1月16日はヒーローの日 上
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
◆1月16日——ヒーローの日・田中家の朝◆
1月16日、AM6:00。
その日だけは、田中家にだけ響き渡る特別なアラームがあった。
ーーー♪デデデデッ!! デレッデレッ!!!
【じょうちゃく、見参ッ!!】
父・健二が自作したメタルヒーロー風の目覚ましである。
「むぉおお……ヒーローの日、開幕……せきしゃ!」
布団の中で、拳を握りしめ沈黙のガッツポーズをする武士。
「今日だけは寝坊を許さん!! 起きろ武士ッ!!」
メタルヒーローTシャツ&スパッツ姿の健二が扉をバーン!
「……父上……我、今こそ覚醒の刻……!」
寝癖全開のままゆっくり立ち上がる武士。
(※ただのモブ高校生)
一方リビングでは。
「ふふ、今日も魔法が使えますように……☆」
母・優は魔法少女コスに近いフリフリのピンクエプロンでホットケーキを焼いていた。
ホットケーキには一枚一枚、チョコペンで
「勇」
「者」
「田」
「中」
の文字が書かれている。
(家族愛だけでここまで強い)
「母上……尊い……ッ!」
武士は胸に手を当て、なぜか感動。
実は“武士”という名前も、この二人の想いが重なって生まれた。
健二
「ヒーローは正義の武士だ!」
優
「勇ましくてカッコいい名前がいいわ!」
その結果——
“ぶし”と書いて武士
という、学校ではほぼモブ街道まっしぐらの名前になったのである。
しかし!
今日の武士の心は違う。
「1月16日、ヒーローの日。この世がまだ気づかぬだけ……我こそ、隠された勇者……!」
武士のスイッチが完全に入る。
そんな我が子を見守る両親もまた、ニッコリ。
健二
「よし武士、先ずは——互いに“変身ポーズ”を決めるぞッ!」
まるで司令官のような声音に、武士の背筋がビシッと伸びる。
武士
「了解だ、父さん!」
武士は両足を広げ、掌を空に向け、
目を鋭く細め——
「せきしゃっ! 宇宙刑事シャ◯バン!!」
もちろん何も変化は起こらない。
しかし武士の脳内では、今まさに赤い閃光が走り、スーツが形成されている。
健二は感動の面持ちで頷いた。
健二
「見事だ武士……! 赤射による変身完了まで—— わずか0.001秒!!
そこまで短縮できる者が何人いると思う? 世界レベルだぞ!」
大量の父親補正により、武士の変身は世界トップクラスの扱いになった。
武士
「父さん、次は父さんの番だよ!」
健二は目を細め、ゆっくり立ち上がる。
健二
「フフフ……息子よ。“本物の変身”というものを、その目に焼きつけよ。」
健二は右腕を握りしめ、
腰をひねり、
メタルヒーローのテーマを心の中で再生し——
「じょうちゃくっ! 宇宙刑事ギャ◯ン!!」
ズシャァァァンッ(※脳内SE)
健二
「見たか武士! 俺の蒸着完了まで—— 0.05秒!!
これぞ熟練者の領域だ!」
勝ち誇る父。
武士は拳を握り、悔しさを噛みしめる。
武士
「……くっ……!まだだ……まだ父さんの変身スピードには遠く及ばない……
俺は……俺は未熟者だ……!」
なぜか本気で落ち込む武士。
だが健二は武士の肩にガシッと手を置き、熱い声で言う。
健二
「良いか武士……!ヒーローは“諦めたら”そこで終わりだ!
変身ポーズも人生も、磨けば磨くほど光るのだ!!」
武士
「父さん……!」
まるで宇宙を守る親子の会話だが、
実際に行われているのは田中家リビングでの謎テンションポーズ大会である。
優
「帰ったら、魔法少女料理でパーティしましょうね☆」
——こうして田中家の“全力で楽しむヒーローの日”が始まった。
健二
「武士よ……ここまで赤射を極めたのは…… あっぱれだ! よくやった!」
健二はドラマチックに右手を差し出す。
まるで宇宙連邦司令官がエリート隊員を讃える時のように。
武士
「父さん……!」
武士もまた、力強くその右手を握り返す。
ガッチリと音がしそうな握手——いや、彼らの脳内ではすでに金属音が鳴っている。
健二
「ヨシッ、では息子よ……学校へ向かうがよい。」
父の声はまるで“地球の平和を託す”時の重み。
その瞬間、母・優がクルッと振り向き、エプロンを翻しながらお弁当を差し出した。
優
「はい、武士、お弁当よ〜」
武士
「毎日お弁当作りは大変なのに……ありがとう、母さん。」
優
「うふふ、お母さんは“魔法少女”だからね。
お弁当なんて——チチンプイプイ♪」
優の指先がくるりと動く。
※当然、弁当は完全に手作りで魔法は使っていないが、田中家ではこれが通常運転である。
武士
「じゃあ、行ってきます!」
玄関に向かう武士を健二が呼び止める。
健二
「武士よ……今日は“ヒーローの日”だ。……解っているな?」
武士
「もちろん。学校が終わったら——“お祝い”ですね。任務了解です。」
健二
「では行け……我が息子よ。」
武士は靴を履きながら真剣な顔つきになった。
「ヒーロー武士、学校という名の戦場へ……いざ参る!」
——そして駐輪場へ駆け出す。
武士
「ハァーディオーーン!!」
叫びながら乗り込むのは、
父が“特撮メカ風ステッカー”を貼りまくった 愛車のママチャリ。
今日も田中家のヒーローは、平和な町へ漕ぎ出していくのであった。
その頃――
愛生、花音、明宏、里香、穂乃花の5人は、いつもの路線バスで学校へ向かっていた。
正月休みはとっくに終わり、
冬の冷たい空気に包まれた朝。
バスはのんびりと町を走っていた……はずだった。
――ドドドドドッ!!
エンジン音でも自転車の音でもない、
何かのテーマ曲のような騒音が近づく。
ズザァァァアアッ!!
5人を乗せたバスを、
もの凄い速度のママチャリが追い抜いていった。
愛生
「えっ、えっ、なに!?なにいまの!?ちょっと怖い怖い怖い!!」
花音(お嬢様スイッチON)
「まあ……あれは間違いなく田中武士さんの“デコチャリ”。
痛車というより……痛チャリですわね、にょん。」
里香
「うわぁ〜……朝から痛いの見ちゃった……。あのテンション、朝から全開かよ……。」
明宏
「え?いたしゃ?イタリアの車じゃないの?」
里香
「イタリアじゃないわよ。“見てて痛いデザイン”だから痛車って言うの。」
明宏
「え、そんな理由なの……?」
穂乃花
(……気付いてないふり、気付いてないふり……だって、武士くん今日すごい気合い入ってたし……
あれはあれでカッコいい……の、かな?)
バスの中には、
・驚きで目を白黒させる愛生
・お嬢様ぶりながら“つい、にょん”を言ってしまう花音
・冷静に辛辣な里香
・勘違い全開の明宏
・そっと視線をそらす穂乃花
というカオスな空気が流れていた。
そして遠くで、
武士の叫び声が微かに響く。
「ヒーロー武士、出撃するッ!!」
……通学の朝にしては、やかましすぎる男である。
始業チャイムが鳴る少し前。
武士はドヤ顔で教室の扉を開いた。
「フッ……今日も勇者、参上――」
席へ歩み寄ったその瞬間。
――バッ!
無意識に、両手をクロスした“変身ポーズ”が空を切った。
(うおおぉぉ!? やべっ! いま普通に変身ポーズしちまった!!)
心臓バクバクの武士。
彼が勇者でありメタルヒーローであるという設定は、もちろんクラスには秘密である。
(というか本人が勝手に思っているだけである)
必死に周囲を見回す武士。
だがクラスメイトは――
…シーン。
誰一人ツッコまない。
誰も反応しない。
(セ、セーフ……!! 誰も見てねぇ……!!)
――もちろん、全員が“気付かぬふり”をしているだけだ。
朝から武士の中二ポーズに付き合うほどの気力は、まだ全員に無いのだ。
そんな“静かな優しさ”により教室で一番浮いている男・武士、今日も平常運転である。
そこへ、
穂乃花と花音が登校してきた。
花音は武士のポーズにチラッと目を向けた後、
「……また朝から飛ばしてますわね」
とだけ呟いて席へ。
一方、穂乃花は――。
武士のポーズをガッツリ目の当たりにしてしまい、
(あっ、み、見ちゃいけないやつ……!)
と目を逸らし、そろりそろりと忍者のように着席しようとする。
しかし武士は――。
「わぁ〜、今日も穂乃花ちぃゃ〜んは可愛いなぁ〜……!」
(※脳内再生:天使のハープ)
ユッサユッサと揺れる豊満なお胸、
そこからふわりと香る甘い匂い。
武士の脳内、完全にフロストダメージ。
「穂乃花ちゃん、おはようっす!」
鼻の下をMAXまで伸ばしてキモスマイル全開。
「た、武士くん……お、おはよう……」
穂乃花は小声で挨拶し、すぐに顔をそむけてプイッ。
(よっしゃぁああ!! 今日も穂乃花ちゃんとのコミュニケーション成功ッ!!)
心の中でガッツポーズを決める武士。
もちろんただのすれ違い挨拶である。
そして勘違い勇者・武士は今日も元気だ。
周囲の空気からは完全に浮いているが、本人は絶好調である。
そして放課後。
鱒釣り部の部室には、
部長の里香、副部長の穂乃花、
そして部員の愛生・花音・明宏の5人がそろっていた。
部屋の壁には昨年の釣果写真や、
部長自作の謎ポスター
「鱒に恋して2025♡」
などが雑多に貼られている。
今日の議題は、
春から本格始動する鱒釣り計画会議!
しかし――。
肝心のもう1名、
部員・武士の姿がどこにも見当たらない。
里香は手帳を開きながら小さくため息をついた。
「……まぁ、武士くんはどうせ後でド派手に現れるでしょ。とりあえず始めましょう」
そう宣言すると、
「はーいっ!」
「賛成〜」
「異議なしですわ」
「はいっす」
と、部員たちからパチパチパチパチと拍手が起こる。
(※全員、“武士が遅刻するのは想定内”という空気)
里香はコホンと咳払いし、
3学期最初の活動開始を高らかに宣言した。
「本日より――鱒釣り部、三学期初の部活動を開始します!」
再びパチパチパチパチと拍手が鳴り響く部室。
だがその輪の中心に、
勇者だのヒーローだの言っていた男の姿だけが――ない。
……とはいえ。
武士の姿が無いことに、
部員たちは誰一人として深刻な反応を見せなかった。
なぜなら――
鱒釣り部内における武士は、
NPC、モブ、背景の木レベルの存在感だからである。
話し合いは粛々と進み、
「大物の放流量が多いエリアを探す?」「予算やばくない?」
などの談笑が飛び交う平和な部室。
その時だった。
ガララッッ!!
部室のドアが勢いよく開く。
「みんな……待たせたなッ!」
武士、全力の変身ポーズをキメて登場。
右手は斜め前へ、
左手は腰に、
顔は真剣そのもの――
今日も絶好調である。
明宏が小声で呟いた。
「ヤバい……今日はさらにイッちゃってるよ……」
愛生・花音・里香は
“見たら負けだ”という本能で、
それぞれ別方向へ必死に視線をそらす。
しかし、唯一ターゲットから逃げられない者がいた。
――副部長・穂乃花。
武士はすたすたと穂乃花に歩み寄る。
穂乃花(えっ、来ないで、気づかないフリしてるんだから来ないで……!!)
だが、願いむなしく真正面に立たれてしまう。
次の瞬間。
武士はクルッとターンし、
そのまま片膝をつくポーズへ。
「穂乃花ちゃん……今日はヒーローの日なんだ」
「へっ、へ……? な、何言ってるの?」
武士の“気迫”に押され、声が裏返る穂乃花。
武士は切なそうに目を伏せ、
髪をかき上げ、まるで最終回のヒーローのように言った。
「だから、すまない。今日だけは……君を守ることができない」
(※まったく意味がわからない)
さらに追い打ちをかけるように、
「愛していても……愛と呼べない日もあるのだよ」
フッ……と遠くを見るキザ笑み。
言いたいことだけ言って、
武士はくるりと背を向け、そのまま堂々と部室を出ていった。
――ドアが閉まる。
部室に残ったのは、
“ただただ言葉を失った部員たち”だけだった。
ぽつりと里香が呆れたように言う。
「武士の中二病……悪い意味で天才ね」
誰も反論できなかった。
武士は召喚獣――
否、デコチャリ「ハーディオン号」 にまたがり、
夕暮れの住宅街を爆走していた。
「いざ、帰還ッ! ハーディオン、全速前進だぁぁ!」
※ただのママチャリである。
キラリと輝く反射板が夕日に照らされ
“とりあえず派手”なのが特徴だ。
***
家に到着すると、玄関前には既に誰かの気配が。
――父・健二である。
会社を早退してまで帰宅したのだろう。
なぜなら今日は 1月16日、ヒーローの日 なのだから。
バッと武士の前に立った健二は、
右腕を前に突き出し、唐突に叫んだ。
「――じょうちゃく!!」
武士も負けじと叫ぶ。
「――せきしゃ!!」
(※父子揃って、ただの掛け声である)
キッチンでは母・優が
マジカルステッキをクルクル回しながら、
その光景を微笑ましく眺めていた。
健二は武士の肩に手を置き、
ひどく満足そうにニカッと笑う。
「息子よ……完璧な“せきしゃ”だったぞ。父さん、鼻が高い!」
「今日はヒーローの日だからね。俺も父さんと同じ――メタルヒーローになったのさ!」
武士、自信満々のドヤ顔。
だがそこで母・優が、
恐る恐るといった感じで口を開いた。
「あ、あの〜……お母さんは魔法少女だけど……ヒーロー、でいいのよね?」
武士は勢いよく首を振る。
「何を言ってるんだ母さん!戦隊ヒーローやメタルヒーローが男の子のヒーローなら……
魔法少女は女の子のヒーローじゃないか!」
健二も深く頷く。
「そうとも!俺にとって、妻である優……君は間違いなくヒーローだ。
ヒーロー以外の何物でもない!!」
父の瞳はキラッキラに輝いていた。
(たぶんロマンティックの方向性を間違っている)
そんな父の言葉に、優は思わず頬を赤らめる。
次の瞬間、田中家は――
家族3人でガバァッと抱き合った。
健二と優、そして武士。
それぞれの“ヒーロー愛”を全力で確かめ合い、
奇跡のような団結を見せるのだった。
(なお外から見たらとても近寄りがたい風景である)
母・優に手を引かれ、武士と父・健二は食卓へと向かった。
椅子に座った途端、優がふわりと声をかける。
「パパ、武士、目を閉じて〜♡」
言われるがまま、ふたりは素直に目を閉じる。
その直後――
“コトン” とテーブルに何かが置かれる音。
続けて鼻をくすぐる、濃厚で香ばしいチーズの香り。
(……チーズ?)
(……この芳醇な香り、まさか!?)
ふたりの胃袋が期待に震える中、
優はおもむろに ルミナスター(※ただのステッキ) を取り出し、
クルクルと回しはじめた。
そしてメルヘン満載の呪文が炸裂する。
「パンプルピンプルパムポップン!ピンプルパンプルパムポップン!」
キラキラ〜〜〜ン☆
(※実際にはキッチンの照明が反射しただけです)
だが健二と武士にとっては、
一瞬で“母の魔法世界”が食卓に広がった感覚に襲われた。
「パパと武士、目を開けていいわよ〜♡」
期待を胸に目を開ける父子。
「おおおおッ!!」
そこには――
優の大好きなアニメ“クリーミー◯ミ”の影響を受けまくった、
黄金色に焼けたチーズグラタン が鎮座していた。
健二の表情は一気に晴れやかになる。
「ママの得意料理、チーズグラタンじゃないか!!これは……ヒーロー補給食だ!」
武士の声も弾ける。
「やったぁ〜〜!楽しみにしてたチーズグラタンだぁ!!」
そして優は、
“まだよ”と言わんばかりにウインクをひとつ。
「ウフフ、メインは武士の大好きな“あれ”よ♡」
再びステッキを手に取りくるくる。
今度は優が青春のすべてを捧げた
ミンキーモ〇の呪文が放たれる。
「ピピルマ ピピルマ プリリンパ!パパレホ パパレホ ドリミンパ!
アダルトタッチでマンガ肉になれっ☆」
※アダルトタッチと言っているが、別に何も起きていない。
「それじゃ、オープンするわよ〜♡」
優がガスオーブンを開けると……
ジュワァァァ……!
そこには、
理想そのままの “マンガ肉” が
豪快に焼かれ、香ばしい匂いを放っていた。
丸太のようにデカく、照りつや満点。
ヒーローも勇者も冒険者も、
一度は憧れる夢の食べ物。
武士は目を輝かせる。
「ま、マンガ肉……!これぞヒーローと勇者が食うべき料理……!!」
健二も負けずに拳を握りしめた。
「優……君は本当に最高のヒーローだ。この世に魔法少女が存在するとしたら、それは君だ!」
優は照れ笑いを浮かべながら、
湯気の立つマンガ肉をテーブルに置いた。
家族3人の心を熱く満たす匂いが、
ダイニングに広がっていく。
今夜は――田中家の愛と憧れが詰まった、最高のヒーロー飯だ。
田中家の食卓は、いつにも増して賑やかな“愛と夢の宴”になっていた。
チーズグラタンをほおばりながら、
母・優は嬉しそうに魔法少女の話題を持ち出す。
「ママね、最初に夢中になったのは“花の子ル◯ルン”なの。あれはもう……幼い優の心に花が咲いたのよ〜♡」
健二と武士は、
“ああまた始まったぞ” と分かっていながらも
いつも通り黙って耳を傾ける。
優のメルヘン語りは止まらない。
「その次はね〜、“プリ◯ュア”でしょ?そして“ミュークルドリー◯ー”!もう可愛くて可愛くて……♡」
ふたりは頷きながら、
「うんうん」「分かる気がする」などと相槌を打つ。
父・健二は宇宙刑事の DVD を眺めながら寝る男だが、
妻の語りだけは絶対に否定しない。
その姿勢に武士はいつも胸を打たれる。
優の語りは、いよいよ核心へ。
「でもね、ママが一番影響受けたのは……やっぱり ミンキー◯モ なのよ。
もし武士が女の子で生まれたら、“モモ”って名前にするつもりだったの〜♡」
武士はスプーンを落としかけた。
(モ、モモ……俺、モモになるところだったのか……!?
いや……でも、母さんの想いが詰まった名前……ちょっと可愛い……かも)
そんな複雑な心情を胸に秘めつつ、
グラタンを口へ運ぶ武士。
すると――
父・健二が突然、
まるで魔法少女アニメの王子様のように椅子から立ち上がった。
「ふむ……なるほど。優よ、今日の私は……魔法王国の騎士ケン・ジーク として振る舞おう!」
「健二さん……♡」
(どこからその設定引っ張ってきたんだ……?)
と武士は心の中で全力ツッコミ。
しかし、
妻を喜ばせるためなら己の趣味すら超える。
それが田中家の父だ。
そんな2人を見ていると、
武士は胸の奥があったかくなる。
(父さん……母さん……俺、こんな家族の子でよかった……)
夕飯が終わる頃には――
健二も優も武士も、お腹も胸もいっぱいだ。
優はにこにこと片付けをしながら言った。
「今日はママの“魔法少女ディナー”だったけど……」
健二が腰に手を当てて笑う。
「明日は父さんの“レンジャーディナー”だ!!任せろ、武士。正義とロマンの食卓を見せてやる!」
武士は満腹のお腹をさすりながら笑った。
「うん……楽しみにしてるよ、父さん!」
こうして、
田中家のヒーローの日は
愛と憧れとオタク全開のまま、静かに幕を下ろすのであった。




