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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年1学期
23/79

ネイティブデビューかな? 

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

圭介は一人、夜の自室でスマホを手に悩んでいた。


――しまったなぁ…。


湯ノ湖釣行のとき、調子に乗って 「今度は芦ノ湖でネイティブを釣らせてやる」 なんて、つい明宏に約束してしまった。

だが、改めて考えると、広大な芦ノ湖で野生化した虹鱒を初心者の俺達が釣るなんて、無謀にもほどがある。

(どう攻めればいいんだ…?手漕ぎボートであの広大な湖のどこをどうやって?いやいや、無知な俺には無理だろ)


スマホで必死に情報を探してみると、どのサイトもこう書いてある。


「芦ノ湖で虹鱒を釣るなら3月・4月の成魚放流直後を狙いましょう」


――今は6月下旬。放流からだいぶ経っている。


「あと9か月待ってくれ」なんて言ったら…


『圭ちゃんの嘘つき!』


愛生にすらそう言われそうで、背筋が寒くなる。


「うぅ〜ん、やばいな…どうすりゃいいんだ…」


圭介はベッドに突っ伏し、頭を抱えてしまうのであった。


「とりあえずジャンボ・シュークリームでも食べて気分転換するか」


そう呟きながら圭介は冷蔵庫を開けた。

しかし、そこにあったはずの大好物――ジャンボ・シュークリームがない。

代わりに、特売で買った安いシュークリームは手付かずで並んでいる。


「……これはもしや」


胸に走る、嫌な予感。

圭介は足音を忍ばせることもなくリビングへ直行した。


そこには――。


ソファに座りながら、アニメ 『ミニミニアニマル大作戦』 を、ぬいぐるみを抱っこしながら夢中で見ている愛生の姿。

空になったジャンボ・シュークリームの袋が1つ。

かじり付いているのが1つ、

さらに膝の上には1つが鎮座しており、合計3つを愛生は幸せそうに頬張っていた。


「……あ、愛生ちゃん、俺のジャンボ・シュークリム……!」


愛生はテレビから目を離さず、もぐもぐしながら無邪気に一言。


「え?だってお兄ちゃん、冷蔵庫を開けたら特売シュークリームの中からジャンボちゃんが

助けて〜って逃げようとしてたから、助けてあげの」 とわけのわからない発言をする愛生


圭介はがくりと膝をついた。

芦ノ湖の悩みどころか、日常の食卓からして妹に翻弄されるのであった。


「つまりさ……囚われの身のジャンボちゃんが、冷蔵庫から逃げ出してくるのを待ってたってことなのか?」


圭介が呆れ半分で問いかける。


愛生は首を横に振り、もぐもぐと最後のひと口を飲み込んでから、真剣な顔で答えた。


「違うよ。ジャンボちゃんが助けを求めてきたの。だから、私のお腹に避難させてあげたの」


満足そうにお腹をぽんぽんと叩く愛生。

圭介は両手で頭を抱え、ため息をつくしかなかった。


「……救出じゃなくて捕食だろ、それ」


圭介は頭を抱えながらも、ふと目がキラリンと輝いた。


「……待てよ。これってストリームタイプの管理釣り場に例えられるんじゃないか?」


冷蔵庫が管理釣り場。

特売シュークリームが石で仕切られた防波堤みたいな区画。

そして、その区画から逃げ出したジャンボ・シュークリームを、愛生がパクッと捕食。


「これを虹鱒に置き換えれば……天然河川での虹鱒釣りが成立するのではなかろうか!」


つまり、ストリームタイプの管理釣り場から逃げ出した虹鱒を狙えば、天然河川でも結構あっさり釣れちゃうかもしれない。

芦ノ湖レインボーじゃないけど、ネイティブレインボーって事にしちゃえば良し


圭介の脳裏に、清流の岸辺でロッドを振る自分と明宏の姿が鮮やかに浮かび上がった。


「よし、これなら……いけるかも!」


そうつぶやいた圭介は、ジャンボ・シュークリームを食べ尽くした愛生の満足げな顔を見て、


「……愛生ちゃんが食いしん坊で良かったよ」


と苦笑いするのだった。


圭介の満足そうな表情に、愛生は首をかしげて不思議そうに見つめていた。


「何かいいこと思いついたの?」


圭介はうなずきながら説明した。


「芦ノ湖の虹鱒を釣るのはやっぱり難しいだろ? だから先に明宏に、管理釣り場から逃げてきた虹鱒を天然渓流で釣らせてやれば、きっと喜ぶんじゃないかと思ったんだ」


「――それ、楽しそう!」


愛生の瞳がキラリと輝いた。


「じゃあ、まずは下見に行ってみようか」


圭介が言うと、


「うん、行こ行こ!」


と愛生は身を乗り出して元気よく返事をした。


けれど次の瞬間には、少し頬を赤らめながらポツリ。


「……美味しいご飯とかが食べれそうだし」


そんな愛生の言葉に、圭介は苦笑いしつつも、どこか嬉しそうだった。


圭介と愛生はさっそくパソコンを開き、日帰りで行けるストリームタイプの管理釣り場を検索し始めた。

地図を眺めながら、あれこれ候補を探す二人。


「ここにしよ!」


画面を指さして元気に言う愛生。


「どこどこ?」


圭介がのぞき込む。


「ここだよ〜、道の駅!」


愛生が得意げに答える。


圭介は地図を拡大して確認した。


「なるほど、清川村には谷太郎川が流れていて……上流に管理釣り場があるな。しかも最下流には道の駅がある」


「だったら、道の駅に車を停めて、川沿いを歩いてみようよ!」


愛生が目を輝かせて提案する。


「そうだな。じゃあ、次の土曜日に下見に行ってみるか」


圭介がうなずくと、


「やったー! 豚丼、豚丼〜!」


愛生は心の中で小さくガッツポーズを決めていた。

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