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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年1学期
12/81

穂乃花との出会い

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

数日後、隣のクラスとの合同調理実習。


 「はーい、では皆さ〜ん。本日の調理実習は――アジフライざます」


家庭科の高木先生は、わざとなのか語尾に 「ざます」 をつける。通称“ざます先生”と呼ばれ、生徒達に人気の先生だ。


 「アジフライ、美味しそう〜」 愛生はニコニコと声を上げる。


 「私、お料理は苦手」 里香は小声でつぶやいた。(お弁当も冷食ばかりだし…)


 「はいはい、ではアジの下処理から取りかかるざます」


切れ切れの 「ざます」 口調に、生徒達の間から笑いがこぼれる。


 「ウロコくらい、愛生にだって取れるもん」愛生は強気だが、包丁で切ったことといえばせいぜいタコさんウインナーくらい。


案の定、思うように進まない。


 「次は背びれからぜいごを薄くそぐざますわ」先生の説明は続くが、愛生も里香も上手くいかず、内心あたふたしていた。


その時だった。


――シュッ、トン。


一人の女の子の手元に、みんなの視線が集中する。


流れるような包丁さばきで、アジはあっという間に美しい三枚下ろしに変わった。

断面は滑らかで、骨も丁寧に取り除かれている。


 「まぁ〜、穂乃花さん、トレビア〜ン!先生、感動ざます!」 高木先生が拍手する。


 「見て見て里香、あの子すごいよ!」 愛生が目を輝かせる。


 「確かに…あの子が入部してくれたら、料理で大きな戦力になるわね」 里香は冷静に分析した。


二人は視線を交わし、同じ決意を抱く。


――あの子を、鱒釣り部にスカウトしよう。


4月末、入学からおよそ1ヶ月。

クラスや部活の空気にも慣れてきた頃だった。


 「ねぇ里香、穂乃花ちゃん、まだ部活に入ってないみたいだよね…?」


愛生は小声で耳打ちするように尋ねた。


 「そうね。もし他の部に入ってたら、今ごろ毎日活動で忙しいはず」


里香は腕を組み、冷静に状況を分析する。

(…まだ空いてる。今がチャンスよ)


愛生の胸は高鳴っていた。

(お願い、まだどこにも入ってませんように…!)


昼休み、二人は勇気を振り絞り、穂乃花が教室を出たタイミングを見計らう。


 「ほ、穂乃花ちゃんっ!」


思わず声が大きくなり、振り返った穂乃花は目を瞬かせた。


 「えっと…隣のクラスの、愛生ちゃんと里香ちゃんだよね?」


のんびりとした声。どこか柔らかい雰囲気に、愛生の緊張も少し和らぐ。


 「う、うん!あのね…私たち、お願いがあって!」


愛生は緊張のあまり言葉が弾んでしまう。


横で里香がすっと前に出る。


 「実は――鱒釣り部を立ち上げようとしているの。あなたの料理の腕を、この部で生かしてほしいの」


真っ直ぐな視線を向けられた穂乃花は、ぽかんとしたあと、ゆるやかに目を細めた。


 「鱒釣り部…? へぇ、なんだか変わってるね」


まだ首を縦には振っていない。

けれど、愛生と里香にとって、その反応は第一歩に思えた。


 「釣りなら、家族でよく行くよ」


穂乃花がのんびりと口にした瞬間、愛生の不安は一気に吹き飛んだ。


 「ほんと!? やったぁ〜!」


みるみる笑顔が花開き、声まで弾んでしまう。


対照的に、里香は表情を変えないまま、口元だけをニヤリとつり上げた。


 「ご家族で、何釣りをやるの?」


 「えっとね、海釣り公園でサビキとか、あとキスとかハゼとかかな」


穂乃花は指を折りながら答える。


(ジャンルは違うけど、経験値は十分…イケる)

里香の瞳がわずかにきらりと光った。


 「穂乃花ちゃんには副部長をお願いしたいの」


 「えっ、いきなり私が副部長?」


穂乃花は目を丸くする。


ほんの数秒、考えるように視線を宙にさまよわせたが――

やがて、ふわりとした笑顔を浮かべて言った。


 「うん、いいよ。私、釣り好きだから入部するね」


 「ほんと!? わーい!」


愛生は飛び跳ねる勢いで両手を叩いた。


 「ふふん、計画通り」


里香は横で、ドヤ顔を隠そうともしない。


こうして、鱒釣り部は3人の正式な仲間を得ることになり順調なスタートを切ることとなる


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