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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年1学期
35/79

芦ノ湖デビュー ④

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

ワカサギ釣りを楽しむ圭介達


すると明宏は 「ルアー投げたい!」 と主張したものの、

周囲はワカサギ釣りを楽しむボートでいっぱい。

仕方なく、明宏は諦めることにした。


一方、愛生は相変わらず楽しそうだ。


「モコモコ楽しい〜!」 と、魚群探知機の画面を見てはニコニコしている。


圭介も、今日はもう帰港までワカサギ釣りを楽しむべきだと心に決め、

のんびりと竿を握っていた。


愛生は時折、湖面を跳ねる魚に気づき、


「わぁ!」 と目を輝かせる。


その無邪気な横顔を見ていると、圭介の心まで温かくなる。


「……なんて綺麗なんだろう」


竿を手に、ゆったりと流れる時間と美しい芦ノ湖の景色に浸る圭介。


やがて、ワカサギの群れが再び船の下を通る。

圭介たちの竿も、周囲の船の竿も一斉にピクピクと動き出し、

あちこちから歓声が上がる。


「あぁ……なんて平和なんだろう」


圭介は思わず呟いた。


その時、またアヒルがやってきて、

グァグァと鳴きながら船と船の間をプカプカと泳いでいく。


「アヒルさん、かわいいなぁ〜」


笑顔を見せる愛生は、まるで天使のようだった。


その笑顔を見ているだけで、兄としての幸せを噛みしめる圭介。

――そして、ひとり悶々としている明宏は、もう放っておくことにした。


やがて帰港の時間となり、くろざわボートのおじさんが迎えにやってきた。

圭介たちは再びボートを曳航してもらい、楽々と岸へと戻る。


「さぁ、今日の釣果は何匹かな?」


圭介の掛け声で、愛生と圭介はワカサギを一匹ずつ数え始めた。


「……百二十一、百二十二!」


数え終えたところで、思わず顔を見合わせる2人。


「わぁー! 愛生ちゃんの言う通り、百匹どころか百二十二匹も釣れたね!」


圭介が嬉しそうに言うと、愛生は胸を張った。


「まっかせなさいっ。愛と夢をお届けする愛生ちゃんだから、こんなに釣れちゃうのです!」


得意げな愛生の笑顔に、圭介も思わず笑ってしまう。


「虹鱒は釣れなかったけど……今日はワカサギで我慢するよ」


と、明宏は少し照れくさそうに呟いた。


しかし、その顔はどこか満足そうだった。

きっと、今日の経験が彼の中で新しい火を灯したのだろう。


「さてと、釣り具片付けるか」


圭介が腰を上げ、道具を整理し始める。


すると、明宏はミノープラグを手に取り、いきなり湖へ向かってキャスティングを始めた。


「俺は夕まづめのブラックバス狙うから、圭介ちゃんと愛生はゆっくりしてていいよ!」


その言葉に圭介は思わず苦笑いする。

(夜明けから日暮れまで釣り切る気か……どんだけ釣りバカなんだよ)


しかし、そんな夢中な明宏の背中を、愛生は優しいまなざしで見つめていた。


「……愛生ちゃん、コーヒーでもいれるか?」


と圭介が声をかけると、愛生はぱっと笑顔を見せて、


「うん!」


と元気よく返事をした。

湖畔の静けさの中、二人はゆったりとした時間を過ごし始める。


「さてと、コーヒーが入ったぞ」


圭介がカップを手渡すと、愛生は嬉しそうに受け取った。


湖畔に並んで腰を下ろし、二人は沈みゆく夕日を背に、ゆったりとコーヒーをすする。

穏やかな湖面に空の色が映り込み、時折吹く風が心地よい。


「あっ、お兄ちゃん! 富士山が真っ赤だよ!」


愛生が指を差し、はしゃいだ声をあげる。


「えっ?」と圭介も顔を上げ、視線を富士山に向けると、


そこには夕陽に照らされ、鮮やかに真っ赤に染まった富士山がそびえていた。


「……これが紅富士ってやつなのだろうか……」


あまりの美しさに、二人は言葉を失い、しばし見惚れる。

静寂の中でただ、波の音だけが耳に心地よく響いていた。


――と、その時、圭介のスマホが震えた。


「もしもし、どうした〜?」


電話に出る圭介。


『バス釣れたから見に来て〜!』


興奮気味の明宏の声が響く。


せっかくの神秘的な時間が、あっさり釣れたよ報告で中断され、

圭介と愛生は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。


紅富士の余韻に浸りつつ、圭介と愛生は明宏のもとへ向かった。

湖畔で待っていた明宏は得意げにランディングネットを掲げる。


その中には――見事な、小バス。


「おぉ、釣れたんだ! よかったな」


圭介は素直に声をかける。


「ちっちゃい……」


思わず本音を漏らしてしまった愛生は、すぐにしまったと口を押さえる。


「あっ、でもでも、すごいね明くん!」 と慌ててフォロー。


「まぁ、小さいけどさ。芦ノ湖で釣ったんだから、すごいでしょ」


明宏は胸を張る。


「すごいすごい!」


圭介と愛生は必死に褒め、明宏はますます上機嫌になる。


そのとき、湖畔はもう薄暗くなりはじめていた。


「そろそろ帰ろうか」


圭介の声に、愛生と明宏も 「うん」 と頷き、3人は駐車場へ向かって歩き出す。


すると、ちょうど芦ノ湖の海賊船(遊覧船)が港へ戻ってきたところだった。

ライトアップされた海賊船は幻想的で、まるで夜の湖に浮かぶお城のように輝いていた。


「わぁ〜、きれい!」


愛生は両手を広げて大喜び。


圭介はそんな妹と弟の笑顔を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。

――不安でいっぱいだったけど、やっぱり芦ノ湖に来て良かった。


圭介は夕闇に染まる湖をもう一度振り返り、心の中で静かにそう思った。


3人は荷物を積み込み、車に乗り込んだ。


「夕食はサービスエリアで適当に済ませようか」


と、圭介は軽く考えていた。


しかし――助手席の愛生は、すでにカーナビを操作中。


「えっ、またか……」


湯ノ湖のときも勝手に目的地を設定された記憶がよみがえり、圭介はため息をつく。


「寒川にね、かわいい亀さんのどら焼きを売ってる和菓子屋さんがあるの!

そこに行きま〜す!」


愛生は得意げに宣言。


「えぇ〜? だったらさ、厚木にめちゃくちゃ美味い家系ラーメンがあるって動画で見たから、そこにも行きたい!」


と、後部座席から明宏も参戦。


「お、おいおい……」


圭介はハンドルを握りながら、どっと疲れが押し寄せてきた。


――まだまだ芦ノ湖釣行は終わらないらしい。

圭介は肩を落としつつも、少しだけ笑みをこぼすのだった。


こうして、3人の芦ノ湖編は幕を閉じた。

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