ヒーローの日 下 両親の願い
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
翌朝――。
ズバババババーン!!
まるで爆発音のような目覚まし音が田中家に轟き、
武士が布団から跳ね起きた。
「……よっしゃああああ!!」
完全にテンションMAXである。
階段へ一直線にダッシュし、
ドドドドドッ!
その勢いのまま――なぜか でんぐり返し。
くるんっ。
「ふっ……!」
そして着地と同時にすくっと立ち上がり、謎のキメ顔。
「しょうけつッ!!」
武士、朝から変身ポーズをキメにきた。
その様子を、台所でコーヒーを飲みながら見守る父・健二。
キリッと眉を上げ、誇らしげに頷く。
「……息子よ。とうとう“シャイ◯ー”をマスターしたのか。父さんは誇らしいぞ……!」
「じょーちゃく!!」
「しょうけつ!!」
「じょうちゃく!!」
「せきしゃ!!」
なぜか武士と父、朝から謎の気合い掛け声セッションが始まり、
田中家に熱気が満ちていく。
そんな男くさい声のハーモニーに、寝室からふわっと優しい声。
「パパ、武士……おはよう〜」
母・優が、ふわっと微笑みながら階段をおりてくる。
「ママ、おはよう」
健二はなぜか軍人みたいなキリッとした敬礼気味の挨拶。
対して武士は――
「母さん! シュッ! シュッ! バシバシ! おはよう!!」
無駄な三連アクションのあとに挨拶を叩き込んだ。
朝から全員テンションが迷子の田中家であった。
「さぁ、今日も忙しいぞ!」
健二の謎の号令とともに、田中家の朝が始まった。
朝食の席についた武士は、テーブルを見た瞬間――固まった。
ぽつん。
皿の上に鎮座するのは、あんぱん一個。
「……な、なぜだ。なぜだ〜〜〜……!なぜ“あんぱん”なんだ、父さん!!」
武士、魂の叫び。
高校男子にとって、朝食あんぱんワンオペはなかなかの衝撃である。
そんな武士を横目に、健二は腕を組んでニヤリ。
「今朝の朝食は、父さんが用意したのだよ」
優が優しく微笑む。
「パパには……なにか深い考えがあるのね?」
その瞬間、健二はすっと立ち上がり、胸を張って――
デデーン!!
「何故あんぱんなのか。それは、父さんが尊敬してやまない
アニソン・ヒーロー歌手、串田アキラさんの好物だからだ!!」
叫んだ。
清々しいほどに叫んだ。
「父さん……!文句なしでカッコいい……!
カッコ良すぎです!!」
武士、まさかの号泣寸前で感動。
健二はそんな二人の前で慣れた手つきでコーヒーを淹れ始める。
テキパキ、サッサッ。
やたらと様になっているのが腹立つほどカッコいい。
そして優と武士の前にカップを置き――
「さぁ〜どうぞ。パパ特製のコーヒーと、尊敬するアキラさんあんぱんだぞ」
ニコッ。
その笑顔、朝日に負けないレベルで眩しい。
武士はあんぱんを豪快に頬張り、コーヒーをずずっ。
「……最高だよ、父さん……!」
「そうか」
健二は、武士の頭に手のひらを乗せ、
ワッシワッシワッシ!
父の全愛情を込めて、息子の頭を撫で回すのであった。
― グルメポッポ出動!ヒーローショーへGO! ―
あんぱんエネルギーを完全充填した田中家は、
ついにヒーローショー遠征に出発する時を迎えた。
今日の主役は――
ヒーローでも父・健二でもなく、
母・優とその愛車である。
「さぁパパ、武士、乗った乗った〜♪」
優が嬉しそうに指差すのは、
ピンク色の、丸っこくて可愛らしい軽自動車。
車内には魔法少女のステッキのキーホルダーが揺れている。
健二と武士は、ちょっと狭い後部座席へ滑り込みながらも興奮していた。
「母さん……今日いつもより魔法力高いよね?」
「当たり前よ、ヒーローショーの日だもの♪」
シートベルトをカチッと締めると同時に、優は
**自作の“マジカルドライブステッキ”**を手にした。
「いくわよ二人とも〜!」そしてステッキをクルクルッッ!!
軽自動車の中とは思えないほど高速で回す。
「ピピルマ ピピルマ プリリンパ!パパレホ パパレホ ドリミンパ!
グルメポッポ しゅっぱ〜つ☆」
キラッ☆(※雰囲気演出)
エンジンがかかり、
ピンク色の軽自動車は軽快に道路へ飛び出した。
「おおっ、すげぇ加速だ母さん!」
「優の運転は今日も冴えてるな!」
**ブーーン!!**
(※かわいい軽の音)
だが――後部座席でテンションが上がる男がひとり。
健二である。
(……俺だって、本当はギャ◯ンのサイバリアンみたいなゴツくて光る車に乗りたかったんだ……)
心の奥でそっとつぶやく健二。
しかし次の瞬間、優がミラー越しにニコっと微笑む。
「パパ、今日もヒーローみたいに頼りにしてるわよ♪」
健二「…………うん。そうだな、グルメポッポ最高!!」
心優しき男は、サイバリアンの夢をそっと胸にしまい、
大好きな妻の車を全力で応援するのであった。
こうして田中家は、
**魔法で加速する軽自動車**とともに
ヒーローショー会場へ向かっていく――!
ピンクの軽自動車は、
まるで魔法の風に後押しされるように軽快に道路を走る。
車内には、母・優が永遠に愛する魔法少女アニメのオープニングが流れ出した。
♪ラブラブ、ミンキー◯モお願い聞いて〜♪
♪ラブラブ、ミンキーモ◯お願い聞いて〜♪
「きたーーー!!」
武士は心の中で叫んだ。
ここからが“田中家ドライブ恒例、車内ライブショー”である。
運転席の優は、ステアリングを握りつつもリズムに合わせて肩をゆらゆら。
助手席の健二は――
魔法少女の曲だというのに、
なぜか戦隊ヒーローの決めポーズっぽい振り付けでノリノリだ。
「パパ、歌詞覚えてるの?」
「もちろんだとも!優の歌なら全部覚えたさ!」
(この父さん……
ホントにマジで魔法少女の曲まで完璧に歌うんだ……)
武士は尊敬を隠しきれなかった。
優の明るい声に、健二の力強いハモりが重なる。
車内はもう、
**“走る魔法少女ライブ会場”**と化していた。
♪お願いきいて〜〜〜〜〜っ♪
最後のロングトーンが、車の揺れと共に響き渡る。
グルメポッポの車体まで少し誇らしげに揺れているようだ。
■そして——到着!
「着いたわよ〜!」
優が魔法のステッキ代わりのキーを抜くと、
車はかわいくポポン♪と電子音を鳴らす。
そこは——
ヒーローショー会場のある巨大遊園地!
武士のテンションは一気にMAXへ。
「おおおおお!きたぁぁぁ!」
「さあ武士、今日もヒーロー魂全開でいくぞ!」
「うむ、パパ!」
朝日がキラリと輝き、
田中家は全身からワクワクを放ちながら、
ヒーローショーのゲートへと歩き出すのであった。
遊園地に入るや否や、
健二はまるで敵のアジトを発見したヒーローのように目を輝かせた。
「おい武士!あれを見ろ!」
「ま、まさか……あれが……!」
木々の間から現れたのは、
キラキラのステージ照明が設置された野外ヒーローショー特設ステージ。
ショー開始までは、まだ——
1時間ある。
しかし田中家にとっては、
1時間前は“実質ギリギリ”なのである。
「いくぞ武士!最前列確保だ!」
「了解だ父さん!」
健二と武士は走る。
ステージに向かって、風を切って走る。
無駄に変身ポーズを挟みながら走る。
優はそんな二人の後ろを
(あらあら…)と微笑ましく追いかける。
そして——
■最前列・ど真ん中
健二、ドンッと着席。
武士、バフッと横に正座。
優、仕方なさそうに二人の後ろへちょこんと座る。
ショー開始まで60分。
しかし二人は、もう始まっているかのようなテンションだ。
■ヒーロー談義、フルスロットル
「武士、わかるか?あのステージ……
間違いなく“敵の基地屋外型”だ。」
「だよな父さん!あの照明の感じ、絶対クライマックスで爆発するやつだ!」
「そうだ…!そしてヒーローは最後に“後ろ向き決めポーズ”を——」
「からの!剣を地面にドンッて突き立てるんだよな!うおおおお!」
父子のヒーロートークは止まらない。
語る、語る、語り尽くす。
その後ろでは優が穏やかに微笑み、
(うんうん、今日は二人ともすごく楽しそう…)
と幸せをかみしめていた。
■しかし——
最前列には他にも客が座り始めていた。
その中には、うずうずした小さな子どもたちも混じっている。
本来、最前列は——
ちびっ子の特等席である。
だが。
だがしかし。
田中家のヒーロー愛はそんなルールを易々と超越した。
ヒーローに年齢は関係ない。
愛する心さえあれば、誰でも最前列の資格があるのだ。
(…という健二の理論である)
優は苦笑しつつ、
(ま、まぁ……楽しそうだからいいか)
と今日だけは黙認するのであった。
― 田中家、ヒーローショーに参戦す ―
開演の合図とともに、ステージ上に現れたヒーロー俳優たち。
健二と武士は、まるで息子の運動会を最前列で見守る保護者のように前屈みで凝視していた。
「ふっ……ついに始まったな武士。」
「父さん……心して見届けよう。」
二人の熱量はすでに周囲の観客の3倍である。
■悪の組織登場(かわいい悪事)
「俺たち悪の組織ダーーク団!
今日は遊園地の……綿あめをぜ〜んぶ食べちゃうぞ〜!」
ワァァ…と子どもたちの笑い声。
ほのぼのとした悪事。
完全にチビっ子向け。
——なのに。
「くっ……なんて悪事だ……!」
拳を震わせる武士。
「許せん……子どもたちの甘味を奪うとは……悪そのものだ!」
健二も怒髪天である。
後ろの保護者たち
(いや、そこまでじゃない…)と困惑。
■変身前バトル、ヒーローピンチ
ヒーローは変身前ゆえに劣勢。
戦闘員に囲まれ、押され気味だ。
「ヒーロー!耐えろッ!すぐ変身できるぞ!」
「早く……早く変身だ……頼む……!」
二人とも完全に“本気で応援してる”顔。
隣のチビっ子
(なんかこの人たちこわい…)としり込み。
■ついに来た!変身シーン!
劇伴が盛り上がり、
ヒーローたちが一斉に——
「変身!!!」
その瞬間。
健二「しょうけつ!!」
武士「じょうちゃく!!」
完全にステージとシンクロした変身ポーズを
全力で繰り出す親子。
前のめり?
いや、もはやステージに吸い込まれそうな勢いだ。
周囲の子どもたち
「お、お母さん……この人たちもヒーローなの……?」
保護者
(いや違う…というか…やめてほしい…)
■変身完了、盛り上がる二人、押さえ込む優
ステージに眩い光!
煙がブワッ!
そして現れる——
変身後のヒーロー!
「きたあああああああ!!」
ガタッと立ち上がる健二と武士。
だがその背後から、
優の細い腕が二人の襟首をつかむ。
「パパ、武士。座って。」
ずるっ。
強制着席。
「くっ……母さんの制圧力……!」
「さすがママ……魔法少女級の強さ……!」
優「(まったくもう…)」
苦笑しつつ見守る優であった。
■怪人登場、アクション最高潮!
ステージ上で火花散る本格アクション。
巨大な怪人も出現し、会場の空気が一気に熱を帯びる。
「うおおおおお!!」
「そのキック!そのポーズ!最高!!」
健二と武士は完全に子どもより騒いでいる。
保護者たちはそっと距離を空け始める。
■ラスト、必殺技!
ヒーロー「これで終わりだ!!ギャラクティック・ブレイジング・フィニッシュ!!」
ズバァァァーーーン!!
怪人、ドーン!(優しい爆発)
会場の子どもたち「わぁぁぁ!!」
健二「決まった……完璧すぎる……」
武士「父さん……俺、今日生まれてきてよかった……!」
優(さすがヒーローショー……この二人をここまで幸せにできるなんて)
こうして、田中家は
“全力すぎるヒーローショー”を満喫するのであった。
ヒーローショーが終わった直後。
野外ステージを離れる3人の足取りは重かった。
健二と武士は感動のあまり、
ボロッボロに泣いていた。
「ヒーローって……やっぱ最高だ……」
「父さん……正義って……尊いね……」
完全に“映画観た後の中学生”のテンションである。
優は後ろで、
(いや、チビっ子向けなんだけど……?)
と少し呆れつつも微笑ましく見守る。
■しかし向かった先は——遊園地の乗り物ではなく…
「よし!行くぞ武士!」
「うん父さん!」
向かったのは……
園内のカラオケコーナー。
ジェットコースター?
メリーゴーランド?
観覧車?
そんなもの、彼らの視界には存在しない。
“ヒーローショーの後はカラオケ”という
田中家の謎の伝統が今日も発動したのだ。
■魔法少女の母、即・変身!
カラオケルームに入るや否や——
優「ピピルマ ピピルマ プリリンパ☆」
ヒラッ!
優は一瞬で魔法少女コスに早着替えした。
「ママ、今日も変身キレッキレだね……」
武士は素直に尊敬。
■健二の装備が明らかに本気
父・健二は胸を張って
レーザーブレードを取り出す。
「父さん……それ今日のために持ってきたの?」
「当然だ。ボーナスで買ったんだからな。」
(そんな使い道ある?)と優は心の中でツッコむ。
■武士はお気に入りの“勇者フィギュア”を持参
武士「今日はこれも一緒だよ!」
健二「武士、それは勇者だろ。ヒーローじゃない。」
武士「勇者だって僕にはヒーローなんだ!」
健二「なにぃ!? ヒーローの日の翌日にその発言は……許せん!」
気圧が変わった。
室内の空気がピキピキと張り詰める。
優(また始まった……)
■一触即発の親子バトルを、母の魔法が仲裁する
優「……しょうがないわね」
魔法ステッキを構え、呪文を唱える。
「ピンプル、パンプル、パムポップン パンプル、ピンプル、パムポップン☆
パパと武士、仲良しにな〜れ〜♪」
きらきら〜ん☆
次の瞬間、健二の険しい顔がふっと緩む。
「……すまん武士」
「父さん……僕こそごめん」
魔法がガチで効いている。
さすが優、家内安全の最終兵器。
■そして始まる、アニソン戦争
優「それじゃあ歌っちゃうわよ〜!」
♪ラブラブ〜ミンキー◯モ〜〜♪
健二「負けていられるか!ファイトファイトギ〇バン! 俺は背中を見せない男さ!!」
武士「僕もいくぞ!異世界転生したら勇者の相棒だった件OP!」
部屋中が光と歌声と謎の必殺ポーズで満たされる。
もはやここは遊園地内ではなく、
田中家専用のアニソン空間と化した。
こうして田中家の“ヒーローショー後カラオケ大戦”は、
魔法少女、ヒーロー、異世界勇者が入り乱れる
カオスで幸せな時間となったのであった。
グルメポッポ号はカラオケ熱唱の余韻もそのままに、
優のお気に入り――魔法少女や天使系のコスプレ衣装を扱うショップへと滑り込んだ。
店内は、ふわふわレースとキラキラ魔法ステッキの楽園。
優は入った瞬間から テンション∞モード に突入した。
「キャー! これ可愛い! あっ、こっちも! いや全部可愛い!!」
完全に魔法少女の舞台裏に迷い込んだ勢いで、店内をスキップしながら衣装を次々物色。
一方でその後ろをついて歩く健二と武士は──
(場違い感 MAX……!)
(帰りたい……!)
と、二人して影のように項垂れながらフラフラ追従するのみ。
──だが、昨晩は優が作ってくれた “ヒーロー飯”。
そして今日はヒーローショーにも一緒に付き合ってもらった。
その恩義が二人をこの魔法少女ワールドに繋ぎ止めていた。
逃げるという選択肢は、存在しない。
そんな中。
なんと、店は花音のお気に入り。
偶然にも花音が愛生を連れてショッピング中だったのだ。
バッタリ遭遇した武士と愛生、花音。
その瞬間、武士の口が勝手に指を差して叫んだ。
「げっ、魔女とアホ魔族だ。キモ!」
店内凍結。
次の瞬間。
「コラァ~~~ッ!!」
優の平手打ちが武士の頬にヒット。
続けざまに健二の手もお尻バシッと着弾した。
「イタッ」
武士の表情が硬くなる
「可愛いお嬢さんに“魔女”だの“魔族”だの言うなんて失礼でしょ!?」
「ヒーローは女の子を笑顔にする存在だぞ!? 反省しなさーい!」
怒る父と母。
ヒーローを愛する健二と、魔法少女を愛する優の 正義感が爆裂発動。
武士は両親のWツッコミで小さく丸まった。
花音と愛生はというと──
「なんか…すごい家族だね……」
と、引きつりつつもどこか微笑ましそうだった。
「うちの息子が大変な失礼をしまして、本当に申し訳ありません!」
健二と優が 勢いよくペコペコ 頭を下げる。
ほぼ90度。むしろ95度。店のライトが二人の髪に反射して輝いている。
その横で武士だけはというと──
「っていうか、なんでお前らがここに居るんだよ?」
怪訝な顔で花音と愛生を見る。
直後。
「武士ぃ……!」
健二のこめかみに青筋が浮き、怒りのオーラがバチバチ。
「パパ! 今ここで怒鳴ったら迷惑でしょ!」
優が小声で止める。
「わかってるよ、ママ……!」
健二は震えながらも、正義の父として自制モードへ切り替えた。
優は武士へ振り返り──
「武士、帰ったらお説教ですからね?」
「……ですよね……」
小さくなる武士。
優は続けて、花音と愛生に向かってぺこり。
「本当にごめんなさい……」
話の流れを整えようと、健二が恐る恐る口を開く。
「あ、あの〜……お二人は武士のお知り合いなんですか?」
すると愛生が控えめに手を上げる。
「はい、私たち、武士くんと同じ部活なんです」
「そ、そうでしたか! それは……それは……」
健二はまたしても ペコペコモード に突入。
「武士がお世話になってます!! 本当に!!」
「パパやめてぇぇ……」と武士が小声で嘆くが、
健二は止まらない。
「帰ったらキツく言って聞かせますので! すみません! すみません!!」
優も一緒にぺこぺこ、店内で田中親子だけ重力が違うかのようにひたすら頭を下げ続けた。
そのまま両親に両脇を軽く抱えられ、
田中家は“そそくさ退店モード”で店を後にした。
──そして残された花音と愛生はポカーンとしている。
「武士くんのお父さん、めっちゃカッコよかったね〜」
「うん。お母さんも綺麗だった……」
花音は腕を組み、ふむと頷いてから一言。
「なのに、なんで息子の武士はブサにょん?」
「花音ちゃん、それは言っちゃダメなやつ……!」
愛生が苦笑。
「ま、いっか! 買い物続けるにょん!」
結局ふたりは、
さっきの騒動など“なかったこと”のように
キラキラ衣装の物色へ戻っていくのだった。
田中家が帰宅すると同時に、リビングの空気が“お説教モード”へと変わった。
健二が腕を組み、どんと正座。
優も穏やかだけど本気の目で並んで座る。
その前に、しょんぼり座らされる武士。
◆田中家お説教タイム発動
「武士。父さんはいつも言ってるよな?」
健二が低く、しかし正義のヒーローみたいな声で言う。
「他者には尊敬の気持ちで接しなさいって」
「ママも言ってるわよ」
優が続ける。
「お友達には思いやりの心で接しなさいって」
武士はむくれた顔で反論開始。
「だって! あいつら俺を勇者って認めないんだよ!
俺は“転生勇者”なのに!!ひどすぎるよ!!」
……沈黙。
健二と優、完全に言葉を失う。
◆武士、妄想フルスロットルで語り出す
武士はスイッチが入った。
「俺の前世ではな、クラスメイトの穂乃花は“王国のお姫様”で、
それを守る勇者が俺なんだよ!」
健二(……え?)
優(……え?)
しかし武士は止まらない。
「で、俺と穂乃花は愛し合っていたんだ!なのに!現世では魔女ヒガンバーナ=花音と、
その手下のアホ魔族=愛生の妨害が激しくてさぁ!!」
「……アホ魔族……?」
優が軽く引き気味に繰り返す。
武士は完全にヒートアップ。
「この世界でも俺は転生勇者だから!前世の宿命を果たすために──」
「──武士」
健二がそっと制した。
「一旦落ち着こうか」
優も優しく肩に手を置く。
「武士、あなたの想像力はすごいけど……現実と混ぜないでね?」
ふぅ、と父と母は同時にため息。
◆ヒーローの日封印宣言
健二は天井を見上げながら呟いた。
「ママ……我が家のヒーローの日イベント、しばらく休んだ方が良さそうだな……」
優もうなずく。
「パパ……そうね……ヒーローも魔法少女も武士の中二病が治るまでは封印ね……」
健二はガックリ肩を落とす。
「はぁ〜……せっかく張り切って“特製キレンジャーカレー”作ったのになぁ……
今夜が最後か……しばらく封印だな……」
◆そして言い渡される処罰
優はくるりと武士へ向き直る。
「武士。今日は晩ご飯抜きです」
「えぇぇぇ!? お腹すいたのに〜!」
武士は床に手をつき、漫画みたいに崩れ落ちる。
「反省する時間をちゃんと作りなさい」
優は優しく、でもしっかり言い聞かせる。
「父さんのキレンジャーカレーは……しばらくお預けだ」
健二が宣言すると──
「トホホだよ〜……」
武士の魂がスーッと抜けていくような声がリビングにこだました。
こうして、武士の中二病爆走の代償として、
田中家名物・キレンジャーカレーは一時封印となったのであった。
武士が部屋に引っ込んだあと、静まり返ったリビングで健二と優は並んで座り、同時に大きくため息をついた。
「なぁ、ママ。」
健二がぽつりと言う。
「オレたちってさ……ヒーローとか魔法少女とか、確かに好きで盛り上がってるけど……本当は“心のヒーロー”と“心の魔法少女”なんだよな。」
優もゆっくり頷く。
「そうよ。変身できなくても、必殺技が出せなくても、困った人を助けたいとか、誰かを笑顔にしたいって気持ちが“ヒーロー”なんだもの。ママだって……心だけはずっと魔法少女のつもりよ。」
健二は照れくさそうに鼻をかく。
「武士にも……いつか分かってほしいな。ヒーローってのは強さじゃなくて、心なんだって。」
優はにこっと微笑む。
「うん。武士なら、きっと分かってくれるわ。だって、あの子は私たちの息子なんだもの。」
そうして二人は、まだ見ぬ“息子の成長イベント”へ向けて、
心の中でそっとレベルアップを誓うのであった——。




