

すかさず圭介はキッチンから紅茶を持参。


「はい紅茶いれたよ、良かったら飲んで」


愛生の前にそっと置くと、愛生はテレビから目を離さず、


「うん」


とだけ頷く。


すぐさま次の動画、**『ミニミニアニマル大冒険』**を再生。

画面いっぱいのちっちゃい動物たちが、ちまちま動き回る。


「かわいい、かわいい、かわいい~~!」


と連発しながら、ソファの上で足をパタパタさせて大喜び。


圭介はそんな愛生の隣で、紅茶を一口すすりながら心の中で叫ぶ。


(かわいいのはその動画の動物じゃない!!)

(目の前の愛生が世界一かわいいんだぞォォォ!)


もはや心の声が大声で漏れそうになり、口元を押さえて耐える圭介。

シスコン兄、限界突破寸前。


愛生はというと、動画の「ピョコピョコ音楽」に合わせてゆらゆらと体を揺らしているだけ。

圭介の気持ちなど知るよしもない。


(うぅ……この無自覚な可愛さ……尊すぎる……!)

圭介は心の中で尊さゲージが爆発し、完全に昇天しかけるのであった。

ソファで愛生の横に座り、

「かわいい……かわいい……尊い……」と心の中で連呼していた圭介。


その至福の時間は――


> バタンッ!!


ドアが乱暴に開く音とともに、釣りバカ弟・明宏乱入。


圭介、思わず頭を抱える。


(あぁぁ……せっかく愛生に癒されてたのに……俺の尊みタイムがぁぁぁ!!)


明宏は全く空気を読まず、


「ねぇ、圭ちゃん、愛生、忍野連れてってよ!」


といきなり本題をぶっ込む。


愛生は動画を一時停止し、ちょっと眉をひそめて圭介を見る。


「……今、アニメ見てたのに……」


と言いたげな顔。


それでも妹はしっかり質問する。


「忍野って、水族館の横の川で釣りしたいの?」


図星を突かれ、明宏は顔を輝かせる。


「そうそう!それそれ!」


(まだ一言も「釣りしたい」って言ってないのに……)

圭介は心の中でツッコミ。


どうやら愛生、兄よりも明宏の行動パターンを完全に把握しているらしい。


「明宏の釣りおねだりセンサー、感度100%だな……」


圭介は諦め顔で天井を仰いだ。

癒しのひと時は、もう完全に終了であった――。


圭介はスマホで忍野の釣り場情報をチェック。

キャッチ&リリース区画とお持ち帰り区画があること、

釣り券が大人800円、子ども400円と激安なことを確認し、胸をなで下ろした。


(おお……給料日前でも行けるじゃん……助かった……!)


と、ホッと笑みをこぼしたその時――


愛生が突然、真剣な顔つきになった。


「行ってあげてもいいけど、条件があります」


圭介も明宏も思わず固まる。


「えっ……な、何だよ?」


明宏はゴクリとつばを飲み込む。


愛生はゆっくりと告げた。


「お昼ご飯は――富士吉田うどんにしなさい」


一瞬の沈黙。


「も、もちろんだよっ!!」


明宏、即答。

愛生の圧に完全に押されていた。


圭介は思わず吹き出す。


(お前……そんなに富士吉田うどん好きなのかよ……)


うどんのために釣り遠征を承諾する妹に、

ますます愛おしさが止まらないシスコン兄・圭介であった。


圭介、愛生、明宏の3人はスマホやタブレットを囲み、

**「忍野桂川 釣り情報」**を真剣に検索。


「ウェイダー不要だって!」

「長靴必須って書いてある〜」

「しかも足場高いから“長い網”必要だって!」


情報をまとめながら、釣り遠征の作戦会議は盛り上がる一方。


圭介がメモを取りつつうなずく。


「タックルはエリア用でOKか……じゃあ新しく買うのは網だけで済むな」


3人で顔を見合わせ、同時ににやり。


その足で近所の100円タイゾーへGO!


店内で真剣に魚取り網コーナーを吟味する3人。

子供用の小さい網を手にした愛生が首をかしげる。


「これじゃメダカしか取れなそう」


明宏はドヤ顔で長めの網を持ち上げる。


「これだ!これならトラウトだって余裕だ!」


レジで会計を済ませると、まるで宝物を手に入れたかのように網を掲げる明宏。


「よーし、準備完了!あとは週末を待つだけだ!」


明宏はテンションはMAX、


そんな明宏を優しく見守る圭介と愛生だった。

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