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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年1学期
38/81

夏休みキャンプ ③

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

水族館を満喫した一行は、キャンプ場を目指して出発。

途中のスーパーで夕食の食材を買い出し。


「やっぱキャンプといえばカレーでしょ〜!」

と愛生がカートを押して走り回り、

「にんじん、たまねぎ、じゃがいも……あとルーもね!」

と穂乃花がてきぱき指示を出す。


明宏は肉売り場の前から動かず、

「やっぱ牛か?いや、豚か……いや、鳥も……」

と悩みまくり。


里香はメモ片手に、

「はい、もう決定。豚です。」

とバッサリ裁断し、買い物は無事終了。


そして――


圭介は荷物満載の軽ワゴンの後ろで、

「じゃあ俺は先にキャンプ場行ってるわ〜」

と、少し寂しそうに手を振り、

1人で車に乗り込もうとしたその瞬間。


里香がみんなに向かって、

「なんか1人でかわいそうだから、私、圭介くんの車乗るわ」

と宣言。


「えっ!? 里香ちゃんが!?」

圭介、思わず声裏返り。


助手席にひょこんと座る里香。

「べ、別に深い意味ないから。ただの同乗。」

とクールに言い放つ。


圭介、内心は祭り状態。

(やばい……里香ちゃん助手席……これもうドライブデートじゃん!!)

顔はニヤニヤが止まらない。


そんな圭介の様子を、愛生はじと〜っとした目で見て、

「お兄ちゃん……顔が気持ち悪いよ。」

と冷静に突っ込むのだった。


キャンプ場へ向かう圭介の車。

助手席には里香。車内は……静寂。


「夕食、カレー楽しみだね!」

と圭介、わざと明るい声で切り出す。


「……うん。」

と一言だけの里香。


「ほら、本栖湖ってさ、めっちゃ綺麗らしいよ!」

と再び盛り上げようとする圭介。


「……うん。」

やっぱり一言だけの里香。


「夜、星空もすっごく綺麗に見えるかな〜?」

とついに圭介、ほぼ期待込めて質問。


「……うん。」

変わらぬワンワード攻撃。


(な、なぜだぁ〜!? なんで俺にだけこんな塩対応〜!?)

と内心で頭を抱える圭介。


し〜んとした空気の中、

里香がふとぽつりと、

「今日はお手伝いありがと。」


「ぜ〜んぜん大丈夫だよ〜! 里香ちゃんとドライブしてるし〜!」

と圭介、つい本心が口からポロリ。


「……あっそう。」

と、あっさり切り捨てる里香。


だが――


(……でも、言葉にしてくれたのは今日初めてだし、ありがとも初めて言われた……!)

圭介の心の中では花火大会が開催されていたのだった。


程なくしてキャンプ場に到着!

荷物を下ろすと、キャンプ場のリヤカーが目に入る。


「おっ、リヤカーあるじゃん!」

明宏、目をキラキラさせてダッシュ。

「俺が引っ張る!」

と張り切って荷物を積み込み、まるで働くお馬さんのようにズルズル運び出す。


「明ちゃん、すご〜い!」

と穂乃花がパチパチ拍手。

愛生は隣で、「ほらほら、もっと速く〜!」と実況。

完全にレース扱い。


いよいよテント設営タイム。

キャンプ初心者の部員たちは、

「これ、どっちが前?」「このポールどこ刺すの?」

と、あっちでクルクル、こっちでゴチャゴチャ。


愛生はインストラクションの絵を見ながら

「うーん……これ、イラストがかわいいけど意味わかんない〜!」

と苦戦。


穂乃花はポールを持ったままキョロキョロ。

「ねぇ、これ天井っぽい?床っぽい?」


そんなドタバタ劇を遠巻きに見ている圭介。

(手伝った方が早そうだけど……いやいや、俺はボランティア。頼まれてから動くのが筋……)

と、自分を必死に抑えて腕組み。


しかし内心では、

(あ〜!そっちじゃない!そっちのポールは逆〜!!)

と、もう口から出そうになるのを必死で堪える圭介だった。


ドタバタの末――


「できたーーー!!」

と愛生が両手をバンザイ。

最後のペグを打ち終えたテントは、ちょっと歪んでるけど、なんとか立派に完成していた。


「おお、ちゃんと建ちましたねぇ〜!」

寺ノ沢先生が拍手をしながら近づいてくる。

「みなさん、初めてなのによくできました!」


その言葉に、愛生の顔がパァァァッと輝く。

「ほらほら先生も褒めてる〜!やっぱり愛生ちゃんが指揮したから上手くいったんだね〜!」

と自分で自分を褒めて、ドヤ顔。


穂乃花も「うんうん、愛生ちゃん頑張った〜」とニコニコ。

明宏はハンマーを肩に乗せ、

「いや、俺がペグ打ったからだろ」

と小声で主張するが、誰も聞いてない。


里香は腕を組んで、

「まぁまぁね。…でも、次はもっと早く建てられるようにしよ」

とクールにまとめる。


「でも、初めてのテント設営成功記念〜!」

と愛生がピノノちゃんを掲げて大喜び。


圭介は横で「よく頑張ったな〜」と兄目線で微笑みながら、

(……よし、俺が手出ししなくても何とかなったな)と胸を撫で下ろしていた。


夕食づくりタイム、いざ開幕!

部長・里香が手際よく役割分担を決める。


「穂乃花は明宏と一緒に野菜とお肉お願い」

「はーい!」

「りょ、了解っス!」

明宏は穂乃花とペアになっただけでテンション爆上がり。

「明ちゃん、にんじんは猫の手でね〜」

「は、はいっ!先輩!」

声が無駄に大きい。


二人はポワポワしながら、にんじんをハート型に切ったり、

じゃがいもの皮むきで誰が一番長く剥けるか競争したり、

調理場は軽くお祭り状態になっていた。


一方、火起こしチームは――


「よし、薪割るよ」

と里香がナタを構え、パカーン!

見事に割れる薪。

「ひゃ〜!かっこいい〜!」

と愛生は大拍手。

調子に乗った里香がもう一本パカーン!

木くずが飛んできて、圭介の頬にピタッ。

「うわっ!」と慌てる圭介。


新聞紙とライターだけで火をつける愛生、

「よーし、つけるぞ〜!」

「ボッ!」と一瞬だけ燃え上がり、すぐに消える。

「ぎゃー!消えたー!」

大騒ぎになるが、寺ノ沢先生は腕を組んで見守っている。


「せ、先生、手伝わなくて大丈夫ですか!?」と圭介。

「圭介さん、ここは我慢してください」

「えっ、でも火が……!」

「私は、子供達が失敗しても自分で考えて正解を見つけられる姿勢を育てたいんです」

「……む、むぐぐ……!」

圭介は心の中で(愛生ちゃん、火傷しないで〜!)と祈るしかない。


やがて里香が冷静に、薪をさらに細く割り直し、

「細い薪と新聞紙を交互に重ねて、空気が入るように隙間をあけるんだよ」

と愛生に指示。

「なるほど〜!」

愛生はライターで再トライ。


細い薪がパチパチと燃え上がり、

「やったー!ついたー!!」と愛生は飛び跳ねて大喜び。

里香はさらに中太の薪をそっとくべる。

「細い薪はすぐ燃え尽きるから、中太→太い薪に順番にね」

「おぉ〜!」と愛生は感心。


圭介は心の中でガッツポーズ。

(さすが里香ちゃん、頼れる部長……!)

デレポイントがさらに加算されるのだった。


「お兄ちゃん!火起こし成功したよ!」

と愛生が駆け寄ってくる。


「おぉ〜、すごいじゃん!」

圭介は愛生の頭をワシャワシャと撫でる。

「えへへ〜♪」

愛生は満面の笑みで嬉しそう。


そんな二人を少し離れた場所から見ていた里香。

(圭介がいいお兄ちゃんしてる姿は素敵なんだよね)

と、ほんのり頬を緩める。


が――


次の瞬間、圭介が里香のほうを見てニヤリ。

「里香ちゃん、火起こし見事だったね〜さすが部長!」

とデレデレの笑顔で褒める。


その瞬間、里香の好感度はスッ……と下降。

(……だから! そういうとこがキモいんだってば!)

と心の中でツッコミ、表情はクールに戻る。


「別に普通だし」

とだけ言って、そっぽを向く里香。


(あれ……? なんで急に冷たくされた……?)

と首をかしげる圭介。


内心では――

(優しいお兄ちゃん姿は素敵なんだけど、私にデレると情けなく見えるんだよね……ホント残念)

と、心の中でちょっとだけため息をつく里香だった。


ついに完成――

「カレーできたよー!!」

明宏がおたまを高々と掲げる。

隣で穂乃花も胸を張って「お肉も野菜も完璧に切れたよ♪」とドヤ顔。


「ご飯も炊けたよー!」

愛生が飯盒を2つ抱えて報告。

里香は腕を組んで「ふっ、完璧」と言わんばかりにうなずいた。


……が、次の瞬間。


1つ目の飯盒を開けると――

「ガリッ」

お米に芯が残り、しゃもじですくっても硬いのがわかる。


2つ目の飯盒を開けると――

「ちゃぷちゃぷ……」

まるでおかゆ。


「な、なにこの炊き分け!?」

愛生が半泣き。


「バリエーションが豊かでいいんじゃない?」

里香がクールに言うと、


「いやいやいやいや!」

圭介が思わずツッコミ。


さらにカレーをよそってみると――

鍋底から「ギギギ……」とイヤな音。

「や、やばい、底が真っ黒!」

明宏が青ざめ、穂乃花は「あ、焦げちゃったね……」と苦笑。


「スモーキーな香りってことにしよう」

寺ノ沢先生が爽やかにまとめるが、


「先生、それ前向きすぎ!」

と全員が総ツッコミ。


結局――

芯が残ったご飯とおかゆをミックスして、

「なんかちょうどよくなった!」と強引に解決。


「これぞ野外炊事の醍醐味ってやつだね!」

と誰かが言った瞬間、みんなで大爆笑しながらカレーを食べたのだった。


「それじゃ、みんなー!」

愛生が手を合わせる。

「いーたーだーきまーすっ!」


「いっただっきまーす!」

全員の声がキャンプ場に響く。


まずはひと口――

「おいしぃ~~っ!」

愛生が両ほっぺを押さえて、幸せそうに身をよじる。


「人参さんにも、ちゃんと火が通ってて……やさしい味だねぇ~」

穂乃花はゆ〜っくり噛みしめながら、ぽわぽわ微笑む。


一方、里香は鍋底の焦げ目を引き当ててしまい、

「……に、苦い」

と眉間にシワ。


それでも圭介と寺ノ沢先生は、

「いやぁ、野外カレーは最高だな!」

「ほんと、薪の香りが食欲をそそりますね〜!」

と満足そうにパクパク。


そして――明宏の皿には、なぜか巨大ジャガイモがドンッと鎮座。

(よっしゃ!自分でデカく切ったジャガイモだ!)

内心ニヤリとしながらパクッとひと口……


「ガリッ」


――まだ中心が生。


「ぺっ、ぺっ!」

慌てて吐き出す明宏。


「明ちゃん、欲張るからだよ〜♪」

穂乃花が天使の笑顔で言うと、


「うう……」

明宏は顔を真っ赤にしてしょんぼり。


「まあまあ、これもキャンプの思い出ね」

里香がくすっと笑って、みんなでまたスプーンを動かすのだった。


楽しい夕食が終わると、次はお片付けタイム!


「はーい、食器班はこっちー!」

里香の声で、みんなが水場へ移動。


メラミン食器は、さっと洗えばピカピカ。

「わーい、これは簡単♪」

と愛生はご機嫌。


しかし――問題は鍋と飯盒。

ガッツリこびりついたカレーと、煤まみれの外側。


「な、なんか黒光りしてるよ……」

明宏が恐る恐る鍋を触る。


「クレンザーとスポンジでゴシゴシだ!」

寺ノ沢先生が力強く宣言。


「えぇ〜……お風呂掃除みたいだねぇ」

穂乃花がのんびり言いながら、しゃかしゃか洗い始める。


ゴシゴシ……ゴシゴシ……

煤はなかなか落ちない。


「ほら明ちゃん交代!」

里香がスポンジを明宏に渡す。


「よっしゃー!」

明宏は気合を入れてゴシゴシ!


「あっ、泡が黒いっ!」

「わ、私もやるー!」

愛生も参戦、ゴシゴシゴシゴシ!


「よし、ここは先生がトドメを!」

寺ノ沢先生が腕まくりしてゴシゴシゴシゴシ!


水場はいつの間にか大掃除大会と化し、

みんな笑いながら交代でピカピカにしていった。


最後には――

「やったー!ピカピカ〜!」

愛生が誇らしげに飯盒を掲げ、

みんなで拍手するのだった。


「よーし!夕食も終わったし、みんなで温泉行こ〜!」

寺ノ沢先生、キャンプ場に響くくらいのテンションMAX声量!


「えっ、温泉!?」「わぁ〜い!」「やったー!」

愛生も穂乃花も明宏も、わちゃわちゃ飛び跳ねる。


「先生、はしゃぎすぎじゃない?」

里香が苦笑い。


「キャンプといえば温泉でしょー!これ常識!」

先生は親指を立て、どこか得意げ。


日帰り入浴施設に向かう頃には、

すっかりあたりは真っ暗。


「わぁ、夜のお出かけなんてドキドキするね!」

愛生はリュックをぎゅっと抱えてスキップ。


「キャンプ場に帰ったら星見えるかな〜」

穂乃花が空を見上げる。


「よーし、俺は温泉のあとのコーヒー牛乳狙いだ!」

明宏はすでに楽しみポイントがズレている。


そして――


「明日も楽しい1日になるといいなぁ〜♪」

と愛生が胸を膨らませると、

寺ノ沢先生がすかさず

「なるなる!先生が保証する!」と力強く宣言。


全員でわいわい笑いながら、

夜の道を温泉目指して出発するのであった。

私が若い頃に小、中、高生を対象としたキャンプ企画にボランティア引率として多数参加しました。

遊びの中から多くを学び、何気ない些細な出来事に、みんなで一喜一憂する

楽しいキャンプを思い出しながら執筆させて頂いています。


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